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とある転移国家日本国の決断  作者:
大陸間戦争勃発
135/191

帝国貴族グェンとサマサ人の秘書

 都市国家サマサ、パンガイア大陸東方の要衝であるサマサは、瘴気が晴れれば瘴気内国家との魔石取引が盛んに行われる歴史があり、古くから東方交易の中心を担う港湾都市である。近年はジアゾ合衆国西海岸への中継地として発展し続け、現在は瘴気内国家への侵攻における最大拠点として急速に発展していた。

 両ノルド国家からの莫大な援助によって急速に発展したサマサは、旧市街と新市街に分けられており、新市街に関しては両ノルド国家が政治に大きく関与することが認められていた。表向きにはサマサの発展を加速させるためとしているが、来るべき開戦に備えて必要な設備を充実させ、戦力の集中を容易に行うための布石である。



パンガイア連合軍極東方面総司令部

 サマサの郊外にそびえ立つ巨大な古代遺跡に、瘴気内への侵攻を指揮する中枢が密かに設けられ、規模を拡大しながら機能し始めていた。総司令部の位置選定は古代遺跡を利用する案と郊外に1から建設する案があったが、最終的に遺跡の機能を復旧させ、高度通信と防御スクリーンの展開が可能となったことで遺跡の利用が採用されている。

 新市街市長のグェンは、秘書と共に軍の立ち入り禁止区域に乗り込んでいた。


「これはこれは市長、非公開施設に何の用ですかな? 」

「それとも、貴族として来たのですか? 」


 2人は応接室に案内されたのだが、軍人に囲まれて応接というより尋問に近い。その雰囲気を感じて秘書は気分が悪くなる。


「両方です、前線拠点となるサマサは敵の標的とされる可能性が高く、有事の際に素早く対応するため市と連合軍の協定が必要と考えています。また、、、」


 グェンは対応した軍幹部達に現状を説明し、非常時対応の協定を結ぶ話し合いの場を設けようとしていた。


「本国(貴族連合)からは南方侵攻軍と戦力の融通が出来るように交渉を任されています。南侵軍には雷鳥が配備される予定ですが、破壊の雨を1度降らせればもう使わないでしょう。夜目も含めて本隊へ組み込み、死者の国攻略に転用が可能となります。」


「貴族は蜀との戦がそんなに重要か? 」

「連合軍の行動は各国が決める事、勝手に動かれては困りますねぇ。あぁ勿論、市との協定は前向きに検討いたしますよ。」


 軍幹部の嘲笑に似た返答にグェンは顔色一つ変えず対応し、次の本格的な話し合いに向けて予定を組んでいく。

 その姿勢は一般の貴族像からかけ離れており、秘書は就任当初を思い出す。



3カ月前、新サマサ市庁舎

 新市街の運営を行う市庁舎で、新しく市長として赴任したグェンは部下と共に大規模な行政改革を行っていた。


「空港と港湾建設が遅れている理由はこれか・・・弁解くらいはさせてやるぞ。」

「それは・・・」


 サマサから派遣された秘書は、グェンとその部下が集めた書類の束に言葉を詰まらせる。そこには金の流れが事細かに記載されており、中には賄賂などの裏取引まで詳細に記されていた。


「官製談合による価格操作と特定企業排除、故意に工期を遅らせる、犯罪組織との取引etc・・・我が国の血税をこのように使う理由はなんだ? 」

「前市長のご指示です。」


 グェンの圧力に耐えかねた秘書は市政に関する情報を全て話してしまう。

 スーノルド国から派遣された前市長は、予定通りに進まない開発を加速させるために大改革を行っており、グェンの指摘は前任者が開発を加速させるために行っていた事だった。前市長は去り際に「後任は優秀だ」と秘書に言っていたのだが・・・

「違う、この手の優秀な市長はいらない」

 秘書は思い描いていた後任と異なるグェンに、胃に穴が開く未来を見るのだった。


 司令部を出たグェンは部下と合流して新市街を視察していた。

 秘書は3カ月の間市長を見ており、企業ギルドの強引な説得、公正な入札、地域に根差した犯罪組織の取り込みによって開発を加速させると同時に、各方面の不満を解消させたグェンを優秀だと認める一方、未だに貴族という感じが持てない。

「まぁ、どの道サマサの発展は約束されている。それが早いか遅いかだ。」ただ私腹を肥やすのではなく、街の発展と共に相応の報酬を得ている新市長を、秘書は好意的に捉えるようになっていた。


「おいっ、あいつらは何だ? 」


 一行が小さな橋を渡っていた時、グェンは排水管付近にたむろする人間を見つける。


「鼠人の不法労働者です。」

「鼠人? 奴等は紐無しか・・・」


 パンガイアの鼠人は2種類存在する。施設で選び抜かれてコミュニティから外へ出ることを許可された者、施設から逃げ出した者や施設へ入っていない者である。

 前者は表社会で見かける鼠人であり正式な市民権を得ているが、後者は市民権を得ていない不法滞在者である。


「企業の監査を厳しくしたので、働き口を失ったのでしょう。直ぐに取り締まりを・・・」

「そうしてくれ、仕切っている者は俺の所に連れて来い。」

「どうされるのですか? 」

「話の出来る奴なら、俺がまとめて雇う。」

「そうですか、後でお話があります。」


 紐無しの鼠人を見つけた場合、逮捕して施設に強制送還することが国際法で決まっている。そもそも、貴族が鼠人を雇うこと自体聞いたことが無い秘書は、グェンの真意を確かめるべく市長と話す時間を予約するのだった。

 秘書がグェンの真意を確かめる時は以外に早く実現し、グェンはその日のうちに仕事を早く切り上げて秘書との時間にあてていた。


「こういった事は早めにする主義でね。」


 新市街の夜景が良く見える市長室にて「内容は大体わかる」といった表情のグェンは、テーブルに2つのグラスを用意して酒を注ぐ。


「公務時間外だ、気にする必要はない。」

「いつから気付いていたのですか? 」


 グェンの反応を見た秘書は、サマサの秘密をどれだけ知っているのか尋ねる。


「事前情報はある程度、後はこの地を調べて確信が持てました。」


 グェンは口調を変えて秘書に対応する。サマサを独自に調査して得られた情報で、サマサの実質的な支配者が市長ではなく、市長補佐や秘書達であることを見抜いていた。

 サマサは民主主義を掲げた都市国家である以上、周辺国との関係悪化や取引先を失うことは死活問題であり、その時々の主義主張で市長に選ばれた者が状況を悪化させない体制を整えていたのである。


「あなたには驚かされ続けています。」


 「アーノルドの最高級品か…」酒を一口飲んだ秘書は、今まで聞けなかった事をグェンにぶつけていく。グェンが派遣された真意 瘴気内との戦争は何処まで行うのか、本当に貴族なのか・・・


「私は瘴気内国家との交渉を一任されています。」

「大陸連合の代表団が行うのではなかったのですか? 」

「神竜討伐はともかく、文明を3ヶ国滅ぼすのです。それでは大義名分のある戦が出来ないだろう。」


 秘書が驚くのも無理はないが、パンガイア大陸連合各国は瘴気内国家との交渉をアーノルド国とスーノルド国に任せていた。瘴気内国家への侵攻は国同士が行う戦争の域を超えた神竜討伐が目標であり、神竜殺しが可能な2国が交渉を担当するのが妥当だ。しかし、2大国だからといって、3ヶ国も滅ぼすのは正義に反する行為である。

 グェンには瘴気内各国の外交団から宣戦布告を引き出す大役が与えられていた。


「戦は行き着くところまでするので、サマサが神竜に滅ぼされる可能性もある・・・」

「覚悟はしていました。しかし・・・」


 想定していたが、自分の代でこの様な事が起こるなど、実感がまだわいていなかった。

 グェンはグラスを持って立ち上がり、市長室の窓から外を眺める。


「サマサは私が初めて持つ「領地」です。」


 グェンはサマサを自分の領地と呼ぶが、100年戦争で貴族全ての領地が取り上げられてから領地持ちの貴族は存在せず、サマサはアーノルド、スーノルド両国とそのような取り決めもしていない。


「帝国貴族として最大限の責務を果たします。」

「責務ですか・・・貴方のような貴族がまだいらしたのですね。」


 秘書は納得した感じでグラスを空にして、市長室で厳重に保管されている秘蔵の酒を取り出してくる。


「帝国歴時代の一品です。遅ればせながら、新市長を歓迎いたします。」


 秘書はグェンに酒を注ぐ。


「都市国家サマサに」「アーノルド国に」


「「乾杯」」



 どんな肩書を持っていようと、新しい場所ではそれ程通じない。新参者は先ず土地を知り住民を知り、権力者を良く把握しなければならない。自らが現地を把握して多くの協力を得られなければ、彼等を真面目に働かせることも、真に支配することも出来ないのである。

 グェンは市長としての一歩を順調に歩み始め、就任1年後に瘴気内国家の外交団と1回目の外交交渉を行うのだった。

一応、秘書はノランドという名前です

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― 新着の感想 ―
[一言] 日本国が古代文明兵器の掌握、解析、発展をするとこを見てみたいです。
[一言] 更新ありがとうございます。 いよいよ開戦でしょうか。続きが楽しみです。
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