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とある転移国家日本国の決断  作者:
大陸間戦争勃発
133/191

閑話4

 楠木日夜野は、行く先々で出会う名も無き組織の面々にうんざりしていた。組織に協力することでナギの能力を提供する代わりに自身の野望を実現できると考えていた日夜野だったが、2ヶ月前に倭国で襲撃されたことを切っ掛けに不信感を募らせていたのである。

 日本国と倭国の両国は南海大島攻略戦以降も協力関係を維持し続け、両国の軍が頻繁に共同訓練を行うまでに親密な関係を構築していた。しかし、楠木は倭国を訪れる度にある種の妖怪達の視線が変化していく事を感じ取っていた。この視線は初めて感じるものだったが、ナギの文献に記載されているものと酷似していたため、自身の置かれている立場を理解した。いわゆる「獲物の気分」と言うものである。

 倭国と日本国は接触して以来、急激に交流が進み、互いを知るためとして早い段階で人体標本の提供が行われていた。日本国は妖怪の貴重なデータがとれ、倭国は日本人が一切魔力を有していない特殊な種族であることを世界で初めて確認し、妖怪が食したら毒にしかならない人種であることも判明する。秘密結社の同心会は、煮ても焼いても毒でしかない日本人を食べないように配下の妖怪に注意を出していたため、妖怪が捕食目的で日本人を襲う事は無かったのだが、ナギである楠木を見た食人妖怪達は見れば見るほど彼女の虜となってしまう。元は妖怪への貢ぎ物とされていたナギは妖怪好みの味であり、倭国の食人妖怪にとっては日本でしか手に入れることのできない希少食材と映っていた。

 楠木への襲撃事件が起きる前、ナギの存在を知った一部の大妖怪はナギ捕獲のために諜報員を日本国へ派遣していたのだが、ナギの能力を知らない妖怪達はことごとく探知されて鴉天狗に駆逐されている。


 楠木はナギに伝わる文献で妖怪の残忍さを知っていた。

 妖怪がいた時代、「生贄として提供されたナギに不要な苦痛を与えない」など、人と妖怪の基本的な取り決めはあったものの、約束が守られているか人間側には確認する方法が無く、多くのナギが生贄の選考に不安を感じていた。ある時、一部のナギが確認する術を身につけ、自身と多くのナギが協力することで密かに実態調査が行われることとなる。結果は多くのナギが懸念していた通りであり、妖怪の多くがナギを生きたまま食していた事が判明するのだった。

 この世界の妖怪は自制心を身につけている者が多く、倭国としても食人を禁止していたため、自衛隊の任務とはいえ、楠木は恐怖心を押し殺して倭国へ向かい、ナギとして初めて妖怪の国へ上陸する。自身の部下や多くの自衛官が参加し、食人妖怪の取り締まりも行われている中で発生した事件は両国の関係者に大きな衝撃を与え、楠木はナギの伝承が正しかったと認識するのだった。


 ナギの伝承は古く、鴉天狗結成前から存在している。その始まりは「ナギはナギ自身で守る」であり、世界中でナギの理解者はナギしかいないため生まれた不問律である。




「蜀は日本国内で行えない訓練が出来るので、こうして私も足を運んでいるのです。」


 門倉は襲撃事件で楠木が組織に大きな不信感を抱いたことを把握しているものの、「常人の集まりでしかない」名も無き組織には対処不可能な事案なので、事後対応以外は本人に任せていた。


「そう睨まないで下さい。今回の会合は君の昇進についての説明なのですよ。」


 門倉は来る決戦に向けて、楠木に第1艦隊の全権限を与えるべく行動しており、自衛隊の組織再編に伴って多くのポストを用意している事を詳細に伝える。


「私の階級はまだわかりますが、海将だけでなく幕僚長も増やすのですか? 」

「そこはまだ正式に決まっていないので、変更が入ると思います。どうなるかは私にもわかりませんが・・・」


 毎度毎度の事なので、楠木は陸自の門倉が海自の事まで首を突っ込む理由を問わなくなっていた。それよりも、組織が自分にここまでの権限を与える理由が分からない。自分は艦長職ですら満足に行えていないし、操艦技術も優れている物を持っているとは言えない人間だ。


「私にポストを与える代わりに何をやれと? 」


 名も無き組織への不信感が爆発したのか、以前の彼女を知っていれば考えられない言葉が出るが、門倉は決戦を行う上で海上自衛隊の問題点を話し、楠木の独自判断で戦闘を進めるように伝えた。


「階級と艦隊を与えるのは、君の能力を最大限発揮して独断専行させるためだ。上や我々の命令など、変化の激しい戦場では何の意味も持たない。」

「敗北の責任は全て私がとれと? 」

「そのとおりだ。だが、勝てば歴史に名が残る・・・君の能力を使う以外、超兵器に対抗できる人材はいないのだよ。」


 上からの命令、刻一刻と変化する戦場、勝利以外は受け付けない国民、戦場の指揮者にはあらゆる方向から重圧がかかる。門倉は楠木に日本の命運を賭けた決断をしなければならない立場となる事を伝えるのだった。



楠木1等海佐が退室して30分後・・・

 名も無き組織の初期メンバーが数人残っただけの室内で、本国では開き辛くなった会議が始まる。


「超兵器への対抗策ですが、半魚人の発生地域を破壊する案で答えが出そうです。既に各国へは注意喚起しています。」

「無人護衛艦の建造拠点が全国で順次稼働を始めています。また、あまぎ級2番艦「あかぎ」が進水、ながと級強襲揚陸艦の建造が始まりました。」


 先ず防衛関連の報告が行われる。日本の沿岸各地で無人護衛艦建造用の小さな造船所が順次稼働を始め、最新鋭のミサイル護衛艦「あかぎ」の進水が伝えられた。また、今後の大型護衛艦建造が戦闘艦ではなく「ながと」級になる事が正式決定されたと伝えられる。当初の防衛計画では強襲揚陸艦の建造は予定されていなかったが、各組織の大物を納得させるために名も無き組織が大幅な計画変更を行った結果生まれた艦で、米軍のワスプ、アメリカ級の性能を持たせるように設計された。


「防衛成功後の逆侵攻ですが、第1次上陸作戦はサマサ周辺。第2次はデルタール(地球の香港)、コタルカ(地球のベトナム)に決定しました。」

「それだけの戦力が残っていれば、の話だな・・・」


 門倉達は反攻計画を見ながら、決戦後の残存戦力によってどの作戦まで実行するかを詰めていく。


「海自から依頼されていた特殊部隊創設に北海道大学が名乗りをあげています。」

「無人給油機の試験が良好との事で、このまま順調にいけば蜀へも供給できます。」

「諜報、密輸、日本人拉致を企てた組織への対処ですが、外人部隊を投入する予定で進めています。」

「シャーロットから作戦成功の報告がありました。」


 防衛関連の会議はまだまだ続き、自衛隊に新設される部隊の話に移る。自衛隊外人部隊は訓練と編成が行われている途中だが、早くも実戦投入が予定されていた。


「倭国が同心会壊滅に我が国へ協力を依頼して来た件ですが、外務局長が国内外で動いているようですね。」

「うちの福島と会いながら、上杉さんとも頻繁に接触している要注意人物です。」


 同心会の件はコクコが上杉と接触した際に提案したもので、コクコは上杉に外人部隊の投入を強く勧めていた。名も無き組織内では、全く信用のできない人物からの依頼に慎重論が多数を占めていたが、コクコに関わる多方面の人物と接触し、裏取りを行う事で部隊の投入を決定する。


「無色の派閥が国民の支持を急速に集めています。残念ですが、一掃するほかありません。」


 最後の議題は参加者全員が頭を痛める大問題だった。日本国内では日増しに強くなる戦争の足音に、疲弊した国民が音を上げ始めており「戦争を回避できるのでは?」「戦争に行きたくない」との思いから、戦争の回避を掲げる政党「無職の派閥」が支持を拡大していた。しかし、掲げた理想とは裏腹に、無色の派閥の実態は「戦争の放棄」を第1と考えている日本国憲法原理主義者達であり、理想の為なら開戦前の段階でパンガイア連合国に無条件降伏も辞さない過激派である。


「国民は奴等の実態が分かっていないのか? 」

「残念ながら、調査では「戦争するくらいなら」という考えが広まっています。」

「馬鹿な・・・戦争が回避できたとして、強制移住するだけで十数万が死ぬ。現地に生存圏を確保して軌道に乗せるまでに国民の半数が命を落とすのだぞ。」

「その件も、残念ながら国民は政府発表をあまり信じていません。」


 国家公務員達が、それぞれの組織で血眼になって作成した資料が一般国民に受け入れられていない現実に、名も無き組織のメンバーは心が折れそうになる。結局のところ、ヒトはどんなに過酷な現実を叩きつけられても、どんなに追い込まれようと、苦痛が少なく見える場所に行ってしまい、一網打尽にされてしまうのだ。そして、日本国は国民を率いることができるリーダーが不在の状況にあった。


「いよいよ上杉さん考案の一掃作戦が現実味を帯びてきましたね。」

「あれを作戦などと言うな。一歩間違えれば日本は戦争前に内戦だ・・・」


 門倉はプライベートで上杉から一掃作戦の事は聞いており、全力で反対していた。しかし、門倉が幾ら動いたところで国民が変わらなければ意味の無い事でもあった。


「すみません。ですが、私は上杉さんの言うように、一人一人の国民が自ら生き抜く術を持っていない、余りにも自分の運命を他人任せにしているように思えてなりません。」


 門倉の気迫に軽率な発言をした参加者が謝罪するが、メンバー全員がこの懸念を持っているのも事実であり、後の悲劇につながることとなる・・・


 会議では万が一にでも外部へ漏れたら取り返しのつかない情報が報告され、併せて方針の軌道修正が伝えられていった。

楠木は海自幹部としてはそれ程優秀ではありません。海自組織内では彼女の出世を良く思っていない人間が多く、後々の展開に影響を与えます。基本的には数々の幹部教育と試験を潜り抜けているので優秀には変わりありませんが、上には上がいるので、あんな自己評価をしています。


作者は物語の最後を決めて、そこへ向かうように書いているので伏線が沢山出てきます。作者が忘れていそうなものがあったら指摘してください。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえばサマサの位置ってどの辺ですか?地球の地理とほぼ同じなら朝鮮半島にあたる所でしょうか、もしそうなら第1次逆侵攻って満州辺りまで… 後台湾と樺太にあたる島ってあります?あるとし…
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