神
夏なのでホラー回です。
苦手な方は読まないでください。
神機・・・数ある古代兵器の中でも群を抜く戦闘能力を有する異質な超兵器である。見た目は全高約30mの手足の無い巨大人機であり、時速500㎞で空中を自在に飛び回れる高い機動性を有し、鳥機や飛行艦とは異なる特殊な機関を搭載している。
武装は全方位に指向可能な光学及び粒子兵器を搭載し、その火力は鋼鉄の軍艦ですら一瞬で蒸発させるほどである。防御に関しては未知な点が多く、まだ解析途中だがフォースシールドと呼ばれる防御スクリーンとは原理の異なる防御機構を持つ事が判明している。
神機とまともに戦える兵器は世界でも数えるほどしかないのだが、神機は「羽」と呼ばれる外部オプションを装備することによって真の性能が発揮される。羽は一枚一枚が神機の子機的なもので、外付けの補助機関として機能し、最大12枚の羽を装備することによって神竜と同等の戦闘能力に匹敵する。
性能を最大限発揮した神機を止められる兵器はこの星に存在せず、日本国はこの状態で本土まで到達された場合の対抗手段を未だに待ち合わせていなかった。
「強力な兵器を持ってしても女神に対抗できなかったのですか? 女神とは一体・・・」
現在も女神が存在しているため、総理は古代文明と神竜の作戦が成功しなかったと思い、女神についてヴィクターに問う。
「はっはっはっ! 失敗したのではない。自らに絶対の自信を持つ他の神竜達がビットの装備を拒んだのだ。」
総理の問いにヴィクターは当時の状況も踏まえて答える。光翼人と神竜の戦争が終わり、互いに共通の敵である女神討伐のため共存していた時代、手をこまねいている神竜を横目に光翼人達は全く異なったアプローチで女神に強烈な一撃を加えようと画策していた。その考えに賛同した数頭の神竜が光翼人に協力したのだが、意見の不一致や女神の船を現次元へ転送する技術開発の遅延によって、攻撃は実行されなかったのだ。
「女神を詳しく知りたいのなら、本人に聞くのだな。」
「我々は神託を受けられない種族です。何故そのような事を言うのです! 」
不可能な事をヴィクターが勧める意味が総理にはわからず、つい口調を荒げてしまう。
「すまぬ。最近、女神の催促にうんざりしておったのだ。我に日本国を亡ぼせとな。」
「今何と・・・」
余りの衝撃に総理は絶句する。女神の要求は簡単で、ヴィクターが日本国を滅ぼせば、自身の命か教団のどちらかを救うというもので、ヴィクターは女神が日本国を滅ぼそうとする理由として、日本国が女神の想像していた文明ではなかった事と伝える。
「我々を転移させておいて、そんな理由で・・・」
「理不尽と思うか? 神とはそんなものだ。総理よ、日本国を存続させたいのなら、何をすべきか分かっておろう。」
ヴィクターは刻一刻と変わる国際情勢をリアルタイムで把握しながら、総理の決断に圧力をかけていく・・・
日本国、東京都内
倭国外務局長のコクコは、休日を都内の散策にあてていた。表向きは都内の調査と言う事で日本国へは伝えてあり、以前のような邪魔が入らないようにしているのだが、彼女の周囲は公安が警戒し、更に遠くからは鴉天狗が監視の目を光らせている。
コクコは場所に合わせてサラリーマン風の変装をチョイスしており、前方と後方を録画するための小型カメラを2台装備し、本国から取り寄せた不可視の存在が見える特殊な魔道具の眼鏡をかけていた。コクコの真の目的は日本国の妖怪や神の調査であり、日本国と国交が初まった早い段階から彼女が個人的に進めている調査である。
「魔道具を使っても成果無しか・・・」
都内でも大きな神社の調査を終えたコクコは、小さな公園で昼食をとりつつ、調査計画の変更を考え始める。日本国の妖怪と神の調査は何の成果もないが、確実に存在するにもかかわらず痕跡すら見つけられない事に、焦りながらもある感情を抱くようになっていた。
「不気味だ・・・」
日本国を調査する過程で多くの社や祠を見て来たコクコとしては、神と言われる存在が一切見つからない状況は、不気味以外の何物でもなかった。
「日本国にもあるのだな。」
コクコは配給所で手に入れた御萩を頬張りながら、懐かしい味にふと過去を思い出す。出世して妖狐となり、好物が鼠人となった今では食べる機会が殆ど失われてしまったが、生きるのに必死だった頃に偶然食べた味と感動を思い出す。
「さて、次は処刑された武将が今も祀られている場所か・・・」
昼食を終えたコクコは次の目的地へ向けて歩き出す。その様子を望遠レンズで監視する鴉天狗の構成員は無線で逐一報告していた。
「ターゲット移動開始。不味いな、この先は高次個体のテリトリーだ。ナギのアドバイスはあるか? 」
「馬鹿野郎! ナギはとっくに退避した。監視は公安に任せてお前も退避しろ。」
害をなす危険な妖狐の監視を行っていた鴉天狗達は、妖狐の行き先を見て追跡を中断することになる。彼等は高次個体と呼ぶ「それ」を恐れており、決して近づくことはない。
「それ」はコクコの目的地ではなく、通過地点に位置する小さな社に現れることがあった。
「こんな所にも社があるのか・・・」
コクコは街中にポツンと存在する社を見つけ、寄り道することにした。この社は小ぢんまりとしたもので、敷地面積は昼食で休んでいた公園よりも狭いが、良く管理されている。
「すみません、ここはどの神を祀っているのですか? 」
一通り調べたコクコは、近くを通りがかった人物にルーツを尋ねる。通りかかった人物は突然話しかけてきたコクコを警戒するが「転移現象で神社仏閣に異変が無いか調査中」とのことを伝えて回答を得ることに成功する。
「何を祀っているかはわかりません、私は詳しくないんで・・・でも、祖父は怒らせると怖い神様だって言ってました。」
「そうですか、ご協力感謝します。」
何の手掛かりにもならない話が聞けて「こんなものだろう」とコクコは諦める。この社は何の意味があって建てられたのだろうか? 名前は古い地名を指すもので神の手掛かりにはならなかった。
「さて、本命の調査に行くとしますか。」
コクコは本来の目的に向けて歩き出す。しかし、異世界人の彼女はこの地に存在する「それ」を感知することはできなかった。この社は街ができる以前からあり、日本人による度重なる開発でも取り壊されることなく存在し続けていた。広い道路がこの地を避けるように建設された過程もコクコには知る由もない。「それ」の存在を感知できるのは古くから共に存在していた者のみであり、この世界の人間では日本人だけが感知可能である。
「それ」は人間が生まれる前からその場に存在しており、不変の存在ではなく周辺の環境によって進化もする。人間が現れてからは人間に対応した行動をとるようにもなったのだが、基本的に「それ」が見える事は無い。日本人に言わせれば「見てはいけない存在」「見えてはいけないモノ」である。
コクコが神社を後にする時、その後ろ姿を社前の地面で無造作に転がる、髑髏のような物体が見つめていたことに、彼女は気付けなかった。
後日、倭国外務局
外務局で情報の精査を行う部署で、職員のタマモはコクコの持ち帰った動画データをPCに取り込んで分析していた。タマモは4尾の妖狐であり、自身と同じく狐人から妖狐になって大出世したコクコを尊敬しており、人生の目標と捉えている。そんな彼女をコクコは良く思っており、早く出世できるように様々な仕事を頼んでいた。
「公安がこんなに顔を撮られていいのかな? マヌケかな? 」
最近使い方をマスターしたPCを操作しながら、タマモは公安職員の顔をデータに取り込んでいく。この情報は同心会にも送られ、対日諜報活動の貴重な情報として活用される。
「コクコ様には霊的なモノが映っていないか詳細に調べろって言われたけど、科学機械にそんなものが映るかな? 」
非常に眠くなる作業だが、タマモは尊敬するコクコのために動画を隅々まで確認していく。
「ん? ん~~~、ナニコレ? 」
そして、タマモは「それ」がコクコを見つめている場面を発見し、動画を停止して詳細に確認する。
「石にしては~、まんま髑髏だよね。その場にあった置物、だったらコクコ様が気付かないわけないし・・・これはコクコ様に報告だね。魔法科学院にもデータ送らなきゃ。」
この成果を伝えたら褒めてもらえるだろうか? タマモはコクコが探していたモノを見つけて満面の笑みを浮かべながら小型記憶媒体を取り出す。その時、何処からともなく視線を感じたタマモはドアの方へ振り向く。
「・・・誰もいない、気のせいか。 !! 」
タマモはドアからPCの画面に視線を移した時、強烈な違和感に襲われる。髑髏はコクコではなく、自分を見つめているような気がしてならなかった。
「え? 髑髏が・・・」
停止状態の動画で髑髏だけがゆっくりと動き出し、そして・・・
外務局職員失踪数時間後、フタラ神殿
倭国を代表する山脈「霧島連山」の最奥にあるフタラ神殿では、神官総出の封印作業が行われていた。その作業を遠目に見ながら、フタラは「それ」の入った記憶媒体に結界を張る。
「クチナ、被害は? 」
「判明しているところでは、外務局の職員が1人喰われました。また、封印作業中の神官4名が重症です。」
魔法の無い世界から来た日本国、確かに日本国の魔法技術は皆無だ。だから超常的な存在もいないと思っていたフタラは「それ」が倭国と日本国の間に作った道を見た瞬間、日本国との関係を根本から見直す必要があると判断した。
「意志を持つ脈なんて、初めて見たわ・・・」
外務局の職員が局内で行方不明となった事件は局長預かり案件となり、表沙汰にはならなかった。コクコは信頼の置ける部下と、日本国から持ち帰った記憶媒体が消失している事が判明したことで、周囲には平静を保ちつつも深刻な案件として調査に乗り出す。
調査は遅々として進まなかったが、日本国にて鴉天狗から高次個体について衝撃の事実を知らされることになる。
日本には人間が誕生する前から「それ」が存在していた。やがて人間が誕生し「それ」と共に生きてきた日本人は超常的な存在とも共存する術を身につける。
ふとした瞬間、寒気を感じることはないだろうか? 古代の日本人はそのような症状が現れた場合、専門家に伺い、その場に祠を建てていた。古代の日本人は「それ」の正体を本能で知っており、「それ」が荒ぶらないように祀る事で沈めていたのだった。そして、社や祠を建てることは「それ」がこの場所にいることを他の人間に知らせる意味もあった。
「それ」は見えない存在、見てはいけない存在。しかし、ふとした瞬間「それ」の波長と合う事で見えてしまう事があり、「それ」を見てしまった者は唐突に姿を消す・・・
日本人は「それ」を神と崇め、神を目視した者が姿を消す現象を「神隠し」と呼んでいた・・・