瘴気内連合軍の新兵器
ジアゾ合衆国北西部
パンガイア大陸に一番近いピクリン州は、約300年前に転移した際、ロマ王国の侵攻で最初に上陸作戦が行われ、橋頭保として使われた歴史がある。辛くも勝利したジアゾ人は、この世界の文明と圧倒的な格差を痛感して国全体の要塞化を推し進め、特にピクリン州は総面積の4割が何かしらの軍事施設となっていた。
要塞工事は終わりなく進められており、戦争が差し迫った現在は大規模な戦力が駐留するようになり、要塞化は更に進んでいた。
「俺ぁこんな銃嫌だ~」
訛りと見た目から、直ぐに南部の田舎者と分かる若い兵士に軽機関銃が押し付けられる。
「何の騒ぎだ? 」
戦車兵のルニールは隣の歩兵部隊から聞こえる叫び声を聞いて戦車内から顔を出した。
「あぁ、例のアレですよ。」
「かわいそうに・・・」
ルニールの問いに外で作業をしていたアセスとギルノールは気の毒そうな顔をしながら答える。徴兵された田舎の若者には、装甲歩兵の装甲をも撃ち抜ける大口径弾を連射可能な軽機関銃が渡されていた。この軽機関銃は迫る開戦に間に合わせるように開発された戦時急造品の1つであり、装甲歩兵を撃ち抜ける貫通性能と多数の目標に対応可能できる連射性能を持たせ、更に生産コストを抑えるための様々な工夫が施されている。
陸軍は対装甲歩兵に最も効果的な歩兵装備として大々的に配備を進めているものの、カタログスペックだけを見れば強力な兵器なのだが、構造的な欠陥と大量生産による粗製乱造の弊害が直に出ることによって、配備初日から様々な不具合が現場から報告されていた。
曰く、不発が多い、ジャムが多い、発砲時にマガジンがとれる、引き金から指を離しても撃ち続ける、時々暴発する、そもそも9㎜ライフル弾を使用した軽機関銃ってなんだ? 反動強すぎ。と言うもので、今ではこの武器を持たされて最前線に送られることは歩兵にとって死刑宣告と同義に捉えられていた。
「こんな所にも勝者機関銃が配備されるなんて・・・」
通称「勝者軽機関銃」は軍が気合を込めて投入した新装備なのだが、その実態は名前とは程遠く、確実に名前負けしている産業廃棄物だった。
「上の人達は戦争に勝つ気があるのだろうか。」
「・・・」
アセスとギルノールは欠陥兵器が最前線に配備されることに不安を隠せないようだが、車長のルニールは別の事で不安を感じていた。彼等の戦車はT6のままなのである。既に最新鋭戦車の配備が始まっているものの、水際防衛線ではなく内陸部を中心に配備されていた。ここから考えられることは1つしかない。上はロマ戦同様にパンガイア戦でも敵を内陸部に誘い込んで殲滅する考えなのだろう。水際防衛線は突破される前提であり、自分達は激戦の混乱の中で機を見て後退の判断を下さなければならない難しい立場ということだ。
「誰も負ける気で戦争なんかしねぇよ。」
ルニールは隣の騒ぎを見つつ、タバコを吸うために巨大な掩体壕から外へ出る。外は珍しく晴れており、砂浜には相も変わらず波が打ち寄せていた。
「大陸の奴等・・・馬鹿な真似はするなよな、こんな所に上陸なんてしようものなら、肉片すら残らないぞ。」
上陸に適した砂浜には数万もの大砲が指向されていた・・・
同国中東部の工業都市「シトリブ」
シトリブは付近に5つの巨大な湖があり、鉱山から産出される大量の資源を使い、完成した製品を水上輸送することで発展した都市である。郊外の巨大な自動車工場が特徴のシトリブだが、現在の工場は航空機工場に転用されていた。この工場で生産しているのは主に排気タービンと呼ばれる部品であり、複葉機が主力だった時から研究開発を進め、近年実用化した合衆国の技術を象徴する製品である。
ロマ王国戦以降、航空戦力の保有は必須事項となっていたが、この世界基準で屑クラスの魔石しか採掘しない合衆国は、魔法兵器による航空戦力の保有を諦め、科学兵器による航空戦力の保有に舵を切っていた。
技術者と科学者達は何とか内燃機関を開発し、複葉機の初飛行を成功させた時は技術の進歩の早さから、多くの関係者が「短期間で鳥機に追いつくことは可能」と考えていた。しかし、科学技術が進歩するにつれて鳥型戦闘機のように早く、高く飛ぶためには越えなければならない壁が幾つも判明することとなる。
多大な労力を経て身につけた科学技術で判明したのは、圧倒的な技術格差だったのだ。
ジアゾ人は圧倒的な差があっても諦めることはしなかった。いや、「やらなければ国が滅ぼされる」との考えに支配されていたと言った方が近いのかもしれない。合衆国は何かに取り付かれたかのように技術開発を続け、その過程で開発したモノの1つが排気タービンだった。
「将軍、要望通りの数を生産できる目途が立ちました。組み立てもご覧になられますか? 」
「急な対応、すまないね。時間もあるし、見させてもらおうか・・・」
会社の重役達が空軍幹部をある場所へと案内していく。その場所は空から見たらただの田園地帯に見えるが、地下には巨大な組み立て工場が広がっている。
「ちょうど完成した機体があります。」
「これが、XB-1か。」
重役と将軍達の前にはフェイルノートを基に開発された戦略爆撃機「XB-1」がその巨体を見せつけていた。
日本国防衛省
防衛省ではパンガイア戦に向けての準備の他、上陸してくる魔物との戦いに終止符を打つべく大規模な作戦が計画されており、建物内はせわしなく人が行きかっている。その中で、ある1室だけはピリピリとした雰囲気が立ち込めていた。
「予算要求を我々に出すというのは、間違いなのでは? 」
「今まで自分達が何をして来たか自覚はないのですか。」
この秘密会議は、勝手に予算を使った名も無き組織に対して海上自衛隊が替わりの予算を要求するために、名も無き組織でも上位の人間を呼びつけて開催していた。
「この予算を呑んでいただければ、楠木海将補の件も組織をあげて協力すると言っているのです。」
海自側はただ要求するだけではなく、取引材料も用意して臨んでいたのだが、名も無き組織としては今後の予算増と護衛艦の大量建造で満足してくれるものと予想していたため、あまり乗り気ではない。
「ここにきて余計な予算請求は困るのですよ。しかし、あなた方の要求は我々の内部でも評価が高い、第1艦隊の件で協力いただけるのなら、出来る限りの事をする予定です。」
勝手に予算を動かしたお前らが言えた事か? と海自幹部達は口に出しそうになるが、ここはじっとこらえるのみである。
「将来、超兵器に対抗できる兵器を保有することは必須となるでしょう、この戦艦を保有するまでのプロセスについて、詳細を聞かせてもらえますか? 」
海上自衛隊は独自に超兵器を研究し、対応策を練っていた。この対応策に基づいた作戦は名も無き組織も考えつかなかったものであり、その奇抜性から注目されていたが、計画を実現させるには技術的な問題を始め多くの壁を乗り越えなけらばならず、成否が疑問視されていた。
1時間後・・・
「・・以上が計画実行の問題点になります。」
「新たな部隊創設ですか、それでしたら文科省に解決策があります。後で担当者を紹介しましょう。」
速い・・・困難な問題の1つが、この場で解決までの道筋が出てしまった事に海自幹部は驚く。まともに予算を出していたら何年かかっていたか分かったのものではない。
「他の問題に対しても解決策を探してみます。あぁ、そうそう、神竜教団との交流に抵抗が無いのであれば、いくつか問題解決の糸口となるかもしれません。」
「ははっ、参ったな・・・」
ここまで話が進むと考えていなかった海自側は、名も無き組織の提案に即答できなくなっていた。
その後、海上自衛隊は戦艦保有計画を実行に移すため、神竜教僧兵団と神域にて超兵器ルシフェルの共同研究に参加することとなる。