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とある転移国家日本国の決断  作者:
大陸間戦争勃発
126/191

恋バナ

日本国、北海道


 北海道は日本に上陸してくる魔物との戦いにおける最前線であり、転移直後から続く戦闘によって沿岸に近い市街地は多くが更地と化していた。当初、自衛隊は市街地の被害を最小にしながら魔物の駆除を行っていたものの、魔物との戦闘が常態化したことで戦闘地域の市街地は次第に瓦礫と廃墟に変わっていく。また、追い打ちをかけるように北海道大学の研究者チームによって魔物が瓦礫や廃墟に巣を作る事が判明し、対策として国が瓦礫と人が利用できなくなった建物の撤去を優先して行うことで、現在の様な更地が出来上がったのである。

 海に囲まれている日本国でも魔物の襲撃が集中する北海道では、内陸部への避難や疎開によって住民達は苦しい日々が続いていた。上陸した魔物自体は自衛隊が排除しているのだが、安全が保障されなければ日常生活すらおくれない状況に、住民は次第に追い詰められていく。

 転移後2、3年は本土への避難者や自殺者が後を絶たず、無理に漁や畑仕事へ行って魔物に殺害される事件が多発していたが、4年目、5年目となると状況に変化が表れる。国が北海道防衛に力を入れた影響が出始め、自衛隊の大規模増強によって多くの地域で治安が確保され、防衛、治安維持、建設関連の人間が大挙して押し寄せたことで、札幌市などの都市圏は今までにないほどの賑わいを取り戻していた。



札幌市中央区


 陸上自衛隊で10式戦車の砲手を務めている田中は、長期休暇を謳歌しようとしていた。この休暇は魔物駆除でまともな休暇が取れなかった者達に与えられたもので、転移初期から北海道防衛に従事していた者は多めに貰えている。また、田中のように初期からの防衛従事者には、休暇の他に高ランクの配給券も多めに配給されており、楽しめる内に楽しもうという隊員達が歓楽街へと消えていった。

 田中が何度も押しつぶされそうになりながらもストレスの多い仕事を続けられたのは、休暇の楽しみを見つけたのが大きいだろう。田中は歓楽街でお気に入りの娘を見つけて、休みの日にコッソリ通っていた。だが・・・


「何でよりによって、お前がいるんだよ。」


「ただの偶然、でもこれで俺達は穴きょう・」


ゴスッ!


 田中はヨンの発言を強制終了させるべく、缶コーヒーの入った袋を投げ渡す。


「それ以上言うなっ! あー、もう! 」


 田中はお気に入りの娘がバレないよう、部隊内で歓楽街へ行く時は徹底してカムフラージュしていたのだが、この行動が現在の状況を生み出してしまったようだ。


 市内の休憩所に場所を変え、2人は缶コーヒーを空けながら休暇の使い道を話し合っていた。多くの人間が協力することで転移後の状況を乗り越えて北海道の治安を安定化させたものの、終わらない魔物駆除、迫る戦争、故郷の家族etc、一向に無くならない不安感を2人は愚痴や相談という形で発散させていく。


「故郷に戻るなら、俺も付いて行っていいか。」


「ダメだ。」


 ヨンの提案に田中は即答する。ヨンの考えは大体予想がついていた。


「残念だが、俺の従妹はもう日本にはいないぞ。」


「やましいことを考えているわけじゃないんだ。でも、利子ちゃんはかわいいし、一度紹介してほしかったんだ。」


 こいつ、さっきまでの賢者モードは何処に行った? まさかこんな所で利子に虫がつくとは考えていなかった田中だが、ふと南海大島へ戻った利子の顔を思い出す。久しぶりに会った彼女は大きく成長していて、高卒で自衛隊へ入るまで守ってきた自分としては寂しいが、もう自分の事は自分でできるようになった彼女に「従妹を守る従兄」は必要ないと感じていた。

 そして、ヨンの気持ちも分からなくはない。ヨンは1人日本に残って今までずっと共に戦ってきた。孤独なヨンだったが部隊の仲間ができ、親しい友人も作れた。だが、彼には帰りを待つ家族が誰一人いないのである。家族と仲間では、埋められる孤独感が異なっているのだ。


「その内戻ってくるだろうから、機会があったらな。」


 まだ利子の留学を聞かされていない田中はヨンと軽く約束を交わすのだが、ある護送任務中に利子と思いもよらない形で会うことになる・・・




南海大島 西部最大の港湾都市「グレートカーレ」


 南海大島の玄関口として機能しているグレートカーレは日に日に拡大を続け、自衛隊が上陸時に建設した簡易施設は民間へ引き渡され、本格的な機能を持った施設へ増改築が進んでいた。施設の新規建設と更新によって格段の発展をしたグレートカーレは、眠らない街へとその姿を変貌していたのであった。


 昼、グレートカーレでも高級なレストランの一室で、赤羽利子と白石小百合は昼食をとりつつ互いの自己紹介をしていた。今回の紹介は出会った時のような簡単なものではなく、かなり踏み込んだものである。


「言っておくけど、私が所属している組織は国の機関じゃないの。宗教団体の方が正しい表現ね。」


 小百合は鴉天狗について利子でもわかるように話していく。


「あれ? ひょっとして小百合さんってキリスト教だったの? 」


「大元は同じだけど、異なるわ。」


 鴉天狗の教えがどこかで聞いたことのあるものだったので、利子は自分が知っている宗教の名を出したのだが、違っていたようだ。しかし、仏教に属していて宗教関連の知識が乏しい利子にしては中々いいところを突いてきたので、小百合は鴉天狗の目的も話し始める。


「・・・ということで、神が現れた時、私達は世界にその事実を知らせるの。まぁ、こんな世界に来ちゃったから揉めてるんだけどね。」


 遭難事故の後、利子は小百合や国の担当者から鴉天狗についての簡単な説明を受けていた。利子を担当する国の職員からは「退魔師と言う名の妖怪ハンター」「妖怪なら子供すら手にかける血も涙も無い危険な連中」「利子さんも標的となっている」と言われて注意を促されていたため、能天気な利子でも警戒心を持つようになっていた。しかし、小百合の話を聞いていくうちに、見方が少しづつ変わっていき、利子は妖怪への敵意を訪ねてしまう。


「小百合さん、何で妖怪を狙うの・・・」


「何時からどんな理由で狩り始めたかは分からないけど、私の主観が入ってもいいなら答えるわ。」


 はっきりとした事は小百合にも分からないが、自分なりに組織の歴史を調べていたので、妖怪駆除へ舵を切っていく過程を利子にも分かり易いように話しはじめる。


「・・・パワーバランスが崩れたのが大きな原因ね。あと、「ナギ」の始まりも関係していると思う。」


 てっきり神話絡みで「妖怪は神の敵だー」なんて教えがあって、それで妖怪を狙っていると考えていた利子は、小百合が考える現実的な理由に何とも言えない気分となる。大昔の日本では、時に争い、時に協力しながら、人と妖怪で持ちつ持たれつで住み分けが出来ていたようだ。しかし、時代が進むにつれて人と妖怪のパワーバランスが崩れ、妖怪を邪魔者にしか感じられなくなった人間達が自身の安全と領土を増やすために駆除を始めたという。この部分だけ聞くと人間が悪いように聞こえるのだが、小百合の話の続きによって利子はどちらが正しいか分からなくなってしまう。


「今でこそナギは妖怪探知機みたいな扱いを受けているけど、最初は全く違った使い方をしてたのよ。」


「人間と妖怪の間を仲介していたとか? 」


「半分正解。」


 今日の利子は中々感が冴えているようで、小百合は少し微笑みながら続きを話し始める。


「仲介自体は組織の上層部がしていたわ、ナギは妖怪との取引材料に使われていたの。」


「材料? 」


「生贄よ。」


 ・・・話が繋がったような気がする。妖怪が無償で人間に協力するはずはなく、魔力を持つナギが生贄に選ばれるのは頷けた。「そう言われれば小百合さんは美味しそうだしね。」パワーバランスが崩れ、妖怪に頼らずともやっていけるようになった鴉天狗は、生贄を止めて武装していったのだろう。物事を正しいか悪いかで考えてきた利子は、鴉天狗を悪の組織と考えていたが、その評価が大きく揺らぎはじめる。



30分後、小百合と利子の話は大きく脱線していた。


「ちがう、きっと見つかるもん・・・」


「違う事なんてないでしょ、利子に良い男が寄ってくるわけないじゃない。男っていう・・・」


 何故この話題になったのかと言うと10分程前、鴉天狗は独特な教義もあるが、ナギを生贄に使うことを見越して子供を多くつくり、ナギ自身も早めに子供をつくると言う話になったからである。


「許婚? じゃあ、小百合さんって彼氏がいるの? 」


「いるわよ。」


「いいなぁ、私の前にも素敵なヒトが現れるかな? 」


 年頃の利子にとって、この手の質問が出るのは必然である。だが、異性との交際に夢を持っている利子に小百合は現実を突きつける。


「利子に? それは一生ないわ。あの時に言おうと思っていたけど、今言わせてもらうわ。利子は委員長の事が好きだったでしょう? 」


 !? 突然の指摘に利子は固まる。卒業後に何回か小百合とは会っていたが、委員長のことは殆ど話していないのに何故? 確かに私は惹かれていたけど、委員長には幼馴染がいて、自分が入り込む余地なんてないし、2人には幸せになって欲しかったし・・・


「あれだけ未練がましく話されたら、誰だってわかるわよ。」


「うっ」


「惚れた男に女がいるから遠慮した? 馬鹿じゃないの。」


「人の幸せを願ってるだけでしょ! 何が悪いのよ! 」


 小百合の連続攻撃に耐えかねた利子は反撃に出る。


「それが間違いなの! 良い男ってものは良い女の所にしかいないの。いい女の所にいる男をモノにしたければ奪うって相場は決まっているわ。」


「彼氏が最初からいる小百合さんに何が分かるのよ! 」


 良い男は良い女の所にいる、その逆も然り。だから皆自分を磨くのである。今まで自分に自信が無く、一歩引いたところから見ているだけだった利子は「男はできない」と小百合に断言され、強く反発してしまった。しかし、異性とデートすらしたことのない利子と、ブラックウィドウの領域に踏み込んでいる小百合とでは経験値に雲泥の差があり、いくら反発しても勝ち目などなかった。

 利子は小百合の事を勘違いしていた。昔からいる彼に満足していると思っていたが、小百合は許婚がいるのにも関わらず、気に入った男性に声をかけては関係を持っていたことが判明し、豊富な男性経験から得られた知識に論破されることよって、利子の理想は完膚なきまでに砕かれるのであった。


 利子の理想を打ち砕いた小百合だが、大妖怪を怒らせてしまったので内心は冷や冷やしていた。だが、甘い考えの利子を見ているとストレスしか溜まらないので、本音をぶつけ、更に異性との付き合い方をレクチャーし始める。


10数分後


「毎日料理を作って、おだてて、落ち込んでいたら優しく励まして、夜に抜いてやれば大体は落とせるわ。」


「抜く? それってアレだよね・・・」


 高度なテクは期待できない利子に、小百合は簡単な男の落とし方を教えていた。


「料理とかは教えられるけど、男性経験は利子次第、数こなさないと上手くならないわ。」


 想像して顔が赤くなっているが、利子は小百合の助言を受けて積極的に異性と関係を持っていこうと考えを変え始める。関係を持つと言っても、知り合い、友人関係からであり、そこで自分の理想の男性を見つけられたら、関係を深めていこうと言うものである。


「小百合さんは男性経験を・・」


トントン


「遅れてすみません、文科省の国崎です。」


「うわー! 」


 突然のノックと担当職員の登場に利子は慌てふためく。2人がレストランに長居していたのは国の担当職員から紹介された、ある人物との顔合わせを予定に入れていたからである。だが、到着がかなり遅れていた事もあって2人は違う話題で盛り上がっていたのだった。


「早速紹介したいと思います。倭国、魔法科学院の首席魔族研究員兼、スーノルド帝国大学民族研究家のセシリア教授です。」


 国崎の後ろから倭国の民族衣装に身を包んだエルフが現れる。小百合は直ぐに解析を行い、利子は初めて見るエルフに見とれていた。


「はじめまして、これから帝国大学に行くまで貴方達の教育を担当するセシリア・サイドよ。よろしくね。」


 この何の変哲もない出会いが、後に世界の運命を変える事になるとは、この時は神ですら予想できなかった・・・

戦争を終結させるピースがやっと揃いました。

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