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とある転移国家日本国の決断  作者:
大陸間戦争勃発
124/191

帝国貴族の残渣

静海北方の高山地帯

 標高が高いにもかかわらず、静海から吹く風によって安定した気候で過ごしやすいこの地は、古くから王侯貴族の保養地として人気があり、関係者以外の立ち入りが厳しく制限される「特区」に指定されていた。ただ、現在になっても立ち入りが厳しく制限されているのは、「貴族連合」が本拠地を保養地としてカムフラージュしている事を知る者は少ない。


 ある大貴族が保有する城のような私邸で、両ノルド族の貴族達が一堂に集まって会合が開かれていた。


「・・・と、いう方針で構いませんかな? デジーニー卿。」

「相違ない。ジオ殿、くれぐれも、抜かりなきように頼むぞ。」


 ジアゾ戦後の動きについて、スーノルド貴族連合の議長ジオの提案をアーノルド貴族連合の会長デジーニーは概ね了承する。

 百年戦争の戦災は貴族ですら免れることはできず、世界は復興を果たしたものの、時代と共に変化した人々の心によって貴族の復興は未だに叶っていなかった。多くの貴族が没落いていく中、同じ志を持つ彼等は再起を果たすべく、敵対する貴族同士の和解、今まで交友の無かった組織とのコネクション作りを積極的に行い、復権へ向けた土台固めを行っていた。


「ようやくここまで来れたのだ。皆に重ねて言うが、時が来るまで軽率な行動は無きように・・・」

「ジアゾ戦に参加すれば領地を手に入れることができよう。だが、我らの目標は飽くまで蜀。彼の地の魔石があれば過去の栄光を取り戻すことができるのだ。」


 神竜討伐の前哨戦であるジアゾとの戦いは勝利が確約されたものであり、参加各国は働きに応じた領地が分配されるため、世界各国がこぞって軍を投入する。しかし、自前の戦力を殆ど持たない貴族連合は最初からジアゾとの戦闘は考えておらず、蜀への侵攻作戦参加に全力を注いでいた。


「傭兵ですが、ホワイトファング傭兵団を雇えました。皆様の私兵と合わせれば、文明化されていない蜀など容易く支配できるでしょう。」

「ホワイトファング? 傭兵ギルド内でも指折りの傭兵団ではありませんか、一体どうやって。」

「皆様の努力の賜物です。ノルド自由同盟の発言力と北方通商連合の資金力によって実現しました。」


 北方通商連合は名だたる国際企業が集まった企業ギルドであり、ノルド自由同盟はノルド人至上主義者の本体ともいえる巨大組織である。新興の企業ギルドと、身分の関係がなく構成されるノルド自由同盟の両組織とは、貴族としては距離をとるべきなのだが、時代が古くからの生き方を許さなかった。


「蜀は白狼族とか言う獣人がヒトを支配する国だと聞くが、同じ白狼で構成されるホワイトファング傭兵団を選んだのは偶然ではありませんね? 」

「貴公の知見には参りました。いかにも、現地の王族を排除後に統治を円滑に進めるために選びました。」


 傭兵団を雇った大貴族は「オプションの支払いも済んである」と笑いながら語りかけ、周囲の貴族達も、抜かりの無い作戦が立てられたことに満足していた。ここまで来ると、更に先を考えたくなるのが人と言うもので、蜀を足掛かりにどれだけ利益を出せるかを話し始める。


「ヴィクターランドは軍に任せるとして、次は倭国ですかな? 」

「倭国の魔石も蜀に劣らない最高級品だが、特に紅魔石は魔族共の手に置いておくには惜しい一品。是非とも手に・・・」


「倭国はラミア族が支配する魔族国家、蜀のように容易く降せる相手ではない。諸外国の軍に任せ、蜀に専念する事こそ我らの責務ですぞ。」


「これはこれは、デジーニー卿。」


 酒に酔って口を滑らせた貴族達の前にデジーニーとジオが現れる。


「確かに倭国原産の紅魔石は一級品ですが、魔族と戦ってまで手に入れる品ではありません。それに・・・」


 ジオは女神の預言にある、死者の国についての注意点を伝える。スーノルド国の予想では蜀と倭国の中間付近に転移している可能性が高い事、戦えばジアゾ戦以上にリスクが高く、得る物が無い事、刺激して蜀へ援軍を送られると今までの努力が水泡に帰する事・・・


「公には発表されていませんが、女王は死者の国を超兵器で滅ぼそうと考えております。我々がそのような相手と戦う必要はないのです。いえ、絶対に避けねばなりません。」


 デジーニーとジオは低リスク高リターンの蜀戦を制し、支配を確立させることが最善であり、最良の行動だと各貴族達に説いて回っていた。100年戦争から500年もの間、苦渋を呑み続けてきた貴族に廻ってきた、千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないのである。熱い志を胸に、2人は穏やかな会話で貴族たちに釘を打っていく。



 会合が終わり貴族達が帰り始める頃、新進気鋭若手貴族「グェン」は主催者に引き留められ、小さな応接室へと案内されていた。この事について何も話を聞いていなかったグェンは終始不機嫌になっていたが、応接室へデジーニーが現れたことで、ある程度の状況を把握することが出来た。


「この様な形で会うのは2度目か、あの時の若造がここまで大きくなるとは思わなかったよ。」

「まさか、ここまで育てたのは貴方でしょう。デジーニー卿自ら出てくるということは、公では話せない事ですか? 」


 グェンは新しく迎え入れられた貴族であり、まだ多くの貴族には認められていないため、積極的なロビー活動を行っている。しかし、「経済マフィア」との異名を持つ彼は、いつも会合で浮いた存在だった。


「いかにも、東海の瘴気が薄くなり始める時期が来たのだ。瘴気内国家は瘴気が完全に晴れなくとも海を渡れる術を持つことから、大陸側より早く外交団を派遣する。」


 瘴気が薄まり、小龍による移動が可能とれば、瘴気内国家の倭国と蜀は外世界の状況を把握するために一早く外交団をパンガイアへ派遣していた。そして、大陸側との和平が維持されていることを確認できれば、各国のバイヤーと魔石取引の交渉を始めるのが慣例となっていた。


「貴公には外交団との交渉を担当してもらいたいのだよ。意味は、分かるだろう? 」

「これは光栄な事、交渉を有利な形で決裂させて見せましょう。」


 貴族連合への支援を行う対価として、ノルド自由同盟の出した条件は「瘴気内国家との戦争の確約」だった。戦争以外の選択肢を待たないノルド自由同盟は、外交交渉で瘴気内国家と確実に戦争となる交渉をできる人材を貴族連合に求めていた。経済マフィアとして名が知れているグェンは、自由同盟を納得させるに十分な人材である。



「行きましたね。」


 グェンが去った部屋に、隣で会話を聞いていたジオが入ってくる。


「あのような者が貴族など、嘆かわしい・・・」


 態度、振る舞い、成り上がり貴族、どれもジオはグェンを毛嫌いしていた。


「小物に目くじらを立てぬとも良いではないか。グェン公は一番危険を伴う妖怪との交渉を快諾したのだ。」


 2人には共通の認識があった。それは没落の運命にある貴族を幾度となく立て直した偉大な先祖達から、子孫へ言い伝えられている言葉である。


・倭国とは関係を持ってはならない

・狐の妖怪の提案には乗るな


 先祖がどの様な被害にあったか記録に無いが、歴史上の出来事と照らし合わせると、いくつもの重大事件と関係が疑われるものがあり、真実はどうあれ記録に残せない家の暗部となっているのは確かである。慎重に慎重を期した判断で、デジーニーとジオは瘴気内外交団とは直接関わらないと決めていたが、この判断が自身の安全と引き換えに重大な悲劇を招くことになるとは、この時は予想すらできていなかった。




ホワイトファング傭兵団

 白い狼の獣人で構成される、傭兵ギルド屈指の実力を持った組織。陸空の戦力を保有しており、中小規模の国家なら単独でも滅ぼせる戦闘力を持つ。組織は基本的に白狼一族が経営しており、他種族を受け入れることは稀である。


作中での登場

 魔虫戦役では目立った活躍はしていないものの、キレナ国に到着したドックミート隊のシュバに魔虫の弱点を教えた傭兵達がホワイトファング傭兵団である。リロは空港に数いる傭兵団でも最強の傭兵に賄賂を渡して情報を引き出した。

 傭兵団にもかかわらず、蜀侵攻作戦では後の統治も受け持っているが、これは過去に蜀へ渡った同族の白狼族が、他種族に滅ぼされる前に自分達の手で始末を付けようと考えているからである。ただし、「蜀の王族は全て殺せ」との命令がトップから出ているあたり、何か裏がある。


保有戦力

総兵力5万

人機、二型約1千機(開戦時16百機)、三型30機、人機用キャリー70機

鳥機、中期型30機(開戦時50機)、後期型4機、夜目1機、鳥機用キャリー54機

獣王1機

飛行輸送艦6隻

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