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とある転移国家日本国の決断  作者:
大陸間戦争勃発
123/191

戦場のひよこ達 その5

何か、章の題名が物騒ですけど、まだドンパチは始まりませんよ。

 日本国が転移して来た星には、古代文明と呼ばれる高度文明が栄えていた。人の形をしながら、エルフを超える魔力を保有する彼等は地上に一大文明を築き上げ、神竜とも対等に渡り合っていたという・・・

 現在、古代文明の遺跡を如何に掌握し、如何に技術を解析できるかが国力を左右する時代は終わりを向かえようとしていた。地上に存在する遺跡はほぼ発掘され、新しい発見が激減していたからである。世界各国が遺跡の発掘よりも内政を優先している中、日本国は宇宙空間に存在する遺跡を次々に掌握していた。


「先日稼働した大陸の地上中継拠点ですが、問題なく動いています。」


「慎重にな、現地人に気付かれたら厄介だ。」


 防衛省のサイバー防衛隊は、掌握した古代文明の衛星からパンガイア大陸の古代遺跡に侵入し、施設自体を密かに乗っ取ることに成功する。


「今までの通信パターンと同じにしています。現地の技術レベルでは見破ることはできないでしょう。」


 稼働している遺跡は定期的に情報を月へ送っているため、日本側が使ったところでいつも通りの動作をしているだけであり、通信技術で後れる現地文明では違和感すら持たないだろう。


「どうしたんですか? 」


「あぁ、すまん。霧が晴れていないから実感がわかないが、俺達はこんな世界に来ちまったんだな。」


 部下の言葉に、衛星画像を見入っている上司が答える。


「そうですね。霧が晴れたら、ロシアや中国が領空侵犯してきたりして・・・」


 今までの事が全部夢だったら、どれだけ良いだろう? 元居た世界なら、大戦争のリスクはほぼ無かった。

 夜の闇に包まれている黒霧内では、自国だけが電気の明かりによって輝いている。

「何と進んだ文明だ」「夜の闇が感じられない!」日本国を訪れた黒霧内の人々は、等しく驚いていた。文明の進んでいるジアゾ人ですら蜀や倭国人と同じ反応を示していたのだが、闇の中に輝く日本国を見るサイバー防衛隊の2人は、全盛期の半分も明かりの無い自国に、虚しさを感じるだけだった。



瘴気内国家、日本国、茨城県小美玉市、航空自衛隊百里基地


 パンガイア連合との戦争準備を加速させている航空自衛隊は、隊員育成を大規模に行っていた。人員を増強し、日本各地の基地で育成が行われていたものの、早々に訓練場所が全く足りないという状態になり、現在は蜀で現地軍の育成も兼ねて新人達の訓練が行われている。そして、空きスペースのできた日本国内の基地では、一味違った新人の教育が行われていた。


「今日だけで3度の撃墜。どうだね、もう彼等には勝てないだろう? 」


 太平洋上での戦闘訓練を終えたF-2へ無線が入る。


「只の訓練だ、実戦じゃない。」


 無人戦闘機教育隊のF-2パイロット、浅井は技研の無人機開発部へ淡白に答える。訓練を終えたF-2AとF-15GJの訓練部隊は距離を保ちながら基地へと戻って行った。




「もう勝てねえよ。」


 基地に戻った浅井の前に、同じく無人戦闘機教育隊の岡田が現れる。彼も浅井と同じく新人達に手も足も出ずに落とされていた。

 浅井が新人の教育担当となったのは半年前、空自が無人戦闘機の機体開発を終え、人工知能に戦闘経験を積ませる過程で抜擢されていた。当初、全国へ配備された無人戦闘機F-15GJは編隊飛行も挙動不審な操縦が目立ち、中には早々に海へ突っ込む機体もあった。だが、自衛隊の配備する有人戦闘機と様々な環境下で訓練を行い、各地の基地で得られたデータを全機体で共有することによって短期間でベテランパイロットを凌ぐまでに成長していた。


「俺達、もういらないんじゃないか? 」


「時代に追いついただけだ。」


  無人戦闘機に負け続けた挙句、無人機同士の戦闘を見せつけられた岡田が意気消沈している中、無人戦闘機にトラウマをもつ浅井は淡々と感想を述べる。

 転移前、日本国の周辺では無人戦闘機の配備が進んでいた。最初は無人機技術で先行する中国軍が導入し、配備当時は玩具の様な性能に脅威には思われなかったが、いつの間にか空戦に特化した機体が開発される。この時点で有人機が無人機にドックファイトを挑むのは無謀と言われ始めるのだが、日本は無人戦闘機開発には乗り出さなかった。

 国が予算を理由に兵器開発を行わなかった結果、当時新人だった浅井は領空侵犯をした無人機に対処しなければならず、中国軍の無人戦闘機に後ろを取られ続けたことで、身をもって恐ろしさを体験していたのだった。勿論、領空侵犯をメインで対処していたF-15乗りは浅井以上に苦渋を飲まされ続けていた。


 無人戦闘機に体力と言う概念はなく、Gによる判断力低下も操作ミスも無い。何より恐怖を感じない。燃料切れになるまで動き続け、電気が供給され続ければ寝る必要も無く、アップデートで更に強くなる・・・人間には勝てる要素が無いのだ。

 どう考えてもF-15GJに戦いを挑むのは無謀である。だが、無敵の戦闘マシーンとなった無人機を相手に、次々と撃墜判定を出す有人戦闘機があった。F-35Aである。

 ステルスという特徴を活かして無人機の認識外から不意打ちを行い、一撃離脱を行うことで電子の怪物を次々に仕留めていたのだった。


 多くの隊員は「流石ステルス」と考えていたが、ステルス性能だけでF-35が無人機に勝利したわけではない。ライトニングは国際共同開発だが、米国のノウハウや思想が凝縮された機体でもある。1980年から90年代、世界最強となった米軍はある考えに行き着く・・・

「戦争に勝つには早く飛べる戦闘機や深く潜れる潜水艦、硬い戦車を作る事ではない。情報を制することが戦争の勝利につながる。」というもので、情報管理に重きを置き、情報を得る、伝える、攻撃を的確に命中させるために兵器のハイテク化が始まった。2度の世界大戦によって地球の兵器はあらゆる分野で急激な発展を遂げたが、冷戦終結から不正規戦が世界の主戦闘となり、やがて大国同士の摩擦が再燃する過程で急激に伸びたのは、正に情報戦能力であった。

 航空自衛隊は次期戦闘機を選定する過程で多くの機種をピックアップしていた。F-22A、FA-18、F-15FX、欧州からラファールやタイフーンと言った機体まで出ていたが、情報管理において飛びぬけた性能を持つF-35が選ばれたのは必然だったのかもしれない。未だ完成していないプログラムが完成し、本来の性能を出せるようになれば、恐らく地球最強の戦闘機である。

 黒霧が発生しない歴史を歩む世界で、次期戦闘機を非ステルス機や欧州機を選定していた場合、日本の空に大穴が開いていただろう。


「気付いたか? あいつらは最短の動きしかしないが、タイミングを少しでも乱されると、隊を一定まで整える癖がある。」


「おいおい、いまさら何をしても勝てはしないぞ。」


 浅井の指摘に岡田は呆れながら答える。無人戦闘機は戦闘機動で極僅かに訪れる攻撃チャンスを逃さないように設計されているので、連携攻撃を重視されていた。


「まだまだ教えがいがあるってことだ。奴等はもっと強くなるぞ。」


「おい・・・」


 どの様な意図があるのか岡田には分からないが、浅井は極まれに見せる笑みを浮かべながら、頼もしい教え子の元へ向かっていった。



F-15GJ

 日本国が黒霧に囲まれる前、余った米国債で購入したF-15EXをベースに開発した劣化コピーである。ごく短期間でコピー機が完成したのは、長年F-15を運用していたからであり、旧式化した機体を共同開発によって無人偵察機RF-15に改造し、黒霧の観測にあてていたことが無人戦闘機開発の土台となっていた。その後、RF-15は南海大島に実戦投入され、無人戦闘機開発の貴重なデータを入手することとなる。

 コピーとは言え、戦闘機開発には10年以上かかる所だが、資金と人材を集中投入することで期間を短縮していた。初期生産の機体はテスト色の強いものだが、中期は機体不具合を抱えながらも量産が開始され、不具合の解消された後期型はパイロットスペースも削除された量産特化型となる。

 F-15GJは敵航空戦力と真っ向から戦う事が想定されている他、神機という明確な攻撃目標が設定されていた。「圧倒的な物量と死を恐れぬ攻撃で強敵を倒す」人間の隊員には出せない任務が無人機隊の主任務である。

 機体の開発陣や自衛隊員などからは、久しぶりの国産戦闘機に多くの期待が寄せられ、人工知能が搭載されている事で仲間意識も生まれつつあった。しかし、最前線で敵主力と超兵器を相手するF-15GJは多くの損失が見込まれ、戦時中でも生産した機体を工場から戦場へ投入することを想定し、「新兵器は仲間ではなく使い捨ての兵器」と認識してもらえるように独特な名前が付けられる。


F-15GJ「グールイーグル」は日本の領空にて、世界最強の戦闘部隊「スペルアンカー戦闘航空隊」との死闘を繰り広げることとなる・・・

劣化コピー機と言う事でゾンビも考えていたのですが、グールの方が強そうなのでグールイーグルになりました。どんな損害を出しても蘇る戦闘機部隊、グール、元ネタは想像の通りです。


途中にでてきた

「戦争に勝つには早く飛べる戦闘機や深く潜れる潜水艦、硬い戦車を作る事ではない。情報を制することが戦争の勝利につながる。」

ですが、米軍の統合参謀本部副議長ウィリアムオーウェンスが退役後にインタビューで語っていた事を、ほぼそのまま書きました。ゲームとかの影響で性能が全てだと錯覚していた自分は、衝撃のあまり今も忘れずに覚えています。

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