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とある転移国家日本国の決断  作者:
ある日本人の遭難事件
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観艦式 その2の裏話

観艦式の始まる数時間前・・・

 訓練を終えた各国の艦隊は夜の準備に取り掛かっていた。メイン会場となるハデスでは甲板上を忙しなく人が動き回っている一方、部外者の立ち入りを遮断しているアルテミスでは穏やかな時が流れていた。


「超兵器が、まるで祭り会場だな。」

「アルテミスも1度でいいから会場にならんものかな。」

「無理だろ、平和ボケするのは神竜を滅ぼしてからだ。」


 ハデスと違いアルテミスは秘匿兵器扱いであり、解放されたとしても外国の高官が極一部の区画に立ち入りを許されるだけである。海軍の式典に引っ張りだこのハデスとは真逆の存在だった。


「ところで、ハデスの艦長はどうだった? 」

「噂通りの美人だぜ。流石は戦エルフだ、モヤシとは肉付が全然違う。」

「撮影班には話しておいたから、写真は全員にいきわたるぜ。」


 乗員が男性で統一されているアルテミスでは、女性が乗艦すること自体一大イベントであり、挨拶に来たフィロス艦長は注目の的となっていた。


「でもよ、オティーク艦長自ら会うなんて、初めてじゃないか? 」

「お前等、詮索はそこまでにしろ。フィロス艦長はオティーク艦長の恩人だ。」


 水兵達の雑談は長寿種の幹部が登場したことでお開きになる。



 フィロスはアルテミスで唯一の応接室に案内されていた。部屋は明るく、至る所が植物で溢れており、船の中とは思えない空間が広がっている。


「オティーク艦長、元気そうね。」


 フィロスは出されたハーブティーを楽しみながら誰もいない空間に向かって喋りかけると、部屋に広がるツタが絡み合って人型を形成してゆく。


「フィロス様こそ・・・。お待ちしておりました。」


 フィロスは人型の植物をオティーク艦長と呼ぶが、それが彼の本体ではない。オティーク艦長は超兵器艦アルテミスの中枢に根を張り、取り外されたセントラルAⅠの替わりに艦を動かす寄生植物群である。生物学上は魔族に分類されている。


「ハーブが一段と美味くなってるわよ。」

「光栄です。」


 2人の出会いは良いものではなかった・・・。

 神竜によって生み出され、仲間の血を吸って成長したオティークをリュクスとゼーリブは生かすつもりはなく、土に還そうとした瞬間にフィロスが保護していた。

 オティークとフィロスはリュクスとゼーリブに認められるために紆余曲折を経て、初対面時からしたら今の状況は考えられない程好転している。自分の判断が間違いではないと確信しているフィロスは、養子にあたるオティークの成長を今日も実感するのであった。



 今夜行われるアーノルド国王、セラフィム・ガルマンの宣言は、実質的なジアゾ合衆国との和平交渉打ち切りであり、国王の宣言が行われれば現在の冷戦状態が本物の戦争となる事を意味している。世界が後戻り出来るのは、今日が最後のチャンスとなるのだが、既に世界の意志は決まっており、セラフィム国王ですら世界の流れは変えられないところまで来てしまっていた。


「世界を2分割する文明は、いずれ雌雄を決しなければならない。ジアゾとの決戦は避けようのない運命だったのです。」


「百年戦争の過ちを、妾が繰り返してしまうとはな。」


 セラフィム・ガルマン国王はハデスの専用回線を使用してオドレメジャーのアレクサンドラ女王とプライベートで会話していた。両者は古代文明の中でも最高峰の通信装置を使用しているため、動画にもかかわらずラグは無い。

 両ノルド国家が百年戦争で滅びる直前に戦争を終結に導いた2つの王家は、世界平和の名の下に同じ歴史を歩もうとしている。だが、この決断が正しいことかどうかは2人の指導者にとっては重要ではない。指導者たる者は決断を下して人々を導いていく事が仕事であり、是非は今後の歴史で判明することになる。これは、議会が国を動かしている現在でも言えることで、情勢を判断できて大きな力を持つ2人の重要な仕事だった。


「ジアゾと死者の国は短期間で降さなければならん。ジアゾへは我が国の虫王を派遣する。ん? 解せない顔をしているようだが、どうした。」


「戦争の早期終結は重要ですが、急ぎすぎれば足元をすくわれるのでは? 」


 セラフィムはアレクサンドラの考えが読めていない。今まで女王は情報収集と高い分析力で武力に頼らず物事を解決、或いは内密に治めてきた。そんな女王が軍の主戦派も驚きの作戦を実行しようとしているのは不自然でしかないのだ。


「不確定情報に対する備えじゃ。我が国の情報機関と帝大の情報を分析している機関が、妾に戦争自体を止めるように忠告して来た。」


「一体何があったのですか。」


 女王お抱えの情報分析機関。世界最高の分析力を持つと認識しているセラフィムは、自国の情報機関では到底得られない情報を訪ねる。


「ジアゾが開発中の破滅兵器じゃ。」


 アレクサンドラは確定していない情報をセラフィムに伝えていく・・・

 今から10年前、スーノルド帝国大学に物理学者であるジアゾ人教授がいた。彼は科学によって自然界を解き明かそうと研究を続け、錬金術が発展している世界であっても質量とエネルギーに関する仮説を立てた。


エネルギー=質量×光速度の2乗


 科学が発展途上の帝大では、あくまで仮説の式をどう扱うかで結論が出ず、そのジアゾ人教授も帰国してしまったため放置されていた。だが、最近になって諜報機関がジアゾ軍の新型爆弾開発情報を入手した際に同じ式を確認できたため、国と帝大による調査が行われていた。


「ジアゾ人は地上に太陽を作る気でいるようじゃ。こんな荒唐無稽な話し、一体誰が信じるのだ? 」


 アレクサンドラは呆れたような口調で喋るが、表情には悲壮感が漂っている。


「完成前に勝負をつける、という事ですか・・・」


 アレクサンドラが焦っている理由をセラフィムはやっと理解した。だが、


「もう、手遅れかもしれん・・・死者の国じゃよ。」


「 !! 最悪だ。」


 セラフィムの頭の中で全てがつながる。預言にある世界を焼き尽くす災厄、ジアゾを超える科学文明の登場。

 死者の国に関してはセラフィムの前でアレクサンドラが1度考察を行っていた。瘴気内において、圧倒的に進んだ武力を持ちながら外交によって各国をまとめる理由は何だ? 我々と同じ破滅戦争を経験したからではないのか? 死者の国は星を焼き尽くしかねない破滅兵器が実戦使用された世界から来た文明だからでは? 戦争が行き着く先にある「虚無」を知っているからこその平和国家・・・


 10年・・・10年前にこの考えに行き着いていればやりようはあった。だが、最後の神竜討伐、ジアゾと瘴気内国家を降した後の世界政府立ち上げによる恒久平和、甘い誘惑がアレクサンドラの思考を狂わせていた。

 時間は戻せないし、今から国家の意思を変えることなど不可能。女王に残された手段は限りなく少なくなってしまったのだ。


「そう焦るでない。勝てば良いのだ。」


 そう、確定情報ではないのだ。この予測は飽くまでも最悪のもの、そうそう当たるものではない。瘴気内国家は瘴気外の情報を得られない。死者の国が連合軍の迎撃準備を始めるのは瘴気が晴れてからとなるし、ジアゾ合衆国が死者の国と接触する頃には上陸戦は終了して雌雄は決している。

 何も焦る事はない。

 外交の布石を打ちそびれたからと言って、取り返せない失敗はそうそうないのだ。その分、軍の負担が増えることになるが致し方あるまい。

 女王は失敗を引きずらず、考えを変えて柔軟に対応していく。しかし、現実は彼女の考える最悪の状況より遥かに悪いものであった。



ハデス艦内に設けられた、とある王族待機室

 ヤンが戦争の真実を話してから、室内は微妙な雰囲気になっていた。


「ご主人! そろそろ私の紹介をしてはいかがでしょうか。」


 耐えかねたユリエが話そうとした時、何処からともなく言葉が聞こえてくる。ヤンの肩にひょっこり現れた物体をヤンは慌てて隠したが、見てしまったものは仕方がない。


「ヤン、何それ? 」

「・・、使い魔だよ。」


 妙な間はあったが、ヤンは答える。彼は最近使い魔を従えるようになったが、その事をユリエに話すか未だに答えが出ていなかった。今日は使い魔に姿を見せるなと言い聞かせていたが、「どうせ直ぐにバレる」と考えていた使い魔が自分の判断で出てきてしまった。


「お初にお目にかかります。私はヤン様の使い魔タロスでございます。」


 ユリエはタロスに簡単な自己紹介を行い、使い魔をまじまじと見つめる。


「な、何かな姫。」

「喋る使い魔なんて初めて見た。でも・・・何故、亀? 」


 フクロウとかワシのような猛禽類とかだったら納得いくのだが、世界に冠たるアレクサンドラ家の王子の使い魔が亀? ユリエは腑に落ちない。ただ、ヤンが使い魔を隠そうとしたのは頷ける。


「そ、それは僕にも分からない。ハハハ・・・」


 ヤンは苦笑いしながら答えるが、そもそもタロスは亀ではなく、おぞましい見た目の怪物であることなどユリエには話せなかった。


 ユリエはタロスを考察する。アレクサンドラ家の使い魔だけあって喋るだけでもすごいけど、この使い魔は何ができるのだろうか? 城にある文献には使い魔の空飛ぶ亀に乗って移動する古の一族が記載されていたけど、タロスには無理そうだ。


「タロスは何ができるの? 」

「護衛、治療、あらゆる分野の助言、チェスの相手などです。」

「あら、頼もしいじゃない。」


 王族だけあってユリエは触らずともタロスの魔力回路を覗く事ができ、タロスの話が偽りでない事を確認する。


 ヤンにはタロスを秘密にする理由があったが、後に今日のことを思い返してみると、沈んだ場を盛り上げるためにタロスなりの考えだったのだろう。元気をなくしていた姫も笑顔を取り戻したし、タロスを持ち込んで正解だった。



 アレクサンドラ家は謎に満ちた一族であり、その理由が魔族であると知る者は世界でも一握りしかいない。

 今の自分は人間と遜色ない体だが、いずれ使い魔と一体化して人間とは呼ばれない存在になる。その時、姫は自分を受け入れてくれるだろうか? 


 何時かは告白しなければならないが、ヤンはユリエの反応が恐ろしかった。結局、ヤンは隠し事を瘴気内へ侵攻する前に打ち明けられず、2人に悲劇が訪れることとなる。

次回から新章が始まります

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