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とある転移国家日本国の決断  作者:
ある日本人の遭難事件
121/191

観艦式 その2

アーノルド国北西部、静海


王国歴508年、5年に1度行われる観艦式が今年も盛大に開催されていた。今回の観艦式には2つの見所が用意されている事もあって、海軍関係者だけでなく、世界から大きな注目を集めている。

 見所の1つは魔虫戦役で活躍した艦艇であり、キレナ国海軍の総旗艦「南風」とラッド王国海軍第1艦隊旗艦「ガイガー」率いる艦隊の合同演習である。「水上艦の出番はない」と言われた魔虫戦役で壮絶な戦闘を戦い抜いた両国の艦隊は、危ぶまれていた国家間の関係を一気に改善するきっかけとなったことから、注目を浴びていた。


戦艦「南風」


 全長222m、全幅71mの標準的な双胴戦艦であり、最大速力25ノット。武装は26cm連装クリードキャノン前部4基、後部2基、連装クリードライフル4基、単装クリードライフル6基。古代兵器艦とリンクが可能で、艦隊の指揮能力を大幅に向上させている。


戦艦「ガイガー」


 ガイガーも南風同様、全長222m、全幅71mの標準的な双胴戦艦であるが、これは2隻とも同じ造船メーカー「ホスマリンユナイテッド」製の実質的な姉妹艦だからであり、両国の発注と生産が被ってしまったが故の偶然である。しかし、ガイガーの武装はジアゾ製55口径203㎜連装砲前部4基、後部2基、副砲は38口径120㎜単装高角砲8基、37㎜連装対空砲8基の科学兵器を搭載しており、兵装に魔導機関の出力を割かず、電力に変換することで科学兵器のレーダーと火気管制システムを作動させているのが特徴である。現在は魔虫戦役で破損したレーダーの替えがジアゾから輸入できない状態となっているため、見た目だけ直しているのだが、独自開発の科学レーダーが間もなく完成する予定となっている。



「キレナの変わりようは凄いな。」


「元々、国内の不満を隣国との緊張状態を維持する事でかわしていた国だ。ラッドに救われて、国民も目が覚めたのだろう。」


 キレナ艦隊とラッド艦隊を遠くから眺める先進国の関係者は、魔虫戦役で変わったキレナ国を簡単に分析していた。ありもしない敵国を作り上げ、国民に信じ込ませたキレナ政府は、今になって隣国との友好を大々的にアピールしている。今までのやり方が通用しなくなって方針転換したのは良いのだが、これから上手くいくかはキレナ国次第であった。



 観艦式最大の見所は何時も「ハデス」だが、今回はスーノルド海軍から超兵器艦「アルテミス」が飛び入り参加していた。超兵器艦が2隻並ぶ姿は壮観だが、2隻が同じ場所にいること自体異常事態であるため各国関係者を驚愕させる。


「スーノルド方面の守りは大丈夫なのか? こんな時に神竜が攻めてきたら。」


「本国に確認したが、神機を1機派遣したそうだ。安全保障に穴はない。」


「そうか・・・だが、超兵器の動きがこれだけ慌ただしいとなると、神竜討伐の噂が真実味を帯びてくるな。」


「あぁ、ジアゾ戦ばかりに目を捕らわれていると、とんでもないことになるぞ。」


 各国は2大国から正式発表の無い「ジアゾ戦後」がどうなるのか情報を収集しており、各国の関係者が集まる観艦式で情報交換を活発に行っていた。この場で他国に後れをとってしまえば、自国の国家運営にすら悪影響を与えかねないのである。



 合同訓練を終えたハデス艦内では、夜に行われる国王の演説準備が進められていた。

 艦長のフィロスは副官を連れて艦内各所の見回りを行いつつ警備状況を確認していたが、見知った顔に出会う。


「あら、首都防衛隊がこんな所で何しているの? 」


「ん? 無論、警備です。」


 リュクスはぶっきらぼうに返事を返す。


「立ち入り禁止区画の警備は私の管轄だけど。」


「暗殺教団の動きが活性化しています。奴等はどんな所にも入り込んで来るのは、フィロス艦長も知っているのでは? 」


 今夜行われる国王の演説は、ジアゾへの宣戦布告を前に世界へ協力を求める重要なものであり、王族の護衛を任されているリュクスは暗殺教団を警戒していた。


「奴らの暗殺対象には、艦長も含まれているのですよ。」


「それは、貴方も同じでは? お互い、気をつけていきましょう。」


 お互いに部下と他人の目がある所では余所余所しい会話となるが、付き合いの長い2人にはこれでも十分要件は伝わるのだった。



 今回の観艦式は王族や貴族などのVIPを乗せて静海を移動するだけの遊覧に近いものであり、予め大まかな準備が済んでいたりする。各々が準備に取り掛かる中、第4ランチャーに所属するダニエルは最後の仕上げを終わらせていた。


「ふぅ、これで良し。」


 ダニエルはどんな雑用であろうと、自身の仕事に誇りを持って取り組んでいる。王族が同じ船に乗っているというだけで、使命感がみなぎってくるのだ。そう、王族に仕える事こそ、至上の喜び・・・

 今日は敬愛するユリエ姫の姿を肉眼で見ることができた。モニター越しではない生を見ることができたのは、何という幸運だろう。


「昔のユリエ様が嘘のようだ・・・」


 ダニエルは初めてユリエ姫を見た時を思い出す。今でこそ丸くなったユリエだが、幼少期の彼女は全く違っていた。子供でありながら他者を見下す目は、まごうことなきガルマンの血族であり、一瞬にしてダニエルを虜にした。


「女性を変えるのは、何時の時代も変わらないな。」


 ガルマン家は元々奴隷で財を成した一族であり、その血筋は今も受け継がれている。冷徹で容赦のない彼女が変わったのは、スーノルド国のヤン王子に出会ってからだ。見下していたジアゾ人のマンノールとも打ち解けられたのは奇跡と言う他ない。

 何故、一兵士でしかないダニエルが王族のプライベートを知っているのかと言うと、彼が隠れ王族オタクだからである。ダニエルのような人物は意外に多く、王城内のメイド達や首都防衛隊内にも紛れ込んでいた。


「それにしても大きくなられた。88のDといったところか・・・」


 ダニエルは特にユリエに対して敬愛と言う言葉では表せない感情を抱く危険人物だった。



ハデス艦内に設けられた、とある王族待機室


 ユリエ姫の騎士となったワールウィンドウは、ユリエ姫とヤン王子が休憩している部屋の前で神機パイロット兼ヤン王子専属護衛のウェラーと対峙していた。


「これ以上近寄るなとは、どういう事だ。」


「言葉の通りだ。」


 ユリエの騎士として全身全霊で護衛についているワールウィンドウと「流行の英雄が王族の騎士になっただけ」と考えているウェラーは、静かに火花を散らしていた。2人の周囲にいる者達にとっては冷や汗ものである。


「狼の獣人でありながら犬の匂いがする貴殿は信用できんのだよ。」


 ウェラーはワールウィンドウの闇の部分を多少は知っていた故に、彼にきつく当たるが、同時に「これほどの者」が暗部の手先となっている事に疑問を持ち、様子を見ていた。


「ウェラー殿がどの様な噂を聞いたか存じ上げませんが、自分は身命を賭してユリエ様を守る。この事だけは信じていただきたい。」


 ワールウィンドウは魔虫戦役で負傷して以来、更に体を強化して、今では体重130㎏を超える鋼の肉体となっていた。だが、目の前に立つウェラーは巨大な岩のような威圧感を放つ強者だった。匂いによって、彼が心から王族に忠誠を誓っている事は確認できたが、匂いの奥深くに未知の匂いがあり、未だにウェラーと言う人物を掴めないでいた。


「愚かなり、姫の騎士たるものは主を守り抜いた上で生き残り、長年に渡って支え続けるものだ。」


「くっ! 」



 外で護衛の2人が火花を散らしている時、ユリエとヤンは久しぶりの2人だけの会話に盛り上がっていた。


「そう! やっと1人で料理が作れるようになったの。今度はヤンに振舞えるわよ~、楽しみにしててね。」


 ユリエはソファーに座るヤンの前に立つと、胸を張る。公務では決して見せることのないポーズから考えても、料理を作るユリエの方が楽しみにしている感じである。


「凄いじゃないか、もう料理をマスターしたの? 」


 ヤンは悟られないよう無難に答えるが、内心は結構ドキドキしていた。彼女は5年前より成長し、女性的な部分が更に大きくなっていたからである。読書好きの引きこもり王子であるヤンだが、年頃の男子相応の反応だった。


「料理、マンノールにも食べてほしかったのに・・・」


 盛り上がる会話だったが、唐突にユリエがマンノールの事に触れる。2人の会話が弾んでいたのは、本来いるはずの人物がいない事を思い出さないためでもあった。


「仕方ないよ、僕たちじゃ戦争を止められない。それどころか、母上でも・・・」


「マンノールは生き残るわ! きっと、また会える。」


 前向きなユリエにヤンは何も言えなくなる。ジアゾ戦に向けて、母国が、世界がどんな準備を進めているか知っているヤンは、友人の生存に期待は持てなかった。


「でも、ジアゾとの戦争が終われば戦争の無い世界になる。私達が戦争に行く理由はもう無くなるわね。」


 暗い話を振ってしまったユリエは明るい話題に移ろうとするが、ユリエの話を聞いたヤンは真剣な表情となる。


「姫・・・まさか、ジアゾ戦後を聞いていないの? 」


「えっ? 」


 ユリエの反応を見たヤンは確信し、ガルマン家に対して強い苛立ちを覚える。そして、ユリエにジアゾ戦から始まる新秩序確立戦争の全容を話すのだった。



「ヴィクターは平和を好む神竜のはずじゃ」


「そんなの関係ないよ。ノルド人は神竜を駆逐するまで止まらない。」


「そんな! そんな事でマンノールは・・・」


 ジアゾ戦は神竜を討伐するための前哨戦など、ヤンの話でなければユリエは信じることができなかった。


「神竜討伐戦に参加する王族は僕たちだよ。姫は、先頭に立って瘴気内へ侵攻することになる。」


 更に、ヤンはアーノルド国主体で行われる瘴気内への侵攻戦において、参加する王族が自分達であることを伝える。


「国は瘴気内文明が神竜教に汚染されている事を理由に、全て滅ぼすつもりでいる。」


「 !! 」


「だけど、女神の預言で死者の国と呼ばれる強大な文明が転移している可能性が高いから、ジアゾ戦以上の激戦になるって・・・」


 ユリエは思考が追いつかなくなっていた。些細な理由で親友の国へ宣戦布告することも、敵でもない相手に自分が先頭を切って戦いを挑むことも、ヤン以外の周囲の人間がこの事を秘密にしていたことも、何もかも訳が分からなかった。いや、それは違う、自分は現実から目を背けていた。

 アーノルドの王族として生まれ、王族の教育を受けてきたユリエは、覚悟も出来ていたし、ある程度の予測もしていた。いくつかの予測の中でも最悪のものが現実になっただけである。


「姫、1度しか言わないからよく聞いて。」


 さっきまで真剣に喋っていたヤンがユリエに優しく語りかける。


「ジアゾに勝って最後の神竜を滅ぼしても、戦争は終わらない。僕は、こんな事で死ぬ気はないし、姫を死なせもしない。姫がピンチの時はスーノルド国軍総司令官として僕が助けに行く。だからっ」


 ユリエは手を上げてヤンの話を遮る。


「ありがとう。でも、心配はいらないわ。私は自分の責務を全うする。私には夢があるのっ! こんな事で私の人生が止まる事はないわ。」


 唐突に伝えられた事実に押しつぶされることなく、ユリエは立ち向かっていく決意をする。そんな彼女にヤンは安堵するのだが、この決意が虚勢であることはユリエ自身が1番よくわかっていた。


 夜、世界が注目する中、アーノルド国王セラフィム・ガルマンはジアゾ合衆国との交渉が暗礁に乗り上げたことを伝え、「全ての責任はジアゾにある」と強い口調で弾劾し、「聖戦」という単語を用いて全世界に協力を要請する。既に世界の意志は決定しており、ラッド王国など一部のジアゾ友好国家以外は、その日のうちに連合への参加を表明するのだった。




スーノルド国、超兵器艦「アルテミス」


 現在の人類が最初に運用を可能とした超兵器艦。武骨なハデスとは製造文明も思想も異なり、艦内各所に精緻な装飾が施されている等、一種の芸術作品と言っても良い艦である。全長300m、武装は連装トールキャノンを前部に2基、3連装粒子副砲を後部に1基、追尾光子弾ランチャー8基、近接防御兵器16基。防御機構としてレベル5防御スクリーンを展開可能だが、素で戦艦「大和」クラスの装甲を誇るハデスとは異なり、アルテミスの装甲は驚くほど薄い。防御スクリーンを海中に展開し、ブースト機能を使用することで最大速力90ノットを超える驚異の数値を叩き出せるが、危険なため天候と海が安定した条件下で数回しか出したことはない。

 アルテミスは「ガーディアン」と呼ばれる人工知能によって守られていたため、長年動かすことはできなかったが、クリードによって取り除かれて以降、動かすことができるようになる。しかし、後の調査でガーディアンによって艦の性能を最大限発揮していた事が判明し、現在は特殊能力を有する艦長が人工知能の替わりをすることで、ある程度の性能を引き出すことに成功している。

ダニエルには特殊能力が備わっているため「88のD」は正確です。この数値は女性キャラに設定されています。

Dのキャラは数値は異なりますがフィロス艦長と倭国人のギンコ、南海鼠人のカタリナが該当します。鼠人はAかBが大半なので、カタリナは規格外ですね。

Cはフタラとクチナ、赤羽利子と白石小百合など登場人物に1番多いです。

ちなみに、コクコはBです。

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