表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある転移国家日本国の決断  作者:
ある日本人の遭難事件
114/191

裏話「魔抜けな魔女」

魔女・・・災いをもたらす女妖術師。地球では悪魔と交わって特別な力を手にし、人畜に害をなす存在として広く知られている。

 日本が転移した世界は魔法が活発に使用されているため、当初は多くの魔女が存在すると考えられていた。だが、黒霧内に魔女は存在せず、極少数がパンガイア大陸でひっそりと身を潜めながら存在していることが判明する。

 地球同様、この世界でも魔女は災いをもたらす存在であり、国家や然るべき組織の許可が下りないにも拘らず、欲望のまま外法妖術、禁忌魔法を使用した者が魔女認定されていた。この世界での魔女は上位の犯罪者でもあり、一般には国際社会の敵という認識である。



南海大島、上空


 懐かしい風が吹く。一見穏やかに見える風景だが、肌に感じるのは人々の痛々しい残留意思。乱れた地脈によって森の中で、地の底で、、、上空からは何も見えないが、良からぬ者達を発生させていた。


「地脈は元に戻しました。どうか、鎮まりたまえ。」


 倭国への帰り道、フタラは荒れ果てた大地に祈りを捧げていた。彼女にできることは霊脈を元に戻し、祈る事だけ。倭国のトップでありながら、南海鼠人との戦争を止めることすらできなかった自分は、名ばかりの最高権力者である。


「フタラ様! フタラ様! 」


 西部南海大島を飛び発ったばかりで飛行が安定していないというのに、外では侍従が呼び続けている。フタラは自身の個室から外を眺めていたのだが、部屋の外があまりにも煩いので魔導鍵を開けて侍従だけ中へ入れることにした。


「クチナ、私は休んでいるの。」


「フタラ様! なぜ公の場であのようなことを・・・が、外交問題になったら大事です。」


「当初の目的に色を付けただけでしょう。あの日本人が不利益を受けないように、私は本国に報告しました。何も問題はありません。」


「何を仰るのですか! 今も本国から問い合わせが次から次へと・・・」


「そのような事、静京に戻ってからでもいいでしょう。」


 飛び発つ前、フタラは南海鼠人の孤児を受け入れている孤児院を電撃的に訪問したのだが、アポなしで訪れたせいか大きな問題になっているらしい。侍従のクチナ曰く、本国は国内だけでなく日本国への対応も必要とのことで、フタラに孤児院での事実確認と発言の意図が知りたいそうだ。


「フタラ様の発言は既に日本人職員から日本本土へ伝えられています。かの国からの問い合わせが何時来てもおかしくないのです。今回ばかりは、フタラ様が指示を出さなければ本国も返答しようがありません。」


「だって、鼠人の子が美味しそうだったから、つい。」


「つい、であんな事を・・・これでは、私達が未だに鼠人を食していると受け取られてしまいます! 」


 本国では妖怪に対して食人の根強い疑念が渦巻いており、南海大島では長年続いた戦争の原因であった。フタラの同族であるクチナは足をくねらせて苦悩のポーズをとる。


「クチナ、私決めたわ。」


「はい? 」


「これからは積極的に政治へ関与します。」


「えっ? えぇぇぇぇぇ! 」


 クチナは幼い頃からフタラに尽くしてきた。彼女にとってフタラは絶対の存在であり、妖怪とヒトとの激動の時代、大陸の先進国やジアゾ国の恫喝による変革でも変わらないフタラの生き方を、神聖なものと感じて仕えてきた。フタラとしてはドロドロとした醜い政争よりも、自身にしかない能力を活かした現在の仕事を続けた方が遣り甲斐もあるし、気が楽だからというのが変わらない生き方をしている最大の理由である。

 そんなフタラの一大決心にクチナは衝撃を受ける。


「いけません! そのような事をしたら、余計な仕事が増えるだけでなく命すらも狙われてしまいます。それに、(まつりごと)は専門の者達に任せなければ国が混乱するだけなのですよ。」


 フタラ様は一体、どうなされてしまったのだろうか? 今まで政を嫌ってすらいたフタラが、この様な事を言い出すとは思ってもいなかったクチナは全力で止めようとする。


「フタラ様は南海大島で熱に侵されてしまったのです。そうです! 静京に戻ってお休みをとられた方が・・・」


「流石はクチナ、西南海大島にかけられている術を見破ったのは貴方だけよ。」


「えっ?」


「ん?」


 フタラ様は私が何かを見破ったと仰ったが、何の事だろう?


「に、日本国は何をする気なのでしょうか。」


 一瞬微妙な空気が流れかけたが、クチナは長年の侍従経験を活かして会話を合わせる。


「日本国がどの程度関与しているかは分からない。でも、私達が来る前に日本本土へ戻るなんて、用心深い妖怪だわ。」


「私の能力では術の詳細が掴めません。事態は何処まで進行しているのでしょうか。」


 会話は上手く合わさった。真剣な表情で語るフタラを見て、クチナは真相を聞き出そうとする。


「西南海大島全域にかけられている術は、瘴気内に存在しない珍しいものよ。色魔の使う「魅了の術」が近いかしら? 」


 クチナ達は南海大島へ来てから体が熱を帯び、外を歩けばほのかに甘い香りがするという体調の変化があった。彼女は数世紀に渡って鼠人を食していない事から来る禁断症状の一種と考えていたのだが、フタラによって違和感の正体を知ることになる。


「魅了? そのような術、私達には・・・」


「倭国人には殆ど効果はないでしょう。でも、南海鼠人には大きな影響が出ているはずよ。貴女も現に、孤児院で見たでしょう。」


 フタラの言葉、孤児院での光景、日本国が何をしようとしているのか、クチナの中でだんだん形となっていく。


「日本国は南海鼠人全てを支配する気だとでも? そんなこと、できるわけが・・・」


「蜀から吹いてきた風に聞いたのだけど、あの国は森の精霊を無理やり配下にしたそうよ。魔力無しがどんな方法を使って精霊を配下にしたのか聞きたい? 」


 日本国は古代文明に迫る科学文明国。その国民は魔力回路すら持たない動く死者そのもの。高度な科学兵器を有しながらも国と国との戦争を極力避ける平和国家。クチナだけでなく、瘴気内国家の一般人評価はこの様な物である。

 フタラから語られる驚くべき事実によって、政治、外交に殆ど関与していないクチナは日本国の表面しか知らなかった事を後悔する。


「これは侵略、いえ、侵食ではないですか。まさか、フタラ様は日本国を止めるために! 」


 日本国の魔の手が倭国に伸びるのも時間の問題。外交の裏側を知ったクチナはフタラの政界関与に納得がいくのであった。


「そう、日本国をこのままにしておけば・・・南海鼠人全てを奪われてしまうわ! あってはならない事なの! 」


 うーん? 自分が思っている国家の危機とフタラの重大な関心事には大きな相違が生じている事をクチナは感じる。


「私が南海大島へ渡る口実は霊脈の調査以外にないわ。南海鼠人を愛でるためには、倭国と南海大島を自由に行き来できるよう政治を動かさなければならないの! 私の計画を知ったからには貴女にも手伝ってもらいますよ。」


「私は何時でもフタラ様に尽くします。」


 孤児院に着いた時からフタラの様子は変だった。当初は孤児に触れる予定で大いに楽しみにしていたのだが、大好物の鼠人を前に日本人教師達に止められ、フタラは欲求不満に陥っていた。


「国と国の取り決めならば、日本人教師の邪魔は入らない。もう鼠人の子達に逃げ道は無いわ。フフフ・・・」


「それではフタラ様が悪者ではないですか。」


「霊脈の維持ができればそれでいいのよ。それにしても、鼠人の子のあの表情! たまらないわ。」


 孤児達の反応を思い出して邪悪な笑みを浮かべるフタラにクチナは率直な感想を述べる。


「成功の暁には貴女にも南海鼠人の子を抱かせてあげますよ。」


「!? 本当ですか! 私、全身全霊で事に当たらせて頂きます。」


 国家の危機は回避するべき重要事項である。しかし、妖怪である彼女達は自らの欲望をできる限り優先するのであった。




日は遡る・・・


 救助された利子達は病院へ向け、車に揺られていた。


「利子、ごめん。」


「この恩は絶対返すよ。」


「恩なんて大げさな。もう気にしなくていいのに。」


 ユースとキド兄弟は利子に謝り続けていた。蠍に囲まれて利子に庇ってもらった事が兄弟には大きく応えていたのである。利子としては無事助かったので気にしていないのだが、恩は恩で返すという文化がある兄弟は、利子への恩をどう返すか悩んでいた。

 何度断ってもしつこく恩返しの方法を聞いてくる兄弟に利子は困っていたが、無難な解決策を思いつく。自分はそもそも南海大島の復興支援目的で来ていて、そこにはボランティアの精神がある。


「私はね、南海大島の復興支援で来てるんだよ。戦争が終わって大変な時に、少しでも力になれたらって思っているの。恩とかは関係ないんだよ。」


 利子は自分が南海大島へ来た理由の1つを話し、自分に恩を返す必要が無い事を伝える。


「でも、それでも恩を返したいと思うなら、君達が大きくなって日本が災害とかで大変な事になったら皆を助けに来て。」


 日本は転移前から災害の多い国であること、転移後も災害が多発する予想が出ている事を話し、将来日本で大災害が起これば助けに来て欲しいことを伝える。


「まかせとけ! 」「うん! 」


 利子から出された新しい恩返しの方法に兄弟は納得し、利子への質問攻めは終わるのであった。

 3人の会話は遭難中の出来事と、これからの事を話しているだけの何気ない会話である。しかし、赤羽利子は自身の能力が日本を出発した時よりも格段に向上していた事、知識不足によって力を制御できていない事を自覚できていなかった。


「・・・・」


 この時、利子と兄弟との間で「魔女との契約」が結ばれてしまう。その事を知る者は触手のみである・・・

久しぶりの裏話です!

章が始まる前「最終決戦に向けて最後のまったりとした、平和な話の章になります。」はい、嘘ですね。日本国がひたすらに戦力強化していく回でした。

 赤羽利子ですが、現状は無自覚魔女です。日本にいた時と違って魔抜けではないですが、間抜けには変わらないので盛大にやらかしてしまいました。彼女が南海大島に来たせいで、菊池の誤射以上にエグイ展開が待っています。彼女は大学で今回の契約を自覚して、終戦後に大急ぎで兄弟の所へ謝りに行きます。生きていればいいですね。

 今後の兄弟ですが、自衛隊の外人部隊として最前線で89式小銃と手榴弾で上陸部隊と戦う事になります。パンガイア側にはシュバ君と英雄ラーテ兄妹がいるのですが、まぁ何とかなるでしょう。


 フタラ様が久しぶりに登場です。侍従の名前も決まりましたし、彼女達にも働いてもらいましょう。

 今後の展開ですが、瘴気内国家が全力を出すには同心会が邪魔なので一掃する必要があります。同格のフタラにはアカギを始末してもらう予定です。コクコが何か策を練っていたような・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ