センジュウロウの考察 その2
センジュウロウを乗せた空飛ぶ畳は瘴気の上空を縫うように飛行する。瘴気は定位置に発生するものの、内部では分布や濃度が刻々と変化するため、行きのルートを帰りに使うことはできない。瘴気の切れ目を見つけ出し、触れることなく通過する技術は瘴気外には存在せず、地球の最新技術を用いても叶わなかった。
今、空飛ぶ畳を操縦しているのはチビである。小龍は遠方まで瘴気を見通せる能力を有しており、どんなに薄い瘴気も見逃さないため、瘴気周辺の飛行にはなくてはならない存在であった。また、小龍は倭国の固有種であり、倭国は瘴気が薄まれば外の世界に人を送り出せる唯一の国家となっている。
センジュウロウは畳の上で横になり、父島での情景を思い出す。話し合いが終了して食事を終え、センジュウロウは辺りを散策していた。ちょうど自衛隊員も食事の時間であったため、隊員がテントで食事をしているところを目にする。米、魚を味噌で煮込んだもの、生野菜、味噌汁、どれも自国と変わらないように見えたが魚がとても小さい。隊員は食事の最後に得体の知れない小さな白い粒を水で飲みほしていった。
「兵士に肉を食べさせなくて大丈夫なのか?」そう思ったセンジュウロウは夜に落合のもとを訪ね、疑問を伝える。2日間は回答をはぐらかされたが、3日目の夜にして落合は日本国の現状を話し始めた。
「もう薄々感じておられると思いますが、我が国は食糧難にあります。これは今に始まったことではなく、元いた世界自体が食糧危機に瀕していました。」
落合には事前に防衛省と外務省職員から食糧問題についてセンジュウロウに情報を出さないように伝えられていた。外交で自国の弱みを相手に握らせないためである。しかし、センジュウロウの突然の訪問と会場が本土で行えなかったため、カムフラージュができず、こちら側の食事に疑問をもたれてしまった。もう隠し通せないと感じた落合は話すことにした。
「足りない栄養素はサプリで補っています。センジュウロウ殿が見たあの白い錠剤です。それと、肉の代わりに豆を食べている・・・」
哀愁を漂わせる落合の言葉にセンジュウロウは疑問が浮かび、再び問う。
「落合殿、日本国は大量の半魚人に襲撃されていると知らされたが、日本人は半魚人を食さないのか? 」
「あいつら食えるのか!? 」
センジュウロウの爆弾発言に落合は驚愕し、疑問を疑問で返す。
「倭国では良く食卓にあがります。大陸沿岸でも食べられておりました。」
この情報はすぐに本土へ送られ、怪物の食用としての研究が大急ぎで進められることになる。そして、この星が地球環境と酷似しており、地球人はこの世界の人間が食べられるものなら、そのほとんどを消化し、栄養に変えることができると判明する。落合とセンジュウロウの何気ない会話によって、日本国の食糧事情は改善されるのであった。
畳は瘴気を抜け、センジュウロウの前に青い海と青い空が広がる。ここまで瘴気から離れれば安全である。
「チビよ、ご苦労であった。操縦をかわろう。後ろで休むがよい。」
センジュウロウがチビに話しかけると、チビは畳の後ろへ行き休み始める。
「また奇妙な国が転移してきたものだ。これから忙しくなるぞ・・・」
センジュウロウ達を乗せた空飛ぶ畳は無事に倭国へ帰還したのであった。
世界観が段々出てきたと思います。ストーリーを進めながら世界観を出すのは大変ですね。次回は日本側の考察か北海道です。