白石小百合の陰謀 その4
霊夢・・・神仏のお告げや霊的な作用により見た夢の事である。
私は薄暗い通路を進んでいた。石材を組み合わせて造られた通路は無機質で広く、一定間隔で魔法の松明が設置されている。中世の欧州に建つ城や要塞の中にいるような錯覚を覚えながら先を急ぐと、通路の先に知り合いが佇んでいた。
「小百合さん遅っそーい、私ずっと待っていたんだよ。」
知り合いは私を見るなり近づいてくるが、罠であることは察しがついている。私は問答無用でサブマシンガンを連射し、知り合いを蜂の巣にした。使用した弾は10㎜炸裂弾、目標の体内で弾頭が破裂し、極めて高い殺傷能力を有している。胴体に命中すれば肺や心臓等の重要臓器、大血管を大きく損傷させ、頭部に当たれば即死は免れない。
「あれ? もしかしてバレてた? 」
胸部を大きく損傷しているにも関わらず、どこから声を出しているのか? いらない疑問を抱きつつも私は攻撃の手を緩めはしない。
「アイスジャペリン! 」
中級氷魔法を彼女の後方から叩き込んで腹部を貫く。
「エクスプロージョン! 」
合わせ技で彼女を貫いている氷塊の中心に炸裂魔法を発現させた。爆炎と氷の水分が蒸発する蒸気で視界が悪くなるものの、彼女の位置は手に取るようにわかるのでサブマシンガンの弾を浴びせかける。一方的な攻撃であり、一見戦いになっていないように思えるが、これは彼女が本気で戦っていないからだ。
突如として発射された弾丸が空中で何かに当たって爆発しはじめるが、私は弾倉が空になるまで構わず撃ち続けた。
「無駄なんだなぁ、私には鉄砲も魔法も効かないよ。」
煙の中から現れた彼女は、人の形は保っているものの、体中に触手と目玉と凶悪な口が幾つもある魔物の姿となっていた。
「障壁なんて馬鹿の一つ覚えじゃなく、他の術は使えないの? 」
弾倉を交換しつつ彼女を少し挑発すると、地面と壁から攻撃の予兆が現れる。私は壁を突き破って向かってくる触手を銃で迎撃し、地面から現れた巨大な口を後ろに飛びのいて回避した。
「諦めなよ、小百合さんは力でも魔法でも私には勝てないんだから。」
「随分と言ってくれるじゃない・・・」
今までの攻撃に効果が無い事は十分に承知している。これは相手を油断させ、決定的な場面で強烈な一撃を叩き込むための初期手順だ。彼女には物理攻撃も魔法攻撃も殆ど効果はないが、組織と国の共同研究で弱点が判明していた。
「焼いてもいいけど、小百合さんは生で食べたほうが1番美味そう。」
彼女は私をどう食べるか悩んでいる。彼女は大妖怪でいえば中の上程度であり、初めて会った時から実力は数ランクアップしていた。並みのナギなら一目見た瞬間に逃げ出すだろうが、今の私には恐怖心以上の感情が存在する。「この獲物を倒せばどんな快感が得られるだろう? 」自分より強ければ強いほど達成感は大きい。何より・・・
「利子ごときが私を倒すですって? 」
どんなに実力が離れていたとしても、彼女には死んでも負ける気はなかった。
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朝、今までにないほど爽快な気分で私は目が覚める。こんなに気持ちいい朝を迎えたのは夢のおかげだが、内容は全て忘れてしまっていた。
「良く寝た。」
伸びをして布団から出ると太陽が真上でサンサンと輝いている・・・?。最近は罠作りに時間をかけすぎていたせいか、大幅な寝坊である。
「休みをとってて良かった・・・」
小百合は作業服に着替えると裏山へ向かうのであった。
日本国と倭国の中間海域、洋上1万m上空、倭国を飛び立った旅客機は日本を目指して飛行していた・・・
倭国には南海鼠人へ対処するために日本国が飛行場を建設し、戦後は民間機も利用できるように拡充が行われ、数は少ないが定期便が運航している。
ファーストクラスに乗るコクコは次から次に出てくる問題の対応に追われていた。直ぐに片付けなければならないものは、対日工作失敗の尻拭いである。失敗した工作は「すり替えと成りすまし」というもので、相手国の国民を工作員とすり替える倭国の常套手段である。コクコは「日本に対しては誠意ある対応をとれば欲しいものの大半は手に入り、すり替えは不要」と同心会に報告していたのだが、無視して何時もの対応をとってしまった者がいたようだ。
結果として、工作員とコクコが密かに作っていた日本国内の活動拠点の両方を失い、同国からは痛烈なクレームが来ていた。そして、命令を出した大妖怪はコクコに尻拭いをさせるという始末である。
「何でもかんでも私の命令ではないのだが・・・」
対日工作が全て自分の命令であると日本側は勘違いしているが、全てではない。日本側の勘違いは蜀からの情報をもとにしたものだが、コクコは本当に何もしておらず、証拠も全く出ないのでコクコ本人にはクレームだけで済んでいた。
数百年前、同じ方法で蜀の中枢に入り込み、好き勝手していた事を蜀はまだ根に持っているようで、蜀は何か起きる度にコクコの仕業として日本側に伝えていた・・・完全に身から出た錆である。
工作失敗の件に関しては既に解決までの道筋はできている。同心会には問題無い旨の報告はしてあり、日本側へは表向きに倭国の犯罪組織の仕業と報告して理解と協力を求めていた。裏の行動としては犯罪組織「同心会」の情報を日本側の極一部にリークし、オウマと共に同心会根絶の駒として使う予定である。
「これで当面は問題ない。」
コクコを狙うものは少なくない。倭国の実力者オウマはコクコの身辺を調査しており、蜀は事あるごとに命を狙ってくる。最近ではジアゾ合衆国に目を付けられ、日本国からも標的になりつつあった。だが、コクコはあらゆる組織の欲しがるものを持っている。コクコを狙う組織は互いに牽制し合い、実質的に手を出せない状況が生まれていた。
「局長、本国から重要通信が入りました。蜀が日本国へ、リン鉱山を無償供与したとのことです。規模は以前に我々が提供した鉱山の数倍とのこと。」
「そうですか、引き続き注視するようにしてください。」
重要通信と言う事で部下が報告に来たのだが、コクコにとってはどうでもいい事だった。
倭国が日本国と接触した初期の段階でコクコは日本国の利用価値と彼等が欲するものを見抜き、議会に働きかけて日本の機嫌取りとして倭国最西端の孤島を貸し出す許可を得ていた。
最西端の孤島は鳥等の糞が大量に堆積した天然のリン鉱山だが、本国から遠いため利用価値はそれ程高くない。しかし、日本国にとっては石油並みに必要な資源の1つだったため日本側は大変喜んだ。この様な件もあり、初対面に近い状態にもかかわらず日本国は倭国を友好国として捉え、コクコは日本側に太いパイプを作ることに成功する。そして、得られた新鮮な情報を腐らないうちに有効活用することで、倭国は瘴気内各国よりも外交で1歩も2歩も先を進んでいた。
蜀は日本国が必要とする物を持っているため日本側から働きかけることが多いが、これでは外交に最も必要な「情報」という資源を手に入れることはできない。今になって倭国に対抗して同じような事を始めたがもう遅い。コクコが最初に行った「初めに必要な物を提供する」これ以上のインパクトは無く、大した見返りを引き出せないのは明らかだった。
「日本国の調査が、また難しくなってしまいました・・・」
思い通りにいかない事が多くなったからか、最近は独り言が増えている。問題が幾つも積み重なっていることで最近は行なえていないが、コクコは独自に日本国内を調査していた。
日本国は不思議な国である。文献やお伽噺、言い伝えには神や仏、倭国に実在する妖怪の存在が記載されており、魔法の存在しない世界から来たにしては余りにも矛盾する国だった。
次の調査目標は伊勢神宮にあるとされる八咫鏡に絞っていたのだが、1回目は道中で日本政府に見つかって連れ戻され、2回目は身内の不祥事で調査どころではなくなっていた。
「日本国の最高権力者でも見ることが許されない神器とは、とても興味を惹かれます。是非この目で見てみたい・・・」
コクコは満を持して3度目の調査を行うのだが、当日になって日本国に大妖怪が見つかったとの報告があり、延期となるのだった。
あけましておめでとうございます
皆さんは良い初夢を見れましたか? 作者は新年から悪夢ばかり見ます。
そんなわけで新年初投稿は小百合の夢から始まります。この正夢は大学編の1コマだったりします。去年の秋頃から大学編の内容を考えていたので先行して出してみました。初登場の魔物化利子ですが、こんな感じです。
大学編の小百合VS利子はメインストーリーに関係ないので外伝に投稿します。しかし、何時に投稿できるのやら・・・
空自の主力としてF-15Xを基に開発が行われ、間もなく完成する戦闘機の名前ですが「F-15GJ」とします。Gとは何? という疑問は「戦場のひよこ達」で出しますので少々お待ちください。