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とある転移国家日本国の決断  作者:
ある日本人の遭難事件
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白石小百合の陰謀

南海大島西部の港町、グレートカーレ

 日本国による南海大島開発の橋頭保となっているグレートカーレは日増しに人口が増え、アパートだけではなく高層マンションや貸しビルも建ち始めていた。突貫工事によって整備された港には日本からだけでなく、蜀や倭国からも船が到着し小さな漁村は都市に変貌しつつあった。


「休みなのに偉いね。」

「いえ、仕事に必要なものなので・・・」


 白石小百合は父の忘れ物を届けに建設会社の事務所に来たのだが、そこに父の姿は無い。


「お邪魔しました。」

「お疲れ様。」


 用事を済ませた小百合は早々に事務所を後にする。

 


「流石にセキュリティがなってないわ。」小百合は小型の記憶媒体を手に持ちながら父の勤める会社の無防備さに呆れていた。彼女の目的は忘れ物を届けに行くことではなく、会社の持つデータの入手だった。そもそも、父の涼は忘れ物などしていない、小百合が適当な物を引き抜いて事務所へ行く口実に使っていただけだ。


「妖怪を無暗に殺傷できないなら、事故で死んでもらいましょう。」小百合が会社のパソコンからコピーしたものは南海大島の地形や地質データである。

 つまらない仕事ばかりしていた小百合にとって、悪巧みを考えるのは中々に楽しい事であり、彼女は繁華街になりつつある街の中心部を鼻歌交じりに自宅へ向かうのだった。



グレートカーレ中心部の喫茶店

 赤羽利子は国の担当職員の案内で、ある人物を紹介されていた。


「護衛担当の白石零です。」

「赤羽利子です。よろしくお願いします・・・あの、私に護衛なんて大げさじゃないですか? 」


 利子は自分に護衛がつくことに困惑するが、国としては貴重な海外留学の候補生が現段階で怪我されては困るのだった。また、都市部以外の辺境では魔物の襲撃が相次いでいることも、急に護衛を付けることになった理由の一つでもある。


「零君は優秀な警備員だから心配はいらないよ。何より若い、おじさんみたいな護衛では心配だろう? 」


 零の上司は若さを強調するが、父や親戚の男性以外の異性と縁の無かった利子にとっては刺激の強いものがあった。


「何も24時間護衛がつくわけじゃない。怪物が多く出る田舎に行く時についていくだけですから、安心してください。」


 利子の雰囲気を察した国の職員は捕捉した。


「そうですか、良かった・・・」


「ずっと見られていたら何時触手がバレるか分からないもんね。」職員の心配りとは異なり、利子の心配は触手だった。零に関しては頼りになる好青年といった感じであり、中々の好印象である。


「今日1日は体験護衛としてアパートに零を配置します。何かあったら、こき使ってやってください。」

「では、後は頼みます。」


 零の上司と国の職員は2人を残して他の仕事に戻る。


「さて、改めて自己紹介します。白石零と申します、もう気付いているかと思うのですが、白石小百合の兄です。」

「あっ、やっぱり。雰囲気が似ていたので、もしかしてと思ってました。」

「そうですか・・・」


 零は名字でなく雰囲気が似ていると言ったことに緊張する。一般人を装って殺気を極力出さないでいたにもかかわらず、小百合に似ていると言われたのである。相手が妖怪だと判明している今は警戒するに越したことはない、零は様々な会話から利子の情報を聞き出そうとする・・・


 小百合は賑わいを見せる街の中心部を歩いていく。鼠人の店、妖怪の店、そして日本の各種店舗、特に日本の店は多く、本土でも見なくなってしまった飲食チェーン店や量販店が賑わいを見せていた。


「どんなに国が落ちぶれても、あるところにはある、か・・・」


 国は限りある資源と人を海外に派遣して周辺国の開発に力を入れている。当然、労働者は派遣先の慣れない環境下でキツイ仕事をしなければならないので、労働者の疲労や不満を解消するための施設が必要になる。国は食料や生活物資、娯楽品を集中して投入し、海外派遣労働者には特別な配給券を配ることで本土よりも優遇された環境を作り出していた。また、人が多く集まって活気が生まれることで企業も進出しやすい環境ができていた。


「それにしても、日増しに店が増えていくわね。ハンバーガーか、配給券が出たら後で食べに行こう。あれは、〇亀製麺! 実在していたとは。喫茶店も増えて・・・ん? 」



 零は護衛に必要な情報として利子に生活習慣などを聞いていく。零には鴉天狗と名も無き組織から利子の情報が伝わっており、2つの組織からは些細な情報でも収集して報告が求められていた。


「赤羽さんは、ここに来る前は余り活動的な性格ではなかったとありますが。」

「そうなんですよ! 日本を離れてから調子がいいというか、何と言うかパワースポットにいるみたいな感じなんです。あっ、小百合さん。」


 その名を聞いて零は臨戦態勢をとり、小百合は喫茶店に入るなり2人の元へ一直線に近づいてくる。


「兄さん。これは一体どういうことですか? 」

「仕事以外の何に見える? 」

「えっ? えっ? 」


 場の空気が一瞬で変わったために利子は困惑する。


「俺は仕事で彼女の専属護衛になった。悪いが、お前に構っている暇はない。赤羽さん、行きましょう。」

「は、はい。」


 零は利子を連れて直ぐに店を出て行った。



グレートカーレ郊外、簡易宿泊所

 零は利子をアパートに戻さず、郊外の簡易宿泊所に連れてきていた。


「申し訳ありません。赤羽さんに危害が加えられる可能性があるので、今日はここに泊まってください。」

「あの、もしかして小百合さんが・・・」

「妹は関係ありません。公にはなっていませんが、南海鼠人による日本人襲撃計画が判明したためです。」


 南海鼠人の襲撃計画は零が今考えたものであり、はっきり言って脅威は小百合である。


「私と同僚は外にいますので、何かあったらブザーを作動させてください。」


 小百合を良く知る零は護衛を1人増やして利子の守りを固めていた。


「小百合さんとお兄さんは仲が悪いのかな? もしかして、逆に仲が良くて・・・」


 部屋に缶詰め状態となった利子は友人の家族関係を妄想する。




「あんな所に連れ込んで、何が仕事よ。」


 小百合は利子の泊まる宿泊所を遠目から監視していた。簡易宿泊所「ワイルドストークス」は泊まるために最低限の物が置かれているだけのモーテル形式で、手頃な料金と軽い身分確認で利用でき、1泊する客には重宝されていた。日本人の多くがモーテルとラブホテルの違いが分からないため、小百合のような勘違いが起きるのである。


「良くない、実に良くないよ。主に名前が・・・」


 小百合は妖怪や人間など関係なく、他人に殺意を持ったのは初めてだった。

鴉天狗は宗教組織ですが、「神に仕える者は清くなければならない」という考えはあるものの、性に関してはかなり自由です。むしろ「愛があれば年齢は関係ない」と言った感じの教義があるので、外部の人間が見れば乱れてます。

教義には他にも「快楽の伴わない性交は罪」なんてものもあって、小百合は独自解釈して色々やってます。

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