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とある転移国家日本国の決断  作者:
黒霧連合結成
104/191

世界大戦への事前準備 その5

日本国、神奈川県横須賀

 海上自衛隊の一大拠点にあるその一室は異様な雰囲気に包まれていた。


「それとも、この名で呼んだ方がいいかな、月夜野 蛍(つきよの ほたる)君」

「その名は・・・」



1カ月前

 門倉は海上自衛隊の協力者と共に、艦隊決戦へ向けての人事を考えていた。


「門倉さん、この人はどうでしょう。退役していますが、我々の意図を汲み取れる人物です。」

「命令に忠実であり、過度な愛国者でも無し。身辺調査でも問題は見当たらない、か。」

「加えて、貴重なリムパック経験者です。」


 協力者が門倉に紹介した人材は大規模な艦隊運用経験を持ち、何処へ出しても問題のない優秀な人物である。黒霧の発生によって海上自衛隊は永く大規模訓練を行っていないため、このような人材は貴重であった。


「では、この人に頼みましょうか。」

「1人目は決定ですね。次ですが・・・」


 門倉の協力者は海自の中でも上の立場の人間である。そのため組織内で情報を集めて使えると判断した人材だけを紹介していた。


「1つ宜しいですか? この人物をどう思います。」


 門倉は、貪欲に出世を続けている女性自衛官の資料を出した。


「門倉さん、日本の運命を決める戦いにサプライズ人事はどうかと思いますよ。」


 協力者曰く、「出世欲にかられた女」であり、海自上層部でも良く思っていない人間は多く、「そんな女を戦場に出すべきでない」と付け加えられた。


 門倉は機械的に人間を見ているが、協力者は女性に対する固定観念があるようだった。「これは厄介だな・・・」そう思いつつ、門倉は協力者を納得させるデータ集めに走り回り、何とか楠木をリストにあげていた。




「その名は捨てました。真名まなまで知らべているのでしたら、私が入隊する前から組織とかかわりが無い事も把握しているはずですが。」

「担当者から聞いたよ、君は昔から組織で問題を起こしていたそうだね。ナギという能力者でありながら組織の意向に反発、生まれたばかりの娘を他家に預けて自衛隊へ入隊。妊娠前から既に進路を決めていたようだね。」


「・・・」


「防衛大学校を優秀な成績で卒業、そこからトントン拍子に出世を続ける。同期も上官も、君が一児の母だとは誰も思っていなかったよ。おっと、話が逸れたね。転移直後は「こんごう」艦長、寺田1佐の元で航海長を務めており、持ち前の危険回避、危機対応能力で魔物に対応・・・転移時の混乱を早期に抑えられたのは、最も早く対応した第1護衛隊群の働きが大きいが、艦隊を動かすきっかけが君だったようだね。」

「寺田艦長の理解と働きあっての成果です。」

「寺田1佐は数少ない君の理解者であり、我々もその理解者に入る。異世界の強大な敵に立ち向かう気があるのなら、その能力を存分に発揮してもらいたい。」

「もちろん、受けさせていただきます。」

「即答とはね。宜しい、今後の予定は・・・」


 ある程度予想できた回答だったが、門倉は名も無き組織としての評価と今後の予定を伝えるのだった。



アーノルド国、首都オースガーデン

 遠い異国で静かに強力な敵が現れようとしていた頃、国防省ではジアゾ戦とその後に続く神竜討伐戦の戦力分配で熱い議論が行われていた。


「ジアゾは超兵器無しで落とせるほど易しい国ではない! この程度の戦力では、東西同時攻略、特に東海岸の攻略は無理だ。」

「無理だとはなんだ! 東には超兵器の代りとしてタイラント級戦艦4隻を投入するのだぞ。古代兵器艦50隻を含む400隻以上の戦闘艦を与えられても、まだ無理とぬかすか! 」

「航続距離の問題で戦闘予想海域に鳥機が投入できないのです。制空権の無い海戦を行えというのですか。更に潜水艦の脅威もあるのです。」

「ジアゾの蚊トンボ如き、艦載の追尾光子弾で事足りよう。潜水艦なぞ海に潜れば鈍足の亀同様、爆雷で駆逐できるであろうが。」

「我が国の爆雷は性能に難があります。完全に潜水艦の脅威を防げるわけではないのです。」


 会議はヒートアップしているが、内容としては「超兵器は無いが、大艦隊を与えられたのに大攻勢に出れないとは何事か!」派と、「ジアゾの戦力を甘く見てはいけない」派に分かれて意見を言い合っている。当初の予定通り、超兵器を東西に分けて投入すれば事足りるのだが、超兵器を分散した状態で神竜に襲撃を受ければ大損害確実という理由で変更となっていた。


「「西大洋の暴君」が空爆や魚雷ごときで沈むわけなかろう。」

「いえ、そうとも言い切れませんぞ。タイラント級が流体装甲で守られているとはいえ、全くダメージを受けないわけではない。また、古代兵器艦と言えど物量で押されれば守りを突破されるのは、先の魔虫戦役で実証されているのですぞ。」


 全ての問題は投入戦力の少なさからきている。最重要なのはジアゾに勝つことではなく、神竜討伐にあり、ジアゾ戦は前哨戦なのだ。


「神竜討伐戦用の戦力を流用できないのかね。全ての超兵器を投入するのであれば、通常戦力はそこまで必要ないではないか。」

「そこは・・・預言研究所からの通告を取り入れたまでですよ。」

「死者の国とかいう、ご大層な名前の国が瘴気内に現れているそうだ。」


 この場にいる者で預言を信じる者は少ない。正確には預言研究所の発表を女神の神託として信じている者が少ないのだ。100年戦争以降、女神の神託は激減し、人々は女神に頼らず自力で復興と繁栄を成し遂げてきたためか、預言研究所の存在意義と発言力が大きく低下していた。


「何でも、世界を燃やせる力を持つと言われているが、科学文明にそのような兵器は作れんだろう。誇張も良いところだ。」

「最近肩身が狭くなった預言研究所が王をたぶらかしたのだろう。あの組織は信用ならん。」


 煮詰まる会議に、その原因を作った預言研究所が槍玉にあがるが、直ぐに軌道修正される。


「死者の国と思しきものは、イビルアイが稼働していた時には存在していなかった。瘴気が晴れた段階で攻めれば戦の準備など不十分な状態でしょうし、叩くのは容易でしょう。」

「あの海域は魔物の発生地点に近い。転移の混乱で滅んでいるかもしれませんね。」

「どちらにせよ、空軍は瘴気が薄まった時点で瘴気の切れ間から夜目を偵察に出す予定だ。判断はそれからでも遅くはないだろう。」


 煮詰まった議論はジアゾ戦に神竜討伐戦の戦力を少数転用する方針が決定される。



同国、北西部、ニクセン空軍基地

 北部方面空軍でも中規模な基地であるニクセン空軍基地は、アーノルド国空軍最強の部隊「スペルアンカー」戦闘航空隊の基地として世界にその名を轟かせている。

 同基地の一角にはプレハブ小屋にも見える小さな建物があり、みすぼらしい建物に場違いな格好をした国防省若手制服組の大物が訪れていた。


「お待ちしておりました。イビー様、どうぞこちらへ。」


 エルフの女性職員に案内され、イビーは休憩室へ入っていく。


「来たか、これで全員揃ったな。」

「リュクス、これはどういうことだ。」


 休憩室の中を見てイビーはリュクスに意図を問う。イビーはリュクスに「重要な話があるから秘密裏に会いたい」と言われたので来ていたのだが、待ち合わせ場所にはリュクスの他に戦エルフでハデス艦長のフィロス、同じく戦エルフで最初のスペルアンカー隊員ゼーリブ。そして、リグード将軍の息子であり、最も新しい国の英雄ワールウィンドウが待っていた。


「戦エルフが集まることは禁止されていたはずだ。お前らだけでジアゾに攻め込む気か? 」


 1人でも国を亡ぼすと言われる戦エルフが全員集合しているため、先ほど言った発言が事実になることも十分考えられる。そして、捜査中のリグード将軍の息子までいる始末だ。何が起こるか予想がつかなかった。


「貴方が言っていた使える軍人って制服組だったの? 初めまして、フィロスよ。こっちの暗いのがゼーリブ。」

「・・・」

「先の戦闘では陰ながら支援していただき、ありがとうございました。」


 各々が自己紹介する中、リュクスは早速本題に入る。


「ジアゾも関係あるが、今日集まってもらったのは死者の国に関してだ。余り信じられてはいないが、あれは確度の高い預言だ。」

「何の事かと思えば預言など・・・」

「死者の国は既に俺達を見ている。」

「一体、何の事だ。」


 女神の預言自体を信じていないイビーはあきれた反応を示すが、絶対の自信を持つリュクスの発言に事の重要性を認識し始める。


「私は何も感じないけどね。」


 リュクスの言葉にそれぞれが反応を示すが、数名はリュクスに懐疑的であった。


「俺は伊達に戦場で長生きしていない。戦場で敵と対峙した時に感じる、相手の視線を最近は頻繁に感じるようになった。視線は追うことも出来るが、遠すぎて場所の特定まではできていない。」

「君が言うなら、事実だろうね。ところで、その視線って上からだよね。」


 ゼーリブは力なく口を開き、天井を見上げる。彼は鳥機パイロットとして長時間飛行し続けているが、空にいても上からの視線を微かに感じるようになっていた。


「俺とイビー以外は瘴気内へ投入されるが、細心の注意を払ってほしい。死者の国の実力は本物だ。」

「リュクスにそんなこと言わせるなんて、燃える相手だね。ハデスと何処まで戦えるか見ものだわ。」

「俺は死ぬのか、やっとみんなの元に・・・」


 戦エルフ同士で盛り上がっているのはいいが、イビーには興味のないことだった。


「そんなことで呼んだのか? 預言だのエルフのまじないだのに付き合っているほど暇じゃないんだ。」

「お前はロマへ出向だったな。予定変更だ、サマサへ行ってくれ。」

「断る。何時から軍の人事まで口を出すようになったんだ。」

「サマサなら生き残る可能性が高いからだ。」


 リュクスは長年の戦場での経験から、予知にも近い危機回避能力を持つに至っていた。


「俺は戦場を生き抜いてきたが、それは極力危険な場所に近づかなかったことにある。戦場となったロマで生き残れる自信は無い。」

「お前でも生き残れない・・・まさか、神竜か! 」

「断言はできないが、あそこはヤバいとだけ覚えていてくれ。後は好きにしろ。」


 イビーとの会話を切り上げたリュクスはワールウィンドウに向きを変える。


「ワールウィンドウ、お前は既にユリエ姫の騎士として大きな権限を持っている。ハデス内といっても相手が相手だけに何が起こるか分からない。姫を必ず国まで護衛しろ。」

「はっ、必ず。」

「あらあら、私の艦隊が負けるとでも? 」


 リュクスは信頼できる相手に横の繋がりを持たせるために、この会合を開いていた。かつて、3人の戦エルフは国の存続をかけた戦いを幾つも成功に導いてきたが、今度の相手は3人の手にも負えないと考えるに至っていた。リュクスは現段階で自身が感じている死者の国の力量を伝え、この場はお開きとなる。



「リュクス様、コーヒーが入りました。」

「あぁ、すまない。」


 ゼーリブのデスクを使って自身の書類を作成しているリュクスに秘書が飲み物を持ってくる。


「ティナ、調べ物を頼む。スーノルド帝国大学の学生、留学生の情報を4年前のものから全て集めてくれ。最新の情報は常に俺へ送るように。」

「かしこまりました。」


 コーヒーを置いたティナは直ぐに自分のオフィスへ向かっていく。


「預言にあった死者の国の魔族、お前の行動は予想できている。世界最高の魔法研究機関を目指してくるのだろう? 」


 リュクスはあらゆる事態を想定して国の守りを固めようとしていた。そして、スーノルド帝国大学で死者の国の魔族と対峙することとなる。

やっと終わった。

次の章では最後にリュクスの言っていた死者の国の魔族を中心とした話になります。利子ですね。本人の意志とは関係ないところで国内外から命を狙われてしまった彼女が、どんな行動をして、どれほど日本国の決断に影響を与えることになるか? 最終決戦に向けて最後のまったりとした、平和な話の章になります。

利子が大学に行くのはその次の章です。大学に着くころには利子の実力は倭国外務局長コクコと同レベルになっていますが、リュクスは利子とコクコが束になっても勝てない相手なので状況は変わりません。名有り登場人物の戦闘能力表でも息抜きに書いてみようかな?


女神の神託や預言って何?と思った方は外伝を見てください。少し書いてあります。


戦エルフの3人はスーノルド帝国大学の説明を兼ねて、そこそこの量の話を外伝に書く予定です。秘書のティナはハイエルフを崇拝していたエルフの王族でしたが、リュクスに国を滅茶苦茶にされた挙げ句にボコボコにされるという、ろくな出会い方をしていない設定です。

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