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とある転移国家日本国の決断  作者:
黒霧連合結成
103/191

世界大戦への事前準備 その4

ジアゾ合衆国中南部、トキシス州

 海外との貿易を止められた合衆国は経済的に大きなダメージを受けており、合衆国で2番目に大きいトキシス州でも失業者が溢れている状況にあった。

 古くから宗教、宗派関連の調停や慈善活動を行ってきた宗教統一団体「エーテル教会」は合衆国全土で慈善活動に力を入れており、未憎悪の不景気を受けて大量発生した失業者に手厚い支援を行っていたため、大統領が表敬訪問という形でトキシスの教会本部を訪れていた。


 大統領の表敬訪問はイベント色の強いものであり、感謝の言葉と活動の支援を約束して終了する。

 何時戦争が始まるか分からない状況に、マスコミは大統領の一挙手一投足に注目していたものの、今回の訪問も各地を巡るガス抜きであったことに落胆していた。

 ある大手テレビ局の取材班からも、撤収作業時に小言が漏れてくる。


「大統領もいい加減発表したらいいのに。」

「なにをだ? 」

「何って、開戦日ですよ。どうせ上の偉いさんは、みんな知っているんでしょう。」

「お前はバカか? 」


 新人現場アシスタントの疑問にベテランが答える。


「開戦日は合衆国じゃなく、パンガイア側が決めるんだよ。」


 合衆国はパンガイアとの関係がどんなに悪化しても戦争だけは回避してきた。現在は国交正常化交渉という悪足掻きをしている状態にあり、開戦の決定権は全てパンガイア側にあるのだ。


「ノルド人ってのは律儀でな。必ず宣戦布告で開戦の日時を指定してくる。どこかの蛮族みたいに、いきなり襲ってはこないのさ。」

「正々堂々というやつですか。」

「どうだかな。だが、最近大陸で大規模な戦闘があって、開戦時期が延びるって噂だ。」

「えっ、それ初耳です。」

「耳と目は何個も持ってた方がいいぞ。何時徴兵されてもいいようにな・・・」


 教会の外では付近住民や教会関係者、マスコミが撤収作業を行っている中、大統領一行は地下の一室に案内されていた。


「この先になります。私はこれにて・・・」


 エーテル教会の司祭は大統領を部屋の前まで案内して地上へ戻っていく。


「大統領、お待ちしておりました。」


 部屋に入った大統領を待っていたのは、神竜教の司祭だった。


「破壊竜ゴライアスの信徒、ダイス司祭です。推定年齢500歳のエルフ族。」


 大統領の側近は部屋で待っていた人物の情報を小声で伝える。大統領は挨拶もそこそこに直ぐ本題に入った。


「あなた方の大陸での活躍は良く耳にします。どの様な用件でいらしたのですか? 」

「活躍とは大げさな。私どもは神敵を倒しているまで。」


 ダイスの話しに大統領は付き合う気はない。彼等の活躍とは大半が交通機関等を狙ったテロであり、過去から現在に至るまでに多くのジアゾ人も巻き込まれて犠牲になっていた。


「我等と合衆国は信じる神は違えど、同じ敵を持つ同士。実は我々の活動をもっと支援してもらいたく思いまして・・・遅くなりましたが手土産も用意してあります。」


 「断る」と即答するつもりだった大統領は、テーブルに広げられた情報紙を見て目を見開く。


「これは・・・」

「そうです、ご名答! イビルアイです。」


 ダイスは大統領が話す前にどんどん喋っていく。


「上空50万mに浮かぶ古代遺跡、空の目。5年前、古代遺跡管理局にいる我が信徒がノルド人共の目となった遺跡を流れ星に変えたのです! 」


 すぐに国防総長が部下を地上に送って事実確認を行わせる。イビルアイは両ノルド国家の虎の子であり、14年前に情報を掴んでから合衆国を悩ませ続けていた。以降、合衆国内の天体観測施設を動員して軌道の把握を行っていたのだが、ある日を境に忽然と姿を消していたのだった。


「我々はこれからも様々な活動を続けていくのですが、如何せん気持ちだけでは為せない事ばかり、合衆国の支援があれば更に大きな成果をお伝え出来ます。大統領、どうかご決断を・・・」


 この日、ダイスは合衆国の支援を取り付けた他、瘴気内の神竜教団とも接触することに成功するのであった。



スーノルド国首都、オドレメジャー

 王城では女王の暗殺未遂事件によって厳戒態勢が敷かれていたが、今日はアーノルド国王が緊急で訪れていたため、更に警備が強化されていた。


「うむ、わかった。リュクスよ、席を外してくれ。」

「はっ! 」


 アーノルド国王セラフィム・ガルマンは、首都防衛隊の精鋭から警備の報告を受けて彼等を部屋の外に出し、部屋にはセラフィム国王とアレクサンドラ女王のみとなる。


「暗殺教団の襲撃で女王の影武者と護衛が死亡、実行犯は全員自害。世間ではこれが事実となろう。」

「お身体はもう良いのですか? 」


 大衆向けの一般新聞を読む女王にセラフィムは体の心配をする。女王には影武者などいなかった。


「お主も知って居よう、心臓を突かれた程度では死なん。妾はクジョーの血が濃いのだ。」


 王族の情報公開を進めるガルマン王家に対してアレクサンドラ王家は徹底した情報統制を敷いていた。アレクサンドラ家は現在の王族が何人いるか、どの様に王位が継承されるのかも一部しか知らされない謎に満ちた王族である。そして、その理由をアレクサンドラ家が魔族の血を引いている事と知る者は更に少ない。


「クジョーといっても直ぐに傷が完治するわけではない。それに、教団が使用する毒はまだ続いているはずです。もっとお身体を大切にしてください。」

「700年以上生きているとはいえ、年寄り呼ばわりは心外じゃ。」


 スーノルド国は皇帝が倒されて以降、代々女王が国を治めてきたが、それら歴代の女王は同一人物だった。


「今、神竜教団以外に暗殺教団の動きも活発になっておる。気を付けるのは、そちの方だ。」

「既に両組織は壊滅状態です。今も世界各地で拠点を虱潰しにしているところではないですか。」

「需要があるから供給があるのだ。誰かが誰かの死を望む以上、暗殺教団が無くなることはない。今回は大方、至上主義者共の依頼だろうて。」


 長年の経験から根絶は不可能と見る女王は持論を述べる。そして、隣国の王と2人だけになる数少ない機会に、女王は公の場では聞くことのできないことを聞くのだった。


「セラフィムよ、次の戦は何処までやるつもりで居るのだ。」

「次と言うと、ジアゾ戦ですか。」

「その後の神竜討伐までじゃ。」

「ジアゾは滅ぼします。神竜討伐戦は瘴気内平定まで予定に入っております。」


 セラフィムの回答は両国が予定している事と同じだった。


「神竜が討たれれば、それで教団も瘴気内国家も終いじゃ。後は懐柔すればよいだけであろう。」


 瘴気内勢力は神竜という神に近い存在でまとまっている。その存在が目の前で討たれれば衝撃は計り知れない。まとまりのなくなった各勢力に破格の条件を付けて降伏を呼びかければ、更に団結力が失われて個別に懐柔しやすくなる。そして、瘴気内の神竜教団に止めを刺すためには、自国で神竜教を認めても良いとすら女王は考えていた。どんなに強固な団結力をもってしても、核となる存在が倒れてしまえば多くの綻びが生まれ、最終的には砕けるのである。


「議会が決めたことです。」

「そこにお主の意志はあるのか。」

「アレクサンドラ女王、既に王が国を動かす時代ではないのです。それぞれの分野を極めた専門家が・・・」

「この戯け者が! それでもノルドの王か! 」


 女王の叱責にセラフィムは黙り込む。

 王国歴478年、今から31年前に先代の国王から「人類の天敵、最後の神竜討伐」を託されて王位を継承し、セラフィムはひたすら世界平和を目指して働いてきた。だが、王1人がどんなに働こうと国の頭脳や賢者と呼ばれる者が集まった組織の前では、自由な意見は出せなくなっていた。だからといって国を導かない王にアレクサンドラが怒るのも無理はない。


「700年前のガルマン家当主は剃刀のような男じゃった。毎夜毎夜、妾を切り刻みながら見下すその目は・・・」


 王が政治を議会に移してから2世紀が経つ。今や国の機関は効率と国益を最優先とし、議会の決定で動いている。選挙で選ばれた国会議員が政治を行うことで民の意見が反映されやすく、圧倒的な権力を持つ国家に対して今まで虐げられてきた民が選挙権を行使することで、ある程度のコントロールが出来るようになった。

 時代の変化に、現在の王族はかつての権威を失っていた。


「妾が長年ガルマン家に仕えてきたのは、お主のような腑抜けを出す為ではない。」


 しかし、セラフィムは諦めていなかった。女神からの神託を研究する預言研究所から得られた情報を活かし、国家方針に王の意見を取り入れることに成功したのである。そこで、対ジアゾ戦に超兵器は投入せず、神竜討伐戦に温存するという現在の方針が固められた。


「瘴気内国家、倭国の妖怪は大クジョー国のように容易く葬れる魔族ではない。更に未知の国家・・・」


「「死者の国」」


 ここにきて女王の説教と国王の回想が妙な一致をする。


「預言が事実となれば、世界は焼かれるでしょう。そのような国を放置できない。」

「お主等は結末だけ見て相手を正確に判断しておらぬ。その予言は妾も知っている。瘴気内に死者の国が転移してきて瞬く間に瘴気内国家をまとめ上げ、神竜すらも死者の国の旗に集う・・・女神の預言に彼奴等が先に手を出してくるとはどこにもないのだ。」


 危険性ばかり先走りしている死者の国のイメージに対して、アレクサンドラは中立の立場で物事を話す。


「先に攻撃されてからでは遅いのです! 」

「死者の国が先に動くことは無い。」


 セラフィムは危険な予言が出ている死者の国を、ここまで自信を持って言える女王の考えが読めなかった。


「預言にあるように、死者の国は大戦に敗れて長年戦をしておらぬ。それとだ、瘴気内国家を滅ぼすでもなく「瞬く間に瘴気内国家をまとめ上げた」のだ。妾は死者の国を好戦的な平和主義国と評価しておる。そもそも、瘴気内国家を手当たり次第侵略するような国を「平穏を望むヴィクター」が見過ごすわけなかろう。」


 アレクサンドラの考えは斬新なものであった。死者の国の危険性ばかり目が向いていたセラフィムは考えこむ。


「・・・お主は本当にユリエを死者の国と戦わせる気か? 」

「それが王族の慣習です。」

「覚えておくが良い。もし、死者の国が戦ではなく平和を求めていた場合、問答無用で議会が開戦に踏み切ったならば、その憎悪を一身に受けるのはユリエなのだぞ・・・」



日本国、神奈川県

 海上自衛隊艦隊司令部の一室で、門倉はある人物を待っていた。名も無き組織に属する門倉は日本に侵攻してくる敵本隊を迎え撃つ計画を密かに計画しており、組織の力を借りて異世界の軍と戦うことが出来る人材を探していたのだった。


「あなた方が探していた楠木3等海佐です。」


 挨拶をして入室してきた楠木を、基地司令は門倉に紹介する。対する楠木は陸上自衛隊の2佐、軍で言うところの中佐が部屋にいることに違和感を覚える。


「楠木3佐、陸上自衛隊の門倉2佐が君に用があるそうだ。私のような邪魔者は失礼するよ・・・」


 そう言って基地司令は部屋から出て行き、残ったのは門倉と楠木の2人となる。


「その年で3佐とは、資料にある通りずば抜けて優秀だ。黒霧が晴れた混乱時の活躍で、もう直ぐ2佐になるのか・・・随分と年下が自分と同じ階級になるとは不思議な感覚だよ。」

「やるべきことをやったまでです。」


 部屋に入った瞬間から感じていた異様な雰囲気に楠木は無難な言葉をとる。


「ほぅ、では入隊時に君が方々へ手を回していたことも、やるべきことだったのかね? 」


 ( ! 調べがついている。 )


 楠木は出世のために入隊時からあらゆる手段を使って階級を上げてきた。そのことを知っているということは・・・処分という言葉が頭をよぎるが、そもそも陸自の2佐が何故こんなことをするのか、楠木には全く分からなかった。


「単刀直入に言う。君には第1艦隊の司令を務めてもらう予定だ。」

「なっ、何を言っているのですか! あなたに、そんな権限は無い。」


 突拍子もない発言に楠木は反発する。


「私に権限は無いが、権限を持つ者を動かすことはできる。やってくれるね、楠木 日夜野(くすのき ひよの)3佐・・・それとも、この名で呼んだ方がいいかな、月夜野 蛍(つきよの ほたる)君・・・」

作中の名有り登場人物で未登場者はあと少し、今回は色々新しい情報が出てきました。

アレクサンドラ女王の言っているクジョーですが、外伝で話を出そうと思っています。名前からして狂犬病を思いつくかと思いますが、他の意味があります。何と言っても大クジョー国ですから。


楠木日夜野ですが、素敵なおばさまキャラです(嘘) 。 フィロス艦長と戦ってもらいましょう。

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