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とある転移国家日本国の決断  作者:
黒霧連合結成
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世界大戦への事前準備 その2

日本国某所、石油備蓄基地

 黒霧に備えて全国に新設された石油備蓄基地の1つでは、タンカーから待ちに待った原油が送り込まれていた。日本がこの世界に来てから減る一方だった原油は、今日初めてプラスに転じる。


「いい油だ、サウジ産に近いな。」

「チーフはそんなこともわかるんですか? 」


 蜀産原油の油質を一瞬で判断したチーフに、若手職員が問う。


「俺くらいになると匂いで産地と質が分かるようになるんだ。」


 原油は世界共通で同じ成分ではない。産地によって成分や粘度が異なり、匂いも固有のものがある。育成がてら若手にコツを教えつつ、石油が送られるのを楽しみにしていたチーフは、笑みを浮かべて「長年の経験でわかるようになる」と言い、締めくくった。

 上下の歯が何本か無いチーフに「長年色々な匂いを嗅いで経験を積んだ人は違うな」と感心しながら若手達は仕事を続けるのだった。



蜀、白城

 木人を排除して大陸全土を掌握した蜀は、日本国の本格的な開発が実を結び始め、大きく変貌を遂げつつある。安全が確保された地域の資源開発によって様々な地下資源が採掘され、未知の資源を活用することで、新たな都市が次々に建設されていた。

 大きな油井がいくつも完成し、油井建設と同時にパイプラインや製油施設が稼働し始め、油は今も拡張が進む港湾施設から日本へ輸出されていく。また、都市郊外の資源地帯では露天掘りの巨大な穴が掘られ始め、毎日山のような量の石炭や各種金属、希土類が港や工場に運ばれていた。

 蜀は劇的に発展し、蜀人の生活までも大きく変えることとなる。城塞以外にも大きな町が幾つも建設され、古くからある城塞都市は大通りなどがアスファルト舗装となり、電気、水道が急速に普及しつつあった。また、大規模開発に多くの人民が携わることで人々の生活水準は劇的に向上し、蜀の伝統衣装を着た人民や帯剣して軽鎧をまとった警備兵が携帯端末で通話や情報交換を行い、道路には馬車の隣を大型ダンプやトラックが行き交う混沌とした世界になっていた。


 城塞では要所要所に配備されていた弩砲は35㎜対空機関砲に更新され、城にはレーダーや通信施設の整備が進み、兵舎を一部撤去するなどしてヘリポートと整備場が設けられ、急速に近代化が進んでいる。

 そんな白城で、大広間に各地の王族が集まって会議が開かれていた。


「これより、族長会議を行う・・・」


 官吏を介さない白狼族独特の会議は皇帝との距離が近く、言いたい事を言いやすい場となっている。


「皇帝陛下、このくそ忙しい時期に我らを集めるからには、相当な理由があるのでしょうね。」

「東城の若造が、無礼であろう! 」


 会議の開始と同時に東城の王、白刃(ぱいれん)が皇帝に噛みかかる。彼は伝統を重んじる白狼族でも異端の王であり、以前から皇帝に対しても物怖じしない態度をとっていた。白刃は戦闘機に乗るため日夜訓練に励んでおり、急な召集で訓練計画が大幅に狂ったことが彼の言葉に拍車をかけている。


「白刃よ、いつも血気盛んなのは良いが、足元が見えなくなっているようだな。」

「何ぃ・・・」

「東城だけでは無い、各城塞で官吏共の汚職が目に余っているのだ。」


 皇帝の発言に各地を治める王達はざわめく・・・白狼族は基本、政治には口を出さない。昔から官吏達に任せた方が効率が良かったからだ。しかし、日本国が現れ、蜀の大開発が始まると汚職は顕著となる。各地の官吏達は見えないように行動していたが、日本側が汚職込みで行動していたことが拍車をかけ、一気に汚職が全土に広まっていた。


「汚職による損失は甚大です。既に西部では数ヶ所の軍事拠点計画が進行途中で凍結されました。」


 白狼族独自の調査機関からの報告は深刻なもので、パンガイア連合軍に備えた拠点整備や軍備増強が汚職によって停滞していることが伝えられる。


「官吏の中には日本国を振れば振るほど宝が出てくる小槌と勘違いしている者がおるようだが、出てきた宝が我が国の将来であることに気付いていない・・・いや、知っていて汚職に手を染めている者もいる。」


 皇帝は日本から迎撃計画の変更を受ける度に調査を行わせて証拠を積み上げ、この場で全土の汚職一掃を各地の王族に呼びかけた。


「いけ好かない奴等だったが、裏でも好き勝手しやがって・・・」


 白刃は管轄地の不祥事に何も言えなくなる。東城は規模も大きく開発の一大拠点でもあったため、比例して汚職も規模が大きかった。そして、各地の王も同じ状態だった。


「汚職の件は各自、予定通りに取り締まってほしい。次に、我らが置かれている状況について統一の意識を持つことについてだ。日本国が我が国をここまで支援する理由を答えられる者はおるか。」


 皇帝は広間の中央に移動して各地の王に蜀の立場を問う。王達は資源国であることや大陸間の立地について語るが、皇帝の考えている事を言う者はいなかった。


「日本国がここまで支援する最大の理由は、我々が瘴気内で最弱の存在だからだ。」


 一番弱い存在と言われ、王達はすぐさま反論するが皇帝は彼等を畳みかける。木人との戦、続く南海鼠人との攻防、蜀軍の劣勢は見るに堪えないものがあった。


「この事態は我ら白狼族が招いた結果である。」


 皇帝は前回、瘴気が晴れた時まで遡って話を続ける。300年前、当時の瘴気内国家で蜀の優位性は確かなものだった。倭国と肩を並べる国力があり、瘴気外国家からも一目置かれていた。それが、今は南海鼠人にすら劣っているのである。

 地理的重要地でありながら戦力の空白地帯である蜀は、瘴気内連合の「穴」なのだ。


「蜀の発展が遅れたのは、我らが科学兵器に対して距離を置きすぎていたからだ。」


 白狼族は狼の獣人である。鋭い牙と爪を持ち、優れた嗅覚と聴覚を持って群れでの連携を得意としている。だが、その優れた感覚が災いした。至近距離で火薬の爆発がある銃を本能的に避けてしまったのだ。蜀は科学の代わりに魔法の発展を優先したことが「誰でも使える」科学兵器の導入と発展が遅れに遅れた原因だった。


「我が国は他国に先んじて科学の導入をしなければ、先は無いだろう。」


 既に魔法ではパンガイア連合軍と戦える状態には無い。その圧倒的な差を科学で埋めるしかないのだ。

 皇帝は各地の王と意志の統一を行い、会議は終了する。



 会議終了後、白刃は皇帝に呼び止められていた。


「白刃よ、余は其方に期待しているのだ。」


 実際には白刃が新しいもの、強そうなものにしか興味が無いだけだったが、皇帝は一早く日本の兵器を導入しようとした白刃を評価していた。


「陛下、俺は勝てる戦いしかしない。パンガイアとの戦では必ず勝利の報告を持ってくるので、白城で待っていてください。」

「ふふふ、頼もしい奴よ。つまらない死に方はするなよ。」


 歴史の大きな流れに、大国「蜀」は内部から変わろうとしていた。



同国西部砂漠地帯、自衛隊演習場

 蜀西部に広がる砂漠地帯には自衛隊の大規模な演習場が作られていた。現代兵器は、その高い性能から日本国内では実射等が大きく制限され、射撃できないものが多い。また、米国で行われていた訓練も出来なくなっていたことで、練度の低下が危惧されていた。木人殲滅後は手つかずの西部に広大な土地を借りられたため、自衛隊は大規模な訓練場を整備したのである。


 訓練場の一角で異様な形の10式戦車が並べられていた。その10式戦車は新開発の増加装甲をフル装備した「異世界仕様」である。


「だめですね、追尾光子弾は対戦車ミサイルと同等です。」


 完全に破壊された異世界仕様の10式戦車を見て、防衛装備庁の職員は頭を抱えた。


「対戦車ミサイルを完全に防げる戦車なんて無理です。考え方を変えるしかありません。」


 彼等は魔法兵器に対して自分たちの兵器が何処まで通用するのか調べていた。ヴィクターランドから僧兵団の人機部隊が参加して模擬戦闘などが行われていたのだが、実際に兵器の威力を確かめる段階で想定以上の被害が出ていた。


「ジアゾの報告にあったトールキャノンですか・・・あれ電磁砲ですよ。」

「こっちはまだ研究段階だってのに・・・」


 車体前面が大きく損傷した10式戦車の前で、職員達は途方に暮れている。真上から攻撃される追尾光子弾と違い、車体前面の一番硬い場所に当たってこの威力である。数年でなんとか対処できる代物ではなかった。



 一方、合同訓練が終わったヴィクターランド僧兵団では、戦闘評価装置による訓練評価がされていた。


「皆分かっている通り、一方的な敗北だ。」


 派遣された僧兵団は訓練装備で陸上自衛隊第7師団と模擬戦闘を行った。瘴気外から見ても強力な古代兵器を最高練度の僧兵が操って挑んだ模擬戦だったが、結果は短時間での全滅・・・


「これは彼等がC4Iと呼ぶ軍運用システムの差である。我等より遥かに進んでいる。」


 人機4型に乗り、僧兵団を率いているアドルフは根本的に戦術が異なる相手を評価する。


「夜目があれば同等の戦いはできたでしょう。しかし、人機4型すらも容易に撃破していることから勝利できるかは別です。人機は戦車との相性が悪い。」

「新たな戦術を考えなければなりません。」


 瘴気内最高の戦力を自負していた僧兵団だったが、強力な好敵手の出現に変化の時が訪れていた。



同国東部森林地帯

 蜀の東側中央部から北西に広がる東部森林地帯は、パンガイア連合軍との戦闘時に防衛の要となる立地のため、軍団規模の部隊が駐留しており、付近の砂漠や荒れ地で訓練を行っていた。また、並行して塹壕やトーチカ、地下連絡通路に地下司令部などが整備中であった。


 1台の10式戦車が砂丘を超えて射撃、更に後方から続々と10式戦車が現れて指定地点を射撃しては移動を繰り返していく。訓練を行っている10式戦車には蜀の国旗がペイントされていた。


「ふむ、動きが様になってきたが、攻撃を受けた時に固まりすぎる。」

「かなり離れさせたのですが、まだ近いですか。」


 第7師団の教官にアドバイスを受けた劉は、無線で指示を出す。

 蜀軍は大変革によって新たな軍団が創設され、劉は新設の第3軍団の指揮官として東部森林地帯に配備されて自衛隊の指導の元、現代軍の用兵を学んでいた。


 一方、森林内では自衛隊と蜀軍兵士による遊撃戦の訓練が行われていた。


「お前らそれでもレンジャーか! 」


 陸自の精鋭であるレンジャー部隊は、蜀軍相手に何度も敗北していた。実戦経験があるとは言え、近、現代戦を知らない蜀軍相手の模擬戦で、何度も負ければ自分達に原因があると思うのも無理はない。しかし、現地の彼等は知らされていないが大きなハンデを科せられていた。


「これは凄い、その調子で私の部下をもっと鍛えてやってください。」

「蜀軍ノ訓練デハ、ナカッタノ? 」


 東部森林地帯は精霊の庭であり、軍と言えども容易に行動を制御できる。指揮官は東の森の精霊に対して自衛隊側に不利になるように仕向けさせていた。


「ぬるま湯に浸かる訳にはいかないのでね。互いに練度が上がるのが理想です。」

「ソウ・・・」


 東の精霊は不愛想に答え、レンジャーの動きを押さえつつ位置を蜀軍に教えるのだった。



 理想の形ではないものの、日本、蜀、ヴィクターランドの戦闘能力は大きく底上げされていく。




10式戦車蜀軍仕様

 基本的に陸上自衛隊の10式戦車と変わらないが、C4Iなど一部機能が搭載されておらず、走行間射撃はできるもののオリジナルのような射撃はできない。足回りも自衛隊と変わらないため整備が難しく、現地のニーズに合うかは疑問が残る。開戦前にオリジナル仕様へアップデートされた。


新64式小銃

 蜀軍用に新規開発に近い形で改設計を行った小銃。64式小銃の部品点数、可動部分を極力減らし、一部強化プラスチックに変更してささやかな軽量化を図っている。また、射撃性能向上のためフルオート機能を廃止してセミオートのみとした。

 当初、蜀へは20式小銃の供給が計画されたが、蜀の環境を考慮して64式小銃の改良型の供給が決定された。新64式小銃はアップデートが繰り返され、後に自衛隊へ逆輸入される。

ギャー 投稿期間が延びてしまった!

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