幸子 2
ドドーン、椅子に腰掛けたお茶碗と箸を持った、おばあちゃんが召喚の間に出現した。
『誰だこの老人は?』
『失敗か?』
辺りはざわついている。
さちばぁさんは、食卓から、異世界への移動の理解が追い付いていない。
周りで見られているのに、ホカホカご飯を一口、口に入れては咀嚼している。
モグモグ モグモグ モグモグ
『.......』
さちばぁさん以外の人達は、時間が止まってしまった。
お茶碗の中身がなくなり『ごちそうさま、今日の嫁さんのご飯も美味しかったのう、ありがとうよ』と毎朝2回も言っているいつものフレーズを言い、手を合わせると、周りの時間が動き出した。
『どうすれば?』
『このばぁさん何者?』
とまた、隣同士で小声で言い合っているが、難聴気味のさちばぁさんは全く聞こえていないようだ。
ごちそうさまのポーズを終えて、『そろそろ、家に帰るかのぅ』と、さちばぁさんは立ち上がると、周りの様子が何時もと違うことにやっと気が付いた。
『ありゃ、ここは台所じゃないのう? はて、どこじゃ?』 と、さちばぁさん。
ついに、傍観していた周りの人達が押し付けあい、負けてしまった、召喚士Bが『こほん、あなた様は?』
『わし?村上幸子と申します、そちら様は?』
『私はルートヘンター王国の召喚士のビターです。』
『それは、それは、ご丁寧にどうも。』とさちばぁさんは頭を下げる。背中が曲がっているのでさらに丸まった感じになっている。
『それで、わしは、なぜここに?』
『はい、それは女神様のお告げで勇者召喚をするようにと、そして、召喚されたのがムラカミ様でございます。』
『女神のお告げとな?』
さちばぁさんは、はっと気が付いた。変わった服を着ている集団、召喚? しかも女神?!これは、怪しげな宗教だ!っと。
『そりゃ、何かの間違いじゃな。 わしは、しがない老いぼれ、金も持っとらんし、全部義則に管理して貰っとる。しかも、最近良く迷子になるしのぉ。ホッホッ』
ビターは、『はぁ、そうですか』と、困惑した返事をした。
『じゃから、そろそろおいとまさせてもらおうかの』と、さちばぁさんは、杖を持ち、曲がった背中に左手をグーにして乗せ、出口へと歩きだす。ただ、出口だろう扉を開いたが、左右に道が続いていた。
『ちょっと、そこの方、出口どこかの?』
さちばぁさんさんが出ていくのを、呆然と見ていた、召喚士と城の重役達は、少し間をおき、『何だったんだ』『どうする?』『もう一度、召喚するのか?』と、騒然となった。
さちばぁさんは、何とか城から出て、歩きだす。『ここはどこじゃ?家に帰らんと』
明らかに、日本の作りじゃない建物、住んでる人達も外国風の見た目をしている。ただ、話している言葉は日本語のようだ。
さちばぁさんは街中をとりあえず徘徊してみる。歩いていると、商店街のような、店が並んでいる通りに入った。
食堂のようなこぢんまりした店に入ると、店奥から『どうするんだ、こんなに傷みかけた野菜ばかり、在庫を確認して、先に買ったものから、持ってこいって教えただろう!』と、怒鳴り声が聞こえた。
さちばぁさんは、店の奥にずんずん入って行き、『すみません、ちょっと、聞きたいのじゃが、家を探しておってのぉ』と、明らかに怒っている男性に声を掛けた。