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呪いの、その名を


迷宮ダンジョン


魔物が多く潜む広大かつ複雑な領域を、人はそう呼んでいる。


古代文明の遺跡、魔物自身が生み出した住処等を始め様々な迷宮が存在するが、エルンスト王国に存在する地下迷宮はその起源をはっきりとは知られていない。


ただ、邪神を倒した英雄『聖剣使い』と呼ばれたアルス エルンストが邪神を倒した時に生まれた迷宮だと言われている。


まあ千年も前の出来事であり、所詮は伝説なので真面目に捉えているものはいない。



比較的浅い階層は小鬼ゴブリン粘獣スライム猪魔オーク大鬼オーガ等、様々な種類の魔物で構成されている。


猪魔や大鬼の大物を一匹でも倒すか、低位の魔物を複数狩ればそれなりの額になる為、俺を始めとする中堅冒険者や駆け出しは迷宮の比較的浅い部分で狩りをするのだ。


「………見つけた」


薄暗い通路の影で干し肉を齧りながらぼそりと呟く。


魔物を狙う為に身を潜めて数十分と言った所だろうか。ようやく待っていた獲物がやってきた姿を発見し、声には喜びの色が滲む。


視線の先には小さな角とくすんだ緑の肌の魔物。


10メートルほど先の場所で三匹のゴブリンが辺りを見回すとように通路を歩いていた。


干し肉を口に放り込み、腰の剣を引き抜きながら飛び出る。


まずは一匹。


流れるようにして距離を詰め、そのまま近くの小鬼の首を切り落とす。


剣術スキルを持っていなくとも、それなりに鍛錬を積めばそれに近い動きはできる。


何が起こったのかも理解できないまま小鬼の一体が絶命し、浅い紫色に輝く結晶を残して塵となって消え去った。


残り二匹。


突然の外敵の出現に慌てる残りの2匹も畳み掛けるようにして距離を詰める。横薙ぎに斬り捨てられ、塵になりながら結晶へと姿を変えた。


「……ふぅ」


剣を納め、結晶を拾い集める。

低位の魔獣であるゴブリンの魔石、つまり大した値段にならない低品質なものだが魔石は魔石。

だがオーガ等の大物を狙わない俺にとっては貴重なものだ。


魔石と呼ばれるこの結晶は、魔力で構成されている魔物の核とも呼べるもので、命が尽き身体を維持できなくなった魔物から取り出すことができる。


魔石は加工することで魔道具の材料や資源になる為、多くの冒険者は残された魔石を集め冒険者ギルドで換金して生計を立ていくのだ。



腰のポーチに魔石をしまい、さてと顎に手を当てて考える。


あらかじめ自分で見繕っておいた狩場は全て回りきった。

金が欲しければもう少し森の中に踏み込むが、今のところは金が入り用な時期でもない。


ギルドで思わぬ大金を得た事もある。

さっきのゴブリン以外にも魔物を仕留めることができたし、今日の収穫はこれで十分だろう。


「……帰るか」


そう呟やいて後ろを振り返り、違和感を感じた。


誰かに見られているような、悪意の混じった粘つく視線を感じる。


「……ッ!」


見えない力が動く感覚、魔力の高まりを感じて飛び退く。


先程までいた場所に巨大な火球が炸裂し、熱と衝撃を撒き散らした。


「おーおー、相変わらず逃げるのだけは上手いな」


「お前は……ッ!」


そこにいたのは昼間にギルドで騒ぎを起こしたレオルだ。


今回は俺から金を奪った時に連れていた取り巻き二人も連れてきているようだった。

ニヤニヤした表情で通路の影から姿を現してきたのを見て舌打ちをする。


通路を挟む形で塞がれた、逃げられない。


「……何の用だよ」


「お別れの挨拶をしに来たんだよ。『無能』くんのおかげで、王都のギルドじゃ働けなくなっちまったからよォ」


よく言う。


ほとんど自分の愚かさから生まれた結果だったはずだ。


「そうか、じゃあ俺に構わずさっさと王都を出たらどうだ。 仕事がないんだから金も余裕がないだろ」


会話で間を繋いで時間を稼ぐ。


俺が無能なのに対して、レオル達は実力だけは確かなCランク冒険者だ。

酔ってもいないようだし、まともにやりあって勝てる相手じゃない。


状況を打破するために警戒しながら視線を走らせる。


「ーーーあァ、面倒くせぇな」


「ガァ!?」


一瞬でレオルの姿がブレる。


気付けば振り抜かれた蹴りが俺の腹をにメリメリと食い込んでいた。

胃に入っていた物を吐き出して、膝をつく。


髪を鷲掴みにされ、無理矢理レオルと同じ視線の位置までに立たされる。


「お前をぶっ殺しに来たって言ってんだよ。 さっさと泣き喚いて許しを請えよ。どっちみち殺すがな」


迷宮という閉鎖空間ではならず者の冒険者が同業者を襲うことは、ある。

コイツらは、復讐として俺を嬲り殺して、別の街で冒険者稼業を続けようという魂胆なのだろう。


「おら、謝れよ。 無能の分際で迷惑かけてすみませんでしたってよ」


「……ぁア!」


右手をレオルの顔へと閃かせる。

狙いは目、奴が悶えている隙に全力で逃走する。


「ーーー馬鹿が」


片手であしらわれて地面に叩きつけられる。

不意打ちをものともしない技術と人を地面が砕ける勢いで叩きつける膂力。


おそらく『体術』と『怪力』スキルを持っているのだろう。


激痛でまともに呼吸すらできない。


「勝てねぇって言ってるだろ。 わきまえろよ、雑魚が」


「ガ……ハ……」


ボロ屑のように地面に投げ捨てられる。

動けない、殺される。


やはり無理だ。

足掻いても、才能のある人間には勝てないということを嫌でも理解させられる。


動かなくなった俺を見て満足したのが、レオルがニヤニヤと笑いながら腰に差している重厚な剣を引き抜く。


「お前を殺したら……そうだなぁ? セリアを犯しに行くか」


思わず息を、止めた。


「…………」


「ギルマスの娘らしいし、見た目も悪くねぇ。復讐にはもってこいだろ」


冷や水が掛かったように頭が冷静になった。


コイツらは何をイッテいる?

本当にオナじニンゲンなのか?


「ヤりおわったら魔物の餌にでもしといてやるよ。生きたままゴブリン共に引き渡してもいいな」


下卑た声で笑う3人の笑い声が、暗い粘つく何かが心臓の鼓動と共に巡る。


ーーーヤツラのソンザイをユルスナ。


どこからか声が聞こえる。


視界が赤黒く染まる。

アイツらを止める必要がある。いや、止めるのではない。


ーーーヨロコべ、エサがサンビキもいルゾ。


「まあ、そういうわけだ。 さっさと死んでくれや」


レオルの剣が振り下ろされる。

俺の首を跳ねる軌道にあるそれを、どこか他人行儀に俺は見ていた。




ーーーコロセ。




弾けるようにして振り下ろされた剣を避ける。

目を見開くレオルに、交わした勢いをそのままに接近する。


音もなくレオルの腕に接触し、俺は本能的にその才能を発動した。





「ーーー『強奪スナッチ』」





物語が、始まる。

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