プロローグ
最強になりたい。
男ならば誰もが一度はそう考える稚拙な発想。
例えばそれは魔王と相対する勇者のように。
あるいは邪竜と戦う英雄のように。
目の前を障害を己の力のみで退け、自らの意思を押し通す。
そんな存在に憧れたことがあった。
そんな存在になりたいと、幼い頃に剣を持ち、強くなりたいと切望しながら剣を振った。
だが、その結果がこれだ。
「ガハッ……!? ァ……!」
雑に押し込まれた蹴りにうめき声を上げる。
体術スキル持ちではないにしろ、屈強な冒険者の蹴りはそれなりに効く。
「そんなに睨むなよ、無能ちゃんよぉ。 ただオレ達は少しばかりお金を恵んでくれって『お願い』してるだけなんだぜ?」
ギリリと歯をくいしばる。
何が恵んでくれ、だ。
こいつらは自分より弱い奴から金をせびっているだけだ。
「うる……せぇ!」
よろよろと起き上がり3人の冒険者の一人に飛びかかるが、あっさりと躱され横から拳を叩き込まれる。
「ぐぁ………ッ!?」
おそらく俺を殴った奴が『体術』スキル持ちだったのだろう。
鳩尾に入った拳がミシミシと悲鳴をあげて俺を吹き飛ばし、近くの壁に向かって叩きつけた。
抵抗できない人間には過ぎた威力の暴力。
受け身を取っていなければ、意識くらいは簡単に吹き飛ばしていただろう。
そのまま力を失ったようにズルズルと地面に倒れこむ。
「ぎゃははははは! 弱過ぎんだろぉ!」
「おいおい、やめてやれよ。雑魚も雑魚なりに努力してるんだぜ?」
ぐったりと地面に転がり拳を握りしめる。
悔しいがまともなスキルを一つも持っていない俺ではCランクの冒険者3人を相手にすれば無事では済まないだろう。
力尽きたように地面に倒れこんでいると、懐にしまっていた巾着袋を抜き取られていった。
「……ッチ。 たいして持ってねぇなこいつ」
「『無能』の稼ぎじゃそんなもんだろ。酒場を冷やかして帰ろうぜ」
「じゃあなぁ! 俺らのお財布ちゃん?」
下卑た笑い声と共に遠ざかっていく足音を確かめ、ゆっくりと起き上がる。
「クソ! あいつら遠慮無く殴りやがって」
切れた口の中の血を唾と一緒に吐き捨てる。
こんな事は日常茶飯事だ。
頭の悪い冒険者のクズ共は、スキルを持たない俺ならば何をしてもいいと思っているのだろう。
なにかと絡んできては鬱憤のはけ口にして金を奪って行くのだ。
相手をするだけ無駄なのだ。
だからワザと殴られてやったし、わかりやすい懐に小銭袋を入れておいた。
「……痛てェ」
さっさと立ち上がって身体を調子を確かめる。
身体の節々が痛むものの、動けないほどじゃない。伊達に何度も絡まれていない、受け身ぐらいは多少はマシにできるようになった。
そして動けるのであれば、俺も冒険者として俺も働いて金を稼がなければならない。
「ダンジョンでゴブリン討伐か、薬草採取の依頼でもあれば……ん?」
歩き出した途中でガサリと何かを踏みつける感覚。
下を見ればどこかの誰かが捨てたであろう新聞が足元にあった。
内容などに興味はないが、一つだけ大々的に記された名前に気付く。
『エリシア フィル アークライト』
確か新進気鋭の冒険者だったはずだ。
端麗な容姿と誠実な性格、何より最強クラスの才能を持つ少女だったはずだ。
天に愛された者とは彼女のことを言うのだろう。 何もかも、一切合切が『無能』の俺とは真逆の存在。
胸底に湧き上がる苛立ちを感じ、ボロボロの紙切れを蹴り飛ばす。
「……ッチ」
俺の名はウィル グレイス
この世界に置いて絶対視されるスキルに、17年間一度として恵まれなかった、人生の敗北者だ。




