九十五話 閃光駆けるパラディオン
「さて、どうやって戻ろうかね」
アリス達はここから戻る手段を考えていた。ラグナタウンへはかなり距離がある。そんな事を考えていると、外から大きな何かが着地する音が聞こえてきた。まさか...ギルメラが!?アリス達が外に出ると、ギルメラではなかった。大きな紫の鳥の魔物で、こちらをじっと見ている。
「何?この魔物」
「さあ?」
「ピロロロ、見た事ないな」
マブもアリスもピロンも全く見た事がないが、テティにだけはその鳥に記憶があった。それは一回ラグナタウンの洞窟内でアンバーグが飼い慣らしていたチャッピーと名付けられた大きな鳥ではないか。だがもう記憶が戻ってあの出来事は全て無くなったはず...まさか迎えにきたわけではないだろう。
「あなた..もしかして覚えてるの?」
テティが恐る恐る聴くと後ろを向いて「まるで背中に乗ってくれと言わんばかりだ。テティが背中に乗ると気持ちのいい毛がテティを受け止めてくれる。
「何?乗せてくれるの?」
「そう見たい、行こう!!」
「まあよくわからないが、行くか!」
「ごめんね...あなたの元飼い主はもうここには居ないの」
そういうと目をパチクリさせてテティを見る。テティはチャッピーを撫でながら行こう!と言うとチャッピーは羽ばたいて動き出した。大空を舞うチャッピーに捕まりながら風を感じて進んでいく。空で移動というだけあってラグナタウンへはすぐについた。突然の鳥の襲来に住人は驚いていたが、アリス達を見て一安心をしている。
「おい!どうだ?」
チャッピーから降りてそういうと、ルビスがいてその前には杖がいくつも置いてあった。
「本当にうまく行くのか?これ」
ラルビスはそう不安そうな声を漏らした。アリスがギルメラを相手にしている最中にこちらでは着々と違う作戦が進んでいた。だがその作戦にルビスが疑問の声をあげたのだ。なにを隠そう、この作戦を提案したのがマブなのだ。
「何だかこいつの作戦は不安だが...」
「いざとなったら俺がいるしな」
そういうドカンにも、ルビスは何だかあまり安心できるような感じではなかった。そんな事を言っていると、別動隊からギルメラが再び現れたという報告が入ってきた。この別動隊はギルメラの動向を探る係で戦闘能力はないものが集まっている。その報告にマブは意気揚々と杖を持ちそちらの方に走りだした。他の者達もルビスの前に集められた杖を持ちギルメラの方へと向かう。
「おい、ドカン」
ラグナタウンの住人の1人がドカンに耳打ちをする。それを聞いてドカンは「ちょっと俺は別で動くわ」とだけ言い残して向こう側に行ってしまった。
ルビスと戦える者たちはギルメラ討伐へとマブについてい行き、ギルメラの報告のあった場所へと向かう。するとすぐにギルメラの大きな体が姿を表してきた。数人が一斉にを掲げると、様々な召喚された魔物が姿を表した。ルビスの前にあった杖は、全て召喚の杖で様々な種類の魔物を呼び出す事ができる。魔物の世界でミーファが使ったものと同じ類のものだ。そしてこの杖で何をするのかと言うと...。
「よし!合体だ!!」
「失敗しても知らねえからな!!」
10ほどいる召喚された魔物たちは、杖を下にするとどんどん一つになっていく。そして出来上がったのが、黄色い鎧を身に纏った馬に乗った人間の数倍はある大きさの騎士が姿を表した。
「これこそ全ての召喚魔物の結合体、名付けて閃光のパラディオンだ!」
「本当にうまく行くとは...」
「なんかアホそうだけどやる時はやるんだな」
全くと言っていいほど期待されてなかったマブは成功したことで少しばかり褒められた。その出来上がった騎士はギルメラへと向かっていく。持っている光の剣でギルメラを斬ると効いているようでギルメラの悲鳴が聞こえる。
「効いてるようだぞ!」
召喚の杖には生み出された騎士のステータスや光という属性まで書いてある。何だか予想以上に効いているようでパラディオンという騎士の猛攻は続く。
何だか余裕な感じだが、逆に余裕すぎてなんだか逆に不安になってくるぐらいだ。
「思ったよりそんな強くねえじゃねえか!」
「これなら余裕だな!!」
などと言っているともちろんそんな簡単にはいかず、ギルメラは白い輪っかのようなものを体の周りに生み出し、それはどんどん広がっていく。それに当たった者は姿を消され、消え去ってしまった。
「アレに当たらないように逃げて!!」
「クソ!!!」
だが逃げきれずにどんどん消されていく。ただそれを遠くに逃げながら見ているしかなかった。1人、また1人と消されたパラディオンは弱まっていく。もともと何人ものやつを合わせたもので一つでも減ってれば少し弱まってしまう。
「ゲームで言う第二形態という所か?面白いピロロロ」
「面白がってる場合じゃないでしょ!!」
「ていうかゲームなんてするんだ」
「まあな」
「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
「でも第二形態みたいな感じなら少なくともダメージは入ってるって事だ」
ギルメラは弱まったパラディオンに一撃を入れると簡単に崩れていって消えてしまった。やはりマブの作戦程度ではダメだったとテティは思う。
「でも光属性の攻撃は効くというのがわかっただだけでも収穫だろう。あの攻撃はしばらく来ないだろうしな」
「それなら今が叩くチャンスだろっ!!」
ルビスはすかさず攻撃を行う。その攻撃は当たったもののそこまでの反応を示さなかった。ギルメラの攻撃が来ようとする。すると上から隕石がいくつも降ってきてギルメラに直撃した。しかもそれはギルメラの近くにいた者にも被害を被り辺りは大惨事となる。
「このクッソ迷惑な攻撃...まさか!」
そこにいたのは七天聖の面々。全員揃っている...と言いたいところだがルナだけがその場にいなかった。全員ギルメラの方を向いている。先程の攻撃はクラウのあの隕石の攻撃だ。
「あんた達!そう言えばいたわね」
「やっと戻ってきたと思ったらなんかとんでもねえ事になってるな。まああの武器を狙うのは後にして、今はこいつを狙った方が良さそうだな」
「これはありがたい加勢だ!」
「手を組んだわけじゃねえからな?」
「わかってるから」
一人一人がギルメラに攻撃を仕掛けていく。ラグナの剣の一撃、ヴェラードの斧の重い一撃、クラウの小さな隕石の攻撃、ミーファは普通の魔法弾、メイキスの雷の攻撃、ノーブルは何もせずに何かの絵を描いている。
「てめえまだなんか変なもん書いてんのか!!」
「メイキスもやるでアールか?」
「やらねえよ!!」
などという何だか何回も見させられたようなやりとりをしながらも着実にギルメラに深傷を負わせている。
「また逃げるぞ!!」
「本当にやる事がワンパターン何だから!!」
「行かせるかよ!」
飛ぼうとしたギルメラよりさらに上に行ったヴェラードが背中から斧で叩くとギルメラは地面に叩きつけられた。何だか七天聖が最強というのを忘れていたテティもアリスも、この光景を見てやっぱり最強なのだと改めて実感する。
「ていうかルナはどこ行った?」
「さあ?またその辺ブラブラしてるんじゃないですか?」
「あいつ本当に適当なところに行きやがって!!」
「一気にたたみかけるぞ!」
「おう!!!」
「この辺で良いかな」
みんなと離れたドカンはそう言いついてきたキンキ達を見た。監視するという目的でキンキ達はドカンの方へといったのだが、ドカンが何やら怪しげな事をしているのを見て止めようとしていた。
「何を企んでいるんだい?」
「何って?お前らの殲滅だよ」
「何言ってるの?」
「わからないけどお菓子うめえー」
「この美しい僕ですら理解できないよ。君は半分脅されておるようなものだろう」
「もうそれも終わった」
「終わったって?」
そういうとドカンは少し不気味に笑むのだった。




