九十四話 竜破壊の後継者
「一応聞いてあげるけど、その特典って何よ」
テティはその「特典」とやらに心底興味が無さそうだったが一応聞いてあげることにした。それを待っていたかのようにニヤリと笑みを浮かべて「それはな...」と言う。そこで少し溜めてその続きを言い放った。
「この世界さ」
「はっ?」
何を言っているのかと誰もが頭にハテナマークを浮かべたことだろう。そりゃあいきなりそんなことを言われればそうなるに決まっている。よくわからないアリス達に、レミーは今度はこんな事を問いかける。
「このヘンテコな世界でそんなガチャガチャしてクエストこなして...それで満足か?」
「まあそれのほとんどが設定として消えていってるけどね」
「テティそう言うこと言わない」
「それでいいのか?ここでもっと面白いもんを作り出せる...いや創り出せるんだぞ??素晴らしいとは思わないか」
「全然」
即答された。レミーは速攻で帰ってきたその答えに舌打ちをしつつも「まあお前らみたいなのじゃその程度か」とだけ吐き捨てた。
「そんな与太話はいい。あなたがテティを狙ったの?」
「ああその話か。それなら答えは『イエス』だ」
「そう」
それだけを言うとアリスはレミーに剣を向けた。
「それだけでいいよ。それがイエスならもうあなたとこれ以上何も言う必要はない」
「そうか...」
レミーとアリスが駆け出す。キン!と剣の刃と鉤爪の刃が混じり合う。
「魔刀の雷刀!!」
「ちっ!!こんな至近距離で打ち込んでくるのかよ!!」
間を交えながら使ってきたアリスの電撃を鉤爪を一旦離して避ける。そして再びアリスに向かって差し向けていった。アリスはそれを避けようとするが目の前の鉤爪にバランスを崩してしまう。
「隙ありだ!!」
尻餅をつくアリスは剣を横にしてそれを防ぐ...が今度は横からの攻撃には対応しきれなかった。腹に鉤爪の3つの爪が刺さる。そこから血が出てきている。
「残念。片っぽだけだと思ったか?両方あるんだよなあ」
レミーの両手には同じ鉤爪がはまっていた。先ほどまでは片方しかなかったのに、攻撃で気を逸らしてつけていたのか...何という荒技だ。
「アリス!!ちょっとゲルム何とかならないの?役立たずマッドサイエンティスト!!」
「ピロロロ...助太刀したい所だが...いかんせん武器がないのでな」
そんな話をしているテティとゲルムをよそにアリスとレミーの戦いはどんどん過激になっていく。2つの鉤爪を防ぐので精一杯のアリスに容赦なく攻撃を仕掛けていくレミー。その攻防をしながらアリスは何とか突破口を見つけようとうとする。
「はあーっ!」
「まだまだひよっこだな!」
アリスの攻撃も簡単に防がれてしまう。アリスの攻撃がやっと届いたと思ったら少し腹の横の所にアリスの剣が刺さる。その程度の攻撃では聞いていないかのようにレミーは口から少しだけ血を垂らしながらも両方の鉤爪に黒い大きな爪のようなものを出しながらアリスの方へと向かってきた。
「シャドウ・ネイル!!」
「ぐっ!何これ!!」
黒い大きい爪のようなものを纏ったレミーの攻撃はアリスをどんどん切り裂いていく。そしてアリスに攻撃をする度にレミーの傷ついていた所がどんどん癒えていくではないか。
「何これっ!」
「これは相手の体力を吸収するスキルでな?これを使えば攻撃をしながら回復ができるんだ。ただ一回使うとかなりの時間を要するがな」
「なら、その間に倒せば良いんでしょ!!!」
「できるものならなぁ!!」
まだまだレミーの攻撃は続いていく。その激しい攻撃にアリスは何とか応戦しようとするが体を切り刻む攻撃は容赦がない。
「おっと。もう終わりか」
「やっと終わったようね...」
アリスは結構ダメージを受けてしまいレミーは吸収した体力で全回復とも言えるほどだった。先程まであった傷も消えている。
「どうする?降参でもいいんだぞ??」
「さあ、そんなものはしないけどね..!」
「強がりを...」
アリスは剣を持ってもう一度レミーに向かう。レミーに剣を向けるのかと思いきや、とレミーの攻撃を避けていく。
「あんたには負けない!!」
「うぐっ!!この野郎が!!」
レミーはアリスの一撃を弾き返すとアリスは片方の腕を掴んだ。振りほどこうとするもなかなか振り解けない。もう片方の手でアリスの腹のあたりを鉤爪を使って攻撃をするが、なかなか離れようともしない。手を掴みゼロ距離とも言える場所でスキルの名前を叫ぶ。なんとか脱出しようとアリスに攻撃をするがその巻き起こった大きな雷がレミーに直撃した。
「!魔刀の雷撃!!」
「うぐああああああ!!!」
渾身の一撃だったが、レミーはまだフラフラとだが立ち上がっている。そのレミーのしぶとさにアリスも苦笑いをするしかなかった。あの至近距離から喰らったと口から大量の血が流れている。流石のレミーも大丈夫では済まなかったようだ。
「またいくぞ...シャドウ・ネイル」
また鉤爪が黒く爪のようなものを纏いアリスに向かってくる。またアレで回復をされてしまったら今度こそ勝ち目はないだろう。何とか避けることに専念するが、1発、2発、とどこかで命中してしまい、そのたびにレミーの傷がどんどん無くなっていく。
結局数発分ぐらいしか食らわなかったが、だいぶあっちに吸収されてしまったようだ。
「くっ...」
「まあ、良いだろう。もうフラフラもお前を倒すだけなら十分だ」
「どうする...」
「そうだ!」
その時そんな声を出したのはゲルムdsった。ゲルムは何やらガサゴソと探して何かを見つけると、アリスの方へとそれを投げた。アリスはそれをキャッチして見てみるとその剣に驚いた。
「これ...ドラゴン・バスター!!」
「お前なら使えると思い残しておいたんだ。さあ、それで大暴れしてやれ!ピロピロピロ!」
「わかった!!」
アリスが構えるとそれに応えるかのようにドラゴンバスターは緑色に淡く光り始めた。ユオの兄から受け継いだもの。これならその思いを託して戦える!!!
「なんだ?武器チェンジか?まあ何でもいいけどな」
「これであなたを倒すんだから!!」
アリスはそう言いレミーの方に向かう。レミーはいつも通り片手でアリスの剣を防ぐ...のだが先程とは全然違い、防ぎきれない。しょうがなく両手の鉤爪を使うがそれでもやっと防げるかどうかと言うぐらいだ。
「なんだこれは!!!」
「これは竜を狩る最強の武器...ドラゴンバスターよ!!!」
「そんな...うぐはぁ!!!」
ドラゴン・バスターの一撃はレミーに大きなダメージを与えた。レミーは鉤爪で応戦するが、星7というだけあってかなりの強さだ。先程とは全く逆で、今度はアリスがレミーを圧倒している。
「おのれおのれ!!おのれえ!!」
レミーはまたシャドウ・ネイルで攻撃を仕掛けようとする。だがアリスの方もスキルを使おうと構えた。
「竜神抜刀残念破!!」
「くたばれえええ!!!」
2つのスキルがぶつかり合う。大きな衝撃と共にぶつかり合った2つのスキルは強さを競い合っている。アリスが押していき、そしてレミーのスキルを完全に打ち砕いてレミーの方へと向かっていった。
「そ...んなバカなあああああ!!!」
レミーはアリスのスキルに巻き込まれ、倒れた。アリスは勝てたことにふーっと安堵の声を漏らす。
「やった!!アリス!!」
「うん」
「ピロロロ。まさか本当に使いこなすとはな。おそろしいやつだ」
「クク...まだ終わらんよ」
喜びに水を刺したのはレミーだった。レミーは笑いながら淡々としゃべっていく。
「我らの主、ゼロ様はお前らでは勝てない。あの方は他とは違うからな」
「違うって何がよ」
「言葉にはできないが、もう俺たちを超えた何かだ。バケモノといった方がいいか」
「でも倒すよ。ギルメラと一緒に」
「ふっ、できるのならな」
「こんな口だけ野郎放って置いて早くギルメラのところに向かわないと!!」
「だね」
テティの提案で少しばかりボロボロだがアリスはギルメラのところに向かおうとする。それを見ながらピロンはこんな事を思っていた。
「ピロロロ、闇魔の時から思っていたが、あいつどんだけタフなんだ?ちょっとやそっとじゃ死なないんじゃないのか?本当に人間か?」