九十三話 「今」いるべき場所
「でねー?」
「うそー?あはは!」
アリスは親友と話しながら廊下をあるいていた。アリスにとって何も変哲のない日常なのだが、何だかあの夢のことや声のことあり何だかモヤモヤしたような感じがする。
アリスはそれを忘れる事にした。今この日常こそが、在るべき日常なのだから。何だか悪い夢か何か何だろう。きっとそうだ!心の中でそう何度も呟きながら首を横に振った。歩いていると、目の前に男子生徒の姿。その姿を見てアリスは少し呆れたような顔になる。
「あの...」
「また来たの?申し訳ないけど、それは受け取れないわ」
その男子生徒が小さな声で「これ...」とだけ言い小さなピンクのラッピングされた箱を渡してくるが、アリスが受け取らないという意思表示をして去って行くと、それをじーっと悲しそうな目で見てくる。
「あれ誰?」
「なんかね、頻繁にああやって何かを渡してくるの」
「ストーカーってやつ?」
「やめてよ!」
「確か...隣のクラスのリグ...だっけ?」
「リグ...」
何だろう?その響きに聞き覚えがある気がする。だがやはりというべきかわからない。何だか今まであった思い出せそうで思い出せない事柄を全て合わせるともう少しで何かを思い出せそうな気がするが、惜しくも全く思い出せない。あともう少し、喉まで出かかってて出てこないアレだ。
「どうしたの?」
「なんかこう...足りないのよね。なんていうか...大事なものが抜けているというか、何かのパーツが無くなってる...その大事な人とかの記憶みたいな?」
「意味わかんない!」
「ごめん、変な事言って」
「ねー見て見て!春にさ!桜を撮ったんだ!」
嬉しそうに親友はスマホをアリスに見せてくれる。そこには大きな桜の木が花びらを散らしながら映っていた。
「桜...!」
その時走馬灯のように今までの事が頭の中を巡り出した。あの日テティとであってから色々あった。闇魔とかいう違法武器と戦い、オノマトピアという者たちから街を守りさらにハルガンデスという四獣と言われる怪物を倒し魔物の世界の行って今は...そうだ!ギルメラと戦っていたでは無いか!
「ごめん、私の居る場所は今はここじゃ無いみたい。でもいつかはここが居るべき場所になるからね」
「え?何を言ってるの?」
この世界は虚構、つまり造られた世界だ。テティやアンバーグ、マックスヒーローズ...今なら名前を言える。共に戦って来た名を!
その時学校にヒビが入る。もうこの日常とは別れを告げ奈ければならない。
あの異世界から脱出し、また再開を果たすために...。
「さあ!壊れて!私を元の場所に戻して!って言ってもこの日常は戻るべき元の場所何だけど...今はこっちじゃ無いテティ達の元に。この世界にさよならを!」
バリーン!という大きな音を立てて背景の学校が壊れていった。そしてアリスは目を閉じた。
✴︎
「あれ?」
目を開けると集会場にいた。いつも使っている集会場...つまり戻ってこれたのだ。目の前にはテティにマブの姿がある。どちらもとても心配そうな顔をしている。
並んだ机にイス、大きな木でできたクエストボードに並んでいるクエストの数々。目の前にいるテティにマブ...そしてなぜかピロンまでいる。なんだか見慣れたはずの集会場も、懐かしい感じがする。それもそうだ。ずっと日常生活を送っていたのだから。
「よかった!」
「あれ?何が..?」
「良かった...良かった!!また失わなかった!」
泣いているテティを撫でながらアリスは少し考えて「あっ!」という声を出す。アリスはレミーと戦っていて...。
そこにギルメラが戻って来た。その時のアリスは少し油断していた。ギルメラがして来たのはまさかの行動だった。ギルメラに向かっていったアリス放ったのはその消滅光線。まさかの事に避けられずそのまま...。
「そうか!消滅光線!」
あれを食らったものは消滅して戻ってこなかったはずだ。なぜアリスはそれを食らってピンピンしているのか...。しかももう使えないはずだ。なぜその技を使っているのか...。
その2つの謎を知っていたのはピロンだった。
「まあやっぱり中途半端だったな。あの武器は」
「どうなってんのよ!」
「確かにあれはあいつの力を封じるものだ。だが、どうやら中途半端に合成をしたせいで100%の力は出せていないようだ」
「それじゃあ意味が...!」
「いや、意味はある。もうほとんど使ってはこないだろう。80%封じたと言った感じか」
「ていうか、あれって塵ほどの大きさで消えるんじゃなかったの?」
「どうやら、それが少し違うみたいでな?」
「まあ...ないよりかはマシかな。ところでラグナタウンの方はどうなってるの?」
「ああ、今あっちの方はギルメラと戦っているよ」
「なら早く!」
「ピロロロまあ待て。ここに来たのはギルメラに関する事が書かれたものがあったのを思い出したからだ。あの光線の事も分かるから来るといい」
「本当?」
「なあ、地下の書庫を案内してくれないか?」
ピロンは受付のお姉さんにそう言うと、受付のお姉さんは目を背ける。どうやらあまり開けるのは気は進んでいないようだ。だが今はそんな事を言っている場合じゃない。ギルメラを倒さなければならないのだ。
「緊急事態だ。後で説明はする。いいだろう?ピロピロ」
「はい...」
受付のお姉さんはカウンターの奥の道に案内してくれた。少し道を進むと。茶色い扉が姿を表す。鍵を使い扉を開けると、その先には沢山の本が並んだ場所だった。書庫というだけあってアリス達の2倍以上もある棚にぎっしりと本がある。スキルの本やガチャの時に大当たりを引くというものもあり興味をそそる。だが今は、ギルメラの本だ。ピロンは少し奥まで進み一つの本を見つけると、それを手に取る。すると他の本もバラバラと落ちてしまい、アリスはその一つを手に取る。
「ガチャでは手に入らない。記憶操作の杖..?」
「どうした?戻るぞ」
「あ、はーい」
もみんな出口の方に向かっていた。アリスはその本を棚に戻し、ピロン達の方に向かった。集会場に戻り机に本を開く。結構古い本のようで所々シミや破れなどがある。ペラペラとページを捲ってピロンは目当ての事柄が描かれたページを見つけると「あった!」と大きく叫んだ。
「これだ!ギルメラ...」
ピロンはギルメラについて書かれた項目を指さす。そこには「相手を作り上げられた世界に送る」というものが書かれていた。
アリスの体験した元の世界で暮らしていたあの世界は作られた世界だったというわけだ。
「これって!」
「そうだ。あれを食らっても消滅するというわけではないんだ。その人が幸せだと感じるような虚構の世界に贈られる。普通なら脱出は不可能...なのだがアリスは今こうやってここにいる」
「なんでなの?」
「さあ?」
「さあって!使えないわね!」
「まあ待て。あいつを倒せば一応みんな助けることできるんだ」
「じゃあ、アルもホーも!!」
「あのお前と一緒にいた奴らか?ああ、助かるぞ」
希望が見えてきた。あいつさえ倒せれば何とか戻ってこれると聞き、アリスは少し嬉しい気持ちになる。だがピロンはその後に「よくないニュースというのもあってな」と続ける。
「何?その良くないニュースってのは」
「何だか変な奴らがギルメラを援護しているんだ」
「それって、あのゼロとかいう...!」
予想はしていたが、やはりというべきか来たか。魔物の世界の時からなぜかギルメラがめちゃくちゃにするのを手助けしていた。特にゼロとかいう奴はかなりの強さで今のメンバーが全員で揃って叩いて勝てるかどうかというレベルだ。ギルメラもいるしもちろんゼロにそんな人員をさいている余裕などない。何とかしてあいつらを足止めする必要がある。
「見つけたぞ」
そんな事をアリスが考えていると、そう言いながら入り口に立っているものがいた。そいつは腕の鉤爪を光らせてアリス達を見てくる。
「レミー...」
「おっちんだと思っていたんだが、生きてたんだな」
「レミー、何しに来たの?」
「いやな、話に続きでもしようと思ってな」
「話って..!」
「本当に俺がテティをやったかどうかだ。まあそれに関しては本当だと伝えたがな」
何を考えているのか?探しに来てまでそんな話の続きをしにに来たとは思えない。本当の目的は...。
「もう一度手を組もう」
「は?」
「今度はそこのお嬢さんも一緒にだ」
「一度裏切った奴と手を組むの?」
「まあ、普通はそうなるだろうな。だが、いい特典がある、と言ったら?」
「特典..?」