九十二話 夢に描かれた世界
「あれ...?」
アリスは目を覚ますとベッドの上にいた。ここはどこだ?ここは、何の変哲もない自分の部屋。何だか長い夢を見ていたような気がする...のだが思い出せない。ファンタジーのような世界で妖精の相棒がいた事ぐらいは薄らと記憶にあるがそれ以外は何一つ覚えていない。
時計を見ると7:10分。アリスはベッドから起き上がってクローゼットを開ける。
「早く着替えなきゃ高校に遅れちゃう!!」
そう言いながら急いでパジャマから制服に着替えてドアを開け、階段を降りた。机につくとテーブルには目玉焼きとレタスの乗った皿が置いてある。今日も美味しそうな朝ごはんだ。
「あ、アリスおはよう」
「おはよう、お父さん」
アリスが挨拶するとアリスの父親がそう返してくれる。椅子に座り「いただきます」と言いながら手を合わせる。そして近くの茶色い箸を取って近くにあった醤油をとった。そして夢の事を思い出してその話をアリスはし始めた。
「あのね!なんか夢をみたの!ファンタジーの世界を妖精の相棒と一緒に行く夢!!」
「そうか、それは面白い夢だな」
「でもなんか、夢じゃ無いような気がするんだよね」
「まあ夢って結構はっきりしたものもあるからね」
向こうの台所から母親の声が聞こえる。その言葉を聞いておそらくそう言うものだろうとアリスは解釈した。そして目の前の目玉焼きに醤油をかけて頬張った。
「アリス、時間は大丈夫なのかい?」
「やばい!!」
アリスは強引に目の前の朝食を口に押し込み、椅子から立つ。そしてカバンを持って大急ぎで玄関まで向かいドアを開ける。
外は暑く日差しが照りつけてくる。まだ夏では無いと言うのにこの暑さは参ってしまうな。門を出て少し早めに歩く。大丈夫だ大丈夫だと心の中で復唱しながらアリスはコンクリートの道を歩いていた
「...ス!」
「ん?」
何か声が聞こえたような気がした。足を止めて後ろを向くが誰もいないし、あたりを見回してみるがやはり誰もいない。がおそらく気のせいだろうとまたアリスは歩き始めた。全然記憶に残っていないくせにやけにあのファンタジーの夢が頭から離れない。思い出そうとしても全くと言って良いほど思い出せない何だかモヤモヤした感じだ。
「おはよ!」
「あ!おはよー!」
後ろからアリスの親友がそう言いながら後ろから肩を叩いてくる。アリスこ挨拶をして一緒に通学しながら親友にも同じ話をする事にした。夢を見た事、その夢がやけに夢っぽくなかったこと、そしてその夢が頭にへばりついている事などを諸々告げると親友も「うーん?」と言いながら首をかしげた。
「なんか不思議なこともあるんだね」
「ねー。そう言うのは無いの?」
「無いねー。まあ忘れられない夢ってのはあるけどそこまでって感じじゃ無いかなあ」
「やっぱそうかー」
そこで会話は止まった。何だか今生きているこの世界が違うような気がしてならないのだ。何と言うか、偽られた物語というか...アリスにとってはそのように感じてならない。
学校について机に座ると先生がやってくる。結構ギリギリだったようだ。先生の話を聞きながらぼーっと空を見る。今日も空が青いと考えていると目の前に先生が立っていた。いつ目の前に来たのかも全く分からないほどアリスは心ここにあらずという感じだった。
「ちゃんと話は聞くんんだぞ」
「はーい」
そう適当に返事をして、またアリスはぼーっとした。するとまた何かの声が聞こえる。何を言っているかは分からないし、誰の声なのかも分からない。近くの席の人が何かを言っているようには見えかった。
「ねえ、さっきの話だけどさ」
「ん?」
休み時間になり親友がさっきの事を聞いてくる。どうやらとても興味深々のようだ。
「なんかもしかしてその夢みたいなことが起こってた?」
「まさか!そんな事が!」
非現実的すぎる。ファンタジーの世界なので魔法や剣などが出てくる。そして魔物だって出てくる。ゴブリンやスライムみたいな王道のものからドラゴンまでいろどりみどりというやつだ。
まさかそんなものはゲームやアニメ漫画の世界でしか無いのでありえない。ましてやそんな場所に行くなんて事もだ。
「でもそういうのって行けたらいいよねー」
「まあ、そうだね」
とは言ってもやはりそう言うものに憧れのようなものはある。そういう世界があるのなら行ってみたいものだ。アリスは携帯でソーシャルゲームをする。もちろんこの学校は携帯を禁止されているので見つかったらおしまいだ。アリスはガチャというものを引く。
「こいこい!」
目と口のある大きな石に入れるとその石は大きく回転しながら白や青の玉を10個ほど吐き出した。
この石に投げ込むと先ほどのように石が回転し玉を出してくれる。その玉色々な種類があり、それによってレアなものが手に入ったりする。
「あれ?」
「どうしたの?なんか良いの当たった?」
「いや、これを見てると何かを思い出せそうな気がするんだ」
「何かって?」
「わからない」
何だか何かを思い出せそうな気がするのだが全然頭に浮かんでこない。少し考えて、すぐにやめてしまった。画面には様々な武器が映し出されている。その下に星がありそれでレア度というのが示されている。
「うーん、良いのこないなあ」
「まあそういう時もあるよ」
「そうだね」
授業が全て終わり家に戻った。夢のせいで全然内容が頭の中に入って来なかった。家に戻ると父親が新聞を見ていた。アリスに気づくと「おかえり」と一言。アリスもただいまと言うとカバンを置いてふーっと一息つく。
「そういえばお父さんも変な夢を見たな。アリスが遠い遠いどこかに一
行ってしまう夢。怖くて起きてしまったよ」
「大丈夫。私はここにいるから」
「そうだな」
何気ない会話。この日常がずーっと続けば良いと思っていた。アリスは階段を登って自分の部屋に向かう。ドアを開けてベッドに横になると肌触りのいい生地がふんわりと受け止めてくれる。何だかアリスは、このやりとりを一度やったような気がした。俗に言うデジャヴというやつだ。
しばらくベッドの上でぼーっとしていた。
「アリス!!ねえ!これいいんじゃないか?」
「え?誰?」
何だか突然目の前に現れたその男がそう話しかけてくる。シルエットのようになっていて、全身真っ黒く顔も名前が思い出せない。同い年ぐらいだから同じ学校か何かだったとかだろうか?何だか独特な名前だったような気がするのだが...何だったか。ただ知り合いだったということは判る。
「おいアリス!お前は俺と張り合える力があるんだからな」
「さっすがリーダー!!」
「さすがあ」
今度は3人組。同じようにシルエットで顔が見えない。なんというかアニメとか漫画とかでいう3バカという感じだろう...知り合いだという認識はあるのだが全く名前も顔も出てこない。
何だか変なダジャレの矢を使ってたような...ゲームとかのキャラクターだったか?アリスの頭にはこれっぽっちも浮かんですらこない。
「ねえ、あなた達は誰なの??」
「何言ってんだ!俺たちは◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️だろ?」
「え?なんて?」
名前の部分にノイズのようなものが走って何も聞こえない。もう一度尋ねるがやはり同じで全く聞こえてこない。何でなのだ???
「お前、リーダーの名前も忘れたのか?」
「ピロロロ、重症だな」
また別のやつが現れる。えっと、この人は...分からない。同じようにシルエットで名前が分からない。変な笑い方なのは覚えている。
えっと、この人は...何だか最初はてきだったが仲間...というほどではないが再開してから協力してくれた。えっと...。
「◾️◾️◾️の名前ぐらいは知ってるだろう?」
「え?教えて!誰なの???教えてよ!ねえ!!」
「夢...」
いつのまにか寝ていたようだ。時計を見ると6時ちょうど。夢にしては何だかまたはっきりとしている。あの名前がわからなかった人たちは誰だったんだろう?アリスは少し考えたが、所詮は夢。夢というのは知らない人もまるで友人や知り合いかのように出てくる何でもありの世界だ。おそらくそのような類のものなのだろうと考えるのをやめた。
「あれ?どうしたの?」
下の階に降りると両親が不思議そうにこちらを見ている。その姿を見て少し安心した。こっちが現実であの変なのが全て夢だったのだと。
時々逆になっているんじゃないかと思い始めるが全く根拠がない。アリスはが「晩御飯まだ?」と聞くと、「もう少し」と返ってきた。麦茶を飲もうと台所に向かおうとしたアリスは、ふとこんな事を両親に聞いてみることにした。
「ねえ、今って幸せ?」
「何言ってるんだ?幸せだよ」
「そうだよね」
そんな当たり前のことを聞いて何がしたかったんだっけ?アリスは少し首を傾げ、「まあいいや」とだけ言った。そしてアリスはこの世界で楽しく生きていこうと決めた。
おそらく読み終わった貴方は「?????」と頭にハテナをたくさん並べているでしょう。
次回に詳しく分かるので今はアリスの現実時代の掘り下げだな、ぐらいで大丈夫なので安心してください。