八十九話 決戦の地へ
「さて、再びゲームを始めようか?」
「アンタがそれ言うと本当にシャレにならないからやめなさい」
テティがそう言うと小さく「へいへい」とだけ言った。一度ゲームと称して街を破壊した前科があり、その言葉も笑い事では済まない。アリスはどうしたら彼らを説得できるのか...などと考えていると、先陣を切って話を始めたのはガーディスだった。
「まあ待て、心配ならお前らもついてくりゃいいだろ?その代わり、これから始まる戦いに巻き込まれる事にはなるとは思うがな」
「戦いだって...?」
「ああ。これからギルメラって奴との戦いが始まる。名前は聞いた事あるだろう?」
そう言うとキンキ達はお互いを見合った。「四獣」という異名もありながら知らない人は殆どいないだろう。いきなりそんな話をしたって信じてもらえない事ぐらいはガーディスにはわかっている。だからこそ、ドカンを監視すると言う名目で仲間に引き入れようとしたのだ。なんて狡猾なやり方だとは思うが、戦わなくて良いのならそれが最適だろう。
「だけど、私達で何とかなる?」
「大丈夫だってお姉さん。こいつは絶対に俺には逆らえないから。なあ?」
「あ、ああ...そうだな」
「あのドカンを...君は一体?」
「まあ、こいつらの腐れ縁さ。お前らの事も知ってるぞ。ドカンと一緒にいた奴らだってな」
「て言うか、私達が戦ってたのを知ってたってことはその時いたのよね?加勢してくれてもよかったのに」
「本当にやばい時はそう思ったがあのヴェラードとか言うやつが驚くほど仕事しててな。
確かに、ドカンの爆弾を解除したりドカンを倒したりと活躍はあった。というかヴェラードがいなかったらもっと大惨事になっていただろうと思うと誰もそれを想像したくはないだろう。
ガーディスが「って事で、いいよな」と言うと、「あ、ああ...。」と少し不安そうだがキンキが返事をした。
あのドカンが大人しいんだ。かなり心配だし一応ついて行くよ。この美しい僕がいれば100人力だろうからね」
「ヴェラードはいないの?」
「僕は美味しいもんがあればいいよー!」
「モグモ、まだ何か食べているのかい!」
「よし、決まりだ!」
なんだかんだでオノマトピアが揃い、皆仲間になった。性格はあれだが実力はアリスは一番よくわかっている。いるといないでは大違いになるだろう。
このメンバーで戻る事にした。
ピロンのところに戻ると、魔物の世界から遅れて戻ってきたメンバー達がいた。ルビスにマックスヒーローズ、そしてそれを連れてきたバーリム。だがそこにアンバーグの姿はなかった。
アンバーグがいない事に疑問を持ったアリスは尋ねてみるが、誰もがアリスから目を背けて何も答えようとしない。不思議がるアリスにマブが口を開いた。あまり口に出したくはないようだったが、少し口ごもって少し考えた後、言葉を発する。
「アンバーグは...こない」
「こないって?まさか置いてきたの??」
「いや...その...」
「いいから教えてよ!!」
「死んだ」
その言葉にアリスは頭の中が真っ白になった。死んだ?シンダ...しんだ...しん...頭の中でぐるぐるとその言葉が目まぐるしく回転している。理解しようとするが、アリスの中にある何かがそれを阻止しようとしていた。
死んだという言葉に呆然としていたアリスは「何?冗談??」とアリスは返すが、誰もそれを冗談だとは言わなかった。その途端死んだという言葉がアリスに向かってのしかかってくる。
「え?え?」
「俺たちが戻ったときにはもう...おそらくあの杖を使ったんだろうな」
「杖って... 呪われた杖って奴?」
「おそらく」
「何で?何で何で何で??」
その場に崩れたアリスは、それ以外何も言えなかった。そのまま俯いて何も喋らなくなった。
ルビス達はアンバーグを確かに見つけた。だがアンバーグは何も言わない。ビンタなどをしたが。寝ていたとしてらそれで起きるだろうし、様子がおかしい。アンバーグの肌からは、冷たい感触が伝わってくる。まさか...。そ一同は唾を飲み込んだのだ。
アリスは信じられずずっと俯いたまま。何も言わずにただ時間だけが過ぎていく。
走馬灯のようにアンバーグの事がアリスの頭の中に出てくる。
「おいアリス!あいつは何のためにアレを使ったんだ?」
「何のため...?」
「あいつは七天聖から守るために使ったんだろ?だったら今やる事は何だ!?」
「それは...」
残酷だがアリス達には時間がないのだ。すぐそこまでギルメラが迫ってきている。ギルメラを倒さなければまた同じ事になってしまう。それはアンバーグのやった事が無駄になるのではないのか??アリスは床につけていた手を握りしめて小さく「アンバーグ...」とだけ呟く。
「きっと甦らせたりする何かがあるはずだしな!」
「テティのいう時間遡行もあるしもしかしたらな!そういう世界だし」
「みんな...!わかった!!」
アリスはそう決意を決めると向こうの空を見た。今はギルメラを倒さなければならない。命をかけたアンバーグのために。
「武器はあと少しでできる。先に行っててくれ。後で持っていく」
「それ大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。ピロロ」
「私達に任せなさいよ」
「そうっス!」
「心配ずるな」
何だか自信満々のピロンに、一人ずつ喋る。あの装置を持っていくわけにもいかず、ピロン達に任せる事にした。
「行こう!ってどこに?」
「もちろん、ラグナタウンよ」
見えてきた木のアーチにはラグナタウンと書かれていた。それを潜ると悪そうな奴らがたくさんいる。その中の一人がこちらに向かってきた。テティは一度この流れをやっているため、そのやってきた人物も、この流れも何だか懐かしい感じだった。
「ゲイナス、久しぶりね」
「ああ?俺はお前なんか知らねーぞ?」
「あ、そうか、時間戻したからそりゃそうよね」
「んで、ぞろぞろと何のようだ?」
「ここは明日には戦場になるから」
「はあ?」
ゲイナスはテティのその言葉に首を傾げる。そりゃあ突然きてそんな言葉を言えばそうなる。だがゲイナスに説明しても無駄だろうという事は前きた時からわかっているし、強引に進もうとするが、ゲイナスがそれを遮る。
「待て!ラグナ様のいない今、俺が勝負を...」
「トロッコのレースでしょ?」
「なんでそれを?」
前にそのようなレースをしたのだ。と言っても時間が戻って現実に至るのであれの全部なかった事になっているが。説明は無駄とはいえ、ラグナのようになんでも壊すような頭のおかしいやつではなかったはず。交渉さえすればなんとかなったはずだ。何だかギルメラに滅ぼされた方の世界線のやった事は全て無駄だったというわけではないようだ。
「何だか普通じゃないなお前たち」
「まあ、一度訪れてるからね」
「ほう...?」
「あの時はラグナが街を壊して、ここにいるって情報を聞きつけて、あの先の洞窟に行って、入り口塞がれて、トロッコで妨害されて...墓場まで行って...無茶苦茶だったわね」
何だか面白そうな奴らだ。気に入った!」
「いいんですかい?」
「ああ」
「何か企んでるようだったが、確か武器は使わなかったはず。ほかの連中も制圧するだけなら出来るだろうし今は言葉に甘えるとしよう。
テティはここまでくる事を思い出す。色々あったがここまできたのだ。あとは武器を待って決戦に挑むだけ。もう一度、あのギルメラに未来が変わった事を思い知らせるのだ。そう思うとテティは拳を握り目には闘志を燃やした。




