八十話 白キ永遠ノ炎
「お前に何が分かるって言うんだ?」
ゲルムのその問いにアリスは「分からないなら...分かるまで話し合えばいい」とだけ言う。それに対してゲルムは奇妙に笑う。
「この人間はお人好しのようだな」
「どう受け取っても結構。私はテティと話し合う必要があるの。どいて」
「そうもいかねえんだよなあ...!」
そう言いながら、ゲルムはドラゴン・バスターを抜いてアリスに向かって行く。アリスの剣とゲルムの剣がぶつかり合う。さすが星6の武器というべきか、剣を交えるだけでその強さがわかる。あちらの攻撃を防ぎ切るだけでも精一杯なぐらいのアリスにゲルムは攻撃を続ける。隙を見て攻撃を仕掛けようとしてもドラゴン・バスターで防がれてしまう。
「なら..!魔の...雷刀!」
「ふん!」
アリスのスキルで生み出した雷を簡単に粉砕する。そしてゲルムが一振りすると竜の形をした衝撃が飛んでゆく。竜の体の部分がクネクネと波打ちながらまっすぐにアリスの方に向かって行き、アリスのところまでつくとまるで生きているかのように口を開けてアリスを捕食する。
アリスは竜の中に消えるがその竜を自分の刀で斬って何とか脱出する。だが相当の威力だったようでそこら中傷だらけだった。
「どうだ?俺の竜撃破は」
「ハァ...ハァ...なかなか聞くね」
「お前はそんなにしてテティに会ってどうしたいんだ?」
「それは...テティに話を聞いて...それで...連れ戻す」
「お前は何も知らない。知らないのによく言えたもんだな
「知らないなら知るだけよ!!」
「お前に、あの妖精がどんな気持ちでお前から離れたかわかるのか?」
「それは...」
アリスはそこから先を中々言わなかった。連れ戻すとは言ったもののテティが簡単に戻って来るとは思っていないだろう。持っている剣を強く握りしめゲルムの方を向く。
アリスも考えていることは、はとにかく今はこの魔物倒してテティの元に向かうという事だけ。だがゲルムのドラゴン・バスターは星7というだけあってかなりの強さだ。
さっきの竜のスキルをまた使われたらひとたまりもない。
「おしゃべりはここまでにしようじゃ無いか!!」
「くっ!!」
「やっぱりあの杖を使って!」
「ダメよ!!あれを使ったら、アンバーグの命が!」
「でも..!!」
「おしゃべりしていられる余裕は無いぞ!!人間!」
剣同士を再び打ちつけ合う。先程のやつを使ってこないあたり、おそらく次に使うには長めの時間がいるのか。アリスは一旦ゲルムから離れ今持っている剣をしまう。そして青い矢を取り出すと天井に向かってそれを放つ。すると刺さったところから大量の水が流れてくる。滝のように流れてちょうど廊下を塞ぐような形でアリスとゲルムの間に水が流れた。
アリスは「矢で打って!!」とアンバーグに指示をすると、アンバーグはダジャレを言いながら矢を放つ。すると滝のように流れた水は凍りつき氷の壁のようになってしまった。
「すげえ、あの滝のような水が一瞬で..!やっぱ俺のダジャレ弓は最強なんかないか!!」
「感心してないで!テティのところまで行くよ!!」
「おう!!」
すぐに氷は砕かれゲルムが顔を出す。しかしそこにアリス達がもう居ない事を確認すると、ゲルムは舌打ちして剣をしまった。
「まあいい。お前とあの妖精がどのぐらいの絆なのかは分からないがお前に何ができるかな...?
一方、こちらではゼロにヴェラードとラグナが対峙していた。その恐ろしいほどに迫り来る気に圧倒されながらもヴェラードは何とかゼロの方を見る。
「面白えじゃねえか!お前からはすげえモンを感じる!ぶっ潰しがいがあるってもんだ!!」
「おい!ラグナ!勝手に行くな!」
ラグナが剣で攻撃しようとするも白い炎に遮られる。今度はゼロの周りを一周しながら何回も攻撃を仕掛けるがなかなかゼロには届かない。ゼロは斧を生成し攻撃を仕掛けるが、攻撃が当たった感触はなく、ラグナの姿は消えたへっ、と笑みを浮かべて攻撃を仕掛けたすぐ横のところからラグナは勢いよくゼロの方へと飛び込んだ。
ゼロの5秒前の位置に移動する力で少し前の位置に戻り攻撃を仕掛けたのだ。ラグナは大きくスキルの名をいいながらゼロに攻撃を仕掛けようとした。
「柳斬気!」
だが攻撃が届く前に炎の槍がラグナを貫いていた。ラグナは血を吐きながらその場に倒れ込む。ヴェラードがすかさず攻撃をしようとするがまたあの炎を盾にして攻撃を防ぐ。
ヴェラードはラグナを連れていったん戻る。急所には当たってないようでまだ戦うことはできるだろう。
「なんなの!あいつ!」
「やはり只者では無いとは思っていたが...本当に勝てる見込みすらねぇな」
「あいつをぶっ倒すのなら序列2位と3位なら楽勝だろうが!」
「よくその傷で言えたもんだな」
「うるせえ!ほっとけ!」
ラグナとヴェラードがそんな事を話していると今度はゼロは炎で弓を形成した。それも何十個という規模ではなく何百個というぐらいだろう。ゼロが手を挙げるとその弓は一斉に発射され何百個もの矢がヴェラード達に襲いかかる。
「うおらあ!!」
ヴェラードが床を叩いた衝撃で矢を無力化しようとする。だがその矢も数が多すぎてU全てを無力化することは出来ずある程度はその衝撃で消えたがまだ何本もの矢がヴェラードたちに襲いかかる。膝や胸、肩を容赦なく刺していく矢。そこからは焦げ後と血が流れて来る。全てを受け切った頃には服も破れ炎によって火傷の跡がそこら中に残る。
「つまらん。もっと骨のあるやつだと思ったのだが...期待はずれだったな」
「さすがだな...だがこんなんじゃおわんねえ!!」
「ああ!行くぞラグナ!!」
「「うおおああああああああ!!」」
「柳魔斬!!」
「天下無双!!」
ヴェラードとラグナの2つのスキルがゼロに向かう。だがゼロは炎の槍と斧を生成するとその2つでそれぞれのスキルを自分のスキルでぶつけて来る。
「火炎葬送」
「なっ!!」
2つの同じ炎は2人のスキルを簡単に粉砕し、ヴェラードとラグナにそれぞれ向かう。それを避けようとするが炎はしつこく追ってきて渦状になってヴェラード達を囲む。ラグナの5秒前に戻る力でも逃げ切ることは出来ず、呆気なく渦に閉じ込められてしまう。
渦から小さな炎が何個もヴェラード達の方に飛び交って行き、少しずつダメージを与えていく。上から下から横からと四方八方から来る攻撃にヴェラード達は悲鳴を上げながら膝をつく。炎の渦から解放されヴェラードたちは満身創痍とも言える状態だった。
「ぐっ...なんだあいつは...俺たちじゃ話にならねえじゃねえか...」
「人間というのはこんなものか?やはりいらないものだな」
「ケッ...俺たちを倒したからっていい気になんのは早いぞ...!俺たちは所詮序列の2位と3位。本当にバケモノじみてんのは俺たちじゃねえ...あいつだ」
「あいつだと?」
そんな話をしていると、ガシャアンという壁が壊れる音。そちらの方を見ると煙の中に3人の姿が見える。煙が消えていくとその3人の姿がはっきりと見えて来る。
ケモミミの少女とお供と思われる悪魔の2人。それぞれ赤と青の悪魔。
その少女、ルナはあれー?といいながら周りを見る。
「ルナ様!さすがに壁壊すのはダメでしょう!」
「まーあとで直しといてくれればいいじゃん」
「そんな無責任な!」
「ルナ!」
そう呼ぶとルナは「あれ?何やってんの?」と名前を呼んだヴェラードの方を向いてそう言う。魔物の世界を満喫していたようで、出店の焼きそばの入った容器やたこ焼きの入っていたであろう船の形をした空の容器、頭には白い狐のお面をつけている。両サイドにいたいたレフとライも同じように虫を模した仮面をかぶっている。
任務放棄してこんな事をしていてもヴェラード達にとってはいつものことだと放っておいているのだ。倒れているヴェラードとラグナの方まで行き持っているものを置いて杖を取り出した。杖を使ってヴェラード達に回復を施す。ヴェラード達に緑の光が包み込み大怪我とも言える傷は凄まじい速さでどんどん無くなっていく。
「なんか楽しそうなことしてるじゃーん!ずるいよー!ボクも混ぜてよ!」
「なに?この子」
「こいつは七天聖の序列1位のルナだ」
「この子が?」
テティの目にはただの獣の耳を生やした少女にしか見えなかった。何というかおちゃらけている、序列1位というには何だか頼りなさそうな感じだ。
ゼロの白い炎がルナ、そしてレフトライの方に飛んでくる。あっという間に3人は炎の中に消えてしまう。
「なんだ、この程度なのか」
「大丈夫なの?あの子」
「ああ...あんなのじゃ痛くも痒くも無いだろうな」
心配するテティに、そのヴェラードの言葉は正しかった。炎から解放されたルナとレフとライは少しボロボロだったが、ルナが掲げている杖から出ている緑の光に包まれたその3人の傷はすぐに無くなっていった。ルナが掲げていた杖を下ろすと緑の光も無くなっていく。その様子を見てゼロも「ほう...」という声をもらした。
杖を下に下げてフーッという声を漏らしながらルナは獣の耳をピクピク動かし、おでこのあたりに手を当て横のスライドさせる。
「なにそれどうやったの!?!?なんか楽しいそー!!」
「あの獣女の回復させる杖...星7か」
「あれが...星7..?」
「本当にバケモノなのは俺でもラグナでもねえ、あいつだ。2位から7位までの俺たち全員でかかってもまず勝つのは不可能だからな」
「そんなすごい子なの?あの子」
「ああ、やろうと思えばこの世界、いや俺たちの世界だって簡単に支配する事もできる...それがあいつの杖だ」
武器紹介
滝起こしの矢
レア度☆
アリスが使った滝を作り出す矢。本当にそれだけしかない。使い所と言えばアリスみたいに凍らせて道を塞ぐぐらい。そうでもなければ普通に通過できるしあまり役には立たない。




