七十九話 闇より出し恐怖
「まだこんな所で油売ってたのか」
「え...あ...いや」
ラミーはうまく言葉を返せずマゴマゴしてしまった。あの威勢がどこに行ったのかと言うぐらい動揺している。テティが感じたこの威圧感...あの時と同じだ。闇魔と戦った時に感じた時のものと。
関わってはいけないという危険信号のようなものが鳴っているような気がする。それほどあの男、ゼロは...危険だ。ゼロが歩きながらレミーの方に近づくとレミーは冷や汗をかきながら言葉を探している。
「いや...その...えっと...」
「まあいい、早くいくぞ」
「おいおい、行かせるとでも思ってるのか?」
歩き出そうとする2人に装甲を纏ったドグロが立ちはだかる。戦う気満々のドグロと相対したゼロは笑みを浮かべながら白い炎を出してドグロに近づく。レミーの攻撃が効かなかった事で完全に余裕モードになっていたドグロは、魔法弾をだし先手で攻撃を仕掛ける。だがゼロはそれを簡単に避け、一気に距離を詰めると炎の剣でドグロの腹のあたりを殴りつけた。ドグロの装甲は大きな音を立てて壊れて本体の方にまで及ぶ。その力は凄まじいもので後ろの壁が全て壊れるほどだった。そんな威力にドグロは一発で動かなくなってしまう。
「いくぞ」
「お、おう。でもテティはどうするんだ?」
レミーがテティを見ながらそう尋ねる。このままでは自分もやられてしまうのではないか...。テティはそう思いながらゼロとレミーの様子を見ていた。流石にあんなのと戦っても敵わないと解っているテティはどうにかしようと頭の中で色々考えていた。だがなかなかいい案が浮かばない。
このままではゲルムのところまで行ってしまう。何とかしたいのだがゼロの威圧に何もできない。また何もしないのか?何もできないまま終わるのか?あの惨劇が頭に浮かぶ。またああなるのは...嫌だ!その気持ちが何とかテティの口を動かした。
「く、来るなら来なさい!相手になってやるわ!!あんたなんか..ボッコボコにしてやるんだから!!!」
「放っておけ。装置の破壊が先決だろう?」
「お、おう...そうだな」
その小さい体でファイティングポーズをとりながら震えた声でそう煽るテティに、ゼロはまったく興味なさそうにテティを無視して歩き出してしまう。「待ちなさいよ!」と叫ぶが全く聞く耳すら持たないで歩き出してしまった。
「ちょっと待ってくれくれねえか?」
「なんだ?お前達は」
その声にゼロ達は立ち止まる。そこには6人の人間の男女が立っている。左からヴェラード、ラグナ
ミーファ、クラウ、ノーブル、メイキス。それは七天聖だった。と言っても一人足りないので七天聖というよりこれでは、六天聖なのだが。突然の七天聖の登場。そういえばゲルムたちの目的の阻止とか言っていたな。加勢するわけでもないだろうし、このまま放っておくわけにはいかない。
「何でここにいるの..?ヴェラード!」
「まあ、色々事情があってだな...て言うかお前が一人なんて珍しいな」
「その辺にするのでアール」
「ついてきてやったんだからもっと破壊を求めてもいいんだろ!」
「ラグナ、うるさいですよ」
「ああん??まあいいや、この凄まじい感じ、あそこの男は絶対にヤベー感じだからな」
「ヤベー感じってなんだよ...まあ他のやつとは圧倒的に違う、バケモノの感じだな」
「バケモノって言えば、馬鹿ルナはどこ言ったんだ?」
「あいつはどっかで遊んでるんだろ。まあ放っておけ」
「前にいる鉤爪のやつはともかく、あの後ろの方のやつはどうするよ?」
「心配いらねえ。俺がぶっ倒すからよぉ!!」
「めんどくさい奴らだ。6人まとめて来い。それで十分だ。チンケな人間は一気に狩らないとな」
「ああ?なんだと?」
「メイキスはチンケなんかじゃないのでアール!ちょっと胸とか色々残念でアールが」
「お前もちょっと黙ってろ」
ゼロの言葉にフォローに全くなっていない返をするノーブルに、その言葉に対してとても不満そうにそう漏らすメイキス。それにしても七天聖の6人を相手にまとめて来いと言うこのゼロという奴の余裕は何なのだろう...。
その言葉に反応するかのようにラグナが先行する。ヴェラードが呼び止めようとするが真っ先にゼロの方に突っ込んでいく。その途中レミーが立ちはだかるのだがそれを簡単にあしらってゼロへと直行した。ゼロは右手から出した白い炎を作り出し斧の形に変える。その炎でラグナの剣を受け止めた。
「ふざけやがって!この野郎が!!」
メイキスも攻撃に参加するが今度は左手で炎を作り出して形を槍に形成するとメイキスの雷を纏った剣での攻撃を簡単に受け止める。どちらの攻撃も押し返し、創り上げた武器2つを合わせる。組み合わさった炎は鋭く長い剣のような形になり先端付近が槍のように3つに分かれている。その槍で真っ先に狙ったのはメイキスだった。その攻撃を雷で相殺しようとするも、相殺できないほどの炎が襲いかかってくる。
「メイキス!」
「次はおまえだ」
今度は隣にいたラグナの方に攻撃を仕掛けようとする。剣のような槍とその近くを漂う炎がラグナに向かって襲いかかってくる。ラグナは剣を横に傾け剣に武器となり鋭く尖った剣を当てる。熱気が一気に襲いかかって飛ばされそうだ。
だが剣で白い炎を押し返して無力化する。それを見てゼロも強者だと感じたようで少し嬉しそうな笑みを浮かべた。
「やはりあの方...強いですね」
「僕の隕石で吹っ飛ばすかー?」
「いやクラウとノーブル、ミーファは先にゲノムの連中を探しに行け」
そのヴェラードの言葉にクラウとノーブル、ミーファの3人はその場から離れて行く。その時にヴェラードが小さく「これであいつらだけは逃げられるだろ」と呟いたがその3人までには届いてなかった。
「うわあ...でっかあい」
アリスとアンバーグはその屋敷のあまりの大きさに屋敷を見上げていた。所々崩れているのを見る限り、やはりここで何かが起こっているのか、または起こっていたのは確実だろう。どっちにせよテティの情報が手に入るかもしれない。門はなくドアがすぐに見える。そのドアを開いてみると広いロビーが現れる。そのロビーの真ん中まで行くと誰もいないのを確認するためにあたりを見回した。あたりには誰もいない。
「なんか泥棒に入ってる気分だな」
「それ言うと本当にそれっぽいから言わないで」
「お?人間とは珍しいな。こんなところでないやってるんだ?」
ちょうどそこに通りかかったユオがアリスを見つける。アリスもユオをじーっと見ていた。
魔物が喋ることに少し驚きながらもアリスはいい機会だと思いテティのことを尋ねることにした
「あなたは?ここの住人?」
「いや、違うけど...まあ色々あってな。で、そこの人間は何の用なんだ?」
「えっと、小さい妖精を見なかった?」
「ああ、そういえばあっちの方でなんかやってる時に居たなあ...」
そう言いながらユオは右の方を指差した。アリスは「どうも!」と言いながらそちらの方に向かうがそれは遮られた。ドラゴンバスターを持ったゲルムが立ちはだかったのだ。
ゲルムは剣をアリスたちに向けながらニヤリと笑う。アリスはおそらくこの魔物がここの家の主だという事を察してアリスは一歩下がりながらゲルムにもテティの事を尋ねた。
「何をやってるんだ?人間とそこの魔物」
「テティっていう小さい妖精を知らない???」
「テティ...おそらくあいつのことか」
「テティを探してここにきたの。知ってるなら場所を...!」
「おそらくあいつはお前の元には戻らないだろうよ」
その言葉に「なんで...」とアリスは呟く。会話をしている隙にこっそりとどこかに行こうとしているユオに叱責をするとユオは体をビクッとさせて動きが止まる。
「あいつはやる事があるからな。私たちと一緒に」
「それは何なの?」
「まあ言っても無駄だろうがな」
ゲルムとギルメラを封じるために星7の装備を揃えていると言ってもアリスが信じないだろうとゲルムは思っていた。初めて会ったテティのあの感じからおそらくとても悲惨なことにあったのだろうというのはゲルムにも伝わったがそれはあくまであの「時を戻す」という力を知っている前提での話。それすら知らないアリスに言ってどうなるものではない。
「なら無理矢理でも連れて帰るから」
「それなら私を止めてみるといい」
アリスも剣を取り出して構える。事情が分からないとはいえ、ギルメラを止める作戦の協力者が一人でも減る困るのだ。なんとしてもそれは阻止しなければならないというゲルムとテティを連れて戻るというアリスの信念が今ぶつかり合おうとしていた。




