七十八話 呪われし杖(カースド・ロッド)
「何だこりゃ..?本当に魔物しかいねえじゃねえか」
アンバーグは周りにいる魔物たちをキョロキョロと見回しながらそう呟く。テティを追ってやってきた魔物の世界は、当たり前だが確かにどこ向いても魔物、魔物、魔物の魔物だらけだ。夜ということもあってそこまで数が多く無いが全員魔物だ。
ここに来たのはアリス、アンバーグ、そしてマックスヒーローズ。マックスヒーローズはただ単についてきただけなのだが。隣には偶々アリス達の世界にいたポロロ。このポロロの武器でこちらの世界に来たのだ。
屋台などが準備してあって人と同じぐらいの知能があるのだろう。
「で、どうするよ?これから」
「そりゃあテティを探すに決まってるでしょ」
「言ってもどこにいるか分からんからなあ...」
確かに、この魔物だらの世界でテティを探すとなると一苦労するだろう。周りの魔物も人間は珍しいからか先ほどから視線を感じる。
完全にアウェー感という奴だ。一人の小さな魔物がこちらに近づいてくる。見た感じ子供という感じだろう。モップのような魔物で体を覆うように茶色い細い毛が生えている。
アンバーグはその魔物を触ると細い毛が優しく受け止めている。まるで犬の毛を触っているようだ...何だか癒される...。
「君たちはどこからきたの?」
「遠いところだよ」
「何?それ」
その言葉は難しかったようでその毛で覆われた魔物は体を横に傾ける。アリスに呼ばれて「じゃあね」と頭をポン、と叩いてアリスの方へと小走りで向かった。
道を歩いていても色々な魔物が目につく。ツノが生えてるもの、液状のもの、翼が生えたもの...その種類は様々だ。
何だかアリスの様子が少しおかしかった。少しがっかりというか、なんだか落ち込んだような顔をしている。アンバーグはその理由を邪推しアリスに投げかけてみる。
「もしかして、お前も触りたかったのか??」
「ち、違っ..!別にそういうわけじゃ...!」
明らかに動揺している。どうやら図星だったようだ。手を動かしながら何とか誤魔化そうとしているが全く誤魔化せていないどころかその必死さが逆にそのアンバーグの考えを強めてしまう。
「で、どうするんだよ」
「まあとりあえず...あの店でなんか武器調達でもするか」
アンバーグが店を見つけてそちらに向かう。アリス達も向かうとそこには触覚が2本生えた2速歩行の青い魔物とその横には大きな岩が置いてあった。ここがこの魔物の世界のガチャができる場所だったのか。蛇の形をしていて口のところから武器が出るのだろう。
アンバーグは手持ちのジェムをカウンターに出すと店主に魔物はそれを受け取ると空いた口の中に放り込む。すると蛇の形の石は空いた口を閉じて回転し始め2、3回転ほどすると口がまた開かれそこから武器がたくさん出てきた。
「お、人間のお客さん、運がいいねえ!」
「本当か!?」
「ああ、何たって星4の中でもレアだと言われている呪われた杖が出たんだからなあ」
「なんじゃ?それ?」
「こいつは自分の命を使って対象者に呪いをかけるという恐ろしい杖だ」
自分の命を使って敵に呪いを....?なんて恐ろしい武器なんだ。こんなもの渡されても...アリスですらそんな事を思う中、1名だけ何だか逆のことを考えているような奴がいた。その男...アンバーグは寧ろ無邪気な子供のように目をきらめかせその説明を聞いていた。この感じ、おそらく使う気満々でいるのだろう。さっき自分の命を使ってと言っていたというのに...。
「話聞いてたの?これ使ったら死ぬんだよ」
「この命を使うなら..それでもいいか」
「そんなバカなこと言ってないで!返品するよ!」
「それはできないねえ。せっかく当たったんだから持っとくだけでもいいんじゃないのかい?」
「それは...」
もしかしたらこれを使う時が来るような状況が来るのだろうか...店主の魔物の言葉にアリスはそんな事を考えてしまう。アリスは首を横に振り「いやいや」とつぶやく。流流石にそんな事は...無いと思いたい。他の武器を見てみるが
これといってめぼしいものはなかった。小さな剣や槍、星は2や3なのでそこまで実用性はないだろう。
「さーて、誰に使ってやろうかなあ...」
「本当に使う気なの??」
「もちろん!」
「はあ...」
「あの!すみません」
そんな話をしていると魔物の女の子が話しかけてくる。まるで人のようで髪の毛が生えている。ただ人間と違うのは肌が紫でおでこの所にツノが生えているところか。
「えっと、誰のことだろう...俺たちここに来たばっかりだから...」
「あ、そうですかすみませ...」
その魔物がアンバーグを見た瞬間硬直してしまった。突然直立不動になるその子の顔の前に手をかざしたりしてみるが全く動く気配がない。不思議そうにアンバーグが見ていると、その女の子の魔物はもじもじし始め顔は真っ赤だ。
何だか様子が突然変になったその子は何かを伝えようとするのだがなかなかそれを伝える事ができない。数分経ってやっとやっと口を開いた。
「あなた...名前は?」
「えっと、アンバーグ」
「私、アミナ。あなたのことが...好き...」
「え???」
「あなたが好き!!!」
突然のその言葉にアンバーグも驚いた様子だった。これが一目惚れという奴なのだろうが、ここまで一目見ただけで惚れるぐらいの男だったかと少し疑問になるぐらいだ。その思いは本気のようで、赤た顔をアンバーグに近づけている。アンバーグは少し怪訝そうな顔をしている。
アミという魔物は「そうだ!」と何かを思い出したかのように手を叩き、「またね!ダーリン♡」と言いながら投げキッスをするその少女に、体を震わせながらとても嫌そうな顔をした。
なんだか台風のような子だったなと思いながらアミナの後ろ姿を見送る。
「ダーリンだってさ」
「うるさい」
その時、向こうのほうから大きな爆発音が起こった。少し遠くの大きな屋敷から煙が出ている。
「なんだ?」
「行ってみよう!」
何かあそこにあるかもしれない...!そう思い急いで煙の立っている大きな屋敷に向かった。
その屋敷は近くで見ると大豪邸と言えるぐらいの大きさがあった。だが壁や屋根が所々壊れていて壁の一部が草むら散乱している。
空いた壁から侵入すると赤いカーペットが敷かれた廊下に出る。
「ここからは手分けして探そう」
「そうだな」
「ははーん!何だかわからないがあのちっこい妖精を探せいいんだよな!余裕じゃねーか!俺に任せろ!」
「もういませんよ」
アルの言う通り、マブが喋り始めたあたりからアリスのアンバーグもマブなど無視して行動を始めている。その場にいるのはマックスヒーローズがポツンと立っているのみ。
「くっそ!あいつら!許さねーからなあ!!」
一方、レミーとドグロの戦闘は過激さを増していた。
ドグロの呼ぶゾンビに建物など気にせずゾンビごと建物を壊していくレミー。するとドグロは呼び出した10体ほどのゾンビを体の周りに纏わせ始めた。
「ナンダそりゃ。そんな事もできるのか?」
「死霊憑装」
「面白え!!このマリシャスクローの餌食にしてやるぜ!」
レミーが鉤爪で攻撃を仕掛けるが鎧となったゾンビに防がれてしまう。もう何度か攻撃を仕掛けるもやはり攻撃は通らない。
ゲルムの方は杖に標準搭載されている魔法弾を何発か放ちそれに応戦する。
「ライトニング・クロー!!!」
スキルの名前を言い放ちながら鉤爪に雷を纏わせながらゲルムに攻撃を行う。だがやはり攻撃が全くと言っていいほど通らない。
「チッ!めんどくせえな!」
「時間がかかると思ったら、何をしている?」
後ろからの男の声にレミーはビクッと体を震わせた。震えながらレミーは後ろの方を見る。
そこにはあの男、ゼロの姿だった。
武器紹介ー
ビシャスクロー
レア度☆☆☆
剣や斧、槍、弓ばかりの世界観にしては珍しい鉤爪。一部のところでしか無いような結構なレアもの...らしい。
呪われた杖
レア度☆☆☆☆
自分の命を使い、相手を呪うと言うなんとも恐ろしい武器。
使い手の命を引き換えにするだけあって相手に恐ろしいほどの痛みや苦しみを与える。




