七十七話 ゼロの意向
「アンタ...何でこんな所にいるの?ていうか...生きてたんだ..!」
「ああ、まあな」
その言葉にそのラミーという魔物はそう言いながらフフっと笑う。テティはその笑みを見ながらあの頃のことを思い出していた。
それはいつだったか...テティとこのラミーともう一人...レクという奴の3人でよく色いろんな物を探していた。
その時は「永遠の力を得られるという宝珠」というものを探すlというもので、とても順調だった。ただ、見つけるまでは。その帰り道、岩の突き出た山道でモンスターもそこまで強いというわけではない。だが、突然辺りが紫の煙に覆われてしまったのだ。その煙は広がっていきあっという間に3人の視界を遮る。
「うぐあああああああ!!!」
「なに!?」
突然の悲鳴。視界は煙に遮られて何も見えない。何が何だか分からずにいると、何かが凄まじい勢いでテティに近づいて来た。それはものすごい勢いで攻撃を仕掛けてくる。向こうの攻撃になんとか対応しようと体を仰け反ったが、その相手の刃物はテティの体に命中し、テティの腹辺りに傷を追ってしまった。刃物のような何かで切り裂かれたような傷だ。出血もそこそこしている。やっと煙が晴れるとそこには血を流して倒れているラミーとレクの姿。どちらも同じように刃物のようなもので切り裂かれていて斬られた所からは血が溢れていている。
ラミーは何とかしゃべる事ができるようで小さく「逃げろ...」とだけ呟いていた。周りを見るが敵のいる様子はない。テティは負った傷から血を流しながら飛んでいった。
「あれ?『永遠の力を得られる宝珠』っていう奴は!?」
「わからない...」
自分たちが先ほどまで持っていた宝珠も消えていた。敵の姿もないし...一体何が起きたのか...。
透明人間にでも襲われたというのか...?レクの方を見る。完全に死んでいるようだ。ラミーの方は動く事はできないようで切り裂かれた腹を抑えながら呻いている。
ラミーはゴソゴソと何かを取り出して差し出したのは一つの弓。テティはその小さな体全体を使ってテティの1.5倍ほどある弓を放ってみる。
その弓を地面に放つと青い渦が生まれ、その渦は大きくなりその中心に別の景色が見えてくる。桜 のようなピンク色の大きな樹。人一人分入れるぐらいの大きさだ。これは...向こう側がどこかに繋がっている、いわばワープホールというやつだ。
「すごい..!ワープホール?」
「早く...!」
その言葉にテティはヨロヨロとよろめきながらその中に入る。もしかしたら襲って来た奴がまたくるかもしれない。そう考えながらもテティが渦の真ん中を通り、樹のところまで進むと一瞬にしてその場所まで行けてしまった。この樹のところまで移動できるのか。それにしてもこの場所は...?
後ろを向くともうその渦もなく戻る事はできなく無くなっていた。
そしてこの樹の下で、アリスと出会ったのだった。
そこからラミーとは会っていない。それどころか生死すらて分かっていなかったのだ。
「何で...あんたらがここに?」
「何だか面白いことやってるようだからな」
「何を企んでいるの?」
「まあ、簡単にいうとだな...お前らの計画を邪魔しに来た」
ユオもおそらくその計画を知らずに仲間にしていたのだろう。ユオもラミーを見ながら少しだけ「何言ってんだ」とでも言うような渋い顔をしていた。
テティは邪魔をしに来たというかつての仲間に歯を食いしばり睨みつける。いったいこいつは何を考えているんだ...。そんな事を考えるテティにそれを口に出そうとした時、ラミーの言葉に、真っ先に横から口を出して来たのはユオだった。
「よくわかんねえが、俺はそれには参加しないぞ」
「わかってる。お前はあっちで遊んでろ」
「お、おう...」
ユオはその言葉に廊下の向こう側に走っていった。そして「さてと」と言い再びテティの方を向く。
「ゼロの意向」
「ゼロって...!」
ゼロ。その名前にはすぐにピンと来た。闇魔と戦っている時に突然現れた謎の男。ゴーンやアンバーグを圧倒しテティを殺そうとしたあの男が今回一枚噛んでいるのか。
一体ゼロという奴は一体何を企んでいるんだ...。頭の中でそう考えているとまるで頭の中のことを読み取られているかのようにラミーはこんなことを言い始めた。
「そのゼロってのは、何を企んでいるわけ?」
「んなもん知ってどうすんだ?まあ、何にせよ邪魔するって言うなら元仲間だろうが容赦はしないがな」
「何しに来たのって聞いてんのよ」
「まあいいか。言っても言わなくても邪魔するだろうしな。ギルメラって知ってるだろ?」
ギルメラ。その名前を聞くたびに奥の方にしまっておきたい嫌な記憶が戻ってくる。体の芯から震えるその名を。
その名前が出ると言う事は、ラミーもギルメラの何かを狙っていると言うことか。
まさか再開した仲間がこんな形で相対することになるとは。
「ギルメラを一回動かしたらこの世界はおそらく消え去るだろうな」
「くっ...」
そんなことはよくわかっている。あのギルメラの暴れた世界は地獄絵図と言ってもいいだろう。
「ゼロとか言う奴は、どうやらあいつを動かしてこの世界をどうにかしたいらしい」
「まさか!」
「おそらくそのまさかだろうな」
そのまさか。こいつらはギルメラを使って滅ぼす気でいるのだろう
「あんたは何でそんなのに参加してるのよ!」
「まあ、んなもん言ってもお前にはわかんねえよ」
ギルメラを始動させるということか。ゲルムたちが「早く来た」と言っていたのはこの者たちが干渉していたからなのだろう。だがどこからそんな情報を得たと言うのだ..?
ゲルム達が吹聴して居たのなら分かるがそんな事をするのか...?
応えては来れるかは分からないがテティは情報源を尋ねる。するとラミーは「さあ?」と首を傾げるだけ。
ラミーは手に取付けられた鉤爪を光らせる。灰色のグローブのような布の先の方に1センチほどの間隔で爪のように尖った刃が3つほど並んでいる。
何を企んでるかは知らないが、今この計画を邪魔されるとまたあのようになってしまう。どうにかしてそれだけは阻止しないと...!
だがテティ一人になにができるというのか?あのギルメラの時と一緒だ。結局自分は何もできずただ傍観しているしかないのか。
いや、そんなことは...!!
「もうあんな事は起こしたくないから..!くるなら来なさいよ!!!」
「ほーう...面白い。その小せえ体で何ができんだよ!」
「....っ!」
勢いよくラミーがテティの方に向かってくる。その時、テティとラミーが争っている廊下のすぐ近くのドアが開いた。そこからは1匹の魔物がとても不服そうな声を出しながらテティとラミーの方を見る
「こんな夜中にうるせえなあお前ら、お前ら何やってんだ?だれなんだ??」
「あんた!不気味なドグロ!」
「何で名前を...?」
ドグロは不思議そうな顔になる。もちろん時を戻した為ドグロも初対面ということになっている。
ドグロはテティとラミーを見比べながら何が起こっているのかを考えるが結局何あ何だか理解できず頭にハテナのマークを浮かべる。
「こいつがアンタらの邪魔をしるのよ!?」
「ほーう」
テティはそう言いながらラミーの方を指差す。ドグロはその言葉でやっと理解したのかそう言いながらラミーの方を見る。
「そこまで興味はないが、仕事しないと怒られるからなあ」とぼやいて取り出した杖を振る。すると魔物達がどこからともなくとゾロゾロとやってくる
「私の死霊人形使いは一人でたくさん動かすのが難しくてな。普段は操らず野放しにしているんだがな」
「ネクロ...て事は死体を操ってんのか?なんだか変なモン使ってるんだな」
余裕そうにそう煽るラミーにドグロのゾンビ軍団はラミーとテティに襲いかかってくる。
テティはまさかこっちにもくるとは思わず掴みかかってくるゾンビ魔物を払おうとする。テティのことを聞かされていなかったドグロにとってテティもただの侵入者にすぎないのだ。
ラミーの方は鉤爪で簡単に魔物を倒していく。
倒しながらもどんどんドグロの方に近づいてゆく。ドグロに攻撃を仕掛けるとドグロは杖でそれを防いだ。
「ちょっと!相手はこっちじゃないってば!」
テティと戯れる魔物を操作しラミーの方に向かわせる。だがそれもあっという間に倒されてしまった。
「終わりなのか?死体で遊ぶだけのイカれ野郎だったか」
「そんなわけないだろう」
そういうとドグロは姿を少し変えていく。頭にもう一つ目ができ骨が変形し鋭く体を突き出して伸びてゆく。
これは....確か、ユオが使っていた「獣鬼化」と言う奴か。
「ほう...」
「ここからだ」
ー
「着きました」
「ありがとうね。たまたま歩いていたあなたを捕まえてこんな無茶ちゃなこと頼んじゃったけど」
その魔物、ポロロはその少女に「いえ、大丈夫です!」と応える。
「えっと、アリスさん...でしたっけ?あなた達はこの魔物の世界に何の御用で?」
「友を...救いに来たの」