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七十二話 響き渡る慟哭


「そうはさせないっス!!」



そう言いながらカルラは自身の闇魔の杖で黒い穴を作る。テティは自分に向かって来たギルメラのブレスに当たる前に黒い穴に引きずり込まれて消えてしまった。

テティの目の前は黒に染まっていて何も見えない。そしてしばらくすると背景が黒い空間にたどり着いた。



「ここ...あのカルラの迷路のやつ..!」



まだカルラ達が敵だった頃にこの迷路には一度来ていたのでテティにも見覚えがあった。

その場所で一人、しばらくすると向こうの方に光が見えてくる。よろよろと出口へのも向かう。近づくと光が強くなって行く。その光を通るとその先には荒れた地だった。空は赤く染まり枯れた木々が生えている。



「あ...あ...」



テティは床に膝をついて泣き崩れる。もうなぜこの世に自分を残したのか。

こんな世界だったらもういっそ消えてしまった方がよかった。



「ああああああああああああああああああああああああ!!!!」



ひびきわたる慟哭。だたやりばのない憤りやら悲しやらがぐちゃぐちゃに混ざってまるで子供のように泣き叫ぶだけだった。

アンバーグ、ルビス、ピロン、バニア...仲間はたくさん居たが今はひとりぼっちだ。もう居ない。会うこともおそらくできない。あの顔を思い出すだけで涙が溢れんばかりにテティの小さな目からこぼれ落ちる。慟哭は4分ほど続いた。



「はあ....」



しばらく泣いて落ち着いたのか。ため息をついて立ち上がる。そして小さな羽をパタパタと動かしてどこかに向かっていった。

行くあては1つ。絶望したテティはギルメラに今度こそこの世界から消えて無くなりたいと思っていた。



「テティ...」



「アンバーグ!?」



フラフラと歩いていると向こうから歩いていたのはアンバーグ。アンバーグはテティを見つけると少し嬉しそうな様子でテティに近づく。



「みんなは?」



「それが...」



アンバーグの話によると、全員ブレスやあの爪で消されてしまった。アルも、ホーも...。



「なんでカルラは逃したの...?なんで私も皆みたいに...もう消えてしまいたいのに...」



「お前、馬鹿かっ!!!」



その時アンバーグの激昂が飛ぶ。あの基本的に馬鹿なことしか言わない、またはしないあのアンバーグがとてもまじめな表情で怒っている。

テティはいきなりのことにただただアンバーグを見る。



「みんなが何のためにお前を逃したと思ってんだよ!みんなの気持ちを無駄にすんのか?」



「で、でも...」



「もうこれで終わりなのか?俺は嫌だね!!!アルもホーも、もう居ない。だからってあいつらの残したモンを無駄にするなんて嫌だね!俺はあいつに争ってやる!!それがマックスヒローズだからな!!俺たちに不可能はねえんだよ!!!」



「あんた...」



「終わり?くだらねえ!!終わりと決めつけんのは勝手だが、俺は終わりなんて決めくないね!俺たちはずっと始まりだ!!!」



「そうね...」



マブなんかに励まされるとは夢にも思わなかったが、テティの目はまた活力を見つけて輝く。そうだ。ここで終わったら生かすために必死になった仲間を否定することになる。

手を握りしめただ「よし!!」とだけテティは呟いた。



「あんた...たまには役に立つのね」



「ああ!それどういう事だ!!」



「まあ...ありがと」



まさかテティに褒められる日が来るなんて..そう思いながら照れているテティにどういう顔をして良いのかわからずに顔を見えないように後ろを向いた。



「で、どうするんだ?あの誰に求められない化け物をどう処理するんだ?」




「うーん」



「星7の...武器」




不意にそう口にしたのはマブだった。その言葉に「なに?」と不思議そうな表情をしながらテティは首を傾げる。



「あの喋る魔物が言ってた。星7の装備を集めてあのギルメラとかいうやつに対抗できるモンを作ってるんだとか何とかって!」



おそらくその魔物というのはゲルムかヘントール達ゲノムのことだろう。



「じゃあ!それを使えばんなとか!!」



「だがどうやってあっちの世界に行くんだ?しかももうあれを知っているその本人はおそらくもう...」



「とりあえずそれしかないんだからやるしか無いわよ!使えないあんたでも少し早くに立つわね!」



あの喋る口の悪いテティが戻ってきたのだとマブは少し嬉しそうな表情をする。あの言葉で立ち直ったてテティを見てマブも「よーし!!」と言いながら手を伸ばした。







「やっぱり、どこも同じような感じね...」



あれから何時間か歩いた。だがいくら歩いても同じような景色しかない。この世の終わりとも思える全てがなくなった世界だけが続く。あギルメラにかればこの世界など簡単に制圧できるのだろう。



「ほんと...この世の終わりだ。だなこりゃ」



「なんだよ!」



向こうから声が聞こえてくる。そちらの方に行ってみると魔物が一匹。

他に誰も居ないようだしおそらくこの魔物が喋っているのだろう。



「えーっとあのー」



「うわ!なんだ?人間!」



その魔物は少し驚いたような表情でこちらを見る。

魔物だし恐らくゲノムの関係者ということはすぐに察しがついた。

なんだかゲルムにどことなく雰囲気が似ている...ような気がする。気がするだけかもしれないが


「あなた、ゲルムわかる?」



「おお?あいつの知り合いか?」



「あなた、ゲルムがギルメラを倒す何かをやってるって聞いてない?」



「あーなんか言ってたような。ていうかお前らはどういう関係だ?」



「えーっと..」



言葉に詰まる。正直ずっと敵だったのでどう言って良いかがわからなかった。まあ適当に言えば良いかとテティがこんな事を言い出す。



「それの手伝いをしていたの。このマブと」



「お、おー!そうだよ!」



突然話の矛先を向けられたマブは愛想笑いをしながらその魔物を見る。



「俺っちはバーリム。よろしく!」



「ええ」



「で?どうすんだ?」



「とりあえず魔物の世界に行きたいの」



そういうとバーリムは大きな門を出す。鉄の門が現れる。その門に見覚えのあるテティはこんなことをバーリムに尋ねる。



「もしかして、魔物の世界から戻してくれたのって...!」




「ああ!思い出した!あの魔物の世界で迷い込んだっていう人間の!」



そういうと手を叩いてテティに顔を近づける。魔物の世界に迷い込んだとき、バーリムがこっそりとアリス達を元の世界に戻してくれたのだ。

あの時は遠くから遠隔でやっていたためテティ達は知らないし、バーリムは遠くでよく顔も見えなかっただろう。



「あれ?あの時確か、ゲルムに追われていたような」



あの時はホワイを争奪するためにゲルムと魔物の世界で一悶着やっていた。テティは「細かいことはいいから!」と誤魔化すとバーリムは「まあいいか」とだけ言った。



門の中に入るこの先には魔物の世界が広がって...。



いなかった。



そこに広がっていたのはすでにギルメラによって滅ぼされた世界だった。





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