七十話 冥界より出でし凶獣
「なんだあいつ...!」
「あいつは...ギルメラ」
「ギルメラって...!あの!?」
ギルメラというワードに誰もが反応する。四獣というだけあって、向こう側で暴れているギルメラはこちらに人がいるのを見て大きな足音を立ててこちらに向かってくる。近くに来ればくるほど恐ろしい雰囲気が漂ってくる。
「なんなの?ねえ!」
「と、とりあえずあいつをどうにかするのが先決だろ!!」
「だな!」
そう言いながら剣などを抜いて果敢にもギルメラに襲いかかる。だがギルメラが腕を一振りするだけでヴェラードが大きく吹き飛ばされてしまう。
「おい!ヴェラード!!」
ギルメラが口から何かを出そうと白い光を口に集中させている。テティは近くにあった自分より一回り小さい石を見つけると、それをギルメラに投げつける。その石がギルメラの方に命中するとギルメラのターゲットがテティに変わる。口に集中させていた光を発射させた。
「テティ!!」
即座に反応したルビスが、テティを突き飛ばして光線の直線上に立つ。その光線を受けたルビスは、跡形もなく消えてしまった。
「ルビス...どこ行っちゃったの?」
「ルビスは...死んだ」
アンバーグのその言葉にテティは「何を!!」と激昂したようにアンバーグの服を掴む。
「お前も見ただろ?トンネルの半分を消したアレを。アレは塵にして消すものだ。アレを食らったら...もう」
「そんなわけ..!」
「現実を見ろ!!ルビスはもう..!」
現実を直視できないテティに、珍しく叫ぶアンバーグ。そんな話をしているうちに、ギルメラはこちらに向かってきた。
大きく振りかぶるギルメラ。その手には鋭く白く光る爪。勢いよく振り翳しテティへと向かって行く。
「くそっ」
そう言いながら後ろ向きでテティの小さな体を覆うかのようにテティの前でアンバーグが立ちふさがる。
次の瞬間5本の爪がアンバーグを貫き、貫いたところと口から大量の血を吐き出している。
「に...げろ」
「ア、アンバーグ!!」
そう言いながらアンバーグは倒れてしまった。土の床が血で染まっていく。もう言葉を失って何もできないテティにギルメラは近づいてくる。
「テメエの相手は...こっちだろが!」
ヴェラードがそう言いながら攻撃を仕掛ける。だがギルメラには全く聞いていないようだった。
向こうからさらにゲノムの一同まで駆けつけてくる。その状況にとても困惑しているようだった。
「何でこいつが!?30日すらまだ経っていないのだろう」
「どうするよゲルちーん。もうこいつ来ちゃったらどうしようもなくない?」
「うるさい!もうどうしたら良いのか...」
「ラグナさんは...ラグナさんはどこに!」
慌てふためく人間をよそに暴れまわるギルメラ。ヴェラードも何とか対抗しようとしているがあのヴェラードですら太刀打ちできていない程。俗に言う無理ゲーという奴だ。
いや、無理ゲーなんていう軽いものではなく本当に絶望感と言うしかない程だった。
「ああ...」
逃げろ。その言葉を思い出しテティはただひたすら逃げるしかなかった。後ろではあの塵まで残さない光線がヴェラードにあたり跡形もなく消えている姿が見える。
だが前を向いてただ逃げるしかなかった。現実に目を背けたくなくてただただ飛ぶしかなかった。
しばらく飛んでいるとテティ達が拠点にしている街が見えた。早くこの事を知らせないと。早く。早く。早...。
だが次の瞬間白い光線が大地を伝いながら街へと放たれる。町の半分は一瞬にして消えていってしまった。
「嫌...嫌...」
立ち止まりただそう呟きながら頭を抱える。次々と死んでゆく仲間達。ギルメラという最強な存在。嫌だ。嫌。嫌。嫌。嫌。
もういっそのこと自分まで消えてしまいたくなるような気持ち。
その時誰かがテティを拾い上げ走り出した。顔を見ると、見たことのある顔がこちらを向いていた。
「あんたは生きてたのね。よかった」
「おばさん...」
「まだその減らず口をいう余裕はあるようね」
走りながらバニアはそうテティに声をかける。しばらく歩き半分消えた街に着く。街でもやはり大混乱が起きていて人々が慌てふためいて右往左往している。
バニアは自分たちの店に急いで入ると「よし!」と言いながらテティを椅子に座らせた。
「お前だけでもいて良かったよ。ピロピロ」
そう良いながら笑うピロン。その横で「どうなっちゃうんスかねえ」と呟き菓子を頬張るカルラ。
ゴーンは奥で何かをしているようで少し顔を出しただけだった。
「みんなが...みんなが...」
泣きそうになりながらテティがそう呟く。あえて何があったかは聞かずにそうか...とだけピロンは呟く。
「これからどうするか...だな。おそらくここも安全ではないだろう」
「ピロン、どういうこと?」
「あいつぐらいならここだって簡単に居場所が割れてしまうだろう。今はこっちにまだ来てないようだが、いずれこっちに来たら...」
「どうずるんでずがピロン様!!」
後ろからゴーンの声が聞こえる。相変わらずの濁点...とかいっている状況では全くなくテティもいつものその悪い口も黙ったままだった。
「あら、さっき私に『おばさん』といったその減らず口はどうしたのかしらね」
そういっても黙ったままのテティに少し心配そうな顔になる。少しして全てのことをテティは話し始めた。アンバーグやルビス、ヴェラードのこと。アリスが行方不明なことなど包み隠さず話した。
「そうか...」
「大変な目に...」
コンコン。その時、突然のノックの音がした。その音にに誰もが扉の方を見た。状況も状況ということもあり誰もが警戒する。
だがその入ってきた声はそんな警戒をものともせず入ってくるや否や目を煌めかせながら内装を見ていた。
「わー!何ここすごーい!!」
入って来たのは一人の少女。獣の耳と尻尾をはやしている。年は15、6ぐらいか。
その少女は内装をグルーっと見回しながらピロンを見た。少女の他に赤と青の魔物が慌てたような表情で少女を追う。
「何ここ!すごい!すごい!
「なんだ?この獣のガキは」
「ルナ様!早く逃げましょう!あの怪物がここまで来るかもしれません!」
「ルナって...あのルナなの?」
ルナというワードに反応しバニアがそう呟く。だが他の者は誰一人ルナを知らないようで誰もが首をかしげる。
「ほら!七天聖序列1位の!!」
「噂で聞いたことがあるな」
「で、その序列1位が何しに来たんスかね?」
「ああ申し訳ありません。ルナ様はすぐにどこかにフラフラと行ってしまうものですから。ああ、我々はルナ様の専属部隊、通称『ルナ隊』のレフとライと申します。そしてこの方がご存知な方も多いかと思いますがルナ様です。
「ここ、おもしろーい!」
こんなことになっているというのに呑気に獣の耳をパタパタと動かして売っているものを見る。
ピロンは「はあ」とため息をつきながら顔に手をつける。
「で、どうするんだ?」
「どうするも何も、このまま逃げ続けるしか...」
「逃げるなんで、どごに逃げれば良いんでずが!」
ゴーンのその言葉に誰もなにもこつぇられなかった。それもそうだ。あんなものいくら逃げても逃げ場がない。あの好き勝手に空間を移動するあの力のせいで。
「グオオオオオオオ」
再びヤツの唸り声。ピロンの言葉は正しく、ギルメラは、床を突き破って地下にあるこの店にまで襲いかかって来た。天井がなくなった状態になり、ギルメラの姿があらわになる。
「あ...あぁ...」
「逃げろ。」
「でも!」
「何?この子!面白そー!」
ギルメラに興味津々のルナは真っ先に突っ込んでいく。テティは決心がつかないのかただ考えているだけ。
「何をしている行け!!他の奴らが何の為に『逃げろ』と言ったんだ!?」
「それは...」
そう言われてただただ逃げるしかなかった。ひたすら、無駄だとわかっていてもただそうするしかなかったのだから。
テティの去った後に冷や汗をかきながらギルメラを見た。
「ピロロ、とかカッコいいような事を言ったのは良いがどうするよ?」
「まあ、なるようになれ...よね」
「そうだな...テティの為にも...な」




