六十六話 彼方に彷徨う亡霊
チャッピーにしばらく乗って少し遠くまで行くと、少しゴツゴツした岩場のような場所にたどり着いた。チャッピーが大きく羽ばたいてその場所にドシンと大きな音を立てて着陸した。
周りを見るが奴らの気配はない。大丈夫そうだということを確認しながらアリス達はチャッピーから降りる。
「アンバーグ、しばらくチャッピー使うの禁止ね」
「なんでだよ!」
「そんなんで飛んだら目立つじゃない!まあ、囮にまたなってくれるならいいんだけどね?」
「いや...それは...」
流石にそれはマズいと思ったのか、アンバーグは黙り込んでしまう。
チャッピー自体アリスやアンバーグの何十倍の大きさがある。こんなのが空を飛んでいたら目立ってしまうだろう。
少しの沈黙の後、テティが「でさぁー」という声を出し、さらにこう続ける。
「で、どうするの?」
「もういっかい話をつけてくる」
そう言い去ろうとするアリスをアンバーグは「おい!」と呼び止める。
流石に話し合いでうまくいく相手ではないことは誰が見ても一目瞭然だろう。アリスは立ち止まり何かを考えたかと思うと、また歩き始めた。
「おい!どこ行くんだ!」
「さっきの墓場みたいなところ」
「あんな所に行ってどうするんだ?」
その言葉に立ち止まってアリスはアンバーグの方を向く。パサっと髪が踊るように揺れる。
「あそこの亡霊を浄化すれば少しは考えてくれるなじゃにかなって」
「それでうまくいく...とは思わないけど..でもどうやっていくんだ?」
今アリス達がいるのはラグナタウンとは真反対のところ。ラグナタウンに近づかないように、そのような場所に降りようというアンバーグの提案だ。
先ほどの墓場は山で囲まれていて簡単に行ける場所では無い。
「こっちからの入り口は無いの?そこから...」
「飛んでる最中に見たがどうやら無いようだ」
「じゃあ、しょうがない、さっきのを変更!バレない程度にチャッピー使って移動って事で」
「さっきまでの言葉は何だったんだよ...」
「まあ、バレないように低く飛べば平気だろうし」
はあ、とアンバーグはため息をつきながらチャッピーの方に寄る。現実的では無いが、聞き出す以上あいつらの相手をしなければならない。少しでも戦いの起こらないというアリスなりの配慮みたいなものだろうか。
ここからあっちに行く手段はどうやエアないようだし、チャッピーを使うのもやむ終えないだろう。
「わかったよ」
「やったー」
「だが俺は降ろしたら行くからな」
「分かってるって」
ほかにいい案も無さそうだし、乗せていくことにした。
墓場はその墓場という名もあって不気味な雰囲気を醸し出していた。紫の霧が出ていて、より一層墓場という雰囲気を感じる。さっき来た時もこんな霧はあったか...?そんな事を考えながら墓場に着陸した。あたりを確認する。よし、気配なは無いようだ。
「それじゃ、俺はルビス達探すから」
「頑張ってねー」
手を振りながらアリスはアンバーグを見送る。先ほどのまでのチャッピーを使わないだとか云々のくだりはいったいどこへ行ったのやら、小さくなるまでアンバーグを見送ったアリス達は真ん中の方へ歩き出した。
「ほんと雰囲気だけは凄いよね」
「ほんとそうね」
あたりには亡霊が歩いている。半透明で、どうやら死んだ直前の状態の姿のようで体がボロボロなものもいれば頭のないものもいる。
「で、どうするの?」
「これがあるじゃない」
アリスが取り出したのは一つの槍。それは『浄化の槍』だった。これはバニアが闇間に取り憑かれた時にそれを祓った、いわば闇払いの道具だ。テティはこんなものが役に立つとは思わなかったが、そう言ってバニアの時も馬鹿にしたのだが実際は役に立ってバニアを救ったという功績がある。
「まあ使ってみないと分からないからね」
「そうね」
ここにいるということは何か未練とかがあるとかそういうのだろうから効くだろうという如何にも安直な考えで使ってみる。だが目の前の赤い服の半透明の亡霊は全くと言っていいほど何も変わってないではないか。
「やっぱり、ダメよね」
「正直わかってた」
「どうするの?また戻ってくるのを待つ?」
テティの提案を全く聞かずまるで取り憑かれたように歩き出すアリス。そのアリスの向いている方向を見ると何やら大きな女性の霊のようなものがこの墓地の真ん中に立っている。黒いワンピースのようなもので手招きをしている。
「ちょっとアリス!」
止めようとするが全く効く耳を持たない。アリスの頬を引っ張ってみると我に帰ったのかアリスはあたりを見回して不思議そうな顔をしている。
「邪魔...しないでっ!!!」
「今あの霊喋ったわよね??」
たしかにその霊は「邪魔しないで」と言っていた。そしてその女性の霊が床に手をやると凄まじい勢いで床が黒くなって行く。その黒何かは円の形でどんどん大きく広がって行き、アリス達の方に近づいてくる。
「ちょっと!なにあれ!?」
「わ...わからない...!でも逃げた方がいいのは確か..だよねっ!」
後ろを向いて走り出す...のだが円状に広がって行く黒い何かはすごいスピードで広がって行き、アリスの足元にまですぐに到達してしまった。
「沈んで行く...!」
まるで沼のように足元からどんどん沈んで行くアリスに、それを助けようと何とかひっぱろとうとするんだがどんどんアリスの体は沈んで行く。
「アリス!!!」
「うぐっ...!」
数十秒程度でアリスは完全に沈んで姿が見えなくなてしまった。アリスを飲み込むと黒くなっていた地面は元の床に戻っていた。先ほどまで黒い女の霊がいた所を見ても誰もいない。
「アリス...どこ行っちゃったのよ...」
そう嘆くテティの声だけが響いた。
ーー
「ここか」
その者たちはそう言いながらラグナタウンの入り口に立った。
歩き出して「ラグナタウン」と書かれたアーチをくぐる。アーチをくぐってすぐに何人かの男女がこちらを見ているのが見える。しかも何やら異物でもみるような眼差しだ。そりゃあそうだ。きたものたちは人間ではないのだ。
「おい、そこのお前たち、ちょっと聞きたいことがあるのだが...」
冷たい眼差しを向けるその男女にそいつはそう尋ねるのだが。ただそいつを見るだけで何も答えようとしない。
一人が立ち上がりそいつの方へ近づいてくる。
「何だ?喋る魔物だなんて、珍しいな」
「ゲッゲッゲ、お前らのトコじゃそうだろうな」
「ゲルちんなんかセリフが強キャラっぽーい」
「それはやめろ。オホン!ここにラグナというものは居るか?我らはゲノムという組織のもので、私はゲルムという」
「ん?また客か?っておお、魔物が喋ってやがる」
近くにあった青いボロボロの家から出てきたゲイナスはゲルム達を見て少し嬉しそうにそう言いながら近づく。
物珍しそうにゲルム達を見ながら
「ラグナってやつに会いたいんだが」
「ラグナさんに何の用があるってんだ?」
そう、ゲルムに尋ねても「さあな?」と誤魔化すだけで全く答えようとすらしない。
「テメエ!!」
「やめろ。俺の客だ」
向こう側から声がして誰かが歩いてくる。その声の主を確認するやいなや、ラグナは腕を下ろしただその男をずっと見ていた。
「ラグナ...さん」
「ええと、お前さんがあのミドナ...?とかいうやつの仲間か」
「ゲッゲッゲ。そうだ話はミドナから聞いているはずだ。我々にあの白の魔術師を引き渡してくれるのだと」
その話を聞くと、ラグナはにこやかな顔をして「ああ」とだけ答えた。




