六十四話 ラグナ・タウン
ラグナ達を追っていたアリスは、ラグナの次の行動に心当たりがあるというヴェラードに連れられて荒地を歩いていた。
距離はアリス達の街から歩いて30分ほど。向こうの方には小さな町がみえてきた。遠くからではあまりよく見えないが、古びた建物が並んでいるように見える。
「見えてきたぞ。あれだ」
「あれは?」
「あそこはラグナが統治している荒くれ者の街、通称『ラグナタウン』だ」
「ラグナ...タウン」
「気をつけろ。あそこはラグナを慕うものしかいない。お前らもあいつを見てきたのなら分かるだろうが、危険なやつばかりだ」
そうヴェラードは注意を促しまた歩き出す。近づいていくと木でできたアーチ状の入り口が見えてくる。周りは柵で囲われていて、少し右の方には苔が生えた井戸が見える。いかにも西部劇にでも出てきそうな雰囲気だ。
「なんか、西部劇って感じのところね」
「あーすこなドラマがあったのになー早く元の世界に戻りたいぜ」
「ヴェラードもしかしてそれって、半側直樹?」
「そうそう!」
半側直樹は元の世界にいた時に流行ったドラマだ。「倍に返したるで!」というフレーズが有名な金融のお話だ。
「あー俺もそれ好きだったわ!!」
アンバーグまでもがその話に乗り始め、想像以上の盛り上がりを見せる。だがテティが「そんなことより早く行かなくていいの?」というと誰もが今の目的を思い出し中に入っていく。
「なんか変な人いっぱいいるね」
「見ちゃダメよ」
「オラァ!!」
その声とともに何人もの男達がアリス達にいきなり襲いかかってきた。突然の剣や槍の攻撃を、なんとか防ぐ。
「何なの?あんたら!!」
「ヒャッハー!!これは俺たち流の歓迎の仕方なんだよぉ!!!」
「悪趣味ね」
遠くからの弓の攻撃に、一旦相手の武器を離して飛んできた矢を全て撃ち落とす。
「待ってくれ!俺たちはラグナに会いにきたんだ」
「ラグナさんにだぁ?何の用かは知らねえが、消えろ!!!」
そう言いながら男達は再び襲いかかって来る。
ヴェラードとルビスは簡単に倒すがアリスもアンバーグも少し苦戦しながら荒くれ者共を処理して行く。
「おいおい、一体何の騒ぎだ?」
騒ぎを聞きつけて一人の男がはあ、とため息をつきながら歩いてくる。その男の登場で争いは止み誰もがその男の方を見る。少し背は高めで黒髪のその男はこちらに歩いて来る。
「なーに遊んでんだよお前ら」
「ゲイナスさん!」
そのゲイナスと呼ばれて言う男はどうやあら寝ていたようで髪には寝癖があり眠そうにあくびをしている。死んだ魚の目でこちらを見ている。
「んで?そいつらは何なんだ?」
「ラグナに会いたいんだが」
「ラグナさんに、だあ?そりゃあ無理な願いだな」
「だったら...無理矢理でも通してもらうしかないよな」
まさに、お互いが一触即発の状態だ。周りにはいつの間にかそこら中に居た奴らに取り囲まれていた。20、いや30はいるだろう。
「まあ待て、俺は剣とかの戦いは好まねえんだ。まあ、そうだな...」この先に洞窟いるゴブリンの魔物がちょっかい出してきて困っててな。そいつを退治したら...考えとくよ」
「本当か?」
「ああ、嘘はつかない」
テティは何だか嫌な予感のようなものはしていたが、洞窟に行くことにした。
「大丈夫なの?いきなり襲いかかってきたような奴らだよ?」
テティは小さな声でヴェラード達にそう尋ねた。するとヴェラードはこう返してくる。
「戦わないで済むならそれでいい。あの数相手にするよりかはいいだろ」
「そりゃあ..そうだけど...あの頭ヒャッハー集団が簡単に教えてくれるとは思えないんだけど」
「まあ...その時はその時だ」
街から少し行くと確かに洞窟があった。大きく開いた口の中は暗くて何も見えない。上の方を見るととても高いようで、てっぺんが全く見えない。
「さーて、いくよ!」
「だな!」
意気揚々と洞窟に入ろうとすると大きな音が聞こえてきた。見上げると岩がいくつもこちらに向かって来るのが見えた。大きさは違うがどれも人間かそれ以上の大きさはある。
凄い勢いで来る岩に、誰かがこう叫んだ。
「洞窟の中に!!」
その声を聞いて誰もが洞窟の中に入り込んだ。岩は洞窟の入り口を塞ぐように凄まじい音を立てて積み上がって行く。洞窟まで走って行って振り返る頃には外の光が見えないぐらいに、入り口は大きな岩で塞がれていた。
「大丈夫?みんないる??」
テティの声。だが入り口を塞がれた洞窟は真っ暗で姿すら見えない。するとアリスがキャッ!!という可愛らしい声を出した。
「誰かお尻触ったでしょ?」
「そんなお約束な展開をするような奴はいねーよ!!」
そう反論する声はアンバーグ。するとルビスが灯りをともしてあたりは見えるようになった。
「何だったんだ?」
「さあ...?」
「とりあえず進んでみましょう」
「だな」
洞窟を進んでいると、分岐する場所に出た。右と左に行けるようだ。
先頭のヴェラードは、立ち止まって後ろにいたアリス達の方へ体の向きを変える。
分岐だな。じゃあ俺一人で右へ行くから、お前らは左を頼む」
「いや、俺もこいつについていく。いいだろ?」
ヴェラードの提案に異議を申し立てたのはルビスだった。ヴェラードはルビスの案に「しょうがねえなあ」と
だけ言った。
「わかった。じゃあついてこい」
そう言うとヴェラードは右に進んで行く。そしてルビスもついていくように左へと向かった。
「左が良かったのになー」
「大丈夫よアリス!残り物には何とやら..!って奴よ!」
「よし、行くぞ!」
「何でアンバーグが仕切ってんのよ」
仕切るアンバーグに、そう不満そうにテティは声を漏らす。だがそんな言葉は聞くこともなく、右へと進んで行った。
「どこまで続いてんのかしらね」
「うーん...」
進んでいくと少し広い場所に出た。真ん中には翼の生えた魔物がいる。大きさはアリス達の2倍ほどで、姿はグリフォンと言うべきか。
幸いなことにこちらには気づいていないようだ。
「ねえテティ?残り物には...何だったっけ?」
「残り物には...魔物が居るって感じね」
「どうすんだよ!!あれを倒すのか?
「バカ!そんな大きな声出したら...!」
大きな魔物はこちらに気づいたのか、その巨体をこちらに向けて大きな声を出した。
そして勢いよくこちらに向かってきたではないか。
「こうなりゃヤケクソだ!このダジャレ弓で..!コンドルが飛んどる!」
そう言いながら放った弓はその魔物の起こした風で簡単に弾かれてしまった。そして風の強さにアリスたちも立っていられず少しずつ後ろに下がって行く。
「このままじゃ...そうだ!!」
「ん?何やってんだ?」
「ごめん!」
そういうと。アリスはアンバーグを掴むと勢いよくその魔物の所へと投げた。投げられた突然のことにアンバーグも何が何だかわからないまま、魔物の方へと向かって行く。
魔物が宙を舞うアンバーグに気を取られている隙に、アリスは向こう側にある出口へ走って行った。魔物はアンバーグの方ばかりに気を取られてアリス達の方を見ることはなかった。
「さようならアンバーグ...あなたのことは忘れない...!」
そう言いながら向こう側の出口までいくと、アリスはさっきの広い場所へ続く所を見ながら、さらにこう呟いた。
「アンバーグ...」
「大丈夫よ!!きっとアンバーグも天国でにっこりしてるわ!!」
「そうね!」
完全に死んだと思ったアリスは「アンバーグのためにも...!」と呟きながら先に進んだ。




