五十八話 終わりを告げる予言
「はぁ...はぁ...」
息を切らせながら化け物のような姿になったリグを見る。もうそれは人間とは言えない容姿のリグは舌なめずりをする。
「アリスゥ...!どうだ?俺のこと好きになったか?」
「そんなわけ...!」
「何で何だよぉ〜!!!」
アリスが冷たく返すとそういいながらリグは悲しそうな顔をする。すると、また自分を斬りつけて血を剣に塗りたくっている。
「アリスのためならこのぐらい....」
「またやってる!でもあれを何とかしないと...!」
「アリス!!!アリスゥ!!」
そういいながら襲いかかるリグを剣で受けとめる。先ほどとはパワーが全然違う。おそらくこのまま戦っていても勝てる見込みはないだろう。少しの攻防で、アリスに攻撃が当たり血がまた出る。するとまたそれを斧に擦りつけリグ自身もその血を舐める。
「そんなに欲しいの?」
「ああ欲しいさ!欲しい欲しい欲しい!欲しいぞお!!!」
「だったら...!」
アリスは何を思ったのか、自分で体に傷をつけ始める。手、足、体と肌に触れて少し横に引くだけでそこから血が流れてくる。
「アリスの血....血ィ!!!」
「奪い取れるなら...奪って見なさいよっ!!」
「もちろんそうさせてもらうぞぉ!!!」
リグの攻撃が迫り来る。アリスが動いていると血が床に2、3滴ほど垂れている。リグはそういうところの血も回収しながらアリスと戦っている。
「魔刀の雷っ!!」
「そんなしょぼい攻撃..効かねえッ!!」
剣でアリスの雷を防ぎながら再び攻撃に身を乗り出すリグ。血を吸わせすぎたからかその力は防ぐことすら難しいほどになっている。
「このくらい吸ってたら...そろそろかな」
「俺のものになる準備かぁ!?アリスゥ!!」
「くっ!」
精一杯に避けることしかできないアリスに攻撃を仕掛けていくリグ。その重い一撃はアリスへとどんどん迫ってゆく。だが中々距離を詰めることができない。
「まだ足りねえかあ..?」
そういいながらまた血を自分で出してはそれを斧に吸わせる。すると斧の顔のところから血が大量に吹き出し始める。顔の目や鼻、口などからまるで滝かのようにボタボタと血が溢れんばかりに地面にたれて、血で池のようなものができている。そしてピキッという音とともにリグの剣にデザインされている顔はヒビが入る。
「あ...何だ??」
「やっぱり限界みたいね...!」
リグの斧は血の量が容量を超えていてしまった。おそらくあの顔の血が吹き出すのはそれを知らせるためのものだろう。
「そうやら容量オーバーで溢れでたみたいね」
「さすがだ....さすがだアリスゥ!!!やっぱお前は俺のものになるべきだよなあ!!」
「んなわけないでしょうが!!!」
「うがああああああああ!!」
そう叫びながらリグはこちらに向かってくる。顔から溢れるほど出てくる血は細い道のように一直線にリグの通った床に垂れる。
剣がああなったとはいえ、獣鬼化もありリグの攻撃は耐えられるギリギリというぐらいの強さ苦戦を強いられる。
「血を!もっと!」
血に触れさせてみるがその血を吸う気配すらないオーバーしたせいなのか、壊れたようだ。
「魔刀の雷!!!」
「があああああ!!」
アリスの雷はリグに命中しリグはその場に倒れた。
「世界が...終わる?はあ?」
世界が終わる。ゲルムの突然始まったそんな突拍子のない言葉に、マブ達は顔をしかめた。そんな当然の反応をするマブ達をよそに、ゲルムは真剣そうな顔をしている。
ゲルムはそういうと、ふっと笑って顔が緩む。その一瞬見せたニヤついたような顔はすぐにまたさきほどの真面目そうな顔にもどる。
「ま、といきなり言ってもそうなるだろうな。ゲッゲッゲ」
「冗談で言ったのか?」
「いや、大真面目だ」
冗談で言っているようには聞こえないがあまりにも唐突すぎてただ何と言って良いのか全くわからずにいた。マブは我に帰り突然のその言葉になんて返そうか考える。
「なんでこいつを必要としてるかはわかった。だがいきなりそんなこと言われてもなあ...」
「そうだそうだー!」
「そうだそうだー!」
アルやホーの野次を聞いて「よし、わかった」と小さく呟いて、ゲルムは1つの杖を取り出した。白い木で出来ていて、先端が渦巻き状になっていて、その部分の真ん中当たりには赤い球体のようなものが嵌っている。
「...じゃあ、予言の杖というものを知っているか?」
「聞いたことないな、なんだ?それ」
「その名の通り未来を予言するという武器なのだが」
そう言いながら杖をマブ達の前に差し出してみせる。そんなことを言われても杖を見せられただけでは何も
「それ、信じられるのか?」
「ああ、転ぶだとか頭打つだとか色々と予言してくれてな。そしてまさにその通りになった」
「なんか可愛い予言だな..」
「試してみるか?と言いたいところだがこれは星7。持ち主以外は使えないんだ」
星7の武器は選ばれた持ち主にしか扱うことはできない。選ばれたわけでもないゲルムは当然、扱うことはできない。実演できるのならまだしも、そうでないのなら信憑性の「し」の字すらない。ゲルムは話を続ける。
「この杖で、そう遠くない未来に冥界獣ギルメラの侵略で、この世界は終わる」
「ギルメラってあの四獣の!?」
四獣といえば、ホワイが撃退したバルトラード、アリス達(細かくいえばヴェラードだが)が討伐したハルガンデスと並ぶこの世界を脅かす存在だ。
それがこの世界を終わらせるなんて。にわかにも信じがたい話だ。
そんな事はゲルムの方もわかっているはずだ。
「それを信じろっていうのか?」
ギルメラの襲来、世界の終わり、それを告げる予言...。そんな事らを突然言われれ頭の中が軽くパニックになっている。
「こんな話だけ信じろとは言わない。まあいて信じてくれればラッキーと思うぐらいだ。だから言ったまでだ」
「リーダーどうします?」
「うーむ...。よし!分かった!渡そう!」
「は!?何言ってるんですか?」
マブのまさかの決断にアルは服を掴んで左右に揺らす。おそらくこの男は高いツボだとか偽って安物のツボを押し付けても簡単に買ってしまうだろう。
「きっと俺らにそういうデタラメなこと言ってるに決まってますよ!」
「ホーもそう思ーう」
「うるさーい!世界を救うためだ!我慢しろ!」
「もー!この人本当にバカなんだからっ!!」
その言葉にアルの頭に拳を打ち付け、マブは「バカとは何だバカとは!!!」と激しく激昂する。
「さて、こいつを渡せばいいんだな...?」
そういい一歩踏み出したマブの足元に何か鉄でできたボールが転がってくる。それはピンク色の煙を吹き出しあっという間にあたりを煙が覆ってゆく。そこにテティが飛び出してホワイの顔を飛び回る。煙の中で近くに来るテティを黙認し、勢いよく走り出す。マブも煙の中でパニック状態となり全く気づく気配すらない。
「なんだ!?」
「リーダーなんか煙が!!」
「ホーも大変ー!」
「うわっ!」
しばらくすると煙が消える。その頃にはもうすでにそこにホワイの姿はなかった誰もがキョロキョロ辺りを見回すがホワイは姿すら見えない。
「くそっ!」
「お宝どこ言ったのか....」
今思えば、このまま渡しておけばよかったかのかもしれない。あの日...絶望の中テティはひたすら逃げた。逃げるしかなかった。
「時間を戻したい」
ギルメラが襲いかかり、この世の終わり終わりが来たこの時には、もう遅いのだから...。
武器紹介
予言の杖。
レア度☆☆☆☆☆☆☆
予言をするという杖。ただそれだけ。




