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五十六話 勇敢なる戦士



ユオにとって兄の背中は偉大だった。優秀で、自分のできない事を簡単にこなしてしまう。手を伸ばすも届かないようなそんな兄は雲の上の存在のようだった。だが、劣等感のようなものはなくむしろ憧れの存在であった。

自分の能力を誇示することもなく相手を重んじるその姿にユオは「自分もこうなりたい」と見よう見まねで真似する。その度に笑いながら頭に手を乗せてくれる。

そんな兄と一緒にいるだけで幸せの気分だった。



あの日を境に行方不明になるまではー。




✳︎



「もう大丈夫かな...」



ユオは体を動かしながらそう呟く。アリスとの戦いで少し体の所々が痛むが動くことを確認し立ち上がる。アリス達を追いかけないと。その一心で少しぎこちなく体を動かす。もう空には日が傾いていて夜になりそうだ。



「一体どこに居るんだろう」



歩いていると、人が賑わった通路に出る。左右では屋台の光が飛び込んでくる。赤や青の提灯をぶら下げた屋台にはたい焼きやたこ焼きという文字とともにその文字の絵が描かれた旗がいくつも置かれている。まだ準備の段階のようでみんな必要な器具を置いたり食材の確認をしている。



「あ、あいつは!」



見たことのある奴を発見して引きずるようにそいつの方へと向かって行く。そいつもこちらに気づいたようで近づいてくる。



「お前の相手をしてる暇はないんだがな?ゲッゲッゲ」



「ゲルム...!」



そう呟きながらそいつ...ゲルムの顔を睨む。ゲルムは後ろを向いて去ろうとするのを見てユオは「待て!」と大きな声を出した。この足ではおそらく追いつくことは難しいだろう。だがゲルムは立ち止まりまたこちらを向いた。

その表情はなにか悪巧みを考えているような顔。



「そうだ、いいことを教えてやろう。伝説のトレジャハンター...いや、お前の兄と言うべきか?の居場所を知っているんだがな」



その言葉にユオの目は見開きユオへとゆっくりと駆け寄る。激しく動いてしまったことで体が痛むようでユオは痛そうな表情になるがすぐにゲルムの服を掴む。



「どこに...っ!」



「ここでもあのアリスだったか?の居た人間の世界でもない所だ」



「なんだそれは」



その言葉にユオの服を掴んでいた手は少し緩む。



「それは通称『アナザー』と呼ばれている。これに関してはポロロなどの異世界移動の力があっても行けない。アナザーを知っている人間が言っていた『ガイコク』と言うのと『カセイ』と言うのの違いだとか言っていた。まあどう言う意味か、よくわからないがな。ゲッゲッゲ」




そいつが言うには外国に飛行機で行くというニュアンスがポロロが使える次元移動のようだった。火星などの宇宙にあるものは飛行機のようにそう安易にいけるものではない。ゲルム達の言う「アナザー」というのはそのような火星に行くと言うぐらいのニュアンスらしい。当の本人は「ガイコク」だとか「カセイ」だとか知らないワードを並べられて理解できていないようだが。



「何でそんなことを俺に言うんだ」



「ゲッゲッゲ!おいおいせっかく急いでるところを教えてやったんだからその言い草はないだろう。勇敢だったぞ」



「何でお前はそんなに知っているんだ?」



その質問にゲルムはすぐには答えず、少し間を開け、こう口にし始めるのだった。



「あいつも元だがゲノムの一員だったからな」



「なっ..!」



「ギルメラと一緒に戦ったときは率先して戦っていた」



「そんなことが...!」



ゲルムの仲間だったなんて信じがたいことだ。きっとデタラメを言ってこちらを惑わそうとしているに違いない。



「そんなわけ...」



「まあ信じたくないというならそれでもいいがな」



睨んでくるユオをよそにゲルムは「ところで」と切り返す。



「一つ、提案があるんだが...」



「提案...だと?」



「ああそうだ。実はその『アナザー』と言うところに行ける方法を知っている。どうだ?言うことを聞いてくれれば...」



だがユオは即答で「断る」と切り捨てた。ゲルムは少し悲しそうな顔でどこかに立ち去ろうとする。ユオは呼び止めようとするがそれも聞かずどこかに言ってしまった。さる途中、ゲルムは聞こえないぐらいの声でこう言っていた。



「『アナザー』に行けると言うのは嘘だが、きっとこの選択が後悔に変わるだろうよ...」








アリスがゲルム達がいた屋敷に向かっていた。周りのパレードの準備ももう少しで終わりそうだ。屋台も準備がほぼできていて道には道のようなものが敷かれていて、銀色のペグとロープでその道に入らないようになっている。



「早く救出しないと...!」



魔物たちの喧騒が左右から聞こえる中、アリスはひたすら走る。



「アリスゥ!見つけたぁ!」



「こんな時いに!」



アリスを見つけたリグはアリスの前に立ちふさがり嬉しそうな表情を浮かべる。アリスの方は少し怪訝そうな顔でリグの方を見る。



「もーこんな忙しい時に!!」



「ぐへへへへアリスゥ!アリスゥ!!」



「まだアリスのこと狙ってるの?このストーカー!」



「てめえには用はねえ消えろ」



しっしっと手を払うようにして追い払うような仕草をする。相変わらず本当に気持ちが悪いぐらいに執着している。



「わかった。私の気持ちをあいつにぶつける!!」



「ちょっとアリス!!」



アリスは剣を抜いてリグに向ける。リグは相変わらず不気味にニヤニヤしていて薄気味悪い。

リグは手を広げてアリスを受け入れるような仕草をする。



「ほんと不気味ね...」



「こいよ!アリスゥ!!」



「言われなくても...!」



「お?何だ?喧嘩か?」


アリス達の戦いに、周りの人が集まってくる。



「カップルの喧嘩なら他所でやってくれないか?」



「誰がカップルよ!!」



「どうするの?アリス。こんなやつに構ってる時間はないわよ」



「分かってるって」



「俺のもんにしてやるからよぉ!!アリスゥ!!!」



「あんたとはここで終止符を打っておきたいけどね...!」



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