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五十三話 心の闇を祓う光

遅くなり大変申し訳ございませんでした!

それはアル達がホワイトを見つける少し前の事。本棚が敷き詰められたその場所では、ドグロとマブが対峙していた。



「やべえよ...これやべえよ...」




獣鬼化したドグロを見て、マブは不安そうな顔になる。ユオのようにツノが生えてる訳ではなく骨のような手が大きくなったり、口からは紫の奇妙な息を漏らしたり、肩から突起物が伸びたりと見るからに強そうというイメージが湧いてくる。

だが臆しているマブは手をグッと握りしめてドグロを見る。



「くそ...あいつを倒すしかねえか!俺はマックスヒーローズのリーダー!あんなガイコツの化け物ぐらい倒せる!」



「倒すだって?僕を?」



「いや嘘ですごめんなさい!」



意気揚々とそんなことを宣言したのも束の間、鋭い目つきがマブに向くとマブはすぐに謝りながら小さくすぼんでしまう。あの威勢はなんだったのかと思わせる掌の返しっぷりだ。



「くそ...やってやらぁ!ヤケクソだ!!」



「ククク」



ドグロは笑いながら杖を振ると床が黒い円に包まれてその円から何体もの魔物が現れる。猿のようなもの、雫なようなものなどさまざまな魔物が10体ほどがいる。



「こいつはさらに強くなった僕のしもべさ。どうやって戦うのかな?」



「っ..!やってやらあ!」



その時、大きな音を立てて壁が壊れる音がする。そこから出てきたのはリグだった。ハァハザという荒い息遣いにキョロキョロと見回して目的のものがないと分かると歯を食いしばった。



「アリスアリスアリスはどこだぁ!!!」



「なんだあいつ!?アリスの知り合いか!?」



そう叫びながら机を壊し、本棚を壊し、やりたい放題やっている。



「なんだお前は..邪魔臭いな!」



ドグロが召喚したしもべをけしかけるが、全てあっさりと倒してしまう。足音を響かせてドグロの方に近づいてくる。



「何をしている!?」



そこに、部屋にやってきたゲルムがそう叫ぶ。暴走を始めたリグに杖をかざすがその前にゲルムに近づいて斧で攻撃を仕掛けてきた。ゲルムはその攻撃で壁に叩きつけられる。



「うおおあああああおおおおアリスアリスアリスアリスアリスああああああああうああああああうああああ!!!」



リグはそう叫びながら頭を抱え始める。それを見てゲルムは小さく「これはヤバイな...」と呟いた。

マブは屋敷を破壊し始め斧で何もかもを叩き斬り狂ったように雄叫びをあげる。



「あいつは少し改造を施しすぎたようだな...あの女は実験に使うために渡さない!」



「うるせえ!!」



手で止めようとするゲルムを跳ね除け壁や何もかもを壊しながら進んでいく。しばらく暴れて気絶しているアリスを見つけるとお姫様抱っこをして屋根を乗り継ぎながらどこかに消えていった。周りはもう既に建物という原型がないほど壊れている。



「はは、はははは!!アリス!!アリスゥ!!!」



去っていくリグの声はどんどん小さくなっていった。















「ここは...?」



気づくとアリスはベッドの上にいた。木でできた作りの上で椅子と机だけがある質素な内装だ。起き上がると向こうにはリグの姿。リグはアリスが起き上がったのを見て嬉しそうにアリスに近づいてくる。



「あんた...!?」



「アリス..!はは!ははは!」



その質問にも答えずただ笑っているだけ。リグは顔を近づけてニコニコした顔で見ている。



「アリス!やっとお前と2人きりに!アリス!!」



「私は...?そうか、嵌められてユオに...」



「ユオ...?まだお前を誑かす輩がいるのか!!お前の心を!!今度は奴を!」



「その心配はねえ!!」



その言葉に答えるように目の前に魔物が現れる。それは獣鬼化されたユオだ。

ユオを見たリグは笑みを浮かべながらユオに襲いかかろうとした...のだが頭に電気が走り呻き声をあげて膝をついた。

アリスを見つけたユオは、はアリスに飛びかかると恐ろしげな表情でアリスの首に槍を突き立てる。



「私は...あなたとは戦えない」



「なら消すのみだ」



「アリスは俺のものだ!!!邪魔をするな!」



「アリスアリスアリスアリスアリスあああああああああ!!!」



突然叫びながら頭を抱えて叫び始めた。千鳥足でフラフラと歩きながらアリスに手を伸ばす。



「今のうちに...逃げないと!!」



アリスは木でできた扉を開き外に出る。外はもう朝のようで太陽が見えている。だが後ろからはユオが迫ってくる。



「逃げるな!お前を絶対に!絶対に!!喰らいやがれ!!



その時、何かがユオの顔に飛んできた。それはユオにぶつかるとユオは槍を離しそれは部屋の角に飛んで行った。そのぶつかったものの正体はテティだった。



「何やってるのよ!あなたはユオを救いたいんでしょ!」



「テティ..」



「戦うの!あなたはいつもの調子で戦えばいいの!!みんなのために..」



「この妖精が...邪魔だ!!」



ユオに攻撃を仕掛けようとするとアリスは剣でそれを防いだ。ここで買ったものではなくいつも使ってる愛用の奴だ。



「ありがと...テティ」



「アリス!!」



「あなたに何が起こったかは分からない!でも!私はあなたを裏切らないしあなたを見捨てない!!」



「黙れっ!黙れっ!黙れ!!!お前も...お前も...!」




そう言いながら槍を持った手と逆の手で剣を持つ。武器握りしめアリスの方へ向かって行く。

槍で攻撃をしようとするユオに剣で受け止める。もう一度槍で攻撃を仕掛けようとするが、今度はまっすぐ飛んできた槍がアリスの目の前で曲がりアリスを横から攻撃を仕掛けて行った。



「っ!!」



身をよじらせた事で掠る程度だったがまたウネウネと動きを変えてアリスに襲いかかってくる。



「私はあなたを信じてる...だからっ!」



「アリス!お前もあいつのように裏切った!だから!だから...」



「あいつ...?」



「アリス!お前もだ!」



「地壊撃!」



地面に槍を突き刺すと地面が割れて行く。大きな音を立てて割れる地面は、どんどんアリスへと近づいて行く。それがアリスまでたどり着くと割れ目から赤いマグマが勢いよく吹き出してきた。

アリスはうまくマグマを避けてユオに近づく。



「喰らいやがれ!!」



ユオの突き出す槍はアリスの肩に当たるがそのまま剣を突き出す。

だが獣鬼化したユオの体は鉄のような音を立ててアリスの剣を弾いた。



「何っ!?」



「無駄だ!お前の剣じゃ傷つける事すら出来ない!!!」



「くっ...!!」



「どうだ!!俺の槍、撃蒼の槍の味はぁ!」



「あなたを憎しみというしがらみから救ってあげる...」



「黙れ!!お前に何がわかる!!何も知らないくせに、俺の事を語るな!」



「魔刀の太刀!!」



スキルで攻撃を仕掛けるが、その硬い鉄のような体では、やはり攻撃が効いている気配がない。ユオはまたクネクネと槍を動かしながら四方八方からの攻撃仕掛ける。



「効かねえ!効かねえんだよ!!行くぞ!地の撃蒼!!」


再び槍で地面を突くと、割れた地面がアリスを弄ぶように上下に動く。



「なに?これ!」



「うおあああああ!!」



大きく叫びながらユオはアリスに向かう。揺れる地面に翻弄されながら攻撃を避けようとするが、地面の上下にうまい具合に合わせたユオの攻撃を避けるのは困難だった。槍がアリスの腹の部分にあたり、少しばかり血が飛び散る。ねずみ色のコンクリートに血が飛び散って少し赤黒く着色された。



「何でだ...何でこっちにくる?」



「何でって...あなたの誤解を解いて、友達になりたいから!!!」



「うるさい!!俺はあの裏切りから『裏切り』にあって何も信じなくなった!信じても裏切られる!!ただそれだけだ!!!」



「そんなことはない!!!あなたを信じてる!!だから!!」



「知ったような口を利くんじゃねえ!!」



ユオの攻撃はアリスの剣に絡みつくいてそれ以上の動きを封じる。その槍はさらに動き出し、見事に直撃しアリスは倒れこむ。



「お前も同じだ!!みんな!!みんな!!」



「違う!!!」



そう言いながらアリスの放った剣は肩から突起していたツノのようなものを両方切断した。するとそこから煙が出て呻くように後退する。



「クソおおおお!!!」



呻きながらアリスに槍を突き刺す。だがアリスはよろめきながら剣に光をため始めた。



「あなたのしがらみを全て解き放つ!この一撃で!!魔刀の戦鬼!!」



光の溢れるその剣は鋼鉄のようなユオの体にも大きくダメージを与えた。ユオは大きな声で叫びながらその場に倒れた。獣鬼化も無くなったようで、突起物やツノはなくなり、元のユオに戻っている。



「私はあなたを捨てたりはしない。だからほら!」



「で、あの裏切りの奴は結局あいつらの策略だったわけで...」



「で、でも!あいつらはお前のお陰でって...!」



「もうそれを証明する事が出来ないから何も言えない...けどあなた友達になりたいってのはアリスの本心よ」




そう告げるテティに少しだけ顔を背ける。それに対してアリスは「一緒に行こ?」とだけ告げて手を伸ばした。手を伸ばすアリスに涙を流しながらその手を掴み寝っ転がった状態から上半身を起こす。



「ねえ、あなたをそこまでにした裏切りって何なの?」



「...俺はとある奴にトレジャーハンターの仲間だと言われた。あの頃も今みたいにトレジャーハンターに熱心だった俺は疑いもしなかった。ただ仲間が増える嬉しさしかなかった」



「...仲間」



「俺は、奴に言われてとあるものを見つけて来たんだ。それはとても珍しいものだった。お宝と言ってもいいぐらいのものだ」



「それを取られたとか?」



「それだけだったら全然いい。だが奴は...」



ユオの記憶に蘇るその記憶。その魔物はは、槍を使ってユオ体を勢いよく貫いた。それが「裏切り」という行為に対して取り憑かれたように怒りの感情を見せるようになった原因になっている。



「お前...なんで?」



ユオは崖のあるその場所で、その魔物に貫かれた腹を見た後にそいつを恨めしそうな目で見る。口からは大量に吐血をする。向こうの方の木が生えている茂みがぼんやりと見えてくる。意識が少しずつ遠のいているのがわかる。


「おやおや?まさか取って来てしまうとは。意外ですねえ。普通なら死ぬと言われているほど高難度なのに。まあいいでしょう。取ってこれなきゃ使い捨て、取ってきたならこうやって殺すだけ」



「てめえ...!」



自分は何もせずに欲しいものを得る。なんて賢いのでしょう!!!あなたのような冒険ごっこをするしか脳のない知能の低い魔物を使ってこそですねえ!!」



そいつは槍を抜いてもう2、3度槍を突き刺す。そして崖からユオを投げ捨てたのだ。数秒ののちボチャン!という音を立てて水に落ちた。崖からそいつは覗くが、その高い位置からは川が小さく見えるだけでユオがいるかすら判断できない。




「それから俺はなんとか川から這い上がり一命を取り止めた。それから俺は...魔物を信じなくなった」



「そんなことが...」



「ねえ!そいつの名前とか覚えてないの?容姿とか!」



「恐竜のような見た目と...スーツを着ていた...名前は確か...」



「ヘントールとか言わなかった?」



その容姿からとある人物がアリスとテティの頭に思い浮かぶ。それは闇魔を売っていたヘントールとかいう魔物だ。



「確かそうだったな」



「あいつってそんなひどいことを...」



「でも、これで納得した事もある」



「納得したことって?」



テティが首を傾げてアリスにそう尋ねる。アリスは「それはね」とその続きを話し出した。



「魔物は普通喋らないけど、あいつが喋るのはこの世界から来たから...ってことになるね。ゲノムとかいう奴らも元いた世界に来てたし」



「あのゲノム?とか言う奴らの仲間だったりするかも」



「どうだろ。でもその可能性はあるよね」



「俺は少し休むから、先行っててくれ」



ユオのその言葉にアリス達は頷いて歩き出す。行ってしまうアリスを確認して寝転がり、「仲間か...」とだけユオは呟いた。


武器紹介コーナー


地砕の槍


ユオの使う伸びたり伸縮性のある槍。地を砕き伸び縮みしながら相手を翻弄する。

ユオは「伸びる槍」と呼称してるがもちろんそんな名前ではない。

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