五十話 君に全てを捧げる
「あんた...何でここにいるの?」
その人間の男、リグを見てアリスはそう呟く。体格はがっしりしているがマッチョと言うほどでもない。皮の服は前が空いていて、マッチョとも取れなくともそこそこの腹筋が見える。リグの方はやっと会えたアリスにとても嬉しそうな表情でその男は目を煌めかせていた。
「アリス!!!俺のアリス!!会いたかったぜ!」
「何で、何で!?」
なんでここに...。そう呟いて。目の前に立っているリグに困惑の表情を浮かべた。ただ突っ立っているしかないアリスに、「おいおい」と言いながらリグという男はニヤリと笑う。アリスに底知れない執着があるようで、獲物を狙う獣のような目で、その質問にリグはこう答える。
「なんで、だぁ??決まってんだろ!お前に会いに来たんだぁ!俺の俺のアリスゥ!」
「うわぁ...何こいつ...」
リグのその姿ににドン引きするテティをよそに、リグはアリスの方に歩みを進めてきた。テティは両手を広げながらリグの前出て、それを妨害しようとするが興味が無いのか完全にスルーしてどんどんリグはアリスに近づいてくる。
恐怖と困惑で足が動かないアリスに、リグはあっという間に近づいてしまう。アリスを見て舌舐めずりをするその姿に、危機感を感じたアリスは動けと命令をするが、やはり体は動かない。
「アリス!俺のアリス!本物だぁ!!ずっと会いたいと思ってたアリスが目の前に!!!あは、はははははは!!!」
「うわ、気持ち悪すぎでしょ」
「来いよ!俺のアリスゥ!
「行くわけ...ないでしょ!!」
そのセリフを聞くや否やリグは唸るような声を出すと、絶滅の表情をし小さな声でブツブツ何かを言い出した。よく聞くと「アリスが欲しい」というのを連呼しているようだ。狂ったようにアリスに執着するその様は異常そのものだ。
「気持ち悪っ!アリスこんなのとっとと倒しちゃおうよ!!」
「アリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しいアリスが欲しい!!!」
そう言いながらリグは襲いかかってくる。リグの大きな斧をとっさに剣を取り出して防ぐ。これも魔物の店で買ったものだが、まだどういうものかすら分かっていない。ぎこちない手で剣を振るが攻撃を簡単に避けられてしまう。
「はははははは!!!アリスゥ!アリスゥ!!!」
アリスの名を狂ったように叫びながら攻撃を仕掛けてくる。剣の使い方が分からず、突くように剣を振ってみる。すると、先からビームのようなものが放たれ、それは壁を突き抜けて何処かに行ってしまった。
リグも突然の事で隙を見せる隙にタァーっ!!という大きな声を出してリグに向かった。
「そっちから来てくれくれるのかぁ!!俺は嬉しいぞ!!!」
そう言いながら斧を一振りするとブワっと衝撃が発生する。吹き飛ばされそうだが剣を地面にさして衝撃を軽減した。
「アリスは俺のもんだ!!!俺だけ見てりゃ良いんだよ!!」
「あんたはそうやって独占しようとして!私はあんたのものじゃ無いの!!なんども言ってるでしょ??」
「俺のものなんだよぉぉ!!!アリスゥ!!!!」
「もう...!」
そう言いながらもう一度剣を振る。するとまたビームが放たれ、今度はそれはリグの体の方に一直線に向かっていく。リグは避けようとはせず、ビームは肩の所を貫いた。ビームに貫かれた肩からは血が垂れてくる。
「ありがとうよぉ〜俺へのプレゼントを」
「プレゼント?本当にどんだけ気持ち悪いの?アリス早くやっちゃってよ!!」
「うん!!」
もう一度リグに駆け寄るアリスに、リグは斧を下から上に一振りする。ギリギリのところでほおを擦り、アリスの頬からは血が流れる。
斧にもアリスの血が付いていて、リグはそれを舐め始めた。血を舌に乗せるとクチャクチャと音を立ててアリスの血を味わうその姿は狂気そのものだった。
「アリスの血...うまいなあ」
「気持ち悪いくせに強いのこいつ..!アリス!」
リグはアリスの攻撃を避けながら手を掴む。両手を掴まれて壁に押し付けて舌なめずりするリグにテティはなんとか離そうとその手を引っ張るが全く動く気配すらない。
顔をどんどん近づけてくるリグに、それは一つの声で中断される。
「はいはいそこまで。何をやってるんだよ」
そこに手を叩きながらゲルムが現れる。
ゲルムの近くには、後ろで両腕を組むように掴まれているユオの姿もあった。なんとか振りほどこうとしているようだが全く振りほどけていない。ゲルムの登場に、リグは怒ったような顔でゲルムを睨む。
「今いいところなんだから邪魔をすんな!」
「ゲッゲッゲ!前に『すぐ会える』とか言ってたあの時とは大違いだな」
「せっかくの再会を邪魔立てするんだったら...」
「しょうがないなあ...」
そういうと杖を取り出して一振り。するとリグはその場に倒れてしまった。邪魔者がいなくなったゲルムはまた不気味に笑う。
ゲルムのいきなりの登場に騒がしかっtその場は静まり帰る。
「ご苦労さん、お前さんのお陰で屋敷に侵入した奴を取り抑える事が出来たよ。人間も使えるな。まさかガーディスだっけか?とかいうやつも来るとは思わなかったが...」
「お陰....?って、アリス..!お前...裏切ったのか!?」
「違っ!!」
違う。そう言おうとするが、そんな事御構い無しにゲルムは話を続ける。
「お前が1度来たときに、あのハエ型の盗聴機械を仕込んでおいて正解だったよ。お陰でお前らの会話は全部筒抜けってわけさ」
「ハエって!あのユオの家でブンブン飛んでたアレ!?」
「アリス...!お前最初から!?」
「だから違うって!!」
そういうもユオは怒りの表情を見せてずーっとこちらを見る。「裏切り」というのに人一倍敏感なのだろうというのが伝わるぐらい裏切りの行為に激しい怒りを見せている。まあ人ではないが。
「少しはアリスの話を聞きなさいよ!」
「黙れ!この裏切り者が!!」
リグは勢いよくアリスに飛びかかってくる。アリスはユオと戦う意思を全く見せずただただ避け続けた。だが何回かユオの槍はアリスの服に当たり服を引き裂く。槍はアリスが避ける度に地面に刺さり、抜いてはアリスに向けてを何度も繰り替えしている。
「私は...裏切ったわけじゃ...あいつにはめられて...!」
「うるさい!うるさい!やっぱり人間も...嘘をつくし裏切る。同じじゃ無いか!」
「同じって..?」
「ぐおおおおおおおお!!!」
ユオの体が変化してゆく。背中には何個も突起がはえ、体には黒い模様のようなものが現れる。その目はアリスの方に向き、アリスに突進する。
「ほう...獣鬼化とはな...面白そうだからもう少し見ているか」
「なに?あれ!!」
「アリスゥ!!!」
その声とともに遅いかかるユオに横に避ける。ユオの槍は先程までは刺さっただけだったが、突き刺した槍の周りの壁はすぐ壊れてしまった。自我はあるようで、ユオはアリスに憎しみの言葉をぶつける。
「人間なら大丈夫だと思ったが..!裏切ったお前も同じだ!」
「ゲッゲッゲ、あれは獣鬼化と言ってな、魔物の数パーセントしかできないというものだ。アレを使うとさらに力が強まり、武器もかなり強くなるというものだ。おっと、戦い中のお前さんにはそんなことを聞いてる暇もないか。ゲッゲッゲ」
ひたすらユオの攻撃を避けるアリスを見ながらまた笑う。アリスも聞いている暇はなくただユオの攻撃を避けることだけに専念していた。
ゲルムは不思議そうにこんな事を呟き始めた。
「だがおかしいなあ?あいつは下級のはず、獣鬼化なんて上級魔物でもできるもんじゃないというのに....そうか、親からの受け継ぎという訳か。兄貴もだが、本当に兄弟揃ってとんでもない逸材とはな..!ゲッゲッゲ」
「兄貴?一体どういう...?」
テティがそう聞くも、「ほれ」と言ってアリスを指差した。ユオの優勢といった感じでアリスは追いつめられていた。アリスが隙を見せると容赦なく槍をアリスへと向ける。
その様子を見てテティは「アリス!!」と咄嗟に叫んでしまう。
「お前を絶対許さない!アリス!!!」




