四十八話 語り継がれた英雄
その男、伝説のトレジャーハンターがその名を「英雄」として刻むことになったのは、遡ること何年の前のことだ。そのトレジャーハンターは色んな所で宝をゲットするほどの有名人だ。城や洞窟など色々な所に忍び込んでは、そこに眠っている財宝を手にするその姿に誰もが憧れを持っていた。
空をまるで鳥のように飛び、魚のように泳ぐその姿は美しいと言うしかないほどだった。
そしてある時そいつが現れた。四獣とも言われた冥界獣ギルメラ。ヤツは異空間であらゆるところに現れ破壊の限りを尽くすというとんでもない獣だ。
街に現れたギルメラを撃退したのもまた、そのトレジャーハンターだった。
その手に携えた剣は滅竜剣ードラゴンバスター。その剣で戦う姿はトレジャーハンターとはまた違う何かがあったという。
「へえ...そんな人が」
「だが、この伝説のトレジャーハンターと称された男は突然に消えた。」
「どうして...消えたの?」
その話を聞いていたアリスは、恐る恐るそう尋ねる。だがユオは首を横に振る。それを見て理由は分かっていないのだと察する。
向こう側でヤカンがピーッと音を立てているのを聞いて、ユオは台所に向かう。
台所でヤカンを取ってコップに注ぐ。3つあるコップからは湯気が出ている。
コップを机に置いてその中の一つを飲む。緑色のその液体はおそらくなにかのジュースだろう。
「で、結局その人は見つかったの?」
「いいや、未だに消息も不明だ」
「で、その伝説のトレジャーハンター?とやらを目指していると」
「そうなんだよ!」
そういうと、机を乗り上げるようにアリス達に近づいてくる。その目はキラキラと輝いている。
「そ、そうなんだ」
「さっきから何?なんかいるけど」
流れをぶった切るように、アリスは手で追い払うような仕草をする。近くにはハエのようなものがブンブンと飛んでいる。しばらくアリスがその仕草をしているといつのまにかどこかに行ってしまい見失う。ユオは「だから!」と大きな声を出して机を叩く。それにより、ハエのようなものに視線がうつっていたアリスは再びユオの方に視線が戻る。
「俺たちの憧れだった!だからこそ!俺は、あの伝説のレジャーハンターみたいになる!」
「へえーそんな人が...」
「おっと、話が逸れたな。侵入するって話だな。まず、夜になるのを待って裏口から侵入して、そこで二手に分かれるんだ」
「二手に?」
「そこからは出来るだけバレないように宝を探すんだ」
そういうとユオはコップに入っていた飲み物を飲み干す。そしてコップを少し強めの置くとフーッと手を上にあげて伸びをする。
「夜になったら動くってことは、まで暇ねえトランプでもないの?ここ」
「トランプ...とかいうのはよく分からないがそんなものはおそらくないぞ」
奥の方に行きゴソゴソ音を立てて、テティの要求したもののようなものがないのを確認すると戻ってきた。
「トランプ自体分からない辺り、この世界の娯楽はどうなってるのかしらね」
「さあ?というか、ガーディスはどこに行っちゃったんだろう?」
「ほっとけば?仲間でも無いんだし」
「そうかなあ..」
そう呟いてアリスは外を見る。外はまだ明るく自分たちの世界と同じよううに太陽が昇っていた。
「次はどこいくー???」
ニアはそう言いながらガーディスを見ながらそう言った。リアの手には肉を棒にさしたものを持っていてこの世界を満喫しているようだった。
「そろそろニアをここから逃す方法を考えないとな...さて、どうしたものか...とりあえずポロロ...とかいうやつを探すか...いや、あの魔物どもに聞くのもいいな。でも碌に答えてはくれないだろうな。よし、あそこに侵入して何か情報を得るとでもするかな」
「ガーくん大丈夫?」
ブツブツ独り言をいうガーディスにニアは顔の前で手を振ってみる。ガーディスは「行こう」といい手を繋いで走り出した。ニアはただそれについて行くだけだった。ニアのつけたい手の感触が伝わってくる。どうにかして..見つけ出さないと。
しばらく走っていたガーディスの足はとある建物の前に止まる。そこは先程までいたゲルムの大きな屋敷だった。
「なに?ここ」
「この屋敷にさっきまで居たんだが、ちょっくら忘れ物をしてな。お前はここで待っていろ。ほら、あそこにベンチがあるからさ」
指差す先には黄色いベンチがある。あそこで待っているように促すと、ニアは「わかった」とだけ言ってベンチの方に向かった。魔物だらけの中1人にするのは心配だが、危険な目合わせるわけにもいかない。
ガーディスはニアが座ったのを確認すると裏手に回った。赤っぽい壁を一回りし、穴が空いた良さそうなところを見つけるとそこから侵入をする。
ガーディスが見えなくなり、欠伸をするニアの近くには、ガイコツのような魔物が近づいていたが、そんな事をガーディスが知る由も無い...。
ガーディスは侵入口から顔を出して、廊下を見回す。そして誰も居ない事を確認すると内部へと侵入する。綺麗な廊下だ。白を基調として床に赤いカーペットが敷いてある道を進んでいく。途中の扉の前に立つと自動で白いドアドアが開いてくれる。魔物の国も発展しているようだ。中を覗くと、なにもない部屋のようだ。
「ゲッゲッゲ、別の人間が入りこんだようだな..」
「お前は...変な笑い方の奴」
後ろにいつのまにかいたゲルムにそう言うとガーディスは剣を構える。だがゲルムは「待て待て」と言いながらゲッゲッゲと不気味に笑う。
「お前が困っていることは知ってるぞ」
「あ?」
「お前のその幼馴染には、呪いが付いている。それを治す方法も知っている」
そう言うとガーディスは驚いた顔の後顔を引きつらせゲルムに刃を向けた。
「んなもんを信じろと?味方でもないお前に」
「だが、お前はその呪いを解く方法はなに一つ見つかっていない。ここに侵入してそれを探して確実にあると思うか?無かったらどうする?目の前にそんな美味しい話があったら、罠でも聞いてみるにはどうだ?」
今はそのような情報がなく、突然目の前に自分の求める情報をニンジンをぶら下げるように提示された。罠かもしれないが、助けることができるのなら...乗るしかない。たとえ罠だとしても...。
ガーディスが城に潜入している一方、アリス達も侵入をはじめていた。
日は落ち夜が訪れ家々には明かりがついている。
裏にはガーディスも通った侵入口があり、そこから侵入をする。計画の通り二手に分かれて行動を始めた。
手にはユオの家にあった大きな地図を小さくしたこの屋敷のマップがあり、各々が各々の目的の為に歩きだした。
「ねえ、本当に大丈夫なの?あんな変なヤツの計画に乗って」
テティはユオのことをまだ信じていないようでそうアリスに問いかける。だがアリスは「大丈夫でしょ」とだけ言って歩きだす。テティは、もう...と呟きながらそれについていった。
「こう言うのって隠れながらいった方がいいのかな?なんかアクションゲームみたいじゃん!」
「楽しんでるのねあなた...」
「さあ..?あれ?あれって、ガーディス?」
ガーディスと思わしき後ろ姿に、アリスはそう指差して言う。確かにそこにいたのは後ろ姿でもわかる。ガーディスだ。
ガーディスはこちらに気づくと勢いよくこちらに近づいてきて、剣を振りおろあす。アリスは突然の事にギョッとして素早くそれをよけた。
「なにやってんのよ!これじゃあバレバレじゃん!せっかくダンボールとか使って某ゲームみたいに隠密行動しようと思ったのに!」
「いやそんなこと言ってる場合!?」
「アリス!お前を倒せば!ニアは!!」
「え..はぁ!?なに言っちゃってんの?」




