四十七話 再会の約束
「ニア...なんだよな?」
「うん」
その死んだはずの彼女は嬉しそうな顔でこちらを向く。それを見て、ガーディスはあの時のことを思い出す。それはニアが死んだ...いや死んだと思われた日の事。あの時確かに、聖竜の攻撃で...。
その信じられない光景にただ立ち尽くしじっとニアの方を見る。
「...本当の本当にお前なのか?」
「もー、どっからどう見てもそうでしょ?ね?」
「そうか...」
ガーディスのその目には涙が流れていた。目の前の死んだはずの幼馴染がいるのだ。思わず手を握る。手からはひんやりとした感触が伝わってくる。
手が冷たい。ならば自分がもっと温めなければ...。ガーディスはそう思うながらずっと握っていた。
涙を流しながら自分に手を握っているガーディスを見て不思議そうな顔でニアは首を傾げた。
「もー!どうしたの?」
「あのクエストに挑む前、約束しただろ?元気で帰って来るって」
「そうだね」
「だから...」
「だから?」
「いや、なんでもない...帰ろう」
そう言って手を引っ張ってガーディスは歩き出す。てニアは何がなんだか分からずガーディスに引っ張られるようにそれについていく。ニアは引っ張られながらも、ガーディスにこう尋ねた。手には赤い丸にドクロのようなマークが付いている。こんなものはなかったはず。
「帰ろうって?」
突然のその言葉にニアはそう、聞き返す。一体何があったのかというような顔をしているニアに、ガーディスはフーッと息を吐いた。
後ろで歩いていたニアが立ち止まると、それに気づいたガーディスも立ち止まる。突然立ち止まったニアの方を向いてガーディスは「どうしたんだ?」と不思議そうに尋ねる。が、ニアが何も言わない。そして少しの沈黙の後、やっとニアが口を開いた。
「ここは魔物の世界だ。元の世界に帰ろう」
「確かに...ここは私たちの世界じゃない。でもここに残るよ」
「なんで!」
「私は...戻れないの。ポロロって言う人の別の世界に行ける力を使って一回試したんだけど...まるで何かに引っ張られるような感じがして...出ようと思ったら出れなくて」
「どう言うことなんだ?」
「分からない...」
会話がそこで途切れる。また訪れた無言に周りの魔物の騒がしい声だけが響いてくる。
きっと戻る方法はどこかにあるはずだ。ガーディスは拳を握りしめてニアの正面を向いて両肩を持つ。
「大丈夫だ!きっと戻る方法を見つけて見せるさ!」
「ガー..くん!そうだ!せっかく来たんだし観光でもしてこうよ!!」
「え?あ...」
「良いから!」と言いながら今度はニアの方がガーディスの手を引っ張って行く。引っ張られる少し恥ずかしながらも連れて行かれる。
周りには外壁が色彩豊かな店や家が並ぶ光景を見ていた。
少し不安げなガーディスをなんとか元気付けようと、明るい顔でガーディスを引っ張るニア。
「ねーねーどこ行く?」
それは、まるでカップルのようにくっついてニアは向こうの方を指差す。この瞬間をガーディスは幸せに感じていた。すると目の前には2、3人ほどの魔物が立ちはだかる。どれも違った耳とヤギのようなツノが生えている。
「おい!なんで人間が居るんだ?あ?」
「へへへ」
まるでチンピラのように絡んでくるそいつらにガーディスは剣を抜く。するとその魔物の1人がニアの方を指差す。ほかの2人もニアを見てなぜ2人が指さしたにかを察する。
ガーディスにはわかっていないようで何を言っているんだと言うような顔でその魔物たちを見ていた。
「そこの女...お前って」
「なんだ?ニアが何だってんだ」
「いや、何でもない。人違いだったみたいだな。行くぞお前ら」
「でも...」
「行くぞ」
その魔物のたちはガーディスの横を通過して歩いてどこかに行ってしまった。結局よくわからないままそれを見ているしかなかった。その魔物たちは歩きながらガーディスには聞こえないぐらいの声でこう話をしている。
「いいのか?あの人間に話さなくて。あの女の手にあった、あの赤いドクロのマーク...」
「世の中には知らない方がいいことだってある。話さない方があの人間のためだ。なんだかあいつを襲う気なくなっちまった。まさかあのドクロを見せられるなんてな。まったく、アレを見る度に気分が悪くなる。ゲスが」
台風のように去っていった魔物たちを眺めているガーディスにどうしたの?と
ニアはいつもと変わらない表情で声をかける。
その顔は笑顔に戻っていた。
「あっちに行こうよ!」
「お、おう...」
その笑顔の中にも不安が募っていた。本当に連れて帰れるのか....不安が頭の中でぐるぐると渦巻く。するとそんなガーディスを、リアが心配そうな顔で見てくる。
「大丈夫?本当に」
「なあ、その手のそれ...なんだ?」
ガーディスは何となくそれを聞いてみる。そのドクロは見るたびに不気味さを醸し出す。
「あれなんだろう?」
ニアが指差す先には大きなタイヤのついた台のようなものだった。赤と白のデザインでその台の上には細長くまた違う台が置いてある。
それを周りには何人もの魔物が、組み立てている。
「人間なんて珍しいな。2日後にパレードがあるんだ。なんでもあの台に乗って移動しながら踊りをするみたいな感じらしい」
隣にいた魚にような魔物がそう教えてくれた。
向こうでは何やら設計図と思われる紙を2人で眺めながら話している魔物もいる。
「パレードだって!楽しみだね!!」
「...ああ」
ガーディスはニアを何としても守ろうと誓い、その作り途中の台を見た。
「ここなの?」
アリスはユオという魔物に連れられ人目のつかないところにまで来た。一つの紫の建物を見つけるとドアを開けると中にはテーブルと雑貨が散らばった部屋だった。
「なんか汚ったない家ね」
「こら!テティ!真実でもそういうことが言わないの!!」
「お前も結構失礼な奴だな」
「で、あんたはなんでアリスに目を付けたの?」
ユオはそれは...と言いかけたが少し黙ってしまう。数秒ほど黙るがその後にやっと口を開いた。
「魔物は...裏切る。だから、人間なら...人間なら..!」
「アリスが裏切るわけないでしょ!」
テティのその言葉に、そうか....とだけ言って奥の部屋に戻っていた。そしてゴソゴソと何やら奥から何かを探してこちらに戻ってくる。
テーブルに置いてある紙を放り出して、大きな紙を広げる。それは青い色の、先ほどまでアリスたちが居たゲノムとかいうやつらの家の見取り図だった。
「これって!」
「お前もトレジャーハンターならこの家はわかるだろう?」
「うん...」
「おっと!どこで手に入れたとかは無しだ」
手を前に出してそれ以上の詮索を拒否するユオ。アリスは見取り図を眺めてその正確さに驚いた。全部入ったわけではないが、部屋は少し覗いたりした。その部屋達を漏れなく気をつける点などと一緒に書いてある。
「トレジャーハンターの仲間なら一緒にここに潜入するんだ」
「ここに...ホワイがいるはず...」
「きっとドラゴン・バスターもここに...」
「何か言った?」
その言葉はアリス達には届いていないようで不思議そうにアリスが尋ねる。そう聞かれ慌てたように「なんでもない」とだけ言った。
「どうやって入るの?」
「ここからだな...」
指で見取り図の建物の後ろの方を指でトントン、と叩く。
見取り図を見る限り部屋は結構沢山あり探すだけでも一苦労しそうだ。
外から見てもその大きさは分かるほどで、この中から探すとなると、中々骨が折れそうだ
「建物の後ろに、ヒミツの裏口があるからそこから侵入をする。だがゲノムは見つかると厄介だ。死体を動かしたりするやつや、眠らして来るやつなど、相手をしても、まず勝てないだろう」
眠らして来るやつはおそらくアリス達を連れてきたあのトカゲの事だろう。確かにアレは厄介だ。見つからないようになんとか奪還できればいいのだが...。
「今日の夜、早速忍び込むぞ。侵入口はここから...」
「いいの?あったばかりの私たちで」
「お前達は...なんだかにている気がする」
「似てるって?」
「いやなんでもない」
手を出して来たユオに応えるようにその手を握り握手をする。なんだか仲良くなれたような気がした。
「あなたはどうしてそこまでして、トレジャーハント?とかなんとかいうのをやるの?」
そうテティが尋ねると、ユオはふっと笑ってこう喋り始めた。
「語り継がれた英雄、伝説のトレジャーハンターの話を知ってるか?
「英雄?」




