四十六話 魔物が住む地
「何なの?ここ」
大きな窓の外をの光景を見てアリスは驚いた表情になった。そこから見えたのは、紫や水色といったカラフルな建物に、魔物達が行き交うという光景。
先ほど言われた「魔物の住む世界」という言葉を疑っていたが、この光景を見てそれに信憑性がでてくる。
「ここは本当に...魔物の世界?私たちが居た所とは違う...異世界?」
「ゲッゲッゲ、 そうだと言っているだろう?人間はいつもそうだ。来るたびに同じようなことを言っている」
来るたび..?ということはアリス以外にも人間がいると言うことか。アリスは恐る恐る目的を訪ねる。すると、フフと笑ってその吸い込まれそうな青い目をアリスの方に向けてくる。
「ゲッゲッゲそりゃあもちろん、別の世界との統合さ」
「統合...って!」
「そのためにあの娘が持っている奴が必要ってわけなんだ。お前らを呼んだのはただ単に手間が省けたっていう礼を言うためだけだ。もう帰っていいぞ」
「帰ってって!それを聞いて帰れるわけないでしょ!ここがあなたの言う別の世界なら、まずどうやって帰るっていうのの」
「それはだなあ...おい、ポロロ!」
その声と共に奥から「はーい」という可愛げのある声が上がり現れたのは丸い白の毛に覆われた生き物だった。頭には触覚が2本生えている。丸い目は愛らしさを感じられる。
「ゲッゲッゲ、このポロロは別の世界につながる扉を作り出すことができる。お前らが元いた世界になんてすぐに帰れるさ」
「じゃあ、あの世界から脱出も!?」
「あの世界?」
「いや、何でもない」
もしかしたら元の世界に戻れるかもしれない。だが、あんなことを聞いてしまった以上、放っておくわけにもいかない。とりあえずこの状況を何とかしてからにしたほうが良いだろう。
「最後に、あなた達ゲノムって何なの?」
「ゲッゲッゲ、ゲノムはこの世界に暗躍する『暗闇の侵略者』とだけは教えておいてやろう」
「そう」
「あ、あとついでにお前の連れも持ってけ」
ピンク色の手が何本か生えた機械が向こうの部屋からやってくる。手にはテティとガーディスを掴んでいる。その機械は乱暴に2人を放り出すとカーペットに放り出される。いてて..と声をだしてアリスの方を見てどちらも「アリス!」と名前を叫んだ。
「ポロロ、案内を頼むぞ」
「分かりました、ゲルムさん。こちらです」
アリス達は案内に従って部屋の外に出た。廊下には赤いカーペットと壁の柱には写真とロウソクが交互においてある。しばらく歩くとロビーと思われる場所に出る。シャンデリアに階段があり2階に続いているようだ。出入り口となる黒い鉄でできた扉を開けると外から光が差し込んでくる。
そこには窓の外にあった魔物達が街を行き交う光景があった。
「すごい..本当に魔物の世界なのね」
「では、私が設置した貴方のいた所に続く道をお繋ぎしますね」
「すごいわね、それ。どこにでもいけるの?」
「いえ、どの場所にいけるというわけではないのです」
アリスはそれを聞いて小さく「そうなんだ」と呟いた。元の世界に戻れないかもしれない。だが、こんなチャンスを逃すわけにはいかない。一応聞いてみるとしよう。もちろん、今の奴が解決した後だ。
「ねえ?せっかく来たんだし、少しぐらいブラブラしてもいいでしょ?」
「いい考えね!」
「え?あ、はい、そうですね」
「おい、俺と戦うんじゃなかったのかよだから俺は...」
ガーディスはその後の言葉を言うのを中断した。見覚えのある女性が通ったのが見えたからだ。ガーディスの体は勝手にそちらの方に向かう。ポロロが制止するが聞く耳も持たず人混みに紛れてしまった。
「じゃあ、2時間後にここに来るってことでどうでしょう?さっきの人に会ったら、そう言っておいて下さいね」
「わかったわ」
アリスもそういうと人混みの中に消えてしまった。それを見ながら少し心配そうにポロロは、「大丈夫でしょうか..?」とだけ呟いた。
「観光なんてする気ないでしょ?アリス」
「もちろん!ホワイを..あの剣を奪還するのよ」
「やっぱり」
「でもその前に。偵察をしなきゃね」
アリス達は魔物の中を歩いて行く。人間ということもあって、物珍しいそうにアリス達をみるものもいる。少し歩くと一つの店を見つけた。そこでは武器を売っているようだった。
顔のついた石、「今日の目玉!」と書かれた剣..奥に見える布の袋に入ったジェム。どうやらこの世界でもジェムを使って引くというコンセプトは同じようだ。だ。というか、魔物なのに人間のように武器を使っているのか。
へントールなどを見てアリスは慣れていたので、そこまでの衝撃はなかった。
「ここでも同じようにジェムで武器が買えるのね」
「異世界だっていうのに全く同じやり方っていうのも変な話ね」
「いや、そもそも異世界人と話せてる時点でツッコミどころ満載だけどね」
「確かに」
店の前にジェムを置く。店の服を着たゴブリンのような魔物は人間の存在に戸惑ったが客ということを認識してジェムを口の中に放り込む。すると石か回転して何個か球を吐き出した。どうやらこの辺もさっきまでいた世界と同じようだ。
そして剣や槍が渡される。どれも見たことのないような武器ばかりだ。
「どうだい?もう一回やるか?」
話しかけてきた店主にアリスは「いい」と言いながら首を振る。すると店主はつまんなそうに袋に受け取ったジェムを入れた。
「なんか普通に会話はできるみたいね」
「多分できなかったら進行がめんどくさそうだし」
「で?どうやって助けるの?入るだけなら簡単そうだけど、たどり着くのは至難の技そうよ」
「うーん..」
改めて先ほどまでいた施設を見る。遠くからでも見えるほど大きく聳え立っている。廊下を歩いていて部屋もたくさん会った。2階も行けるようで、おそらく部屋の数も多いだろう。そこからどうやってホワイと武器を回収するのか...。
「おい、そこのお前!」
「はいっ!!」
その呼びかけに体をビクッとさせそう答える。後ろを向くと人型の魔物が立っていた。青い体に黒い髪の毛のようなものにパンツのようなものをはいていて尻尾付いている。一体こいつは...?
「お前、人間だろ?ちょっと来い!」
「え、ちょ!」
そいつに連れられて階段を降り、人気のないところまで来た。
そしてアリスの顔に近い位置までそいつは顔を寄せた。
「お前もあそこに侵入したいのか?」
「え?」
「今そんな話をしていただろう?」
「あ、はい」
「あそこはお宝があるとかなんとか!クゥー!夢が広がるじゃねえか!!お前もトレジャーハンターなんだな?」
「トレジャー?え?」
そいつの勢いについていけず困惑の表情をするアリス。それを見て、近かった顔を戻した。
「名乗ってなかったな人間。俺はユオ。トレジャーハンターだ」
「アリスです」
「トレジャーハント!その言葉は俺を奮い立たせ興奮の渦に巻き込む!トレジャーハントは俺の生きがい!トレジャーハントは俺の生き様!!」
「そうなんだ」
アリスもテティも、やはりノリについていけずにただそのユオという魔物を見る。だがこの魔物は使えるかもしれないとアリスは思っていた。一緒に入るような事になれば1人よりかは2人の方が良いだろう。
「で、どうやってはいるんだ?」
「それが決まらないからアリスが困ってるんじゃない」
「まあ、そうだね」
「よし!じゃあ作戦会議といこうじゃないか!秘密基地に来てくれ!!
「えっ?ちょ!」
アリスはまた引っ張られるようにユオに連れられる。うまくいくかはわからないが、アリスはこのユオという魔物がいると少し安心するような気がした。
「おい!待ってくれ!!」
ガーディスはその女性を追いかける。その女性は魔物ではなく人間という事もあって他のものより目立っている。ついに追いついて肩を叩く。すると長い髪をなびかせてこちらを向く。その時ガーディスの体には電撃が走ったように体がその女性に反応を起こす。
「お前...ニア...なのか?」
「久しぶり、ガー君」
その死んだはずの幼馴染は、そう言いながら優しく微笑みかけた。




