三十六話 消えない罪
「おや?あなたは確か...」
「ああ、お前の武器で色々させてもらったな」
「ああ!あの時の!あの時は闇魔の試験ありがとうございました」
手を叩き思い出したようにそう呟く。自分の闇魔の実験台になったガーディスがここにいるということは...また闇魔を使いに来たのか。
そう考えたヘントールは持っていた闇魔の弓を取り出しガーディスの前に出す。
また来たと言うことは、また闇魔の?」
「いいや、リベンジに来ただけだ。そこのアリスのな」
「あなたは強さを求めているのでは?」
「ああ、だが闇魔は聖竜を倒せるものではなかった。アリスに勝てないようじゃな。そしてこれで沢山の人を傷つけてきた免罪符でもある」
「そうですか...」
だがまさか、闇魔のアリスと戦うなんて皮肉なものだな」
隣にいたアリスの持っている闇魔を見てだいたいの状況を察したガーディスは剣を構える。まさか自分が闇魔で戦っていた相手が闇魔を持って戦うことなろうとは思わなかっただろう。
「やってしまいなさい」
その言葉とともにはヘントールは笛を吹く。するとアリスはガーディスに向かって攻撃を仕掛け始めた。大きな闇魔を振り上げるアリスに、ガーディスは少し嬉しそうに同じように斧を振り上げる。アリスよりガーディスの方が早く先に剣が到達するのはガーディスだった。
「やりますね...今のうちに白の魔術師を捕えるとしましょうかね!」
そう言いい笛を鳴らすと赤と青の魔物はホワイの方に向かっていく。来ないで..」と怯えたように後ずさりするホワイに魔物はどんどん近づいてゆく。2匹の魔物の手がホワイに触れそうになった時...。
大きな黒い球が赤と青の魔物の方に向かいそれが直撃する。その魔物たちはその場にその場に倒れてしまう。その黒い球が放たれた方を見ると、そこには先ほどまでガーディスと戦ったアリスがスキルを使った後だった。
突然のことだったがへントールは動揺もせずいつもの調子でアリスにこう尋ねる。
「おや?なぜ、笛の音色を聞いて思い通りに動いていないのでしょうかね?」
「この剣なんかに支配されてなかったのよ。支配されてるフリをして、あなたたちから情報を探ろうと...したんだけどあんまりいい情報はなかったわね。どうやらこれが助けてくれたみたい」
取り出したのはクエストに行く前にバニアから受け取った赤いペンダントだった。取り出された赤いペンダントは太陽の光にキラリと輝いている。
「ははは!やはり人間というものは興味深いですねえ!!面白いですよ!」
ヘントールは笑いながらそのようなことを言い出す。ヘントールにはもうお供の魔物も、アリスもいない。もちろんヘントール自体が戦えるわけでもんなくどう見てもヘントールが圧倒的不利と言ってもいいぐらいだ。だがヘントールは余裕そうな顔をしていてとても不気味だった。
「これで勝った気にでもなっているおつもりですか?甘いですね甘いですよ!!!」
「なに?」
そういいへントールが笛を吹くとどこからかドシドシと大きな足音が聞こえてくる。それはどんどん大きくなり何かがこちらに向かってくるようだった。最初は遠くにいたがだんだんその姿がはっきりとしてくる。それは武器喰らいだった。
「武器喰らい!そういえばすっかりこいつのこと忘れていた!まだこいつがいたね..!」
「なんじゃこの魔物?でけーなあ」
その大きさにはじめてのガーディスは興味津々だった。ふふふとヘントールは笑いながら笛を吹くく。すると武器喰らいは体から矢を放った。しかもそれは氷をまとった矢だ。またアンバーグから奪いとったダジャレのやつ放ってきたのだ。だがアンバーグが使ってたのを見てそこまで強い武器ではない事がわかっていたアリスはその矢を簡単に避けてしまう。
「ねえガーディス、今はあいつをどっちが先に倒せるかって勝負にしない?」
「その勝負乗った!」
ガーディスとアリスは武器喰らいの方に向かっ行く。
だがその動きはすぐに遅くなった。それは止まっているかのようだ。この身に覚えのある技にアリスもガーディスもなんだか嫌な予感に襲われる。
「なにこれ!!」
「おいこれってまさか...」
遅くなっていたアリスたちの動きが元に戻るが、先ほどまで走っていた勢いを殺され前に倒れそうになる。それでも何とか武器喰らいの所に到達し剣や斧を振るおうとするが、武器喰らいの周りの地面に現れた黒い円に体が沈みそうになってしまう。ガーディスがアリスの手を掴み、なんとか救出し一旦武器喰らいから距離を取る。
「間違いねえ、ありゃカルラの別の所にワープさせるやつだ。そしてさっきのはピロンの...」
「それってあんたの所の闇魔じゃ!」
「ああ、それらが使えるってことはバニアとゴーンのやつも..」
以前に戦った闇魔全てを相手にしなければならない。アリスも一度勝てたとはいえ一つ一つ厄介な能力に変わりはない。それら全てを相手にするのは部が悪すぎるだろう。
「特に警戒すべきはバニアが使っていたスキルを奪い取る『ロストスキル』そしてピロンの動きを止める『黒式』」
「そんな名前だったのねアレって」
「そしておそらく、俺が使った『究極の闇魔』もあるだろう」
このガーディスと戦った時に使っていた『究極の闇魔』はとても強大な力だった。自分に纏わせその力でアリスを苦しめてきたその武器を、あの時は剣が進化したことによって何とか勝てたが、今はつかわれたらおそらく勝てる保証はあまりないかもしれない。
おそらく持っているロストスキルでスキルは1回のみだろうし近づけばピロンやカルラの使っていた闇魔で動きを封じられることもある。とても厄介な相手だ。
「どうするよ..この勝負勝敗がつくか分からねえぞ」
「やるしかないでしょ」
「だな」
アリスとガーディスは別方向へ走り出す。武器喰らいはアリスの方に狙いをつけて黄色い光線のようなものを出す。その光線は草を焼き切りアリスのいる方へと向かって行く。その隙に後ろからガーディスが攻撃を仕掛けようとするが水色の正方形の透明なバリアのようなものが立ちはだかり攻撃ができなかった。
「バリア系の杖の能力!?っておいおい、こいつどんだけ武器食ってきたんだよ...色々使いすぎて反則じゃねえか」
何回か攻撃をするが透明なバリアは敷き詰められたように武器喰らいの周りを囲っていて攻撃が全く当たらない。
「いいですよ!そのままやってしまいなさい!」
ガーディスは後ろの方で笛を吹いているヘントールを見てあいつが動かしているのだということを理解する。するとガーディスはヘントールの方に駆け出し攻撃をしようとすると。だが武器喰らいも大きな足音を立ててガーディスの方に向かっていく。だがそこまで早くはなくこれなら追いつかれることはないだろう...と思っていたルビスの動きがとまった。動こうとしてもなかなか動けない。
「お忘れですか?この武器喰らいには動きを遅くする奴があるのです」
「そうだった...!」
「さて、私はそこの白の魔術師でも回収しましょうかね」
そう言い、ヘントールは笛を吹きながらホワイの方を向く。ホワイは近づいてくるヘントールに後ろに下がりながら距離を保とうとする。
だがヘントールは横から襲いかかってくる何かに押し倒された。それは突然のことでヘントールもその光景に驚きの表情をみせる。ヘントールを襲ったのは武器喰らいだった。




