三十五話 大地を裂く炎獣
「はぁはぁ...」
その白いローブの少女、ホワイは走りながら後ろを見た。後ろに何も居ないことを確認すると、走っていた足をゆっくりにしていき立ち止まるどうやら七天聖は来ていないようだ。それがわかると安堵の表情になる。
周りは草が生い茂っているだけで 魔物も何も居ない。先ほどの隕石で魔物はほぼ死滅したようだ。
「もう...来ないよね?」
「おいおいおい!そこのお嬢ちゃん!!何してるんだい?」
そこにやってきた3人組の中の一人はそう言いながらホワイに近いて来た。そいつらはまるで不良のように顔を近づけてホワイを見る。その美少女っぷりに少し見惚れながらもマブは話を続ける。
「この方を誰だと思ってる?このお方はマックスヒーローズの...」
「言うな言うな!皆までいうな!」
そう言うのはマックスヒーローズのリーダーのマブ。マブは頭をあげて横目でホワイの方を見る。そのうざったいような口調で話し始める。ホワイはただ呆然とそれを見ている。
「んで?お嬢ちゃんも魔物との戦いに来たのかな?ふうーん。あまり見たことのない武器だな?なんだ?これは
マブはホワイの武器をじーっと見る。もちろんこの3人は白の魔術師だとか、星7の装備だとかと言うのは全くもってしらない。なので見たことのない武器だと思うばかりだろう。
「それでどうやって戦うんだ?」
「今はまだ使えない。これは一回使うとものすごい長い時間待たなきゃいけない」
アリスがオノマトピアと戦っているときに聖竜を退くのに使ってまだ2日ほどしか経っていない。この武器をしばらく使うことはできないのだ。マブは「ふーん」と言いなが隣にいたアルとホーを呼び何やらコソコソと話を始めた。
「こいつは今はおそらく戦力にならない。だったらオレ達が守ると言ったらどうだ?あいつは喜んで来るだろう。そして言うはずだ『マックスヒーロズは強くて素晴らしい』とな!」
「そううまくいきますかね?」
「行かないと思う」
「シャラーップ!とりあえずあいつを護衛するんだ。いいな?」
「ういーす」
マックヒーローズの3人はホワイの方を向くと咳払いをし、このようなことを言い始めた。
「俺たちマックスヒーローズが守ってやる!」
「ああ、そう」
「光栄に思うことだな!」
「後ろ..」
そう呟くホワイの顔は先ほどのつまらなそうなものから何か恐ろしいものを見るような顔になっていた。そしてホワイは人差し指を立ててそれを動かす。だがマックスヒーローズには何のことだかが分からず頭にクエスチョンマークを浮かべる。それから数秒で「後ろを見ろ」と言うことだと気付いて後ろを向く。そこにはいつのまにか炎を纏った獣が立っていてこちらを見ていた。
その獣を見てなぜ先ほどからホワイが恐ろしいものを見ているかのような顔になっていたのがわかった。
「こいつは!大地をも切り裂くと言う凶獣、ライオバースト!!」
「あーえーっと...こんにちはライオバーストさん」
マブのその言葉ももちろん通じることはなくそのライオバーストは襲いかかって来た。マブは持っていた剣で攻撃を試みるが簡単に圧倒されてしまう。
「リーダー!」
「この炎野郎が!!これでも食らいやがれ!!!」
マブは剣に炎の力を纏わせるそれは渦巻くように剣の先端を目指し、先端に集まると球のようにその炎が集約されている。そしてマブは大きくスキルの名前を叫びながら剣を振ると炎は勢いよく炎の獣の方に飛んで行った。
「フレイムパワー!!」
だがそれは炎の獣の中に吸収されて全く聞いていないようだった。怯むどころか炎の獣はさらに活気づいたようだった。
「リーダー!炎の敵に炎のスキルなんて打ってどうするんですか!?」
「ああ、そうだった」
「もー、どこまでポンコツ何ですか!」
「あん!?いまなんつったぁ!」
アルの「ポンコツ」と言う言葉に反応し、マブは炎の獣からアルの方に視線を向けた。ホーの「危ないよ!」と言う声とともに炎の獣の方に視線を戻すと炎の獣の大きな爪が目の前に迫っていた。
その大きな爪はマブを切り裂く。マブの体には切り傷ができ、そこから血が流れてくる。
続いてライオバーストが地面を叩くと地面が割れ炎が凄い勢いで吹き出してくる。
「なんだこれ!」
その勢いはさらに大きくなりあたり一面を飲み込むほどにもなる。
「リーダー!俺たちも!」
「くるんじゃねえ!」
その声にマブの方に走っていったアルとホーは足を止めた。まさか、自分たちのことを思って..!そう思うと立ち止まってなんかはいられない。そう思うと足がまた歩を進める。
「お前らが来たら良いところ取られるだろうが!!」
「ええー..」
その言葉にまた立ち止まる。アルとホーのためではなくあくまでも自分のために戦っているのだ。アルとホーは少し呆れながらもシリアスなんかじゃなくいつものリーダーだと言うことにどこか安心感を覚えていた。
「リーダー来ますよ!!」
「わかってる!!!」
吹き出す炎を避けながら、ライオバーストの突進を避けて剣を突き立てる。だが炎の体には貫通するだけで当たっている感触は全くなかった。ライオバーストから剣を引き抜いてもう一度刺してみるがやはり結果は同じだった。剣を見るとライオバーストの炎で所々ボロボロになっている。もう数回ぐらいで完全に使い物にならなくなってしまうだろう。
「最後期この一撃をお見舞いしてやるぜ!!!いくぞ!!」
そう言いながらマブが駆け出す。すると上から黒いものが降り注ぎそれはライオバーストに直撃した。もちろんマブの攻撃ではないのでマブも何が起こったのかわからないような顔で突っ立っている。
ライオバーストは再生しようとするがもう2度黒い何かはライオバーストにあたり、あっという間に消し飛んでしまった。
「なんだ..?」
「リーダー!あれ!」
そこに立っているのはアリスだった。隣にはヘントールと、お供でついて来ている赤と青の魔物2匹だけがいる。アリスは無言のまま近づいてくる。なんだか普通のアリスではないようでマブは剣を構える。
「おや!これは白の魔術師というやつではないでしょうか。ラッキーですねえ。まさかこんなところでお目にかかれるとは」
「おまえ、何でそんな奴と一緒にいるんだよ!!」
「どうするんですか?リーダー!主人公とモブじゃ勝負なんてやらなくてももう決まってるようなものですよ!!!」
「うるせえ!!」
マブもそれをわかっているだろう。一体どのようにして切り抜けるのか...。
「さーせんしたー!!!!」
それは見事な土下座だった。なんだかこのような光景を前も見たような気がする。いわゆるデジャヴというやつだ。2度目かのその情けない姿にあたりは静まり返った。そして次の瞬間ヘントールの笑い声が大きく聞こえた。
「面白いですねえあなたは!あなたも仲間にしてしまいましょうかね?やってしまいなさい」
その言葉を聞いたアリスはマブの方に近づいてくる。マブは土下座を止めずになんとゆるしをこったままだった。
「なんか面白そうなことやってんじゃねえか。俺も混ぜろよ」
男の声。誰もがそっちの方を向いた。そこにいたのはかつて闇魔を巡って戦ったガーディスだった。




