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三十二話 黒く染まる魂


「アリス!!なんでお前が!?」



ヘントールと一緒にいるアリスにアンバーグがそう疑問を投げかけるが、アリスは全く反応しない。それどころかアンバーグに剣を向けてこちらを睨んできて、まるで敵対心があるようだった。恐らくこのヘントールというやつに操られているのだろうというのはアンバーグでもすぐに推察できた。ゴクリと唾を飲み込みアリスを見る。操られているのだとすれば、恐らくこのまま戦ったとしても、勝てる見込みは少ないだろう。アンバーグはどうにかできないかとあたりを見回すが周りには木々や草花ばかりで、特にこれといって使えそうなものはない。



「私の改良した闇魔ではそんな声だけじゃ解けるわけがないのですよ」



「改良した闇魔...だと?」



「はい。あなたたちが打ち負かしたあの闇魔をさらに強力にして装備するだけで剣に支配させるように改良したのです。どうです?素晴らしいでしょう!!」



「どこがだよ」



「まあ、あなたは弱そうだから要りません。さあ、やっちゃってください」




その言葉で、アリスがアンバーグに近づいてくる。くそ、アリスと戦うしかないのか...。そうこうしているうちにアリスは目の前にまで迫ってくる。そして持っている闇魔をアンバーグの方に勢いよく向けてくる。アリスのその剣は、アンバーグには当たらず、アンバーグの真横を通過し後ろにあった木に突き刺さった。

すかさずアンバーグは槍と取り出すとアリスの顔に向けて勢いよく振りかざす。だがアリスはすぐに木に刺さっている武器を取ると剣を横にして槍の攻撃を受け止める。



「やっぱそう一筋縄じゃいかないよな...だが!みんな『名前でイジるダメだけに生まれてきたキャラだ』って馬鹿にするけど。俺だってそれだけのためのキャラじゃねえんだ!!」




アンバーグは必死に攻撃をするも、それは全てアリスに届くことは無かった。アリスの方もアンバーグ同様に横や目の前をを掠ってゆくばかりで一向に当たる気配がなかった。

アンバーグもアリスの攻撃を避けながら体制を立て直そうとするが、アンバーグはバランスを崩して倒れてしまった。尻餅をつくと草がふんわりとアンバーグを支えてくれる。迫り来るアリスの剣にアンバーグは横に転がってなんとか回避に成功した。剣が刺さった地面には剣が当たったところがえぐれている。



「あれ?アリスも攻撃を避けられてる..!俺もしかして強いのかも!?」



「ほう、思ったよりやるみたいですね...」



アリスは勢いよくこちらに向かってくるが、アリスの攻撃は簡単に防げてしまうほど簡単なものばかりだ。アンバーグは完全に調子に乗ってしまい、自分はアリスと同等に戦えているのだと誇らしげな表情をしながら腰に手を当てて鼻息を荒げて渾身のドヤ顏を見せる。ヘントールは「ほう...」と呟きながらアンバーグを見ている。



「アリスと互角に戦えるぐらい強くなったのじゃら。俺がこいつの目を覚ましてやる!!そういう胸熱展開もいいだろう!!!」



「あんな弱そうなのに、私が指輪で強化した攻撃について行くとは...」



「弱そうは余計だ恐竜野郎!!!俺が洗脳を解く胸熱展開にしてやるから待ってろよアリス!!」



そう言いながらアンバーグはアリスに攻撃をしかけようとしただが、そう上手くはいかないようにでているのものだ。アリスは自分の剣で簡単に槍を弾いてしまう。槍はクルクルと宙を舞いながら少し遠くの草むらに突き刺さった

槍がなくなったアンバーグはさきほその余裕の表情からこの世の終わりのような顔になっている。アリスは蹴りでアンバーグを押し倒すと馬乗りになって剣で突き刺そうとする。アンバーグは必死にアリスの名を何度も呼びかける。



「アリス!アリス!忘れちまったのか?おい!アリスってば!!」




「無駄だと言ったはずですが」





その言葉通り何を言っても無駄だった。へントールが笛を吹くと、アリスは倒れているアンバーグに向かって剣を思い切り突き立てるドスッ!という鈍い音と共にアンバーグは動かなくなってしまった。アンバーグからは赤いドロドロとした液体が流れてくる。



「何かに使えるかと思いましたが死んでしまってはダメですね...まあ駒は十分あるのでいいでしょう...」



そう言いながらヘントールはさっていった。その場には赤い液体を流して倒れているアンバーグだけが残った。







「聞いたか?あの噂」



「ああ、聞いた聞いた。魔物の王ハルガンデスが魔物の軍勢を引き連れてるって話だろ?」



「ああ、街がもうすでに何十とやられているらしい。もしかしたらここも...。これからどうなっちまうんだろうな...」




男達の会話を聞いていたカルラは歩きながら隣にいたピロンに「魔物の王って何スか?と尋ねた。カルラとピロンは買い出しの最中でカルラは両手で抱えきれるほどの茶色い袋を持っている。中には野菜やら果物やら様々なものが入っている。一方のピロンは荷物をカルラに任せているため手ぶらだ。



「ああ、魔物の王ってのはな、何千年に1回復活するという魔物の事だ。復活するとその強大な力で全てを滅ぼすらしい。だが我々は元々この世界にいるわけではないから、噂でしか聞いたことがないがな。ピロロロロ」



「へー、そうなんスか」




カルラはそう言いながら横目で噴水を見ていた。噴水からは勢いよく水が吹き出てその水しぶきで虹が出来ている。すると突然カルラは歩いていた足を止めた。ピロンもカルラが静止したのを見て足を止めた不思議そうにカルラを見ていた。



「あれ、僕たちに武器くれた人じゃないっスか?」



「あいつは...!」


カルラの目線の先のいたのはピロン達に闇魔を渡したヘントールだった。なにやら隠れながら路地の裏へと向かって行く。周りには人がいなくピロン達以外には誰にも怪しまれることなく路地に入っていった。

それをおいかけるようにピロンは路地の裏へと向かっていく。カルラは「ちょっと!」と呼びかけるがそんなことも無視して路地の裏へと消えていってしなった。カルラは荷物も持ってるしどうしようかと考えた後、バニア達に報告しようと駆け足でその場を離れた。



「ここか...」



ヘントールを追いかけたピロンは薄暗い路地裏で、ヘントールを探していた。人通りもなく、誰も通らないであろう路地裏に誘い込まれてしまったら見つかったらまずいかもしれない。左右には肌色の家の壁がそり立っていて一本道となっている路地を進む。



「おや、あなたはあの時の」



ピロンの予感は的中してしまった。目の前にはヘントールが現れた。隣には赤と青の鬼のような魔物も控えている。戦うことのできないピロンには部が悪すぎる。



「また闇魔を貰いにでも来たのですか?」



「ピロピロピロ、いいや、もうあの武器で戦うのはこりごりだ」



「どうしてここに?」



そう言われて言葉が篭る。ただ単に追っかけてきただけで特に理由もそれからの展開も考えげなかったピロンはどう答えようかと頭の中で試行錯誤していた。そしていい案が思いつくと、それをそのまま口に出す。



「ピロロ、そこに面白そうなものがあったかえ来ただけさ」



「そうですか」



「もう一度といますが闇魔を使う気は?」



「もうそんなものに縛られるのはごめんだな」



ヘントールはそれを聞くと「わかりました」と言い後ろを向いて立ち去ろうとする。ピロンは自分には戦えないことが分かっていているため戦うことはしなかった。



「ピロロ、お前の目的は何だ」



「もちろん、魔物の繁栄のためですよ。



「繁栄だと?」



「ピロン!」



「ピロン様!ご無事でじだが!」



後ろからゴーンとバニアの声が聞こえる。ゴーンもバニアもヘントールを見て驚いた表情をする。ヘントールは後ろを向くと「もう始まるみたいですね...」とだけ呟いた。

何だか向こうのほうが騒がしい気がする。その騒がしい方に行くと男達が色んな人に何かを話している。それを聞いた者はなんだか慌てた様子になりどこかに走り去って行く姿が見えた。何やら「魔物の軍勢が攻めてきたと言うような声も聞こえてくる。



「なんだ?」



「魔物の大群がどうやらこちらの方に来たようですねぇ。さて、魔物の王であるハルガンデス様を倒せるのか...楽しみです...」



「おい!」



そう言うとヘントールは闇の中に消えていった。ピロン達はヘントールの消えた闇をただただみてるだけだった。


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