三話 大地に舞い降りる聖竜
「テティ!!!」
「なんちゃって」
そう言うアリスはいつもと何ら変わりのないアリスだった。一体何が起きているのか...。
先ほどまでアリスは頭を抱えながら苦しそうな声を出していた。剣からはオーラのようなものが出てきていて、それは先ほどアンバーグが言っていた剣に精神を奪われるというやつが起こる雰囲気であった。だが目の前のアリスはそんなこともなく、いつもと変わらないごく普通のアリスだ。
「びっくりしたでしょ、この煙はただの煙幕なんだよ」
アリスは嬉しそうに紫の筒をテティに見せる。そこからは先ほど出たものと同じような煙がモクモクと出ては上に上がって行く。
ただの演技だったことにテティは安堵する。こんな状況でもそんなことができるなんて、アリスらしいといえばアリスらしいな、とテティは思うのだった。その筋肉ダルマの男はその光景を見ながらつまらなそうに鼻をほじっている。アリス達は筋肉ダルマの方を向き剣を構える。
「茶番はおわっだが?」
「あー終わった終わった。いいよ。来て」
その言葉を聞くと、ゴーンが斧を持ってこちらに走ってくる。振り下ろされた斧を剣で防ぐ。鉄と鉄が交じり合う音が大きく響いた。やはり凄まじいパワーだ。押し切られそうになるが何とか体を踏ん張らせる。先ほどもらった武器のお陰もあるのか、互角というぐらいの戦いをアリは見せる。
ついに相手のの斧をはじき返し、剣での攻撃に成功する。その筋肉ダルマの胸にはアリスに切られた傷ができ。そこから血が流れてくる。
「まざが、星4の武器!!」
どうやら、ゴーンがさっき言ってた簿は本当だったようで、この違法武器も、星5と言われるのが、普通の武器の星4ですらなかなか手に入らないと言っていいほどのレアな武器だ。何だか成り行きで手に入ったものがそんなすごい物だとは思わなかったがもしかしたらこれは...いけるかもしれない。ゴーンはとんでもないことをしてし待ったということに気づいて、あたふたし始める。あんな筋肉ムキムキなのにこういう一面があるのは少し可愛げがある。
「どうじよう、なにも考えずどんでもないもの渡じでじまっだ...ごれを知られだら...」
それを聞いて武器を交えるアリスはニヤリと笑みを浮かべる。なんか悪い気とを考えているなということはテティにもわかった。
「いいの?そんなのくれちゃって。無双しちゃうよ?無双しちゃうよ?!どうやら異世界に無双を入れると人気が出るらしいし」
「無双!何行っでいるんだ」
無双という言葉に首をかしげるゴーンに「まあいいや」とだけ言ってアリスはゴーンの方に向かって行く。ゴーンも斧で応戦するが、アリスは持っている剣で斧を弾いた後、再びゴーンに向かって剣を振りかざす。それを斧で防ぐが、それは長く持たなかった。そしてゴーンを少し吹き飛ばす。ズザザザと足を引きずりながら吹っ飛ばされたゴーンはその場にとどまった後にアリスの方に向かう。
「すごい、押してる....」
「おのれええ!ゆるざん!」
「ゴーン!!いつまであそんでいるのだ??」
突然の声。崖の上の方を見ると、2人の人物。片方は白い白衣の男でいかにも「科学者」と言わんばかりの風貌で、もう片方は少し露出度の高い赤い服の女。なんか見るからにイロモノ感がすごい奴らだ。
そいつらを見るやいなや筋肉ダルマの男の態度は豹変する。縮こまりながら声は先程より弱々しい感じだ。それは上司と部下とでも言うようなイメージだった。
「バニア様!ピロン様!申じ訳ありまぜん!」
2人の登場に慌て出すゴーンと呼ばれた筋肉ダルをバニアという女は睨むように見た後、女は手に持った杖を構える。先に紫の丸い玉があり、そこから異様なオーラが漂う。
こちらに歩いてくる。ピロンと呼ばれた白い白衣のやつの方はアリスより小さい背で近くで見るとてっぺんに髪の毛が3本ぐらいしかない。バニアと呼ばれた女の方は背の高い赤が所々入った黒い髪をしたバンドでもやってそうな風貌だ。どちらも年は30、40ほどあるだろう。
「だらしないわね。何遊んでるの」
「ピーロピロピロピロ!そんな小娘に苦戦するなんてね...」
「申じ訳ございまぜん!!」
「その変な笑い方はなんなの?」
テティがこの3人の会話に割り入るように、ピロンというやつの奇妙な笑い方にテティが反応する。絶対反応すると確信していたアリスは、そこに絶妙なフォローを加える。
「ダメよアリス!キャラ付けなんだから!あれがないとキャラが薄くなっちゃうわよ!」
「ピロロロロ、面白いことを言う妖精たちだピロロロ」
その言葉にも相変わらずの変な笑い方で応える。ピロンという科学者の風貌の男も、手にはゴーンが持っているのと同じような杖を持っている。この3人の闇魔というやつを回収しなければいけない。
どの人もそこそこ強そうな雰囲気を出している。
「こいつに一つ奪われて...!」
まあ奪われたと言うよりかは渡してきたのだが話の腰を折るのもあれなので言わないことにした。それにバニアは「ふーん」とだけ言ってアリスを上から下に目を動かしながら見る。そしてふっ、と鼻で笑いながら少し見下したような顔で杖を向けながらこう言い放った。
「そんな奴らに苦戦するなんて、まだまだね」
「あんた何てアリスがやっつけるんだから!!おばさん!!」
「おば...いまなんて言ったの!?おばさん!?もー許さない」
「おばさん」というテティの言葉に怒りの表情を見せる。どうやら「おばさん」は結構なダメージが入るようだ。まあアリスからもテティからも年的に「おばさん」と言われてしまうような感じなのだろう。
「あら?違かったかな?おばさん」
テティがすかさず「おばさん」という言葉で追撃をする。バニアは完全にテティのペースでかき乱され怒りの表情を見せる。なんども言われて相当なダメージをおったのか、アリス達に杖を向けて。「あんた達は絶対に許さない!!」と言い放った。
「3対1で勝てると思ってるのか?ピロピロ」
「勇ましいわねえ、あなた。そう言うところ、好きよ。でもおばさんと言ったあんたは嫌いよ」
確かにこの人たちの言う通り、3対1では恐らく分が悪いだろう。どうしたものか...横ではテティがべーっと舌を出し、バニアをまた挑発をしている。
その時だった。大きな唸り声とともに、1匹の大きな竜が大きな羽ばたきとともに舞い降りてきた。その羽ばたきは全てを吹っ飛ばす。白で統一された見た目に鋭い爪と大きな羽。威圧感と足がすくむほどの強大な力を持っている。
その竜は舞い降りた後に大きな咆哮で存在感を強調しているようだった。
「あいつは....」
「ハンバーグ何か知ってるの?」
「アンバー...いやもう何でもいいや...」
アンバーグは諦めたようにはーっとため息をつき、あの竜のことを語りはじめた。
「クエストの一つだけ、誰にもクリアされてないものがある。それがあいつの討伐。伝説の聖竜『バルトラード』その強大な力に、挑んだ者はことごとくやられてきたんだ」
アリスはそれを眺めていた。圧巻されるその大きさ、白い鱗。ただ立ち尽くすしかなかった。立ち尽くす人間にまた咆哮をしたあとにその大きな手でアリスを押しつぶそうとする。アリスはハッとして横に避けることで回避できた。ドーンと言う大きな音と共にそに竜が踏んだところにその竜の足の足の後がくっきりと残っている。
「ピロピロ!これはまずいね....」
「なんでそんな奴がこんな町近いところにいるの!?」
「知らない!今はともかくアリス!テティ!逃げるんだよ!」
その言葉に、アリスは背を向けて走り出しだ。目の前の強大な敵に、足が震える。だが歩かないと死んでしまう。
アンバーグもボロボロの体を引きずりながら逃げていく。だが、大きな音を立ててこちらに向かってくる。その足音は大地を揺らしていく。
逃げていく人間を見たその竜は追いかけるように翼を広げて滑空を始める。
その速さは人間の足など比べらなないもので、ものの数秒という速さでアリス達の上空にいた。
「奥の手と思っていたが仕方がない...!」
アンバーグは何かを投げた。それは発光し、目が見えなくなるほどだった。光は何十分も続き、前が見えないのか竜も襲ってこなかった。
後ろに恐怖を感じながら、ひたすら走った。光で何も見えないがとにかく逃げるしかないと言う一心で走った。どうやら光で見えてないようで必死に走った。
光が消えて行く頃にはもうその竜は見えないところにまでいた。結構長く光が続くようだ。どこまで走っただろうかわからないが、あの竜はおってこなかったようで、後ろには何も付いてきてはいない。
相変わらず肌色のような岩や地面が続く単調な場所だ。
「逃げ切れた...の?」
「そうっぽいな」
「よーし、じゃあこれであいつらをパパッと...」
「それはダメだ」
剣をさやのまま取り出しそう呟くがアンバーグがすぐさまそれを否定した。
それにアリスは「なんで?」と言いながら不満そうな目でアンバーグを見る。
「ていうかなんであんた仲間みたいな感じで溶け込んでんの???」
「またつかって、この剣にに飲み込まれたらどうする?またつかって大丈夫だと言う保証はどこにある??」
「そ、それは...」
今度こそ呑み込まれるかもしれない。この武器は普通じゃないのだ。確かに、さっきのはアリスのただの演技だったが本当に飲まれたらどうするのか。もしかしたら仲間も傷つけてしまうかもしれない。鞘におさまった闇魔を見ながらアリスはそんなことを考える。
「わかった...」
「それでいい」
そう考えるとこの武器は使わない方が良い。手に入れた闇魔を布に包んで背中に闇魔を結びつける。
「『暗魔』....ついに見つけたぞ!!」
その男はアリスの方をみていた。