二十九話 終わりを告げる鐘
「あなたは...」
「おっと喋りすぎたかな?これ以上話してる時間はないみたいね。それじゃあまたね。あ、そうそうこの止まった時はもうすぐ動き出すから安心して」
「もしかして闇魔の時にもあなたが?」
闇魔のクエストの時に襲われた時も同じように突然消えていた。そこまでいたはずの竜が消えるなんてそう簡単にできることじゃ無い。
「ええ。そうよ」
「じゃあお礼を!!」」
「申し訳ないけど早く行かなきゃ行けいから。それじゃあね
銀色の髪をなびかせながらアリスに背を向き歩き出そうとする。それをアリスは「ちょっと!どういうこと!?待って!!」と呼びとめたが、その言葉も聞かずその女は歩き続けた。ただただ、後ろ姿を見ているしかなかった。
「何なの?あの子」
「さあ...でも悲しそうな目をしていた」
片方が銀髪で隠れていたが、確かにその青い透き通ったような目はとても悲しそうな感じだった。
その女性の言った通り、消えてしばらくすると時が戻った。今まで動きを止めていた者も全て動きを取り戻しその不思議な現状にただ呆然としている。それもそのはずだ。さっきまで目の前にいた聖竜が消えているのだから。
「あれ?あの竜は?」
目を覚ましたルビスはそう言いながらキョロキョロと辺りを見回した。聖竜が突然姿を消し「何が起きてんだ?」と不思議そうに呟いた。
「聖竜は、もうここにはいないよ」
「いないってどういうことだ?」
「なんか白いローブの女性が...」
「女?」
「なんだかわからないけど時が止まったの。そして私たちだけ動ける状態にされて、そこにいたのは銀髪の女...」
説明するが全くわかってないようだ。おそらく説明してもわからないだろう。向こうではヴェラードが、どこかに行こうとしている。手に何か持っているようだったが遠くからではそれは何かわからなかった。
「一体何者なの?かしら?」
「さあ?」
「ところで、このめちゃくちゃになった街どうするの?」
辺りを見回すといくつもの家々が無残な姿になっている。幸いなことに半径数キロほどしか壊れてないが、聖竜のブレスで遠くにあった家までも巻き添え食っているところもある。ドカンと聖竜の連続で街の崩壊は防げたが一部の家や建物跡形もなく吹っ飛んでいる。
カーン、カーンと鐘の音が鳴り響く。近くに教会があり、そこにおおきくて立派な鐘が設置されていた。どうやら鐘の方は無事のようだ。その鐘はまるで終わりを告げるようだった。
「終わったんだね」
「ええ」
終わったのだ。重傷を負うものも多かったルビスもテティも、みんな生きている。
遠くでは受けつけのお姉さんが差し入れとして持ってきたおにぎりに復旧作業をしている者たちが驚いたような顔をしている光景。いつもの日常が久々に戻ってきたのだった。
「私たち、生きてるんだよね」
「ええ、ちゃんとここにいる」
「なんか忘れてる気がするけど...」
「なんだっけ??」
「あのアンバーグとかいうやつは?」
ルビスのその言葉で「ああ!!」」と思いだしたように手を叩く。どうやら完全に忘れられていたようだった
「ああ、いいやつだったわよ...アンバーグ...」
「変な人だったけどね」
「勝手に殺すな」
隣にいたその声の主を見てアリスたちは驚いた表情になる。そこにはいつのまにかアンバーグがいたのだ。いつから混ざっていたかが全くわからないほど自然と溶け込んでいたのだ。
「あんた!!いつの前いたのっていうか生きてたの!?」
「いまもこうしてピンピンしとるわ!」
そう言い今まであったことを話しはじめた。アンバlーグはずーっと追われていてついに追い込まれた。そしてもダメだ!!と思ったその時、突然武器喰らいは何かを察知して逃げてしまったのだ。そしてすぐに聖竜がやってきたあたり、おそらく聖竜を察知し逃げたのだろう。そしてずっと隠れていて現在に至る
「あんた隠れてたの?」
「う、うるせえ!」
「そんなことより、オノマトピアはどうなるんだろうな」
そんなことで片付けられたことに「おい」と声を出すアンバーぐらいを無視しルビスは話を続ける。
「ドカン以外はドカンのやり方に疑問を持ちながらも体に爆弾付与されて無理やり動かされてたようなもんだし...わからないけど」
「アリスどうかしたか?」
テティのその話にも上の空で、ぼーっとしていたアリスにテティがそう話しかける。アリスは「なんでもないよ」とだけ言い、テティに満面の笑みを浮かべた。
「あー俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
「何言ってるのよハンバーグは。ファンタジー世界にトイレなんてあるわけないでしょ」
「お前は一昔前のアイドルか」
それだけを言い立ち上がる。アンバーグは離れていきアリス達の楽しそうな話し声もどんどん遠くなってゆく。すると今度は別のところからが聞こえる。しかもその会話は「アリス」や「テティ」とい名前が上がっている。もしかして何かやばい会話なのでは無いか....恐る恐る近づいて見ることにした。「アリス」や「テティ」というワードが聞こえた以上気になって仕方がない。
「あれ?あいつは確か...ヴェラードとか言ったっけ」
そこにいたのはヴェラードだった。何か通信装置のようなもので話している。一体何を話しているのか...そしてその興味は次の言葉でさらに高まることとなる。
「ああ、そうだ。突然消えたとか言ってる。そんな芸当ができるのは奴しかいない。そう。白の魔術師
「白の魔術師??」
気になるワードにアンバーグは耳を傾ける。
「ああ、七天聖を集めてくれ。恐らく力を使ったとはいえ危険が残っているかもしれないからな」
「危険...?」
「そう、白魔術師のアレは一度使えば大幅なインターバルを要する。捕まえるなら今がチャンスというわけだ」
捕まえる...一体ヴェラードを含めた七天聖は何を考えているのか。ヴェラードがアンバーグの方を向く。アンバーグはとっさに隠れたが見つかったかもしれない...。恐る恐るヴェラード方を見るとまだ話している。
「おっとトイレだった!」
トイレに行きたかったのを思い出しその場を離れる。ヴェラードはこっそりのぞいていたアンバーグを見ていたがそんなことを知る由もなかった。
「あ?ああ、聞かれていたみたいだ。だが問題はない。放っておいても邪魔はされないだろう。それより、本格的に『奴ら』が動き出している。警戒するに越したことはない...。




