百六十七話 感情を失った少女
「お母様!」
その昔、幼いメルロとその両親は小さな村で暮らしていた。村自体は小さいが、20人ほどが穏やかに暮らしている良いところだ。
父親はかなりの実力者で有名だった。そんな父と母と3人で暮らしている。
「どうしたの?メルロ」
「見てください!これ!拾ってきたんです!」
そう言ってメルロは木の実を母親に見せる。この時のメルロは8歳ぐらいで、年相応の可愛さを見せる。それを見てメルロの母はにっこりと笑う。
「そうだ!もっと見つけてこよう!
「この辺りは凶悪な魔物が出るから気をつけなさいよー?」
「はーい」
メルロはそう言ってどこかに走り出す。そして街を出て木の実を探して森に向かっていった。
「うーんないなあ」
そう言いながらメルロはキョロキョロと木々の生えた場所を見回しながら床を見て木の実を探す。
「グオオオオオオオオ!!」
「なっ!!」
そこに現れたのはクマの魔物。そのクマの魔物はメルロを見つけると凄まじい唸り声をあげて襲いかかってくる。メルロがやばいは思ったが、後ろからクマに剣の一撃が入り倒されてしまった。
「大丈夫かい?お嬢さん」
そこには坊主の男が立っていた。手にはクマを一撃で倒したであろう、大きな斧を持っている。
「えっと...おじさん、ありがとう」
「ねえ、良ければ君の住む街か村で休ませて欲しいんだけどいいかな?」
「うん、いいよ」
その男を連れて村に戻る。村人は突然の来訪者に驚いたが、すぐに歓迎してくれた。
「ささ、どうぞどうぞ」
「ああ、どうも」
男はメルロの家に招かれ、手厚い歓迎を受けた。豪華な料理が出て、楽しい時間を過ごした。その時間はあっという間に過ぎていき、誰もが寝静まった頃...。
メルロは深夜に起きてしまい、寝室のある2階から階段を降りる。すると居間の電気が付いていて話し声が聞こえる。その声はメルロはの両親だった。
「おいあいつ...指名手配されてる極悪人だろ?」
「ええ。人を何人も殺したっていう凶悪な...」
「なら、今すぐにでも引き渡さないと...」
「ダメ!危険よ。ここは少し我慢して行って貰わないと...あいつが勘付いたらどうするの?」
「そうだな...」
その言葉を聞いてメルロは何も言わずに2階へと上がった。あの助けてくれた親切な人が凶悪な犯罪者?幼いメルロにはわからなかった。
「ねえ、おじさんはいい人なの?」
次の日、メルロはそんなことを男に尋ねてしまった幼いのでそれを聞くことでまずい状況になるかもしれないという判断ができないのだ。
「誰に聞いたの?」
「パパとママが言っていたんだ」
「そうなんだあ」
男は不気味にニコニコと笑っていたがその笑いの不気味さはメルロには分からなかった。
「おじさんはちょっと用があるから...ね?」
「うん?」
そう言って男は立ち上がり、向こうのほうへと行ってしまった。その後はメルロは1人で遊んでいるのだが、なかなか戻ってこない。
「そうだ!パパとママに言うことがあったんだった!」
そう言ってメルロは走り出す。メルロが家に着き扉を開ける。するとそ、の家からは何だかとてつもなく嫌な匂いがした。鉄のような生臭い臭い。恐る恐る入ると赤い何か床や壁にがべっとりとついていた。さらに奥のドアを開けると...。
「っ!?」
そこには血塗れで倒れているメルロの両親がいた。そして男が何かを漁っていた。
「くそう、とっとと何かを奪い取ってずらかろうと思ったが、ろくなもんがねえなん?」
「っ...」
メルロに気づいた男はどんどんとメルロに近づいていく。そして怖い顔をして斧を向けた。その斧には両親を殺したであろう血がべったりとついていた。
「すまねえなあ?でもお前のせいだぞ??お前が余計な事を言わなければ、お前の両親は死ななかったのに馬鹿な奴だあ!はははははは」
「あ...あ...」
「なんだ?言葉も出ねえか?そりゃあそうだよなあ?お前のせいで両親は死んだ。こんな愉快なことはねえもんなあ!」
「あ...」
メルロは頭が真っ白になった。そして次の瞬間男が血まみれで倒れていて返り血を浴びたメルロの姿があった。
「...犯罪者は優しくなんてない。全て...滅ぼさないと...」
そうブツブツ呟いてメルロは虚な目で家を出てどこかへ行ってしまった。
「そんな...」
その話を聞いたアリスはそう言いながら驚いた顔をした。メルロはその後の事も淡々と喋る。
「だから入ったんです、この秩序を守る場所に。そしてそれは自分への戒め。余計なことを言ってしまった自分へのね」
「そんなことが...」
「さて、長話になってしまいましたね」
「あなた...いや確かにあなたの境遇は悲しい。だからって...」
アリスはそう言いかけたが何も言えなかった。確かにやってること自体は過剰だとは思うが。これを聞いてしまえば否定はできない。
「何も知らないあなたに言う資格はありません」
「そうね...あとは剣で語り合うしかないわよね」
「そのようですね」
そう言ってお互いに剣を向けた。