十五話 戦いの先に
「俺は、負けたのか」
「ええ、そうよ」
ガーディスは仰向けになったまま手を伸ばす。自分の追い求めてきた強さとはなんだったのか。再び自分に問いかけてみる。
「ふっ、無様なものだ。強さを求めてそれを否定されるなんてな。こいつは俺が求めてたものとは違うのか...?
「ええ。あなたの気持ちは確かにわからない。大切なものを失ってそういうのはわかる。だけどやっぱり、自分の命を捨ててまで敵討ちするのはおかしい。
「そうか」
「アリス!!いたいた!」
ルビスとアンバーグはアリスを見つけると遠く空手を振る。ルビスの体はボロボロでアンバーグの肩を借りてようやく歩けるぐらいの様子だった。アンバーグはこちらにくると「よかった」と安堵の表情を見せる。そしてその横の男を見てアリスが倒したのだと察する。
「そいつ...お前がやったのか?何だかすごい強そうなやつだけど」
「アリスすごいんだよ。剣が進化してスバババって」
テティが身振り手振りと擬音語で説明するがアンバーグには伝わっていなかったようで首をかしげる。アリスはそのいつもの光景に安心感を見せるのだった。
「さて、その武器はもらうけどいいよね」
「好きにしろ」
「その前に、残りの闇魔の場所を教えてもらわないと」
「俺たちが使ってた闇魔はあっちのほうのアジトにある。後は知らない」
そう言い終わった後、ガーディスはフーッと息を吐いた。そしてこの闇魔を手に入れた経緯とその時に出会った魔物について語り始めた。
ガーディスの前に現れたその緑の恐竜は、紳士服のようなも着た小さな恐竜のような奴だったらしい。ヘントールと名のっていて、強さを求めるガーディスにその武器、闇魔を渡したのだった。
「そいつは闇魔を大量に持っていて、おそらくそいつが作っていたのだろう。そんな口ぶりだった」
「普通は魔物が喋ることすらないのに...そのヘントールとかいうやつは一体何者なのだろう」
「喋り武器を作る魔物....そんな奴がいるもんなんだな」
先ほどアリスの言った通り、この世界の魔物というのは知能など言うのものは持ち合わせていない。だがまさかそれができるどころか武器を作るものなど今までに発見されてこなかった。探せばいる可能性もあるがこれまでにみつかてこなかったのを考えると最近にでも出現した個体なのかそれとも...。
「で、こいつはどうするんだ?」
「あくまでも目的は闇魔。放っておいてもいいんじゃない?」
「もーアリスは甘いんだから。お
襲いかかって来たりでもしたらどうするの?」
「また戦えばいいよ」
「もう」
テティはそう言いながらふーっと息を漏らす。ガーディスの剣を白い布で取り包んで行く。それが終わるとアリスはそれを持ってテティに「行くよ」と声をかける。その言葉にテティもアリスの方に付いていく。アンバーグは2、3回ほどガーディスとアリスを交互に見て少し急ぎ足で歩いていくアリスの方に向かった。その場に残されたガーディスは仰向けのまま空を見ていた。
「なあ、本当に良かったのか?あいつら放っておいて」
アリス、テティ、アンバーグの3人は集会場に戻る途中、アンバーグはそう尋ねた。それにアリスはそれに「んー?」と言いながらこちらを見る。その問いにうーん?と少し首を傾げた。ガーディスの言う通り少し歩いたところに小屋がある、そこに残るの闇魔が置いてあった。バニアやらピロンの姿はなく風呂敷のようなものの上に無造作に闇魔が置いてった。それらの闇魔を回収して、現在帰路についているというわけだ。
「根は悪そうなひとじゃなかったし」
アンバーグのその質問にも考えることなくアリスははそう答える
アンバーグのその言葉を最後に。会話はそこで止まった。歩く度に石などがジャリジャリと音を立てる。そこから会話が弾むこと無く歩く音だけが聞こえた。
結局、武器だけ回収し戻ることになった。ヘントールという謎の魔物も探したが遭遇することなく終わった。
どうやらガーディスだけではなく闇魔全員が聖龍バルトラードの被害者でどうやって募ったのかは知らないが闇魔を使い倒す算段だったらしい。
「そういやルビスだっけ、あいつはどうしたんだ?」
テティと話をしていて気づかなかったが、そういえば先ほどまでそこにいたルビスとかいう賞金稼ぎの姿が見えない。途中までは確かに一緒居たのだがアリス達となにやら話をしていたのだが、いつの間にか姿を消していた。
「なんか用があるとかって」
「そうか」
それだけを聞くとまたアンバーグはテティとの会話に戻ってしまう。しばらく歩くと集会場の肌色の壁が見えてきた。数段の階段を登り、周回像の扉が開く。受付の女性はこちらを見るなり安心そうな顔をした。
「アリスさん!戻ってきたと言うことは...!」
「はい、この通り闇魔とか言う武器を回収してきました」
布で包まれた禍々しい雰囲気の武器をカウンターに置く。どれも改めて見ると禍々しい感じがする。これを作っているヘントールとかいう魔物の話のことを思い出す。一体だれで、なんのためにこんなものを作っているのか...考えていても仕方がないか。
「どうやらこれで全部じゃないみたいなんです」
「そうですか...」
「なんかこれを作って配ってる奴がいるとかで..どうやら魔物のようなんですが、まだ情報が少なすぎて...」
「あなたが無事に帰ってきただけで十分ですよ」
受付の女性はにっこりと笑みを浮かべる。とても危険ということもあって帰ってくるのかと心配していたようだ。受付のお姉さんは武器を受け取ると茶色い袋に入った大量のジェムをテーブルに置く。持つとジェム同士が擦れ合う音が聞こえる。なかなかの重量だ。これは期待ができそうだ。
「やったわねアリス!!」
「うん」
「5つ持ってきただけでも十分ですよ。まあそこは主人公補正的なのがあるので大丈夫だとは思うんですが」
「主人公..?よくわかりませんがとにかく良かったです」
「はー疲れた疲れた」
後ろからドアの開く音とともに筋肉のすごく付いている男が入ってきた。後ろには大きな斧を背負っている。鎧のような服、頭はボサボサでゴーグルのようなものが付いている。年は40か50ぐらいはあるおっさんと言えるほどの風貌だった。その男はアリスの方を少し見てすぐに受け付の方に顔を戻した。
「あら、ヴェラードさん。おかえりなさい」
「受付のお姉さん今日も綺麗だねーどう?今日暇?」
「ええと今日はちょっと...」
その突然のせりふに受付のお姉さんは少し困った様子でそう応える。アリスもテティもいきなりなにを言い出したのかと思ったことだろう。
「なに?この辺なおっさん」
「なんだ?このガキンチョとチビスケは」
そのテティの言葉に男の目がこちらに向く。この男...おそらく強い。体には昔できたであろう傷がいくつもあり、それが数々の修羅場をくぐり抜けてきた証拠なのだろう。
「聞いてください!この人。闇魔を持ってきてくれたんですよ!!」
「はは、まさかなー。こんな小さいやつがか?
「おじさん、信じてないの?」
アリスもその男に食いつく。睨み合う両者、それをアンバーグは心配そうに見ていた。ここ男は絶対にに強い。下手に煽って戦いになったら勝てるのか。
アリスはテティを止めようとするがテティの相変わらずの口の悪さは凄まじく、次から次へと言葉が出てくる。
「まあアンタじゃ理解できなそうだしね」
「テティ!!」
「ほう...。このチビ助が本当に闇魔を持ってこれたのか試したいところだがこんなところで暴れたら迷惑になるからな。命拾いしたなチビ助」
「あんた何なの?偉そうに。どうせ頭の中まで筋肉の筋肉バカなんでしょ!」
「テティ!」
火に油を注いだのを珍しくアンバーグが名前で呼ぶ。アンバーグの方もテティを止めようとする。
「ははは筋肉バカだなんて面白い冗談だ。俺はヴェラードって言うんだ。よろしくなちっこい妖精さん、とそこのヒョロヒョロのお前」
「ちっこいとは何よ!」
「ヒョロ....って!お前、俺たちを舐めてると痛い目見るぞ」
心配は何処へやら、先ほどまで止めようとしていたアンバーグまでアンバーグまでもがそいつにそう言い放つ。もうみんなして乗ならくたっていいものを。アリスはため息をついた。
「あ?男には用はねえ帰った帰った。あとガキにもそこまでの興味はねえ。やっぱお姉さんぐらいじゃないとな」
「何だと」
「はいはいそこまで!こんなところで喧嘩しないでくださいね!!」
「はぁーい」
先ほどまで険悪な表情だったというのに受け付けのお姉さんがそういうととても甘い顔で嬉しそうにそう返事をして去っていった。一体。あいつはなんだったのか...。
「ごめんなさいね。あの人はちょっと変わってるんですよ」
「あああ!!」
「なによ大声出して!!」
突然のアンバーグの大声にテティは体をビクッとさせてそう言う。アンバーグはなんだかいつのまにか深刻そうな顔になっている。-
「ヴェラード...どこかで聞いたことあると思ったら七天聖じゃないか」
「七...なにそれ?」
アンバーグはスーッと息を吸ってまた吐いた。
「いいか?七天聖っつーのは、最強の7人を総称した呼び名だ。確かあいつは序列2位のヴェラード。少し変だが2位だけあって戦わなくて正解だったな」
「まあ強そうな人だったし」
「序列2位までも相当強いらしいが1位のやつは本当に手に負えない強さだと聞く」
「へえー」
そんな話をしながら平和な時間を過ごす。だが次なる脅威はもう目前にまで来ていた。“オノマトピア”はひっそりと...。