百四十二話 無力の証明
「兄さん、今日も行くの?」
ユオがそういうと、ユアは「ああ...」とだけ言って家を出た。その様子をユオは少し不思議そうに見ているだけだった。
ユアは昨日あったことを思い出して少し考え事をしていた。昨日はいつものように仕事の行っていた。そして道を歩いている時、ふと目の前に怪しげな男が現れる。その男からは禍々しい感じが伝わってくる。
「お前が英雄というやつか
「なんだ?アンタ」
「俺はゼロ」
「ゼロ?」
そのゼロと名乗る男はそういうと不気味に笑みを浮かべる。なんだか危なそうなやつみ
にユアは関わらない方がいいと立ち去ろうとする。だが一瞬にしてそのゼロという男はユアの目の前に立つ。
「お前の力が必要だ。英雄さん」
このゼロという男はなぜか四獣のギルメラを撃退し英雄となったユアを必要としていた。
普通ならギルメラと戦えば命すら危ういというのにそのギルメラを撃退したのだからユアはかなりの実力ではある。
「俺の力が必要?」
「ああ。その代わりお前にもすごい力をやろう」
「はあ?」
唐突にそんなことを言われたところで頭にハテナを浮かべるだけだ。このゼロという男はなんだか怪しい感じのやつなのでユアもスルーすることにする。目の前のゼロの横を通り過ぎるが、ゼロは何かをすることなく通り過ぎるユアを見ているだけだった。
「後悔することになるぞ」
去り際にゼロはそういうがユアは何も返さず家に戻って行った。
「兄さん...兄さんってば!」
家に戻り食事中、ユアは不意に呼ばれてはハッとする。ユオは心配そうにユアのことを見ている。
「どうしたの?」
「あ...いや」
ユアはあのゼロという男のことを考えていた。『力が欲しいか』というあの言葉が万度も頭から離れない。
またギルメラが街を襲うかもしれない。その時はユアがまた立ち向かうことになるが、果たして勝つことができるのか...それだけをただ考えていた。
「力があれば....もっと力が...」
「兄さん?」
「ああ、なんでもないよ」
そう言ってユアはニッコリと笑った。
「...は?」
その光景にユアは言葉を失った。ユアが仕事から戻ると目を覆いたくなる光景が広がっていた。目の前にはほぼ全壊している自分の街の姿。そして大きな凶暴な魔物の姿が大きな唸り声をあげている。
「ギルメラ...なんで...」
「ギルメラのその姿に「っ..!」と息を呑んでユアは再び立ち向かう。
「お前が...何でお前があああああああああああああああああああ!!」
そう叫びながらドラゴンバスターを勢いよくギルメラに振り下ろす。あの時、倒せていたら...そんな事を考えながら何度も何度も攻撃をする。ギルメラは雄叫びを上げながらその大きな腕でユアを推し潰そうとする。
「うああああああああああああああ!!!」
ユアは叫びながらギルメラに何度も攻撃をする。だが、その攻撃は到底聞いているようには見えなかった。ギルメラは大きく腕を床に叩きつけ、大きな衝撃を放つ。
「ぐっ!」
その攻撃にユアは剣で防ぎながら受けるダメージを和らげた。ただ和らげるとはいってもかなりの威力なので、相当のダメージは受けてしまう。
「なんだよ...なんだよこいつは..!」
全く効いてない攻撃にユアは絶望する。そして一度撃退した時の絶望を思い出した。
ギルメラは何かを考えて動いているのではなく、その時赤ちゃんがおもちゃで遊ぶようになものだ。赤ちゃんがおもちゃに飽きれば他のものの方へ行く。それと同じで前の時はは「撃退した」というよりかは「勝手にどっかに行った」という方が正しい。
「クソがあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
ユアはヤケクソになってギルメラに向かった。もちろん結果は言うまでもなく、ギルメラに大敗だった。ギルメラは気が済んだのかまたどこかへ飛び去っていく。そこに残されたのはもう街とは呼べなくなった場所に主の息のユアが横になっている。
「あ...ぐ...」
「ほう、無様なものだな。英雄」
そこに再び現れたゼロはそう言いながら死にそうなユアを見る。
「なに...しに...」
「街一つ守れないで英雄とはお笑いものだな」
「俺...は...俺...は...!!」
そう言いながら涙を流すユア。何もできない自分に悔し涙を流していた。
「力が欲しいか?」
そのゼロの言葉にユアは静かに「ああ...」とだけ答えた。するとゼロは怪しげな炎を出すとユアを包み込んだ。