百四十一話『ニつの剣』
「テティ、目を覚まして!テティ！」
アリスはそう言うが、全くとと言っていいほどアリスの言葉は届かずテティは攻撃を続ける。アリスが何度もやめて!と言うがてテティは虚の目で攻撃を続けた。
洗脳の類を受けているテティに攻撃を仕掛けるわけにはいかない。
「もう!やめてって！」
「無駄だ、そいつは俺の言うことしか聞かない」
ユアのその言葉に耳を傾けながら、アリスはひたすらにテティの攻撃を避けていた。
「っ!お願い！テティ！」
そう何度も叫ぶがテティの耳には全く届いていなかった。
「っ！」
テティの攻撃がアリスの頬をかする。その小さい体でちょこまかと動くためテティを捕まえようにもすばしっこく動かれてはなかなか捕まえることができない。
「まずはあの武器を！」
テティが持っているのは少し大きめに鉄球のような武器。かなりの重さがあるのか重そうに振り回している。どうにかしてアレをできれば...と思ったアリスは剣を抜かずに勢いよくテティに向かっていった。
「はーっ！！」
なんとか武器を手からはたき落としたいのだが、テティは重そうな鉄球をその小さい体をでなんとか勢いよくブンブンと振り回すためなかなか近づくことができない。
「今っ！！」
アリスはそう言ってすぐさま急接近すると、剣を取り出して持っている鉄球を弾いた。その鉄球は床にドスンと重い音を立てて落ちる。
するとテティはナイフを取り出して勢いよくアリスの方へと向かっていった。
「っ！！」
小刀ぐらいの大きさでアリスは剣を使って防ぐ。テティも小さい体で動くため、動きを読むのがなかなか難しい。
「っ！」
「ほらほらどうした〜攻めないと何も始まらないぞー？」
アリスはそんなことを言うユアの方に体の向きを変え、勢いよくユアに向かって走り出す。もちろんユアの方もそんなのは予想通で、まるで壁にするかのように目の前にテティを呼び寄せる。テティが目の前に出てきてしまえばアリスも攻撃をやめる。
「どうした？やってみろよ」
「...！」
テティはユアへの攻撃をやめて動揺しているアリスに一気に近づいていく。
ザクッ
そう言う鈍い音がし、胸のあたりにナイフが刺さった。だがアリスはそのままテティを抱きしめる。刺さったところはさほど致命傷にはならなかったがそこから血が出ている。
「お願い...戻って...」
「...！」
テティはナイフを抜き、頭を抱えて「ウウ...アァ！」ともがくように叫び始めた。
「テティ!戻ってきて！」
その言葉にテティは少しうめき床に倒れこんだ。アリスはテティの元に駆け寄りその小さな体を掬い上げる。
「チィ！もっと強くやっておけばよかったか！！」
「テティ」
「ん、んん...」
テティが目を開けるとアリス...？とその名前を呼ぶ。その瞬間アリスは安堵の表情を浮かべた。
「良かった...」
「あれ？私は...アリス血が！」
自分で刺したことも覚えていないテティはそう言うがアリスは「いいの...」とだけ言った。
「はーあ茶番だ」
傷を負ったアリスを仕留めようと近づくユアに、アリスも剣を構える。2人の剣がぶつかろうとしたその時だった。
「兄さん！」
そこに現れたのはユオだった。ユアは「おぉ、お前生きてたのか」と言いながらユオの方に剣を構える。
「少し浅かったか？もう少し深く刺しておけば良かったな」
「なんで...なんで！」
「言っただろ？お前が邪魔だと」
確かにユオを出した時にユアは言った。『お前が邪魔』なのだと。
「あの頃は...あんなんじゃなかったのに！」
「あの頃...ああそうだな。そう言えばそうだったな」
「どうしちまったんだよ！」
「どう...別にどうもしてないが？」
「ちょっ...！ユア！」
アリスはユアの名を叫ぶ。するとユアはは「俺がけりをつける」と言い剣を取り出した。
「手を出さないでほしい。俺と兄さんの一騎打ちがしたいんだ」
「へえ！面白い!いいぞ！」
ユアも剣を取り出して構える。2人同時に駆け出すとキン！という鈍い音が鳴った。
「はーっ！」
「お前如きが勝てると思うか！！！」
何度か剣を交えてユオは勢いよく振りかざす。ユアはその剣を見て、「ドラゴン・バスター...」と少し嬉しそうに呟いた。
それはかつてユアが英雄として謳われた時に使っていた武器だ。この剣で凶悪な魔物から街を救ったことだってあった。そんな英雄は今では見る影すらない。
「はぁーっ！！」
「おおおおお！！！」
ドラゴンバスターを扱うユオもかなりのものだがユアもかなりの強さで実力は互角のように思えた。
「あの頃は違かったのに!なんで！」
「あの頃だと？」
「ああそうだ！！」
あの頃ー2人がまだ決裂をしていなかった頃のことだ。
遡ること数年前。2人は魔物だけが住む世界、グリアージュで家族で何の不自由なく暮らしていた。
「行くの？」
ユオがそう言うとユアは「ああ」とだけ言う。そんなユアの手には、かつて四獣とも言われた冥界獣ギルメラを倒した時に使った剣、「滅竜剣ードラゴンバスター」を腰に刺していた。
ユアは有名なトレジャーハンターだ。各地を冒険しながらお宝をゲットしていった。今日もその仕事で行こうと言うのだ。
「いってらっしゃい！」
「うん、行ってくるよ」
そう言ってユオは兄の背中を見送った。かっこ良く憧れを持っていたため、絶対兄のようになってやろうとユアは思っていた。
この日を境に兄の様子が少しずつおかしくなっていったのだとユオは思い出す。ただ、この頃の小さいユオではそんなことを気づくはずもなかったのだが...。
