百三十五話 差別のない世に
「ユア様、あの者たちが労働施設の方へと送られたのを確認しました」
「そうか」
部下のその報告聞いたユアは座っていた椅子にさらに深く腰かける。
「よかったのですか?あの者たちも」
「ああ、あいつらは俺の楽園に相応しくない。俺の楽園はその楽園にいる人たちが楽しめるようにしなければならない」
そう言って近くの白いテーブルクロスが敷かれたテーブルに置かれたイチゴの山からフォークを使って一つ勢いよく突き刺す。
「こう見た目が同じでもな。悪いところがあったりするんだ」
そう言いながらフォークの刺さったイチゴをくるりと回転させるとそのイチゴは裏面が腐っていた。ユアはその腐ったイチゴを勢いよく投げ飛ばすと、イチゴは遠くへと吹き飛んだ。
「腐ったものは早く捨てないと、他のものを腐らせる。人間も同じさ」
「は、はあ...」
「まあいいや、お前はもう下がっていいぞ」
「はい」
部下はそそくさと退散していった。部下がいなくなると「はあ」とため息をついて新しいイチゴをフォークに刺すと口に運んだ。
「俺が...楽園を作りだなさいといけない。ああならないように...楽園を...」
✴︎
これはまだ、ユオとユアがまだ小さかった時の話...。
ユアとユオはとある小さな村で暮らしていた。裕福...とはいえなかったが、まあそこまで貧乏というわけではなく日々を過ごしていた。
「お兄ちゃん!今日は何して遊ぶ??」
「そうだなあ」
遊び盛りのユオにユアは少し考えてこう提案する。
「そうだ!今日はかくれんぼをしよう!」
「うん!」
「ねえ...あの子」
「ええ」
そんな2人を見て、同じ村の住人は何やらヒソヒソと話をしている。
「あの子の中に...いるんだってね?バケモノ」
「そうそう、だから忌子だって言われてるの」
「えー!?やだー!!!」
「うん...」
それはユアに向かって放たれた言葉だった。全く理解できていないユアはユオに「いやみこってなぁに?」と質問する。それに対して忌子の意味をちゃんと理解しているユアは「なんでもないよ。行こう!!」と誤魔化して手を引っ張った。
自分が忌子だとかいわれようとも、ユアは決して笑顔を絶やさなかった。かくれんぼをしばらくした後、しばらく二人で元気よく駆け回り、鬼ごっこで走り回ったりしていた。
「次何するー?」
「えーっとねえ!!」
「お、お前たち何やってんだ?」
そこに声をかけてきたのは大柄の男。ガッリリ体格で片目に黒い眼帯をしている。
「ダンおじさん!!」
「鬼ごっこか?じゃあ混ぜろよ」
「いいよー」
その話かけてきたダンという男はユアとユオに混ざって遊ぶ。このダンという男は同じ村に住む住人で、よくユア達と遊んでくれる。
「よーしいくぞー!!」
「おおーっ!!」
「おおー!」
しばらくダンと遊んだ2人は疲れて草原に大の字になってねっ転がった。
「お前ら、何かあったら言えよ?俺が力になるからさ」
「うん。ダンおじさん」
「俺はいつでもお前らの仲間だからな?」
こんな日常がずっと続くと二人は思っていた。あの日が来るまでは...。
「お兄...ちゃん?」
とある家の部屋にいたユオの名を、ユアは呟く。ユアが見た光景は、目の前にユアと人が倒れている光景。そしてその倒れている人物の近くには血が池のように床に広がっている光景。その男は間違いなくダンだ。
目の前の状況など小さい子供の頭では全くわからないユアは、なぜか立ち尽くしているユオをもう一度呼ぼうとする。
「お兄...」
「くるな!!」
その突然の怒鳴り声にユオは体をビクッと反応する。あんなユアは見たことがない。一体何が何だか分からずにそのユアの怒鳴り声に圧倒され、ユオは必死にその場から離れた。そして遠くへと向かった。
その事件はすぐに広まり、もちろんその場にいたユアが疑われた。ユアはただ、ここに来くるように言われてやって来てこの惨事を目撃しただけでユアのせいではないのだが忌子というだけで村人がはユアをよってたかって悪者のように扱った。
「この忌子がやったんだ!!!」
「そうに決まってる!!」
「いや、違...!」
「バケモノ!!」
「消えろ!!!」
あんなに優しくしてくれたダンをあんな目に合わせるわけがない。そう伝えても冷たい眼差しを向けられながらユアは罵倒され続けた。
「もうお前はこの村から消えてくれ」
「えっ...!」
村長のその突然の要求にユアは驚いた。そりゃあ誰だって突然出ていってくれと言われれば驚くだろう。
「...わかりました」
村長は普段優しいのだが、ここでユアを擁護すれば村長とも言えど反感を買う。状況が状況のため保身を選んだのだ。
こんな保身のために犠牲を伴う世界は腐っているとユアはその時思うのだった。そして自分たちのためになんの罪もない子供を追い出すこの村の者達も。
「はあ...」
そうため息をつきながらユアは出て行く支度をする。知ると不思議そうにユオが顔を出してくる。
「何やってるの?」
「お兄ちゃんはな、旅に出るんだ」
「たび?」
「ああ。だからお別れだ」
「だったらついていく!!一緒に!!」
「きれくれるのか?」
「うん!」
「よし、じゃあ行こう。こんな汚い世界に、誰もが幸せになれる楽園を創りに...」