百三十話 見せかけの「幸せ」
「なに...これ」
アリスはそのまるで地獄のような光景にそう口を開いた。鞭を持った者たちが数十名ほどいて、そのムチをビシビシと叩きながら仕事を強要している。その仕事は丸い大きな円柱の周りにある木の突起状のものを押すものや何かを書かされるものなど様々だ。
この様子は地獄と言っていい。
「なんなのこれ!!」
「こりゃあひどい...」
「いたぞ!」
後ろから追手がやってくる。どうやらアリスはそのままここに連れていかれるわけではなく、ユアの元に連行されるようだった。だがアリスは逃げる素振りを見せず、この事をどうしてもユアに聞きたいので素直に連れていかれることにした。アリスとアンバーグはしばらく手先たちと歩き、大きなビルにたどり着く。中は綺麗な作りでカウンターの左右に観葉植物が置いてある。
エレベーターに乗り少しすると扉が開き、ユアがお出迎えしてくれた。
「よお。お前さんがまだかあの違法闘技場にいたとはな」
「こっちからも話がある」
「なんだ?」
「あの地下の労働施設は何?まるで奴隷みたいに...」
「ああ。あそこはラブに相応しくない奴が行く場所だ。ラブがなくなったり何かしらの良からぬ事をするとつれてかれる。
「なんでそんなことを!!」
「俺の世界に相応しくない奴はいらない!ここは楽園だ。
「テティは...テティもあそこにいるの?」
「見せてやろう。せっかくだしな」
そう言いながらパチンと指を鳴らす。するとテティが現れる。特に怪我はしてないようで傷もない。アリスがテティ!と呼ぶとテティはアリスの方を向いた。
「誰?」
「え??」
テティはアリスにそう言い放つ。まるで記憶を消されたかのように全くアリスの事を覚えていないようだ。
「こいつはお前と同じで自分からあの労働施設の秘密を見た。だからお仕置きしてやろうと思ったが、せっかくだから一生おもちゃとして使ってやる
「アンタ!!」
アリスが勢いよくユアの方に行くが、突然アリスは押しつぶされるような感覚になる。テティが逃げようとした時と同じものだ。アリスは全く体が動かない。
「あなた誰?なんで私の名前知ってるの?」
「テティ!忘れちゃったの!?」
「テティ、床を舐めろ」
「はい、ユア様のお望みのとおりに」
そういうとユアの命令通りテティは床を舐め始めた。それを見たアリスはさらに憤り体を動かそうとする。だが全くと言っていいほど動けない。
「さて、お前はどうしてやろうかな」
「っ...!!」
その時だった。かなりの大きな音を立てて何かが入ってくる。そいつはアリスを見つけるや否や笑みを浮かべる。
「...リグ!!」
「アリス見つけたあ!」
「なんだ?お前。いいところだから...邪魔をするな」
そう言いながら指を鳴らす。だがリグにはアリスたちにやっているような動きを封じるものは通用しなかった。
「なっ!お前!!
「アリス!!今度こそお!」
「そいつを捕まえろ!!」
「あ?邪魔をするな」
アリスとのひと時を邪魔されてリグはご立腹だ。周りの奴らを簡単に片付けてアリスに迫る。
アリスも攻撃するが、やはりすぐに治ってしまう。
「ならもう一度!!」
そう言いながら迫るアリス。だがリグは何もせずにニヤリと笑った。すると突然リグのお腹の辺りがパカっと開いた。中は空洞になっていてピンクの肉のようなものが見える。リグはそのピンクの肉から勢いよく細長い触手をアリスめがけて発射する。
「何!?」
突然のことに対処しきれず、そのシュルシュルと動く触手はアリスの両手両足と腹の辺りに厳重に巻きつく。
「つーかまえた」
体を触手で拘束され、どうにか逃げようとするが、体がうまく動かせない。
「アリス!!」
「何これ!体が!」
「そりゃあせっかく捕まえた獲物が逃げたら意味ないからなあ。触手には体を麻痺させる作用もあるんだ」
「くっ...」
「それじゃあ、いただきまーす」
そう言うと触手を体の空洞にしまおうとする。アリスも引きづられて空洞の中に押し込まれそうになる。だが体の操作がうまく効かず、リグの体の空洞の中に入って空いていた蓋を閉められてしまった。
「アリス!!」
「ははは、アリスはこれで俺のものだ!!ははっはははははは」
「クソ!アリスを!」
「アリスは俺の中でたっぷり飼ってやるからなあ安心しろ。
「てめえ...よくも!ってん?」
そこに白い何かが投げ込まれ、その白いものはプシューと白い煙を吐き出した。
「なんだ?」
「いまだいくぞ!」
そう言いながら現れた人物はアンバーグの方へと走っていくと手を取って凄まじい勢いで逃げていった。
「お前...ゲルム!?なんで!」
それはゲルムだった。ゲルムは「話は後だ!」と言いながらとにかく逃げるように促す。だがアンバーグは捕まったアリスが気がかりだ。
「だが、アリスが!」
「いいから逃げろ!」
アンバーグはその言葉に従うしかなかった。遠くなっていくその高笑いするリグを見ているだけだった。
「もうここには用はねえな」
「待て!!」
満足したリグを追おうとしたが逃げてしまった。
「いかが致しましょう」
「しょうがない、アレを起動するしか...」